第16回 Salon de 修猷の報告(令和5年9月2日開催)

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『Shall we JAZZ ?
〜現役ミュージシャンに学ぶジャズ講座&生演奏~』

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 第16回目を迎えたSalon de 修猷、今回のテーマは「ジャズの楽しみ方」。猛烈な愛好家がいる一方で、どこかとっつきにくいイメージのあるジャズ。生演奏だけではなく、現役ミュージシャンによるレクチャーも交えることでジャズをより体系的に理解し、親しみが持てるようプログラムを構成しました。

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 お客様にはライブの臨場感を楽しんで頂きたいという想いと、楽曲の著作権等の都合により、今回はオンラインによる配信は見合わせることとしました。会場のキャパシティが許す限りの約90名様にお越し頂き、おかげさまで満員御礼。また、今回ようやくお酒の提供が可能となり、お客様にはたいへん喜んで頂けました。

 また、川原武浩さん(平成2年卒、株式会社ふくや代表取締役社長)からはお土産用のお菓子を、石蔵利憲さん(平成2年卒、石蔵酒造株式会社専務取締役)からは日本酒を、幹事長の原沢由美さん(昭和58年卒)からは白ワイン、スパークリングワインをご提供頂きました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

20240114103619-03.jpg  企画の趣旨に賛同し、駆け付けて下さった演奏者の方々はこちらの4名です。なお、ピアノの江﨑さんには特別講師も務めて頂きました。

江﨑文武さん:ピアノ(平成23年卒) 20240114103640-04.jpg  音楽家。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学音楽学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。WONK、millennium paradeでキーボードを務めるほか、King Gnu、Vaundy、米津玄師、DREAMS COME TRUE、石川さゆり、島津亜矢など数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加。
 映画『なつやすみの巨匠』(2015)、『ホムンクルス』(2021)をはじめ劇伴音楽も手掛けるほか、音楽レーベルの主宰、芸術教育への参加など、様々な領域を自由に横断しながら活動を続ける。2023年、手嶌葵らを迎えた初のソロアルバムをリリース。

井上輝之さん:コントラバス(昭和57年卒) 20240114103709-05-org.png
ジャズ愛好会YCAに所属、横浜を中心にライブ活動を続ける。Cartierにて販売の仕事に従事。

緒方優一さん:サックス(平成3年卒) 20240114103733-06.jpg  九州大学ジャズ研究会にてジャズに目覚める。赤坂の名店「Jazz&Cafe BACKSTAGE」(マスターは平子勝昭氏・S38卒)にて定期的に演奏活動を行う。本業は税理士。

モリカワ サチコさん:ドラム(平成6年卒) 20240114103757-07.jpg  2018年よりジャズドラムに転向、ジャズフェスおよび都内各所にてライブ、セッションを行う。システムエンジニアとして都内勤務。


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 まずはスウィング感たっぷりのオープニングナンバー、デューク・エリントンの『It Don't Mean a Thing ~スウィングしなけりゃ意味がない~』から。圧巻の演奏で早くも客席のボルテージは高まりました。

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 ここで江﨑さんからジャズの起源についてレクチャーを。ジャズは19世紀末~20世紀初頭、アメリカ南部ニューオーリンズで誕生したと言われています。管楽器が多用されるのは、南北戦争が終結し、敗北した南軍の楽隊の払い下げた楽器が安く市場に出回ったからだと言われています。それをアフリカから連れて来られた黒人たちが手に入れ、自分たちの好きなように音楽をやり始めたのがジャズの萌芽でした。

 また当時、歓楽街でBGMとして演奏されていたのが「ラグタイム」というジャンルの音楽です。実例として江﨑さんが演奏して下さったのが、映画『スティング』のテーマ曲として知られるスコット・ジョプリンの『The Entertainer』。ズン、チャ、ズン、チャ......の軽快なリズムで踊り出したくなるような曲ですが、この頃はまだ即興的要素はなく譜面通りに演奏されていました。

 ニューオーリンズはかつてフランス領だった時期があり、そのためエリック・サティなど印象派クラシック音楽の素地がありました。これは比較的洗練された和音が特徴です。それらとアフリカ人たちの土着的な音楽(いわゆるブルース的な音階)が融合し、ジャズが形作られたのだ、と江﨑さんは言います。決して突然変異的に発生したわけではなく、何事にもルーツはあるわけです。非常に論理的かつ分かりやすい説明で、客席からも「なるほどー」といった声が漏れていました。

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 続いての曲はサックス奏者チャーリー・パーカーの『Billie's Bounce』。当時チャーリーはジャズの神様と言われるほど人気を博しており、超絶技巧で客席を沸かせていました。曲の構成としては比較的シンプルで、予め決められたコード進行の中でいかにアドリブを効かせられるかが腕の見せどころだったそうです。そうやってプレイヤー同士が腕を競い合っていた激しい時代のジャズを「ビ・バップ」といいます。

 実際に聴いていると、プレイヤーはどういったことを考えながら演奏しているのか、といった点にも興味が湧いてきます。今回はサックスの緒方さんがバンドのフロント役として、次のソロは誰に振るのか、どの辺で終わりにするか、といったことをアイコンタクトやサインで指示しているそうです。

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 さて、楽器同士の競い合いや超絶技巧が行き過ぎてしまうと、今度は揺り戻しが起こります。曲の音数を少なくした方がカッコいいんじゃないか、といった流れや、オーケストラのように予め決められたアンサンブルをきっちり演奏するのを良しとする一派なども生まれてくるわけです。

 三曲目はしっとりと、楽器同士の競い合いよりも掛け合いを重視した曲ということで、アート・ブレイキーの『Moanin'』を。誰もが一度は耳にしたことがあるあの渋い曲ですね。この曲名は朝のMorningではなく「呻き苦しむ」という意味のMoaningなのですが、これはやはり当時まだ根強かった黒人差別への抵抗の意味があったようです。かといって恨み節満載というわけではなく、あくまで飄々と洒脱なところがまたカッコいいと思います。

 ここで登場した名前がチャーリー・パーカーと並ぶジャズの神様といわれるマイルス・デイヴィス。彼は従来黒人のものだったジャズの門戸を広げ、白人もプレイヤーに加えてみようと提唱した人物の一人でした。そこで声を掛けられたのが、あのビル・エヴァンス。彼は裕福な家庭で英才教育を受け、クラシックの素養を持つ人物でした。  四曲目はビル・エヴァンス・トリオの『Waltz for Debby』。ワルツといえばクラシックですが、それをジャズに採り入れた楽曲です。またドラムはスティックではなくブラシを用いて繊細な演奏をするため音の大きな管楽器は不在。ピアノ、ベース、ドラムのみのトリオ編成となります。

 江﨑さんが小学6年でジャズに目覚めるきっかけとなった曲というだけあって、何とも美しく繊細なメロディです。ささやくようなドラムも心地良く、ベースもこれまで以上にメロディを歌っているのが印象的でした。

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 ジャズというのは他のジャンルとの融合が比較的しやすいイメージがあります。元々が自由度の高い音楽だからでしょう。五曲目はラテン系音楽との融合ということで、ハンク・モブレーの『Recado Bossa Nova』を。

 リズム隊という言葉がありますが、これはベースとドラムを指しています。まさにリズム隊が際立つ曲でした。ドラムのモリカワさんはロックやポップスなど楽譜に縛られた演奏からふいに解き放たれたくなり、ジャズに目覚めたといいます。ただ、自由であればあるほどドラムがリズムをしっかり刻まないとバンドは崩れてしまう。その意味で非常にやりがいがあるそうです。

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 ベースの井上さんは吹奏楽部時代はホルン担当でした。メロディからリズム隊への転身の理由は何だったのでしょう。大学ではトランペットをやりたかったそうですが、中学時代にバンドを一緒にやっていた友人とまた組むことになり、その流れでコントラバスを選んだそうです。一人で練習している時は寂しいけれど、セッションをしていてグルーヴを感じると非常に気持ちいい、とのこと。グルーヴとは説明が難しいですが、きっちり刻まれたリズムではなく、ほんの少しの揺らぎを含むことだそうです。

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 サックスの緒方さんは福岡・赤坂の名店『BACKSTAGE』で定期的にビッグバンドのセッションをされています。第二火曜日の21時からはチャージ無料とのことで、福岡にお帰りの際は皆様ぜひお立ち寄り下さい。

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 レクチャーと生演奏を通じ、ジャズに馴染みのないお客様でも楽しみ方がだいぶ分かってきたのではないでしょうか。しかし早いもので、次が最後の曲となります。締め括りはスペシャル企画ということで、『館歌 JAZZ Version』をお届けすることに!

 お忙しい中、アレンジをして下さったのは江﨑さん。「当時は館歌といえば叫ぶもので、ちゃんとメロディを歌わないのはどうなんだと思っていましたが、今回を機に向き合うことが出来て良かったです」とのこと。

 この特別バージョンを耳にすることが出来た90名のお客様は本当に幸福だったと言えるでしょう。キラキラ星変奏曲のように、ワンコーラスごとに大胆にアレンジが加えられていく様は圧巻。最後は会場全体が一体となり、湧き上がった拍手はしばらく鳴り止むことはありませんでした。さらには予想外のアンコールに応え、名曲『Autumn leaves』を披露。

 お客様も、演奏者も、我々スタッフも、その場にいた全員が心底楽しそうな笑顔でした。やはり音楽は素晴らしいですね!ドリンクの売れ行きも好調で、アンケート結果もほぼ全て「大満足」「満足」という結果でした。感動のあまり涙を流されているお客様もいらっしゃったそうです。

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 音響的に厳しいと言われていたのですが、この場を快くご提供下さった学士会館の古澤さまには心より感謝申し上げます。そしてお忙しい中ご参加下さった演奏者の皆様、暑い中お越し頂いたお客様、頼りない我々をサポートして下さった執行部の中川美穂先輩、丹羽潤子先輩、本当にありがとうございました。 20240114104342-17.jpg

【サロン担当 入江信吾(平成7年卒)】