第672回二木会講演会記録

「早く顔が見たい!~ポストコロナ時代の顔認識と大学運営~」

講師:蒲池(かまち)みゆきさん(平成2年卒)
開催日時:令和5年3月9日(木)19:00-20:00

〇渋田(司会) 本日の二木会は、平成2年卒の蒲池(かまち)みゆきさんに、「早く顔が見たい!~ポストコロナ時代の顔認識と大学運営~」をテーマにご講演いただきます。
 蒲池さんは九州大学文学部哲学科をご卒業後、同大学大学院人間環境学研究科にて博士課程を修了され、2001年より、株式会社国際電気通信基礎技術研究所の専任研究員等を務められました。2006年に工学院大学に着任されてからは、情報学部情報デザイン学科准教授、教授、学科長、情報学部学部長とキャリアパスを歩まれ、現在は工学院大学の副学長としてご活躍されています。
 それではここで、講師と同期でいらっしゃいます平成2年卒の小野顕さんより講師紹介をしていただきます。

■講師紹介
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〇小野 平成2年卒の小野です。私は東京修猷会で、普段は裏方として二木会担当の副幹事長を務めさせていただいています。本日は同期の蒲池みゆきさんのご講演ということで、しゃしゃり出てきて、ご紹介をさせていただきます。
 蒲池さんは黄色ブロックの女子総括をやっておられて、学年では有名人でしたが、私とはクラスもブロックも3年間一度も一緒になったことがなく、残念ながら高校時代はお話しする機会はありませんでした。ところが、われわれの学年がこの東京修猷会総会の幹事担当学年になった時に、本日も福岡から来てくれている三戸宗一郎さんが何人かに目を付けた中に蒲池さんと私が入っていて、最終的には蒲池さんが副実行委員長、私が実行委員長を務めさせていただきました。その際には、蒲池さんはアイデアもたくさん出してくれ、仕事も早く、大事なことを様々取りまとめてくれました。それに加えて、よく飲みよく食べました。蒲池さんはお肉が好きで、二次会の後で更に、蒲池さんに連れられて焼肉屋さんによく行きました。まさに言葉どおりの肉食系女子でいらっしゃいます。
 総会でのわれわれの学年の企画は、福岡から応コンパネルを借りてきて、また先輩方のご協力もいただいて、東京のハイアットリージェンシーのステージで一文字の応コン(応援コンテスト)を再現しようというものでした。その応コンの練習や打ち合わせも、蒲池さんの工学院大学のスペースをお借りしてやらせていただきました。蒲池さんがいなければ、われわれの代の幹事学年の活動はなかったと思っています。
 蒲池さんのご実家は、福岡で人気の、いわゆる町中華のお店をやっていらっしゃいました。残念ながら、コロナ禍より前に、ご両親もそれなりの年齢になられたということで、皆に惜しまれつつ閉店されました。蒲池さんは、そのご実家のお店で、小学生のころからお客さんとお話をされたり、お手伝いをされたり、いわゆる看板娘でいらっしゃったそうです。そこで培われたコミュニケーション能力と人への興味が、運動会での活躍、そしてわれわれの幹事学年での活躍、そしてもちろん工学院大学での素晴らしいキャリア、さらには恐らく専門分野としての顔の研究というところにすべてつながっているのだと思います。

■蒲池氏講演
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〇蒲池 過分な詳細なご紹介をいただきました。平成2年に修猷館を卒業して、東京に来たら、早期から修猷館の同窓会に捕まってしまい、たくさん楽しませていただいています。コロナ禍で、同窓会の運営は本当に大変だったと思います。本当にご苦労さまでした。
 今日の話は、2年前に近畿の修猷館の同窓会で同じような依頼があって、お顔の話をさせていただきましたので、その時の話と被るところもありますが、コロナ禍での大学の様子の話も少ししたいと思っています。

■はじめに

 工学院大学は新宿と八王子の2キャンパスを使っています。私はこの大学に着任して17年目になりますが、今、研究室は八王子にあり、副学長室は新宿にあります。
 本日は、話の中で顔写真が出てきます。司会の方からも撮影についての注意がありましたが、権利上の問題もありますのでお写真はご遠慮ください。遠隔の方もスクリーンショットなどは撮られないようにお願いいたします。
 私は、修猷館を1990年に卒業後、九州大学の文学部に進学して、哲学科に入るつもりではなかったのですが、心理学を学ぶつもりで入ったら哲学科でした。その後、九州大学の大学院に行きましたが、その間、研究所にも行き始めていて、足掛け11年間ぐらい、京都にある国際電気通信基礎技術研究所という、通称ATRという所にいました。
 九大の卒業論文の時からずっと顔の研究はしていました。心理学もいろいろある中で、私がやっているのは、人に顔を見せてその反応を取るタイプの認知心理学とか実験心理学とか呼ばれている分野で、それに使うために画像を揃えたものをデータベースと呼称しています。今は、実験の成果よりも、顔データベースのほうが成果展開としては大きくなっています。企業の方からもデータベースについてお声を掛けていただいていますので、その整備のための研究もやっています。後は、顔認証のソフトウェアをつくったり、モーフィングのソフトやCGのソフトウェアの開発をしたり、およそ文学部感がないような研究をしてきています。日本学術会議にも所属しています。
 工学院大学に来たのが2006年です。はじめは准教授として入りましたが、その後、教授に上げていただき、そこから学科長をやって学部長を1年間だけやりました。この時はコロナ禍真っただ中で、学部長をやっていても学部の中の教員の先生方に直接お会いすることはほとんどありませんでした。このタイミングで学長の交代があり、昨年度から副学長を務めています。
 今は、顔の研究ばかりではなく、バーチャルリアリティーですとか、目から入ってくる情報と耳から入ってくる情報を統合するような視聴覚の関係のこともやっています。主な共同研究先は、昔は顔認証システムをつくる等の共同研究が多かったのですが、顔をやっているとバラエティーに富んできていて、最近では、化学や製薬の分野と組むことが多くなってきました。その他では警備保障の会社から不審者を検出するためのお話もあります。

■顔認証

 皆さまは顔から何を読み取るでしょうか。1枚の顔写真を見て、その人の年齢や人種も読み取ります。よくできた似顔絵を見てもそれが誰かすぐに分かりますが、似顔絵の情報量は、実際の本人とは全然違っています。似顔絵はどうして描けるのか疑問に思われませんか。それはとても不思議な機能で、単純に言うと、平均的な顔から、その人ならではの特徴が、どれくらいずれているかを頭の中で計算して、その部分を強調して似顔絵にします。そのように、人は顔に対する非常に優れた認知機能を持っています。
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 よく知られているサッチャー錯視というのがあります。どちらもマーガレット・サッチャーさんの逆さまの写真で、倒立顔と言いますが、この左側の顔と右側の顔は口と目が少しだけ違うかな程度の印象かと思います。それを正立顔に直してみると、このように片方がとてもグロテスクな顔になります。われわれの脳は、このように、目からの顔情報については、正立した状態であれば情報処理ができるようになっています。逆さの写真と正立の写真の光や色の量はどちらも同じですが、向きを敏感に感じ取っているのです。これを倒立効果と言います。余談ですが、樹上生活の逆さまにぶら下がっている霊長類は、その倒立効果がないという説も有力です。直立して二足歩行のヒトは顔の向きには敏感だということが言えます。
 顔の認識について、人間の場合は右脳の少し上ぐらいに特別の神経系があるというのが、およそ確定的に分かっています。ですから、転んだりして右の頭を強く打つと顔が分からなくなる病気になる場合があります。これは回復がなかなか難しく、物体の識別はできても顔に関してだけ識別できないという不思議な現象が発生します。普段われわれはその部位を使って顔を認識していますが、それは赤ん坊のときから、ニューロン群自体が遺伝的に用意されていて、それを鍛えることで顔の識別ができるようになると考えられています。個人の識別はできないけれども表情の識別はできる、あるいはその逆の症例も報告されており、個体識別と表情識別のニューロン群の処理系統が少し違うことも明らかになっています。
 その顔の認知は2歳ぐらいまでにシステムが出来上がると言われています。今、コロナ禍に入って3年目ですが、この間に生まれた赤ちゃんに十分な顔を見せていないと、その生まれ持ったシステムが使われないままになっている可能性もあります。身近な赤ちゃんには、近い関係でしたら問題ないと思いますので、ぜひマスクを外して、正立したいろいろな顔を見せてあげることをお勧めします。
 その機能が出来上がった後、顔の識別や表情を読み取る機能の発達は少しずつ続いていきます。30歳ごろまでは発達し続けます。2歳から4歳ぐらいまでの、お母さんの顔と隣のおばちゃんの顔が区別できるとか、お母さんの機嫌が表情で分かるとかの機能が出来上がる時期を大切にしてほしいと思います。
 人間は顔が好きです。新幹線の正面の写真も顔に見えます。顔ではないのに擬人化して捉えてしまうのは、顔パターンが入ってきた途端に自動化されるような仕組みがあるからで、二つ並んで何かがあるとか、その下に一点集中型の何かがあると、顔に見えてしまいます。コンセントの三つ口や、雲も顔に見立てるとか、いろいろなものを顔に当てはめる性質は、脳の中に顔を見ようとするシステムがあるからだと思います。
 私たちが顔を認識した後は、二つの大まかな処理系があります。一つは、顔認証をして個体識別をします。知っている人でしたら名前まで連結しています。一方で、同時に、表情・視線・発話についての情報処理をしています。ものすごい処理機能です。ひと昔でしたら、いわゆるスパコン等を使わないと処理できないぐらい難しい処理ですが、人間はそれを1秒以下でやってしまいます。視線による識別の機能はサルにはなく、頭の向きで注意が移動しますが、人間の場合、白目、黒目、白目の色差を使って移動方向を計算しながら、その人の注意が向いている方向を計算する機能が備わっています。
 それらは人間の脳や心理学の研究で分かってきた仕組みです。そこから人工知能や機械学習・ディープラーニング、そして顔の大規模データを使って、同じ機能のシステムをつくりたいというのが顔認証技術で頑張っている会社さんたちです。ただ、性別も年齢も個人認証も表情も全部が分かるシステムはなかなかありません。人間は簡単にできていますが、これを機械でやろうとするととても大変だということです。そもそもまず顔がある場所を検出しなければなりませんが、場所や照明で全然違う顔の肌色はそのための解決手段にはならず、目や鼻の部分などの輝度差で顔の場所や向きを検出したりします。
 世界一の顔認証技術は、日本のNECとパナソニックかなと思っています。NECは、研究開発グループが何十年も前から最先端のことをやっていて、いまだに基礎技術に関してはNECにかなうところはないと思っています。コロナ禍に入ってみんながマスクを着けるようになって顔認証システムが動かなくなってしまったのですが、そこでマスク着用の状態でも90%以上の精度を出すような機械もさっと作ってきました。そのようなところは人間よりも機械のほうが得意です。人間の場合は全部が見えていないと分かりませんが、機械でしたらここだけ学習すれば何とか認証するというすごいところもあります。研究者の間では、空港はパナソニックの勝ちと言われていますが、東京オリンピック・パラリンピック大会ではNECも入っていて、ここで日本の技術力を見せるチャンスだったのですが、残念ながらあのような開催のかたちになってしまいました。

■私の研究

 一つは、今はポーラ化成工業さんと、人の年齢推定とか若く見える顔についての共同研究を、7、8年間やっています。結論から言うと、頬が重要ということです。若さは、肌をつやつやにするだけではなく、顔の筋肉の運動に掛かかっています。だからといって筋力を鍛えても、内部の筋肉が鍛われ過ぎて筋張った顔になるだけです。ロナウドのCMのようなトレーニングの必要はありません。お風呂に入ったらマッサージをしてください。まだ間に合います。
 20代から60代までの顔を動画と静止画で用意し、モーションキャプチャーの技術を使って頬の部分の動き方を調べると、若い方は全体の皮膚が同時に動くのですが、年を取ってくると、それがぎこちない運動になり、そのことが年齢感を出しているのです。それは大事なことで、ほうれい線やゴルゴラインを気にすると同時に、これまであまり研究されてこなかった分野ではありますが、運動情報はとても大事だということです。
 私の研究のもう一つは、フェイク動画の研究です。DEEP FAKEというのがYouTubeとかで出てきます。あの人だと思って見ていて、発話内容もそれらしくて、でも顔は偽物らしいという動画です。ですから、言ってもないことを言ったとされてしまう恐れがあって問題になることがあります。今、このフェイク動画の研究を大学院生とやっています。私はオープンキャンパスのデモンストレーションなどで、通行人同士の顔を瞬時に入れ替えて画像として出して見せたりします。初めに運動情報さえ学習させておけば、あまり苦労せずに作成することができます。

■マスク着用の弊害と印象評価
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 ヒトにとっては顔が重要なコミュニケーション媒体なのですが、このままマスク生活が続くと、他者とのコミュニケーションが鈍化する可能性があります。
 例えば、この写真の目はどちらも正面を向いていますが、顔の向きや照明の条件を変えると目線が違って見えます。視線が合ったような気がしても勘違いもあるという話を聞いたりしますが、人間は、視線は認識できているつもりでも十分にできていないのです。ですから、視線の認識も不十分、表情の認識に必要な顔の下のパーツも欠けているとなると、コミュニケーションに支障をきたす恐れがあります。
 また、若い方々の中には、顔を出すのが怖いという人たちがいて、対人恐怖であったり、醜形恐怖、自分の顔は少しおかしいのではないかと思って出せないことなどの場合もあり、まとめてマスク依存症とも言われます。
 これをやり続けるとどうなるかということです。危惧されることの一つは相貌失認症で、あらかじめ顔認知をするためのシステムが脳内に備わっていない場合によく起こります。生まれ持って備わっているはずのニューロンがそもそもないのか、あるいは、あるけれども、後発的に事故などで損傷してしまって使えなくなったなどが原因です。そのようなさまざまな顔に関する失認症のことを相貌失認症(Prosopagnosia)と言います。
 もう一つ、顔に直結するわけではないのですが、失感情症(Alexthymia)という病気もあり、自分の感情にも疎く、他人の感情にもある程度疎いという症状があります。実験で普通の健常者だと思ってデータを取ってみると、健常者から見ると明らかに笑っているのにそれが笑っているように見えないとか、悲しいはずの表情が悲しいようには見えていないなど、表情認識が他の人と明らかに違う人がある一定の割合でいらっしゃいます。それは機能として備わっていても何らかの障害があることもありますし、その機能があっても使っていないことで衰えていく可能性もあります。そのような意味でも、マスク着用は危険性が高いと考えられます。
 マスクを着けたときの顔の魅力の印象変化について研究した方がいらっしゃいます。コロナ流行前は、マスク装着の顔は魅力度が低下すると認識されていたのですが、コロナが流行後は、言いにくい話ですが、元の顔の魅力が低い人はマスクを着けると魅力が高く知覚され、元の顔の魅力が高い人は、マスクを着けると魅力が低く知覚されるという分かりやすい結果がありました。
 マスクを着用すると、表情の読み取りが困難になるという研究もあります。実際には、笑ったときや驚いたときはマスク自体の形状も少し変わりますので、それも条件に入れる必要があると思うのですが、それでも口元の表情は読み取りにくくなります。
 また、マスク着用時には、顔の上半分が印象を形成するうえで重要視されるという調査がありました。それなら、顔の上半分への印象評価に眉が大きな要素になり、それは形状を変化させやすいということで、うちの学生が、眉毛だけを変えてみる研究をしてみました。女性のメイクには諸説あり、また流行もありますが、マスクを着けたときは、眉を少し長く細く描くと魅力的に見えるらしいです。このようなことを遊びながらやっています。

■大学運営

 大学運営については、私もただ研究だけをしていればよかった時期もあったのですが、副学長まですると、大学全体のコロナ禍における授業形態とかを考えなくてはいけなくなりました。今、私のせいで授業が遠隔になったと思っていらっしゃる先生がけっこういらっしゃいます。以前、工学院大学にお勤めだった先生も今日いらっしゃっていますが、当時にはそのようなことは全然ありませんでしたが、今は強制的に遠隔にしたりしています。
 2020年に入って、いよいよコロナが危なくなり3月に緊急事態宣言が出されました。大学は4月から始まるのですが、大学に入校させられない状態になりました。授業をZOOMなどで開始してしまった大学がサーバーダウンしたりするなど、どの大学も混乱して戸惑いました。
 私たちはその時、大学の中のインフラを全部調査したうえで、先生たちと学生たち向けに遠隔授業のためのマニュアルを大急ぎでつくりました。大変でした。私はそれをやったせいで副学長をさせられているようなものだと思っています。それで、2020年度は少なくとも前期は全部遠隔授業をやりましょうとなりました。実験についても基本的にストップとなり、理工系大学とっては致命的でしたが、やってみました。文科省による決まりでは、必要な単位のうち60単位までは遠隔可能となっていたのですが、その時は、5月11日に授業を開始する直前に、その制限を外す特例処置にしてくれました。その特例処置は東日本大震災以来だと言われています。
 その後に出された「教育再生実行会議第12次提言」では、ポストコロナ・ニューノーマルでの高等教育機関としての大学の役割が提言され、また「教学マネジメント指針」では、これまでのように大学が教えたいものを教えるのではなく、学びたいことを学ばせるような存在になりなさいということなどが示されています。また、昨年10月には、大学設置基準が改正されて教育課程の編成についての基準が相当変わり、比較的自由に考えていいけれども、きちんと評価をして、それで教育成果が上がるということを公表しなさいという内容になりました。高校から飛び級で入ってくる人も想定することになりますし、社会人を経験した人の学び直しもあり、ICTを利用してクラウド上で学び、それを評価することもできるようになりました。
 そのような中で、うちの大学では、2022年度から時間割の大幅な改正をしました。より効率的に受講できるように、ラッシュ時の電車通学を避けて、1限目と6限目はすべてオンデマンド授業に変更しました。そして対面の必要がある実験・実習はキャンパスでしっかり学修するとしました。時間割を変えるというのは本当に大変なのですが、全学まとめて全部変えました。そうしないと成り立たないのです。授業形態は、対面、ハイフレックス型、遠隔(同時双方向型)、遠隔(オンデマンド型)の四つで、先生方や学部、学科で、その授業に適したやり方を選択していただくようにしました。そうするとまた60単位問題が出てくるのですが、そこは大学設置基準の中で変えてくれました。ハイフレックス型というのは、今ここでやっている二木会の方式のように、会場で聞きたい人は会場に来る。遠隔が希望の人は遠隔で参加するということです。
 今、キャンパスの見直しもしています。新宿キャンパスと八王子キャンパスの使い方をそれぞれ少し変えようと、いろいろな取り組みをしています。シャトルバスで新宿と八王子をつないでいますが、今年度からはシャトルバス内にWi-Fiを設置して、バスの中で授業をオンデマンドで受けることができるようにしました。
 学びたい学生さんに対して、できるだけいろいろな場面を用意して選択肢を広げてあげようと、時間割、カリキュラムの見直しとか、最先端ICT環境の整備をして、学修を「時間」ではなく、「学修効果」で評価しますというのが大きなところです。うちの大学の建学の精神と理念に合わせて、最先端の学修環境で社会の「もの・こと」づくりを担う、優れた人材を輩出していこうということです。
 現在、副学長として教学と学生支援を担当しており、多いときには1日に8個ぐらいの会議をやっています。その中で、研究もしなければなりません。少ししんどく思いながらやっています。誤解されている方も多いのですが、副学長というのは、2014年までの学校教育法では、学長の職務を助けるものでしたが、今は、命を受けて公務を司るのが副学長となっています。もちろん学長の傘下にありますので、学長と話し合いのうえで進めていきますが、ある程度は現場を回しやすいようになってきました。

■おわりに
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 修猷館高校の同窓会の同期には、弁護士さんや大手建設業の人、ビール会社の人、自動車学校の社長、明太子屋さんもいます。本当に幅広くて楽しいです。一般に多忙だと言われている世代に幹事学年を任せていることの意義を考えたりもしますが、きっと暇な人というのはいないのかもしれません。今、大変だと思いながらやっていらっしゃる幹事学年の方たちは、後でやっておいてよかったと思うはずです。頑張ってください。未来を担う大学生や若い人たちにも出会えます。
 そのような同期や、先輩・後輩との出会いの場所は、私の毎日の疲れ切った頭を冷やしてくれ、この同窓会の皆さまには感謝しています。ありがとうございました。(拍手)

■質疑応答

〇等 音楽や人の顔について、自分と同じ年代の人たちや音楽はよく分かるのですが、それから離れると全部同じように感じてしまいます。これはそもそもの問題なのでしょうか、学習の問題なのでしょうか。

〇蒲池 その顔のことについて実験をしたことがあります。私の仮説では、見る側の年齢に対して、下の世代については顔の識別ができ、上の年代については難しいのではないかと考えていたのですが、差は出ませんでした。ですから接触頻度の問題かなと思います。
 音楽については、確かに、記憶のところに関係していて、一番吸収しやすい年齢というのがあるのかもしれません。私も受験勉強の時にずっと聴いていた音楽にはすぐに反応しますので、相当叩き込まれていると感じます。集中しないで聴いていたものとは全然違いますので、記憶の問題かなと思います。
 お答えになっていないかもしれませんが、どちらも接触頻度が大事だと思います。

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〇宮嵜 平成4年卒の宮嵜です。講演前に、私が同期の大隈くんとマスクをしてしゃべっていたら、顔の専門家の蒲池先生から「どっちか分からん」と言われてかなりショックでした。
 質問は、小学校6年生の私の娘が、同級生同士でマスクを外さない状況です。今後、それを外させるにはどうしていけばいいのでしょうか。

〇蒲池 よく言われるように、日本人は同調圧力に弱いところがありますので、みんなが外してきたら外すようになってくれるといいと思います。成人式や卒業式などで、同期の顔を見たかったという声も聞きますが、それでも両者あるようです。ただ、ハードルが高いのは確かだと思います。
 安全なところでは何とかしてマスクを外しましょうという訓練というか、働き掛けをしていくしかないように思います。今日もその一つのきっかけにしていただくといいと思っています。ただ身の安全は確保してください。
 それから、大隈くんと宮嵜くんですが、ごめん、マスクをしとらん時からあんまり区別がついとらんかった。(笑い)

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〇日野 昭和63年卒の日野です。顔の認識について、サングラスなどで目を隠しても、人の認識は難しくなると思います。隠した場所による人の認識の度合いは、どのように違うのでしょうか。

〇蒲池 それは、犯罪者の行動の話でコロナ前からあります。一番有効なのは、確か、口元のひげだという話を聞いたような気がします。眼鏡も有効です。髪型は変えても効果がないようです。いずれにしても全体像が崩れるような変装をすると一番分からなくなるはずです。この話を詳しくすると犯罪者が有効利用してしまいますので、お答えとしてはどちらか分からないということにしておきます。

■会長あいさつ
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〇伊藤 昭和42年卒の東京修猷会会長の伊藤です。今日は大変興味深いお話をありがとうございました。犯罪の話が少し出ましたが、刑事の世界で、見当たり捜査というのがあります。これは、刑事が顔写真で犯人を見つけるというものです。指名手配されている人間の写真を何百回と見て、そして、犯罪者が出入りしそうな盛り場とかで、一般人に交じって待ち伏せをして、そこに当該者がいれば発見できるというのです。これはすごいと思ったのを覚えています。
 私自身も、写真を見て人間の顔を覚えるということを、外国人相手にやったことがあります。日本人から見ると外国人の顔はなかなか覚えにくいのですが、それでも何百回も見ることによって、初めて街頭で出会ってその瞬間に分かるようになるのです。また自分の経験でも、15年ぐらいたって出会っても知っている人間だと分かったりしますので、人間の顔を認識する力はすごいものがあるのだなと思います。今日のお話で、その能力は2歳ぐらいまでにある程度完成していくそうで、大変興味深く聞かせていただきました。
 また学校の運営についてのお話もありました。私自身も大学で教えていますが、最初はリモートで、それからハイブリッドでの授業になりました。私は対面がいいと言いましたが、学校当局は学生の希望に合わせてくださいとのことで、しょうがないので両方でやっています。私は教えるだけでいましたので、今日の蒲池さんのお話で、大学当局はそんなに大変だったのだと知り、そこも興味深く聞かせていただきました。
 蒲池さんのこれからのますますのご活躍を祈念しています。今日はありがとうございました。(拍手)
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