第659回二木会講演会記録

「5Gが切り拓く未来 ~移動通信の現在とこれから~」

講師:丸山誠治さん(昭和55年卒)
開催日時:令和3年10月14日(木) 19:00-20:00

〇坂井 平成6年卒の坂井と申します。今回より来年のSalon de 修猷まで私ども六星会が担当させていただきます。よろしくお願いいたします。
 本日の二木会は、昭和55年ご卒業の丸山誠治(まるやませいじ)さんに「5Gが切り拓く未来~移動通信の現在とこれから~」と題しましてご講演いただきます。
 丸山さんは昭和60年に東京大学工学部をご卒業後、日本電信電話株式会社に入社されました。その後、米国インディアナ大学経営大学修士課程を修了された後、NTT移動通信網株式会社(現:NTTドコモ)へ転籍され、令和元年には同社代表取締役副社長、令和3年にはドコモ・システムズ株式会社の代表取締役社長に就任されています。
 ご講演の前に、昭和55年卒業の二宮様より講師の紹介をしていただきます。

■講師紹介

〇二宮 丸山誠治くんとは昭和55年卒業の同級生です。たくさんの話を用意してきたのですが、簡単にということでしたので端折ってお話ししたいと思いますが、謎掛けを一つ考えてきましたのでそれをご披露したいと思います。お題は、「携帯電話」です。「携帯電話」と掛けまして「きつい方言」と解きます。その心は、どちらも県外(圏外)では通じません(笑)。モニターの方々の反応が分からないのですが、このまま続けさせていただきます。
nimoku659_01.jpg  丸山くんと私は1年2組と2年6組で同じクラスでした。3年は別々でしたが、2人とも3年間男子クラスでした。最初に丸山くんと1年で会った時に、ラ・サールを蹴って修猷館に来たと聞いて、塾にも行かずにそのようなことができる人がいるとインパクトがありました。彼は、大はしゃぎをすることもなく、部活にのめり込むとかでもないのですが、いつもにこにこと明るく朗らかで、名前のとおり誠実で、真摯な紳士で、落ち着いていました。それを見て、私は彼のことを密かに、「ザ・人格者」と呼んでいました。
 私は2015年の3月まで日本航空で営業の責任者をしていました。当時のNTTドコモの営業の責任者の古川さんという方とお話ししていて、「友人の丸山というのがドコモさんにいます」と言うと、「彼は、人柄も良くて、しかもできる、本当にいい男です」ということでした。変わっていないなと思いました。
 その後、当時のNTTドコモの社長の加藤さんのところにごあいさつに行った時に、また性懲りもなく「ぼくの同級生がドコモさんにいます。丸山と言います」と言ったら「丸山誠治ですか」と聞かれ、「そうです」と答えたら、加藤社長がいきなり携帯を出されて電話をしたのです。そして「丸山か。今どこだ」と、その時、丸山くんはロンドンにいました。「ロンドンか。それは悪かったな」。あの時間でしたらロンドンは、多分、朝でした。「今、JALの二宮さんが来ているのでちょっと替わる」と携帯を渡され、そこで本当に久しぶりに話をしました。ただ、周りに社長とかがいたので、言葉遣いが何か変になって、まさに圏外のような話になってしまいました。
 そうこうする中で、テレビでご覧になった方もいらっしゃると思いますが、去年、謝罪会見に丸山くんが出ていました。彼が立派にやっている姿を見て、信頼の厚い男なのだなと、相変わらず、ザ・人格者だなと感じました。
 今日は、その丸山くんの5Gに関する話を私も楽しみにしています。

■丸山氏講演

〇丸山 NTTドコモの丸山です。本日、このような名誉な場で講演する機会をいただき、ありがとうございます。そして二宮君、褒め殺しのようなご紹介をいただき、ありがとう。それから、今日のセッティングをしていただいた事務局の方にも感謝申し上げます。

■移動通信とは何か

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  今日は「5G」がテーマです。最近、スマートフォンを買われた方は、右上のアンテナのマークがある横に「4G」や「5G」などが表示されます。ここに「5G」と表示されると、そのスマートフォンは5Gを使っているということです。5GのGはジェネレーションの略です。従って第5世代の移動通信ということを意味していることになります。移動通信は約10年ごとに世代が変わっているのですが、5Gはそれの5番目で、昨年日本で各社がサービスを始めたものです。この移動通信の「世代」とは一体何なのか、どうして10年ごとに世代が変わるのか、今日はそういったことをもう少し深掘りしてお話ししたいと思います。順を追ってお話ししたいので、移動通信とは一体どういうものかということを少しだけお話しします。
 現在、世界中で、80億人ぐらいの人が既にスマートフォンを使っています。これは人口と同じくらいの数です。いよいよ世界中の人がほぼ全員スマートフォンを持っている時代に突入したということです。日本では、私のように2台持っている人もいて、人口よりも少し多いぐらいの契約数になっています。
 皆さんがお持ちのスマートフォンは、近くにある基地局と電波でつながっています。都会でしたら、ビルの上に鉄の棒が四つほど立っています。これが携帯電話の基地局のアンテナです。大体近くに装置が置いてあって、それを基地局と呼んでいます。
 少し田舎のほうに行くと、田園地帯に点々と鉄塔と小屋があるのを見かけます。各社、今は4社がそれぞれに設置していますので、至る所にこのアンテナが立っています。われわれが見ると、大体どの会社のものか分かります。ドコモでは、この基地局が日本全国に20万ほどあります。これらが、大型コンピューターのようなコアネットワーク装置とつながって、通信ができるようになっています。その仕組みを供給するのが、ドコモ、auやソフトバンクといったモバイルキャリアです。ちなみにこれらの装置は、端末も含めて、世代ごとに全部総入れ替えになります。ですから、携帯の事業者は10年に1回ぐらいはその20万の局の総入れ替えをしています。
 それから、皆さんのスマートフォンに電話が掛かってくると必ず皆さんの携帯につながります。当たり前かもしれませんが、それは全国20万の基地局のどこかに着信があるわけです。逆に考えると、皆さんがお持ちのスマートフォンは、20万の基地局のどこにいるかということを、ドコモであればドコモが全部それを追跡しているということです。コアネットワーク装置は、皆さんが20万局のここにいますということを常に情報として把握しているのです。
 このことを利用して最近ドコモでは、モバイル空間統計と言って、皆さんの動きをリアルタイムで把握して、見える化をしようとしています。このデータは、まちづくりやマーケティングに利用されています。特に新型コロナ禍では、人の動きを知りたいという依頼があり、これを積極的にオープンにしています。人出についてのニュース画面の下に「NTTドコモ調べ」など書かれているものがまさにこれになります。

■移動通信はどのように発展してきたのか

 無線通信の世界は、国境をまたいでいますので、必ず事前に話し合うプロセスを踏んで規格を決めています。これを標準化と言っています。話し合いは世代ごとにやっています。移動通信では、国連の下の国際電気通信連合という国際機関がトップとなって規格を決めています。そこで決めた規格を、最後は各国の政府が採択して法律に反映しています。デファクトスタンダードではなく、あくまでも話し合いで決めています。それを10年ごとに、話し合いによって新しい規格を導入してきたというのが歴史です。1Gとか2Gとか、それぞれがそのような過程を経てきています。
 世代ごとの特徴ですが、第1世代というのはアナログのシステムです。第2世代になってデジタル化がなされました。この時は、日本方式と米国方式と欧州方式の三つの方式が並列していたのですが、結果としては、GSM方式と呼んでいる欧州方式がほぼ世界中で広まることになりました。これについては、もちろん技術的な優劣の問題もあるのですが、ちょうどこの時期はEU(欧州連合)が生まれた頃で、まさに統合の象徴として、この規格が欧州の中で相当力を持って推進され、欧州の各企業も熱心に技術開発をした結果、この方式が世界中で使われるようになりました。
 次の10年の第3世代は、W-CDMA方式と言われています。第2世代では、当時、日本にはNTTしかなくて、日本の方式はNTT方式とも呼ばれていたのですが、欧州方式に押されて、完全に国際競争では負けたかたちになりました。従って第3世代では、組んでやるしかないと、欧州と日本が組んでつくり上げたのがこのW-CDMAという方式です。アメリカだけは別の方式でやっていましたが、南米や北米などで使われるだけで、それ以外の国々では、日本と欧州連合が推進したW-CDMA方式が世界中で使われるようになりました。第4世代は、第3世代をほぼ踏襲したものになっています。そして、昨年からの第5世代です。世界では、昨年、あるいは一昨年からこの方式に移行を始めています。
 端末のスピードの発展は急激で、この40年近くにわたって、年率40%で上がっています。年率40%というのは、大体の計算で、2年で倍です。携帯電話の端末のスピードというのは、この40年近く、2年で倍ずつの性能向上を続けてきたことになります。
 では、世の中の進化というのは、普通は何%ぐらいだと、皆さんはお思いでしょうか。例えば充電池として携帯電話に入っているリチウムイオン電池は、世界各国がこぞって開発競争をしている戦略プロダクトで、性能が急激に上がっていると言われているものですが、それでも年率3%から4%ぐらいのレベルです。自動車エンジンの熱効率の改善についても、とても性能が上がってきているような気がしますが、それでも年率1%ぐらいです。米の単位面積当たりの収量の推移も、年率1%ぐらいです。1人当たりの実質GDPの成長も、大体世界で年率2%です。世の中の成長のスピードというのは、1%とか2%とか3%ぐらいが世の中の平均値なのかなと思います。
 携帯電話の成長は年率40%です。これは、半導体の世界の有名なムーアの法則というのがありますが、まさにそれに該当します。エレクトロニクスの世界は、このピッチで向上していて、世の中ではかなり特異な事例となっています。それが、PC、SNS、インターネット、クラウド、スマホなどのイノベーションを生み出してきたのだと思います。その延長線上に、今、5GやAIが生まれたというのが、私の理解です。
 今、世界の上位に並んでいる巨大企業は、まさにこのイノベーションを自分の価値として取り込んで、それをお客様に提供している会社です。このような価値をいかに取り込んでいくのかが極めて重要であると私は思っています。

■5Gの特徴と応用事例について

 5Gの特徴は、まず、高速・大容量です。20Gbps(20ギガビット毎秒)のスピードで、遅延時間が1ms(1ミリ秒=0.001秒)です。それから、収容端末が1㎢当たり100万デバイスです。スピードが上がれば、動画がきれいに見えます。そして遅延が短くなると、いろいろな制御が遠隔でできるようになります。1msぐらいの遅延だと、無線でロボットがほぼ円滑に制御できるという理解でいいと思います。そのぐらいのところを目標として、通信システムを提供しようとしています。
 5G契約者数は、今年の3月には、国内4社の合計で、1千4百万人に達しています。エリアについても、来年の3月に大体東京23区は5G通信エリアになります。2024年には、ほぼ日本全国がエリアで覆われる計算になっています。
 ではどのようなことに5Gが使われるかということですが、法人のお客さま向けには、映像伝送で使われるケースが圧倒的に多くなっています。4Kの画像のテレビを圧縮せずに生で送れるスピードです。いよいよ、携帯やスマホで4Kの画像が見られる時代に突入したと考えていただいて間違いがありません。それから、XR(クロスリアリティ)です。これは仮想現実と訳されていますが、眼鏡みたいな装置を着けてバーチャル空間をつくり出す技術です。これはもうかなり現実に広まっています。
 高精細画像電送については、放送局がハンディ型のカメラで、5Gを使って画像を送る事例がじわじわと広がってきています。日本のゴルフ中継は、終わりの4ホールぐらいから放送する例が多いと思います。実際に行かれた方はご存じでしょうが、現地では中継車が駐車場に置かれていて、線がずっと各ホールまで伸びていて、そこに大きな放送用のカメラが置いてあります。その設営は大変だろうなと私も思います。ですから、終わりの4ホールぐらいだけに置くケースがほとんどです。アメリカの有線チャンネルとかでは、けっこう18ホール全部を放送していますが、それはハンディ型のカメラを使っています。残念ながら4Gまでは画像が少し荒かったのですが、5Gからは全く普通のレベルになりました。今、これらが急速に広まっていて、先般のオリンピックのマラソンなどで、もう現実に使われています。
 また、違うかたちでの画像の多さを生かしたもので、自由視点映像というのがあります。これは1台のカメラで、いろいろな方向から撮って、見る人はその方向を選ぶことができるというものです。例えば、コロナで学校での授業が難しい理容師専門学校で、髪を切るところを自由視点映像で配信し、生徒さんはその画像をくるくる回転させて、右からも左からも自由に見ることができるようになりました。
 XR、仮想現実ですが、眼鏡みたいなものを着けると、そこにないものがあたかもあるように見えます。例えば、家具屋さんでは、場所の都合があって全部の家具を展示するのは難しいのですが、これを掛けて型番や色を入れると、実際にあるように見ることができます。モデルルームなどでもこうした活用が広がってきていて、急速にこのXRの技術が立ち上がってきています。最近では、フェイスブックさんがVR(バーチャルリアリティ)に力を入れていて、3万円ぐらいのOculusというものを販売していて、かなり楽しめる画像を見ることができるようです。

■5Gで社会はどのように変わるのか

 既に次世代の6Gの検討も始まっていますが、どのような未来をこれから実現していきたいのかということです。
 今はまだトライしている段階ですが、エンタメの世界で、引いた画像とアップの画像を一緒に送って、見る側でそれを選べるようなことを、今、やろうとしています。また、ラグビーのワールドカップでは、5Gを活用した画像を提供する試みがなされ、お客さんに、違ったアングルからの画像を選んで見てもらって、試合を楽しんでもらえました。
 最近では、コンサートが開けないということで、アーティストの皆さんが、遠隔でこれらを使ったコンサートをやっています。また、グループで活躍されているアーティストだと特定の1人を見たいというファンの方も多く、今、試行錯誤しながら研究開発しています。
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  次にスマートファクトリーの話です。工場の中というのは実は大量の配線が複雑に絡み合っています。電源やセンシング系などが入り乱れていて各装置と繋がっています。しかも最近はそこにセンサーやカメラがついていて、コンピューターを使ってうまくコントロールをしています。それらを全部線で結ぶと線だらけになって大変ですが、これを5Gでやろうと、今、実証をやっているところです。
 建設現場では、穴を掘る等の土木工事において今は現場監督さんが目分量で、計画と管理をされていると聞いています。今後は、それらも、センサーで測ったりドローンで写真を撮って全体の測定をして工程を考えたらどうかということで、そのための会社をコマツさんとドコモで最近立ち上げました。 医療関係では、新型コロナ禍もあり、遠隔医療についても積極的に取り組んでいます。さらに一歩進んで、今度は、例えば、CTスキャンの映像や、超音波の画像などについての遠隔診断、遠隔検査といったことをやっていこうとしています。検査機器を車に積んで、それを田舎の公民館のようなところに持っていって、そこで検査をしてその場で診断しようということで、各地の医大さんなどと一緒にやっているところです。
 さらにはもっと進んで、これらの技術を活用した遠隔手術です。最近は、腹腔鏡での手術が多くなってきています。今は、手術台と同じ部屋の片隅かあるいは隣の部屋ぐらいに置かれている機械で操作するケースが多いのですが、これを、例えば、手術をするのが福岡だとすると、コントロールを東京に置いたらどうか、そのような遠隔手術もできるのではないかということです。これは人命がかかわる話なので、今、いろいろ実証実験を積み重ねているところです。今でも光ファイバーなどを利用したこのかたちの手術は行われているのですが、これを遠隔でやろうということで、まったく不可能な話ではないと思います。
 これについては、海外の技術者と話をすると、技術的には十分可能だけれども、法律だとかの問題がネックになるということですが、日本でしたら、保険制度などもネックになるかなとは思っています。いずれにしろ、十分可能な話だと思います。
 最後に、自動運転です。車を外側というか、遠くから制御できないかということです。先月、みなとみらい地区で日産自動車さんと、オンデマンド型の配車サービスを、実際に一般の方に向けに提供しました。スマホで呼ぶと来てくれて、ドアが開いて乗って、行先まで連れていってくれます。ただし、みなとみらい地区の公道のエリア限定です。自動運転のレベルでは、レベル2ですので、一応、運転手さんは乗っていますが、実際に私が乗った時は、ほとんど全部自動で運転しました。狭いところを通るとか、ぎりぎりのところを曲がって止まるみたいなことは、多分、私より運転は上手です。
 でも、日産のエンジニアの方に言わせると、まだまだだそうで、田舎のほうだとそういうわけにはいかないのだそうです。AIを使って、いろいろなシナリオを学習して、運転させていますので、例えば、イノシシがこちらに向かって走ってきたらどうするか、止まるのかよけるのか、クラクションを鳴らすのかというようなことが、まだ学習ができていないそうです。しかし、これも時間の問題だと思います。ここまでが近未来の話です。

■10年後の未来

 もう少し先の未来の話をします。5Gの次の6Gの標準化のための話し合いがもう始まっています。
 その構想の中の一つが、「超カバレッジ拡張」です。今のスマートフォンは、主に陸上で使われていますが、例えば、空中や海の中や海上だったり、場合によっては宇宙だったり、もっといろいろなところをカバーすることを目指そうということです。
 これは、HAPSというのを用いて高いところから電波を出してカバーしたらどうかという話です。静止軌道衛星は高度36,000㎞を飛んでいますが、あまりに遠すぎて電波が弱くなってしまうので、高いところに飛行機のようなものを飛ばして、そこから電波を飛ばしたらどうかということです。これの高さは20㎞なので、成層圏のレベルですが、実際に検討しています。
 ドコモはこの実証実験をエアバス社と行いました。太陽電池で100日ぐらい飛ばすことができるそうです。グライダーのようなものに基地局の装置を積んで太陽電池で1年間飛ばすという構想です。
 このようなものも、10年後であれば十分に可能だと思われます。そうすると、電波が届きにくい山間へき地や海の上が十分にエリアになりますし、使い方もいろいろ変わってくると思います。
 本日はご清聴ありがとうございました。

■伊藤会長あいさつ

〇伊藤 42年卒の伊藤です。今日はお忙しい中にご講演いただきありがとうございました。
 移動通信の世界が年率40%で進化しているそうで、最後には、本当にこんなこともできるのかというお話も出てきました。私自身は、使いこなせていない今があって、だんだん取り残されていっている感じもしていますが、使えるようになれば、もっといろいろなことができるのだろうと想像しながら聞いていました。
nimoku659_04.jpg   移動通信の新しい世界が、たくさんの新しい世界をつくっていくだろうということを、しみじみと考えさせていただける講演でした。ありがとうございました。

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