第627回二木会講演会記録

『トランプ米大統領を知る7つのポイント ~日本は、世界はどう付き合うか~』

講師:中屋 祐司 氏(昭和51年卒)

■講師紹介

○石川 昭和51年卒の石川純彦です。われわれ51年卒は同期会を「ご~いん会」と呼んでいます。ことしはめでたく還暦を迎えます。きょうはたくさんの同期が来ております。これも中屋君の人柄かと思いきや、この後、飲み会があるので集まったようです。中屋君とは、3年7組、文系男子クラスで一緒でした。きのう、昔の卒業写真を取り出してみましたが、当時は、ビートルズとか、吉田拓郎をまねて、見事に皆、長髪でした。(私と中屋君の)この二人ですら長髪。中屋君に至っては、顔も体も二回りぐらい大きくなりました。今は、このスキンヘッドで、怪しげなヒゲをはやしておりますが、昔は紅顔の美少年だったのです。すっかり、変わってしまいました。中屋君は鹿児島市に生まれまして、中学2年の時に、油山のふもとの長尾中学校に転校してきました。本人に言わせますと、修猷館時代の成績は可もなく不可もなく、部活は帰宅部。3年間、男子クラスでした。何ら、青春らしいエピソードはなし。
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 その後、修猷生らしく、浪人1年を経て「海外特派員になりたい」と、上智大学外国語学部フランス語学科に入学しました。女性もたくさん周りにいるという華やかな大学生活で、それまでの3年間の男子クラス、浪人生活の反動があったのでしょう。奔放というか、ありていに言えば「ただれた青春」を過ごされたとのことです。大学卒業後は、希望通り共同通信社に入社されました。大学では奔放な生活でしたが、その後、更正されまして、今では立派な家庭を持ち、子どもさん3人を育て上げられたようです。きょうは、ここでしか聞けないようなトランプさんの話を聞きたいと思います。

■中屋氏講演

 昭和51年卒業の中屋です。石川さんから「ただれた青春」とのご紹介をいただきました。トランプなら自分に都合の悪いことは「フェイクニュースだ!」と端から否定するところですが、事実ですので、私はそんなことは申しません。本日のお題は「トランプ大統領を知る7つのポイント」です。7つのポイントでトランプが分かる、なんていうのは詐欺商法のようなものです。約130枚のパワーポイントの電子紙芝居を用意してきました。これから1時間あまり、私が計7年間、アメリカの首都ワシントンにいた経験を踏まえて、皆さんの理解の助けになるように、できる限り分かりやすくトランプについてお話をしたいと思います。敬称略で話しますが、呼び捨てに他意はありません。

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■アメリカって何?

 アメリカは広く、面積は日本の26倍、人口は2.6倍です。気候も、住んでいる人(州民性)も違いますし、アメリカと一言で言っても何を指すかが実のところ難しいです。私が7年を過ごしたのは首都ワシントン、ワシントンDCです。アメリカ国内で「どこから来たんだ?」と聞かれて「ワシントンから来た」と答えると、イチローのいたシアトル・マリナーズのワシントン州を意味します。ですから「DCから来た」と答えなければ正確ではありません。
 アメリカ東海岸を見てみましょう。南から、首都ワシントン、ニューヨーク、ボストンがあります。日本と照らし合わせて緯度をみてみると、首都ワシントンは仙台市(北緯38度)、ニューヨークは青森市(北緯40度)、ボストンは函館市(北緯42度)近辺に当たります。それぞれの距離は、360キロから370キロぐらい。東京~名古屋間、あるいは東京~仙台間とほぼ同じです。
 首都ワシントンは、面積が山手線内側の3倍弱の広さしかありません。西隣はポトマック川を挟んでバージニア州、北、東はメリーランド州に接しています。ニューヨークは超高層ビルが林立していますが、ワシントンでは、連邦議会議事堂よりも高いビルは建てられないので、ビルは13階~14階建てです。だからとても空が広く、のどかな地方都市という風情です。
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 ホワイトハウスの写真を2種類準備しました。三角の形状は北側の玄関です。通りから90メートルと近いので、観光客が多いです。もう一枚の南側は、円形にせり出しています。通りからは250メートルほどあり、サウスローン(南の芝生)と呼ばれる広い庭があります。大統領が乗る「マリーンワン」というヘリコプターが離着陸するのはこちら側です。ここに写っているのは、共同通信ワシントン支局員の同僚たちです。真ん中にオバマが写っていますが、これは、支局員がギフトショップで20ドルで買ってきた等身大の張りぼてです。
 首都ワシントンは、一周104キロの「ベルトウェー」という高速道路の環状線の中にあります。コアな人口は約60万人です。周辺まで含めた首都圏というくくり方をすると、隣接するボルチモアなどを含めて約150万人と言われています。住んでいる人たちは、連邦議会議員(国会議員)、政府職員、外交官、ロビイスト(弁護士)、メディアなどです。アメリカの政界や政治を「インサイド・ベルトウェー」と呼びます。日本語で言えば、永田町とか、霞が関といった語感です。
 トランプは、共和党の指名争い、ヒラリーとの本選挙を通じて、エスタブリッシュメント(既成勢力)を敵と見立てて、支持拡大を図ってきました。自ら属する共和党の主流派も含めて「インサイド・ベルトウェー」を敵に見立てたと言うことができます。
 首都ワシントンもニューヨークもボストンもシカゴもロサンゼルスも、大都市は典型的なアメリカではありません。都市部は民主党支持、田舎は共和党支持の傾向があり、典型的なアメリカは中西部のハートランドにある、という言うこともありますが、なかなか「ここが典型的なアメリカ」といえるところはないと思います。人によって「アメリカ」のイメージはさまざまで、場所によって違いますし、多様な人種、異なった考え方がある地域の寄せ集めがアメリカと言えます。
 アメリカの2大政党である共和党と民主党をおさらいします。
 共和党は、象がシンボルで、通常は赤色で表します。政府の役割を制限し、自助努力、減税を志向、「小さな政府」を標榜しています。一般的には、支持者は富裕層、白人が多く保守主義、自由貿易主義で、同性愛や人工中絶、銃規制に反対の立場です。地理的には中西部、南部の州が地盤です。
 民主党は、ロバがシンボルで、青色で表します。貧富の格差を縮めたり、社会的弱者を救済する上で、政府が役割を果たすべきだとの立場をとり、「大きな政府」を標榜します。伝統的には、労働組合に支持基盤を持ち、本来は保護主義的な考え方に立ちます。マイノリティーに支持者が多く、人工中絶を容認、銃規制を推進し、環境問題にも敏感なリベラル派です。西海岸、東海岸の州が地盤です。
 トランプは、共和党候補として大統領に当選しましたが、過去には民主党員を自称していたこともあります。政策面では、共和、民主を混ぜ合わせた感じもあります。
 NHKが放映したトランプ絡みの番組を2つ紹介します。また再放送すると思いますので、興味のある方はご覧になってください。
 ひとつは、トランプ支持層の考え方がよく分かる番組です。「ザ・リアル・ボイス」~"ダイナー"で聞くアメリカの本音~(NHK・BS)です。ダイナーとは、地元の人たちが行く、ドライブイン、ファミリーレストランあるいは大衆食堂です。私たちは、「どうしてトランプ支持者が多いんだろう」「なぜトランプが支持されるんだろう」と思いがちですが、この番組を見ると、それぞれの地域で一般の人たちが何を考えているかがよく分かるインタビュー集です。
 もうひとつは、1991年に制作された「"強欲時代"のスーパースタ-」~ドナルド・トランプ~(NHK・BS)です。「当時、放送しようとしたら、トランプから『名誉毀損で訴えるぞ』と言われ、いったんはお蔵入りになった」と番組の中で説明していました。これを見ると、不動産業を営んでいた頃のトランプの強欲、強引なやり方がよく分かります。大統領としての振る舞いもその延長線上にあると思います。

■3人の影

 トランプを生んだ背景のひとつは、オバマ8年の反動です。オバマが当選したのは2008年11月でした。大統領に就任したのは09年1月。私はそれから半年後の09年7月に、2回目のワシントンに赴任しました。オバマは人種の壁を克服した、という当選直後にあった陶酔感がそろそろ消えようとしていた頃です。極端な考え方を持つ白人たちからは、反発も出てきて、保守派のポピュリズム運動「Tea Party」も活発に動き始めていました。口の悪い白人たちは、「オバマのせいでホワイトハウスがブラックハウスになった」というようなことを言っていました。
 アメリカでは、「politically correctness」(PC=ポリティカリー・コレクトネス)という言葉があります。こなれていないようでもありますが、「政治的正しさ」と訳されています。「教養のある人は、人種、社会的弱者について、後先考えずに言ったり、行動してはいけない」という意味です。つまり、教養という「ふた」で腹の中に本音を抑え込んでおくべきだ、ということです。トランプは、今回の選挙戦でPCを無視し、本音をずけずけと言って支持を集めました。「パンドラの箱を開けた」とも言われます。たとえば、大統領選の半月程前に、過去のトランプの音声が暴露されました。「スターであれば女は何でもやらしてくれる」という女性蔑視の性的会話で、実のところ「これでトランプの命運は尽きた」「致命的。ゲームオーバー」と言われました。しかし、実際にはそうではありませんでした。「男たちは誰でも同じよ。むしろ人間的でトランプに好感が持てた」とか、「億万長者という別世界の男ではなく、トランプも単なる男なのよ」と問題視しない白人の女性たちも多かったと聞きます。
 ふたつ目は、ヒラリー・クリントンです。支持率の推移を見ると、オバマ政権で国務長官を務めた頃は、好感度が高かったのですが、大統領選への出馬を表明した途端、支持率は急落しました。ヒラリーにガラスの天井を破ってほしいと期待する人たちがいる一方で、ヒラリーの野望を嫌う人たちが多かったのだろうと私は思います。ヒラリーは早くから、オバマ後継者の大本命と言われ、そのために、民主党からは若手の有望株は出てきませんでした。ヒラリーに対しては「ファーストレディとして夫のビル・クリントンを利用し、上院議員、国務長官として政治を利用した典型的なエスタブリッシュメント」という意地悪い見方があります。これに対して、トランプは大富豪だが、政治を利用せず、自力で稼ぎ名声を得たとも見られます。ヒラリーの野望が間接的にトランプ大統領誕生にプラスに働いたと言えます。
 三つ目は、民主党の候補者争い(予備選挙)で、ヒラリーの足を引っ張り続けたバーニー・サンダースです。若者の支持層をヒラリーから奪い取り、ヒラリーの不人気を後押しし、結果的に民主党の分断を深めました。なぜ、若者の支持を集めることができたのでしょうか?アメリカの大学生は、高い学費に苦労しています。有名な私立大学だと、学費は年額で7万ドル~8万ドル(800万円~900万円)です。在学中に、多額のローンを抱える人も少なくありません。日本と違って、大学を卒業しても、転職しながらキャリアアップする仕組みのアメリカでは、新卒採用も多くなく、「大学院を卒業してもスタバから」という人たちもいます。サンダースは、学費負担の低減、無料化を掲げ、支持を広げました。結局、サンダースは指名争いに負けたわけですが、サンダースを支持した若者たちは、ヒラリーに希望を感じず、民主党員でありながらトランプを支持する「トランプ・デモクラット」に転じたという分析もあります。
 2012年と16年の大統領選の州別勝敗を示した地図を比べてみると、東部から中西部にかけて、ペンシルベニア、オハイオ、ミシガンの各州が、青(民主党=オバマ)から、赤(共和党=トランプ)に変わりました。いわゆる勝敗を左右した「激戦州」(スイング・ステート)です。キーワードにもなった「ラストベルト」(錆びた地帯)が重なります。これらの州では、本来、民主党支持(ヒラリー支持)であるべき労働者たちが、トランプを支持したことが選挙結果に大きな影響を与えました。
 ラストベルトを少し説明しますと、炭鉱や製鉄業など旧来型の産業がさびれてしまい、高い教育を必要としなかった肉体労働者、単純労働者たちは、技術革新やITに取り残された感じを持ちました。職がないとなれば、増える不法移民に敵意を向けます。ヒラリーが大統領になったら、明日も今日と同じで展望がない生活が続くけど、もしトランプが大統領になれば、ビジネス界で成功したやり方で何かを変えてくれるだろうと期待したと言われます。
 「~~ベルト」という言い方は、ほかにもトウモロコシなど穀倉地帯を示す「コーンベルト」や、天気のいい日が多い一帯の「サンベルト」などがあります。やや脱線しますが、南部に「バイブルベルト」(聖書の影響の強い地方)があります。1966年夏、ジョン・レノンが「今やビートルズは神より有名になった」と発言し、この一帯でビートルズ不買運動が起きました。今でも、敬虔なプロテスタントが多く保守的なところで、共和党の地盤です。

■トランプという人

 トランプは、1946年6月14日、ニューヨーク生まれの70歳です。身長は190センチ、体重は107キロ。酒は飲まず、禁欲主義者とも言われます。不動産王と形容される事業の中心は「トランプ・オーガニゼーション社」(本社・トランプタワー)で、家族が経営陣です。上場しておらず未公開なので実際の財務状況はよく分からないところがあります。自称「資産総額100億ドル」と言っていますが、アメリカの経済誌フォーブスが昨年9月に報じたところですと、「推計37億ドル」のようです。フォーブスによる長者番付1位はマイクロソフトのビル・ゲイツで、資産総額は810億ドルと言われていますので、ゲイツと比較すると資産は20分の1ぐらい。全米で800位前後のようです。父親はニューヨーク・ブルックリンで住宅建設によって財を成しました。トランプはその跡を継ぎ、マンハッタンに進出、1983年にトランプタワーを建設、88年にはプラザホテルを買収しました。ところが、90年代に入り、東海岸のシャトル航空便やカジノホテルに手を出して撤退、莫大な負債を抱えます。そこから「TRUMP」ブランドを前面に出して復活しました。その手法は、押しの一手。狙ったものは逃がさず、逆境でもいつの間にか優位に立ち、欲しいものは必ず手に入れると言われました。
 現在所有する事業の内訳は、63%が不動産関連、16%はアメリカ、イギリス、アラブ首長国連邦(UAE)など17カ所に所有するゴルフ場関連事業、12%は香水、寝具、ミネラルウォーターに「TRUMP」のブランドを貸すライセンス関連事業です。9%は、レストラン経営やモデル事務所だとされています。
 多くの常識的なアメリカ国民にとって、国家元首である大統領に求める姿は、品格であったり、倫理観だったり、統合の象徴だったりします。でもトランプの場合、良くも悪くも従来とは大きく違う新たな大統領像を目指しているように思えます。
 不動産王のほかに、一国一城の主、TV番組のホスト、プロレス興業主などの顔をトランプは持っています。2004年に放送が始まった「アプレンティス」(見習い)で、全米にテレビ番組のホストとして知られるようになりました。決まり言葉は「You are fired!」(お前はクビだ!)で、低俗な番組と言われました。2007年には、プロレス興業に参戦、「億万長者対決」と称して同じ興業者のビンス・マクマホンと決闘します。それぞれの代理人のプロレスラーが対戦し、負けた方は髪の毛をそられるという演出でした。これに、トランプが勝ち、リング上でトランプ自ら、マクマホンの頭にシェービングクリームを塗って、髪をそるというパフォーマンスを演じました。ちなみに、このビンス・マクマホンの妻リンダ・マクマホンを、トランプは中小企業庁長官に指名しています。
 髪の毛のエピソードをひとつ、お話します。大統領選挙まであと2カ月となった昨年9月、アメリカNBCテレビの夜のトークショー「The Tonight Show」に出演したトランプに対して、ホスト役のジミー・ファロンが「髪にさわってもいい?」と聞き、OKをもらって、トランプの髪をぐちゃぐちゃにしました。絵としてはおもしろく、トランプの不思議な髪形はどうなっているんだろう、と誰もが関心を持つわけですが、ホスト役のファロンはこの行為で、反トランプ陣営から批判を浴びました。「排外主義者で人種差別主義者、女性蔑視的で嘘ばかりつくトランプを人間らしく見せることを許していいのか」「もっと他に、聞くべき大事なことがあるだろう」という批判でした。一方、トランプにとってこのシーンは、フランクなトランプというイメージを演出でき、プラスに働いたと言われています。
 先ほど、プラザホテルを買収したというトランプの事業の一環を紹介しました。セントラルパークに隣接した由緒あるホテルです。ここを舞台にした「ホームアローン2」(1992年公開)という映画の中で、トランプはちょい役で出演しています。Youtubeで検索すると見ることができます。
 トランプの「敵・味方」の峻別方法ですが、味方は、言うまでもなく、支持層や支持者であり、側近、保守系のメディアやSNSです。好きな人、自分に都合のいい人、利用できる人も味方です。よき理解者として、安倍首相も味方に分類できます。敵は、この反対です。反トランプの人たち、民主党、リベラル寄りの米主要メディアで、嫌いな人、自分に都合が悪い人、邪魔な存在です。
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■トランプの手法

 2つの「トランプループ」があると言われます。トランプ流の循環戦術です。
 ひとつは、目的を達成するための手法です。無理難題をふっかけて、相手を困らせ、いったんは理解したふりをして、相手を安心させ、もう一度牙をむき、要求を飲ませるというやり方です。トランプは、「強硬な態度をとれば、取引が有利になる」と公言していますが、このやり方は、反社会的勢力の手口とそっくりです。スレトノミクス(脅しの経済政策)という造語もあります。「threat」と「economics」を合わせたものです。ほかにも、トランピアン(トランプ支持者)、トランポノミクス(トランプの経済政策)という言葉も生まれました。
 もうひとつは、自分を話題にする方法、ニュースになる方法です。非常識な発言で驚かし、ニュースになり、ツイッターを使って自分で増幅し、もう一度ニュースになる。これを繰り返すやり方です。
 エピソードを紹介します。トランプが自分に都合の悪い時に言い放つ「フェイクニュース」が流行語になっていますが、その元祖はトランプだというものです。1980年代から90年代にかけて、「バロン」という名前でニューヨークの地元紙にたれ込み(情報提供)がありました。電話で「トランプは高級社交クラブを買収するらしい」「美人モデルと浮き名を流している」という内容です。地元紙の記者が調べると事実無根でした。トランプが告白しているのですが、これは自作自演で、注目度、知名度を上げるためにやったようです。よっぽど気に入っているのか、メラニア夫人との間にできた現在10歳の長男に「バロン」という名前を付けています。
 もうひとつのエピソードは、トランプタワーの部屋が売れ残った時に、「高層階を、ダイアナ妃とチャールズ皇太子、ソフィア・ローレンが買おうとしている」という噂を自分で流しました。同じマンションに住もうと思った人たちが殺到して、残っていた部屋はあっという間に売れたそうです。
 トランプの自伝に関わった人が言っていたことですが、トランプは「常に仮面をかぶり、本心が出そうになっても、また仮面をかぶる。最初の妻イバーナはいまだに、本当のトランプを知らない。人に弱みを見せられない性格ではないか」というものです。トランプの一面を指しているようで、興味深い分析です。
 トランプの話し方に焦点を当ててみます。特徴は①断定する②極端な言い方をする③事実かどうかは2の次④ツイッターで一方通行で言う⑤論点をすりかえる、などです。
 語彙力と文法、支持者との関係についての分析もあります。トランプが使う単語はネイティブの中学1年生レベル、文法は小学高学年レベルなので、それが、中低学歴者の支持につながったというものです。これに対して、オバマやヒラリーは、単語、文法ともに難しく、それが潜在的に、中低学歴者の反発につながったとされます。
 新しいアメリカ大統領が誕生すると、日本でも演説集が売れます。出版社によると、オバマが当選した2008年は、演説集が40万部ほど売れたようです。私も何冊か買いました。しかし、トランプの演説集は2月末現在で2万部にとどまっているようです。スマホの時代なので、一般的に出版業界は売り上げに苦労していますから、単純に比較することが適当かどうかという点もありますが、やはり、トランプに対する日本の人たちの見方が反映しているのではないか、と思います。
 アメリカの大統領ですから、当然のことながら、発言は事実に基づかなければならず、その発言を基に世界は動く、というのが、私たちの理解です。しかし、トランプは、これまで紹介したように、発言が事実でなかったり、極めて不正確だったりします。
 たとえば、「(イラク戦争後に)イラクの石油を確保すべきだった」「恐らく、また(石油を獲得する)別のチャンスがあるだろう」などと発言して、イラク政府が激怒しました。 マティス国防長官は「米軍は石油を奪いに来ているわけではない」と必死に火消ししました。不法移民の強制送還について「これまでにないペースで悪いやつらをこの国から追い出す。これは軍事作戦だ」と言ったことに対しては、ケリー国土安全保障長官は「大量に強制送還することにはならない。軍事力は行使しない」と弁明しました。フロリダ州で2月18日に行った演説では「スウェーデンで昨夜発生したことを見ただろ」と、いかにもテロが起きたような文脈で発言しましたが、テロの事実はなく、前夜見た保守系テレビニュースを誤解したのが原因でした。

■トランプの性格

 トランプの性格を最もよく表しているエピソードがもうひとつあります。広く報じられたのでご存じの方もいらっしゃると思います。1月8日に行われたゴールデン・グローブ賞授賞式での女優のメリル・ストリープの発言が発端です。トランプは、2015年の集会で、手や腕をけいれんさせるように動かして身体障害のある米紙記者をあざけるような振る舞いをしたことがありました。メリル・ストリープは「この国で最も尊敬される座に就こうとしている人物が身体に障害のある記者の物まねをした」「軽蔑は軽蔑を招く。暴力は暴力を招く」「胸が張り裂けそうな思いだ」と批判しました。これを知ったトランプは、ツイッターですぐにこう反撃しました。「身体障害者の記者をばかになどしていない」、「(メリル・ストリープは)ハリウッドで最も過大評価された女優の一人だ」「惨敗したヒラリーの腰巾着だ」と。実は、トランプは、メリル・ストリープの大ファンだったそうです。つまり、ファンなのに批判され、憎さが100倍になったと思われます。メリル・ストリープの発言は、道徳的、倫理的に常識あるまっとうなものだと私も思います。
 しかし、アメリカの女性ジャーナリストであるメーガン・マケインはこのように忠告しました。「メリル・ストリープのような発言こそが、トランプ支持者からの反発を招く」「ポリティカリー・コレクトネスに沿った建前の発言が、トランプ誕生の源泉のひとつ」。つまり、トランプ支持者は、メリル・ストリープの発言に対して、「しょせんハリウッドのセレブ」「わけ知り顔で上から目線でものを言う」と反発し、ますます支持する気持ちは強くなるという見方です。
 私たち、メディアの一般的、常識的な見方や分析が、今回の大統領選を正しく見通せなかったひとつの側面がここにあります。
 トランプのツイッターは「トランプ砲」とも言われます。批判されたら、直ちに反撃し、倍にして返すという傾向があります。「衝動的」「自己制御の欠如」とされ、朝日新聞が談話を載せていましたが、南カリフォルニア大学のクリストファー・ボーム教授(文化人類学)は、「威嚇して、時に先制攻撃し、君臨する」というのは「ボス猿と似ている」と分析しています。
 また、大統領選挙後、政権移行に入るオバマに対して、3人の精神科医が書簡を送り、トランプは「自己愛性人格障害」で、大統領職としては著しく不安定な状態が疑われると指摘しています。私は精神科医ではありませんので、自己愛性人格障害の症状をネットで調べてみました。自己愛性人格障害と診断される人の特徴を少し長くなりますが列挙してみます。
 「人より優れていると信じている」「権力、成功、自己の魅力について空想を巡らす」「業績や才能を誇張する」「絶え間ない賛美と称賛を期待する」「自分は特別であると信じており、その信念に従って行動する」「人の感情や感覚を認識しそこなう」「人が自分のアイデアや計画に従うことを期待する」「人を利用する」「劣っていると感じた人々に高慢な態度をとる」「嫉妬されていると思い込む」「他人を嫉妬する」「多くの人間関係においてトラブルが見られる」「非現実的な目標を定める」「容易に傷つき、拒否されたと感じる」「脆く崩れやすい自尊心を抱えている」「感傷的にならず、冷淡な人物であるように見える」 などが列挙されていました。
 ほかにも「馬鹿にされることに耐えられない」「根拠のない自信がある」「他人を出し抜こうとする」「思い通りにならないと鬱になる」「自慢話ばかりする」「他人の手柄を横取りする」「期待が外れると怒りだす」「自分が一番でないと気がすまない」「自分のことばかり話す」なども挙げられていました。
 トランプの言動と重ね合わせてみると興味深いと思います。
 従来の大統領らしさとは、国家元首として、考え方、主義主張に違いはあってもアメリカをまとめる努力をする、と言えます。これに対して、「トランプ流」大統領らしさは、「融和」と口では言うものの、考え方の違いを利用し溝を深めることで支持を拡大し、そのことによって、アメリカは一層両極に分かれるという現象を招くと言えます。
 「トランプ流」政権運営は、公約の実現性より、実行力をアピールして求心力を得ること。壊せないものはなく、ルールは自分で決めること。利用できない者は容赦なくクビにすること。融和姿勢より、対決姿勢を示し、自分にプラスにすることなどが見えてきます。調整型ではなくブルドーザー型、オポチュニストで原則にこだわらず、「ギブ&テーク」...。これらをミックスしたものになると思います。
 トランプの危うさは、大統領という強大な権限を有しながら、衝動的な反応をツイッターで示し、意図的な嘘や不正確な発言を繰り返し、(これは後に話しますが)バノンという怪しげな側近に依存するところにあります。もともとメディアは権力に批判的でなければならない、と私は考えており、そういう点で、メディアは決して好かれる存在ではないと思います。ただ、メディアを敵視することは、国民を敵視、軽視することでもあり、すなわち民主主義を軽んじることだと思います。

■トランプの取り巻き

 大統領を支える人たちは、大きく分けて2つあります。ひとつは、ホワイトハウスの補佐官、顧問です。議会上院の承認は必要ありませんので、大統領の好みでポストに就けることができます。一方、国務長官や国防長官など閣僚は、大統領が指名しても上院の承認がなければ就任できません。議会は、共和、民主の勢力からみれば、上下両院ともトランプに有利な状況にあります。しかし、共和党主流派とは考え方が根本的に違いますし、野党民主党はあらゆる面で抵抗します。
 この仕組みを踏まえた上で、上院の承認を経ずしてホワイトハウスの首席戦略官兼上級顧問に据えたスティーブン・バノンにまず焦点を当てます。トランプ政権を知るためには、バノンを避けては通れませんし、バノンを知ればトランプの極端な主張など、おおかたが分かると言えます。
 バノンは、白人至上主義、人種差別を隠さない過激な保守系ニュースサイト「ブライトバード・ニュース」の会長を務め、昨年夏にトランプの選挙対策本部の最高責任者として乗り込んできました。「オルトライト」(極端な保守主義)の代表でもあり、トランプとは「既成政治打破」で一致しました。「アメリカ・ファースト」(米国第一主義)の基になっている経済ナショナリズムを主張し、ポピュリズムをあおって、世界秩序を変えようとしていると言われています。表舞台に出ることはあまりないのですが、トランプとバノンは一心同体とされ、国の進路を決める国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーにまでなっています。この分野では素人なのに、政策に主張を反映することができる立場にあるため、大変危険な人物とみられています。
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 ことし2月初め、米誌タイムの表紙でバノンは「The Great Manipulator」として取りあげられました。日本語に直訳すると「偉大なる人心操作者」ですが、意味するところは、「トランプの後ろで操る強大な権力を持った人」です。タイム誌は、ネクタイを付けず、ラフなスタイルのバノンだが、トランプの執務室であるオーバルオフィスに自由に入ることができる「唯一の男性側近」であり、トランプに次いで「世界で2番目に強力な男かもしれない」と記しています。
 バノンの発言をいくつか紹介します。「メディアはしばらく黙っていろ。メディアは抵抗勢力だ。この国のことを分かっていない。トランプが大統領になぜ選ばれたのかを分かっていない」。トランプは、アメリカの主要メディアを激しく攻撃していますが、その後ろには、このように公言するバノンがいます。TPPからの離脱も、イスラム教徒をターゲットにしたとみられる中東・アフリカの国からの入国審査を厳しくしたのもバノンの考えです。
 バノンは、ブルーカラーのアイルランド系カトリックの家に生まれました。ケネディを支持する民主党支持の家だったようですが、1970年代後半のカーター大統領が「政治をむちゃくちゃにするまで政治には興味なかった」と言っています。カーターの後に大統領を務めた共和党のレーガン大統領の大ファンになったそうです。離婚歴が3回あり、いずれも短期間の結婚生活で終わっています。双子の娘がいる2番目の妻に対して暴力をふるったとして家庭が破綻し、裁判沙汰になりました。バノンという人の一面を知るエピソードです。
 各方面で大統領を支える補佐官が10人前後いるわけですが、通常は首席補佐官が大統領を支える黒子のリーダーで、全体を束ねて、各省庁の政策などを調整しながら、大統領に助言します。現在は、ラインス・プリーバスが首席補佐官です。プリーバスは、共和党の全国委員長を務めた経歴があり、トランプがずっと攻撃してきた共和党主流派と橋渡しする役割が求められています。これまでの経過をみても、また役割からみても、バノンとそりがあうはずがなく、ホワイトハウスでは権力闘争が起きていると報じられました。
 2月23日に開かれた保守政治行動会議(CPAC)の年次総会に、ふたりそろって出てきました。プリーバスは「不仲だと言われているがうまくやっている」「われわれは午前6時半から午後11時まで一緒にいる」と会場を沸かせましたが、バノンは「われわれは意見が合わないから良いパートナー。仲は日ごとに悪くなっていく」と冗談で返しました。
 バノンが率いていたブライトバードは、主張が過激すぎるという理由から昨年までCPACから締め出されていました。バノンがホワイトハウスの首席戦略官兼上級顧問でなければ、今年も締め出されていたはずです。バノンはこの点を突いて「ようやく招いていただいて感謝する」と皮肉を言いました。
 トランプは、スタッフを集めて「プリーバスが手綱を握る」と訓辞して、バノンもそれを受け入れたと伝えられますが、共和党主流派の意見を取り込もうとすれば、バノンは当然ながら反対します。
 「両雄並び立たず」とのことわざ通り、私は、近いうちに、バノンとプリーバスの対立が深刻化し、トランプはバノンの意向に沿ってプリーバスを切るのではないか、あるいは切られなくてもプリーバスの権限はどんどん小さくなっていくのではないか、とみています。プリーバスはそういう意味で、難しい立場です。
 側近には、トランプの家族もいます。トランプの最初の妻イバナとの間に生まれた長女のイバンカは、ファーストレディ役を務めています。イバンカの夫、ジャレッド・クシュナーは上級顧問として中東問題を担当しています。敬虔なユダヤ教徒で、イスラエル寄りの立場です。イバンカとクシュナーは、安倍首相がトランプタワーで就任前のトランプに会った際に、同席しました。それほど、中枢に近いということです。
 先に紹介したように、トランプには虚言癖とまでは言わなくても、不正確な発言をする癖がありますが、大統領顧問を務める女性の側近、ケリーアン・コンウェーも問題発言で有名になりました。就任式の人出数をめぐっては、ホワイトハウスが発表したほどの人出はなかったのではないか、とメディアが批判したことに対して、(本当の事実とは別の)「もうひとつの事実」(オルタナティブ・ファクト)と言ってみたり、「イラク難民が『大虐殺』を起こした」と虚偽の事件を例示してみたり、あるいは「イバンカ・ブランドをみんなも買って」と発言して、政府倫理局が、公職を利用して利益誘導してはいけないという「倫理規定に抵触した」としてホワイトハウスに処分を求めたことがありました。女性悪役ぶりがすっかり定着し、「オルタナティブ・ファクト」は今や流行語になりました。
 弊社のベテラン記者によると、日本の外務省のある外交官は「バノン、イバンカ、クシュナー、コンウェーの4人を見て、政権の『正体』が分かった」と言ったそうです。政策遂行よりも大統領選の運動の継続が目標であり、アメリカ社会の分断を深めることで、支持者の求心力を保ち続けるつもりだろう、というのがこの外交官の分析です。
 なんだか変な人ばかり紹介してきましたが、まともな人たちもいます。副大統領のマイク・ペンスは、日本企業が多く進出しているインディアナ州知事でした。トランプに何かあったら、ペンスが大統領に昇格します。共和党の本流に位置し、安定感があります。国家安全保障問題担当の補佐官は、ロシアと接触し、きちんと報告せず、トランプやペンスの信頼を失ったとしてマイケル・フリンは更迭されました。フリンに替わって、このポストに就いたのは陸軍中将のH・R・マクマスターです。一言居士で筋を通すと言われており、トランプの外交政策がおかしな方向にいかないように直言するのではないか、と期待されています。国務長官は、エクソン・モービル社で会長を務めたことがあり、親ロシアとされるレックス・ティラーソンです。対中政策で、トランプが「『ひとつの中国政策』にこだわらない」と発言して、中国から猛反発を受けました。ティラーソンは、このままだとまずいと判断して、安倍首相がフロリダの別荘を訪ねる前に進言、トランプは習近平に電話を入れて、「ひとつの中国政策を尊重する」と方針を転換しました。また、トランプ政権の閣僚として最初に日本に来た国防長官のジェームズ・マティスは、見識があり、適任とされています。トランプが、リングの上でプロレスラーを紹介するように「マッドドッグ(狂犬)」と紹介したため、そのイメージが先走りしました。しかし本人や周囲は「狂犬」などいうニックネームは使わないようです。独身で、軍に生涯をささげた海兵隊大将、深い知識は7000冊の歴史書に裏打ちされ、「戦う修道士」として米軍内では尊敬されています。

■私たちメディアの失敗

 トランプは40%という支持率でスタートしました。毎回、大統領選挙は互いに傷つけあう激しい戦いになりますが、勝敗が決したらノーサイドで、負けた方も一定程度、新大統領を祝福するムードとなるのが普通です。トランプの場合には、それがないのが特徴です。40%は低いと言えますが、私は少しひねくれた見方をしています。これだけ資質を問われながらも40%を切らないというのは、底堅く根強い支持があることを示していて、簡単にはつぶれないという見方です。
 今回の大統領選挙では、アメリカの主要メディアも、私も含めて海外メディアも大きな反省点、課題が残りました。メディアの失敗を簡単に申し上げると、まず「トランプのような人物が当選するはずはない」という思い込みです。トランプ支持層を軽視し、アメリカ社会の実態を分かっていませんでした。もうひとつは「就任すればトランプは大統領らしく振る舞うだろう。公約から常識的な政策へとシフトするだろう」という希望的観測です。その結果として、メディアの信用性に傷が付きました。今や、トランプとリベラル系メディアは戦闘状態です。
 新聞もテレビもアメリカの主要メディアは、リベラル、保守がはっきり分かれています。トランプと激しくやり合っているのは、CNNやMSNBCというケーブルテレビ、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの有力紙です。これに対して、トランプ応援団は、ケーブルテレビのFOXニュースです。そこに、フェイスブックやツイッターというSNSが爆発的に広がりました。誰でも情報を発信できるようになり、関心がある事と関心のない事がはっきりし、リベラルな人や保守的な人の間にいっそう距離ができました。自分と同じ意見は取り入れるが、耳障りなことは見ない、聞かない、読まないという傾向が進みました。大統領選挙では、真偽不明の情報が氾濫し、候補者がそれを利用したりして、結果に少なからず影響したのではないか、とみられています。特にトランプは、無責任な情報発信を許すという雰囲気を加速しました。「ポスト・トゥルース」とは「客観的な事実より、感情や個人の信念に訴えるものが世論の形成に大きな影響力を持つ」と解釈されますが、私は「言ったもの勝ち」と翻訳しています。

■予想

 大胆に、少し乱暴にこれからのトランプ政権の命運を予想してみます。トランプのことですから、自ら職務を投げ出すことはないでしょう。トランプがトランプである限り「トランプ流」は変わらないはずです。では、「トランプ」が「トランプ」でなくなる時があるのだろうか?。私が望んでいるわけではありませんが「病気」「事故」による離脱、あるいは、これも決して望んでいるわけではないのですけど「暗殺」です。しかし、シークレット・サービスはしっかりしているので、「暗殺」の可能性は低いと思います。となると、職務を離れるケースは、主要メディア、民主党が画策する「弾劾」です。私生活や事業によるスキャンダルも理由にはなりますが、宣誓供述の場で「嘘」をつけば、弾劾相当です。政権発足前にロシアと接触したのではないか、裏取引があったのではないか、という疑惑があり「クレムリンゲート」「ロシアゲート」などと名付けられて取り沙汰されています。
 弾劾の手続きは、まず議会下院が弾劾訴追を過半数で決議し、その後、上院が3分の2以上の賛成で可決することで、大統領職は罷免されます。これまで弾劾裁判に直面した大統領は、アンドルー・ジョンソン(1867年)、不倫もみ消し疑惑のビル・クリントン(1999年)です。2人とも、下院で弾劾訴追の決議を受けたのですが、上院の審理では罷免を免れています。
 これを踏まえて、トランプ政権の命運です。黒幕のバノンとの二人三脚が今のまま良好に続くのかどうか、という変数はありますが、18年の中間選挙(議会選挙)までは、いろいろと批判を受けながらも続くでしょう。中間選挙で民主党が上下両院で過半数を占めるか(この可能性は低い)、あるいは、トランプの政権運営に共和党主流派が愛想を尽かして、「トランプ下ろし」で民主党と足並みをそろえるなど、トランプを取り巻く構図が変われば弾劾への動きが具体化するかもしれないと思います。
 ただ、弾劾に行かず、トランプ政権が曲がりなりにも続くとなると、「1期4年で交代」の確率は40%、「2期8年続く」確率は60%ではないか、と予想します。外れたらみっともないですが...。2020年の大統領選の予備選挙で、ライアン下院議長ら共和党主流派が黙ってみているかどうか、今の段階で、予想するのは難しいです。
 そもそも今回の大統領選挙で、主流派がトランプを引きずり下ろそうとしても「反エスタブリッシュメント」「反ワシントン」「反ベルトウェ-」というトランプ支持者の圧力を止めることはできませんでした。アメリカ社会には、根強い政治不信があり、ワシントン政治への反発はこれからも消えることはないでしょう。大統領がトランプか、トランプ以外か、というのは、アメリカという国の内外の進路を左右しますが、トランプから誰に変わっても、アメリカ社会の分断を癒すのは極めて難しいと思います。
 では、トランプ政権が続くとどのようなことが起きるかですが、「中国、ロシアが台頭し、世界のバランスが崩れかねない」「TPPやWTO、あるいは温暖化対策など、積み上げてきた国際ルールが白紙に戻る」「アメリカ・ファーストの観点から、リスクが大きい大国同士の大規模戦争は起きない」「イスラム敵視の観点から中東での紛争が悪化する」「オバマがとった対北朝鮮政策(戦略的忍耐)を失敗と批判していることから、対北で軍事作戦のオプションが真実味を増す」などが考えられます。
 アメリカ国内の「対立や分断」、「対日関係」、「世界への影響」など、もう少し詳しくお話ししたかったのですが、時間が足りなくなりました。私の話はここまでといたします。パワポの電子紙芝居は130枚超のうち、途中の30枚ぐらいを割愛しました。ご清聴ありがとうございました。

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■質疑応答

○高見 同期を代表して質問します。トランプさんは確かに困った人だというのはそのとおりですが、アメリカの株は11月9日(大統領選挙投票日)以来、大変上げています。これは、去年の夏に世界経済が底を打ってから上がっている、それが続いているからなのかもしれませんが、経済界の中にはトランプについてはポジティブにみている人もいます。ここをどう考えたらいいんでしょう?

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○中屋 今、ご質問をいただいた高見君は、日本経済新聞社です。私と同業者です。高見さんからこんな質問を受けるとは思いもしませんでした。私がむしろ高見さんに聞きたいくらいです。あなたの方が、よく知っているでしょ?(笑い)それはそれとして、トランプさんがいう減税などに好感しているのでしょう。市場のムードは、どこかではじけるということを感じながらも、「今はまだ買いだ」ということなんでしょうね。高見さん、そうでしょ?。

○高見 その通りだと思います。(笑い)

○中屋 少し浮ついた感じがありますけれども、まだしばらくはこんな感じですか?トランプが当選した時には1万8000ドルぐらいだったですか。それが2万を超えたところですね。トランプの経済政策には、財政的な裏付けや具体策がないとは言われますから、それがはっきりした時にどうなるか。ちょっと危なっかしい感じもしますけど。どうですか、高見さん。

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○高見 いやいや、ごもっともだと思います。(笑い)

■大須賀会長あいさつ

○大須賀 ありがとうございました。去年は、いろいろと想定外のことが起きました。その中でも一番大きかったのがトランプ大統領の誕生だったと思います。トランプさんの発言を聞いていると「あれは大統領選挙のためだけだろう。大統領になると変わるだろう」と思っていました。一瞬ですが、そういう感じもありました。でも、やっぱり地が出てきました。トランプさんはどういう人なのだろうと、みんなが一番知りたいテーマでしたので今日はたくさんの人にお集まりいただきました。たぶんまだまだ分からない部分があるのも実態ではないのかと思います。トランプさんを知る前に、もっとアメリカという国を知らなければいけなんじゃないかとも思いました。日本としては一番親しい国であるはずですが、実は知っているのは表面だけです。内部の実態を知れば、良い悪いは別としてトランプさんの理解も進むでしょう。トランプさんは世界のリーダーですから、安全運転でやっていただきたいと思いました。

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(終了)