第559回二木会講演会記録


第559回二木会講演会(平成21年9月10日)
テーマ:『がん診療における日本の現状』?がんにおける癒しの必要性?
講 師:牛尾 恭輔氏(昭和37年卒)

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○紹介者 小野寺夏生氏(同期)
 牛尾恭輔さんは昭和37年に修猷館を卒業後、九州大学医学部に進まれ、卒業後しばらくは九大で研修医をされて、昭和46年から平成10年まで築地の国立がんセンターに奉職されました。その後、九州がんセンターに副院長として移られ、平成18年に院長になられてこの3月に勇退されました。現在は名誉院長の職にあられます。今は「癒し憩い画像データベースというものに非常に力を入れておられます。これはウェブで公開されていますが実にすばらしいものです。
 実は牛尾さんにこの会でお話しいただくのは今日が2回目です。前回は平成元年の「がんと進化」という演題でした。彼は日本を代表する放射線診断の専門家ですが、酸いも甘いもわきまえた修猷魂に富んだ人間ですので、今日は面白い話をしてくれると思います。


■牛尾恭輔氏講演
 九州がんセンターから来ました牛尾です。私は福岡に27年間いた後、国立がんセンターに27年間いました。そして福岡に帰って27年というサンドイッチにすると81歳になります。冗談ですが、できたらその81歳で、しかもがんで死ねたらなと思っています。
 これまで道を選ぶときに、最後に私の背中を押してくれたのは、4分の3は修猷館とそのつながりの人たちでした。しかし、後の4分の1は6年前に亡くなった私の妻です。彼女は非常にいい妻でした。私は今でも写真を胸に抱いています。

559_IMGP2988.JPG ■がん診療における日本の現状
 私が国立がんセンターにいた27年間は、医療機器がものすごく発展したときでした。その中で私が関わってきた診断の進歩についてお話しします。CTとMRIは皆さんも経験があると思いますが、今はものすごく進んでいます。
 例えばスイカやレモンをCTで撮ると、縦切りにしたもの、横切りにしたもの、また皮を取ったもの、それから種の色も黒っぽく出したり白っぽく出したりなど、条件を変えた映像が自在に見られます。559_IMGP2993.JPG

 人体の場合も、骨の厚さでわからないがんがあったときに骨を消すことであっという間にそれがわかるようになったり、また逆に、肋骨(ろっこつ)にひびが入ったとか骨にがんの転移があったときに、ボタン一つで骨だけを出すこともできます。必要な臓器だけを選んで出すことや、横に切ったり縦に切ったりというのも簡単にできます。昔は造影剤を入れての検査がありましたが、今はそれも要らなくなりました。
 私たち医者はそれまで縦とか横の写真を見ながら頭の中で立体を作っていましたが、これは大変な作業でした。それが今は3次元で、しかもリアルタイムで出てくるようになりました。3次元がどうできるかですが、今までのCTというのは1枚ずつの写真で時間がものすごくかかり、しかも一つ一つの状況しかわからなかったのですが、らせん状にぐるぐる回して連続的に撮ってデータを全部検出器のところでもらい、それを3次元の画像で出せるようになってきたのです。そして今ではボリュームで測りその計算もできるようになりました。それが日本が生んだヘリカルCTです。あとは同じように骨だけ出すとか、血管だけを出したり、動脈や静脈だけ出すとか、出し方を決めればいいのです。たくさん撮りますが、被曝線量はほとんど変わりません。その後、多列検出器CTというのが実用化されてより多くの範囲の撮影が可能となりました。今は256列にまでなっています。
 それから、化学療法をやって腫瘍が小さくなったとか、何もしなくなってそれが大きくなったかとかがすぐ計算できるような時代になってきています。例えば2002年の1月にがんのところだけ体積を出すと313だったのが1年ちょっとの間に大きくなったというのが計算で111パーセントと出るのです。そしてダブリングタイムも科学的に出るようになりました。今の診断学は、経験ではなくてこのように科学的になっています。

 559_IMGP2998.JPG大腸について説明します。昔の検査はおなかに下剤を入れて腸をきれいにし、そしてバリウムを入れ、空気を入れてぐるぐる回して写真を撮りましたが、今はCTを使って内視鏡的な像が作れる時代になりました。ただひだの裏に病気があったら、内視鏡では見ることができますが、CTでは難しいということがありましたが、それも今はどうにかできるようになりました。それから、便も腫瘍のように見えますからたまっていたら困りますが、それの鑑別もつくようになりました。
 私は昔の内視鏡検査を1万人ぐらいやってきたと思います。中には総理大臣やいろいろな人もいましたが、おしりに指を入れて回さないといけませんが、そんなときはどんな人でも皆同じだなと思いました。
 CTをやると内腔だけの写真だけではなく、周辺の臓器も一緒に表示できます。ですから、今、検診は一つの臓器ではなくて、肺とか腎臓とかの多臓器の、がんだけではなく動脈硬化とかの多疾患を一気に診られる時代が来ました。
 PET(ペット)というのがあります。マスコミはこれを非常にいいと言っていますが、5ミリメートルぐらいの「原発」のがんはこれでは見つかりません。しかし転移したがんは5ミリメートルでもわかります。転移したがんというのはがんの中でもたちが悪いものなので、ものすごくブドウ糖を要求します。その特徴を利用して調べると、そこが光って見えるのです。「原発」でもわかるところはいくつかありますが、それは1センチメートル以上と考えてください。

■修猷館魂
 私が進路を決定するときにいつも根底にあったのは修猷館魂です。G7の中でがんに関する画像データベースを作るということが決まったのですがだれも動かないので「私がやります」と言って引き受けて東京から九州に来ました。そのときに、日本の医学会は心の鎖国から抜けきれてないと思いました。これを打ち破らなければ日本の将来はないと思っています。それを私は画像データベースでやろうと思っています。
 鎖国をやめたいという思いの説明に例え話がいいと思って元寇防塁の話です。今津にあります。そこに行ったときに、石の大きさが場所ごとに異なっているのに気がつきました。それは今津地区の元寇防塁は日向国と大隅国が担当し、防塁の工法は各国で違うのでそうなっていたのです。これを見たときに「修猷館魂がここにあるのではないか」と思いました。
 というのは、いろいろな症例があっても、学会も大学も教室もそれをオープンにしません。それを打ち破らないとしょうがないと思いました。当時、元寇防塁は、工法は違っていてもみんなが石を持ってきて積み上げたのだと思います。そういうことにならなければならないのです。ロマンを持って症例を出そうというのがやりたくて九州に行きました。僕はこれが修猷館魂と思っています。

■癒し憩い画像データベース
 画像データベースは無料でインターネットに出しています。五つの言語が選べます。「消化管」と「乳腺腫瘍」と「血液腫瘍」があります。その中で、今、「癒し憩い画像」に力を入れています。それぞれの原風景に訴えるような写真をたくさん集めて、これを国民運動としてやりたいと考えています。こういうのを見ることが非常に必要なのです。
 内閣府の調査によると、人生80年時代を迎えてこれからは「物質的豊かさ」よりも「心の豊かさ」 に重きを置きたいとする傾向にあるのです。私は画像の力を知っていますから画像を利用したいと考えました。
 ライフレビューという方法があります。幼年期、学童期、青年期、成人期、現在という年代順に人生を回想していく方法です。面接をして話し合います。その人の人生を概観することによる自我の統合です。ただ話すだけでいいのです。あのときどうだったかこうだったかと過去のことを話すだけです。そういうときに原風景の写真が必要なのです。
 この「癒し憩い画像データベースを公表したのは2001年の12月15日です。もう8年になります。静止画像が10万、それから平均1分10秒ぐらいの動画が4千入っています。いろいろなテーマで入れています。検索もできるようになっています。今のところ七つ分類を作りました。例えば「水の流れ」の中には「川」とか「滝」とか「渓流」とか「雲」とかがあります、「滝」を選ぶと滝が出てきます。「四季の花々」で「春」を選ぶと春の花が出てきます。
 私は医者ですが、しかし今、日本で一番必要なのは癒しの画像ではないかと思ってこちらのほうに力を入れているというのが実情です。
 ご清聴感謝いたします。

○司会 最後に副会長の大須賀様、よろしくお願いいたします。


 

559_IMGP3006.JPG○大須賀 私も昭和37年の同期です。さすが「がん」には皆さん関心があるようで久しぶりに100名近くお集りいただきました。この休みの間に修猷館は高校野球で準決勝まで勝ち進みました。準決勝で負けた相手は筑陽学園ですが、ここの理事長兼校長も修猷館の私たちの同期です。
私は今日のお話を聞きながら、この話は2、3年前に聞いておけばあんな内視鏡だとかやらなくてよかったのではと思ったりもしました。そしてもう一つは患者さんに対する思いやりがいかに大事かということを強く思って聞いていました。それがまさに修猷館魂に裏打ちされているということでした。がんの話を聞きながら元気をもらったような有意義な時間でした。ありがとうございました。

(終了)


《関係ホームページのご案内》

「癒し憩い画像データベース」及び関係のホームページは以下のリンクをクリックするとご覧になれます。


・癒し憩い画像データベース
http://iyashi.midb.jp/


・癒し憩い画像データベース宣言
http://iyashi.midb.jp/declaration.php


・(参考)九州がんセンター
http://www.ia-nkcc.jp/