「ウクライナ紛争と日本の防衛」
講師:用田和仁さん(昭和46年卒)
開催日時:令和4年5月12日(木) 19:00-20:00
○田中(司会) 本日の二木会は昭和46年卒の用田和仁(もちだかずひと)さんに「ウクライナ紛争と日本の防衛」と題しましてご講演いただきます。
■用田氏講演
○用田 本日は、お天気が悪い中にお集まりいただきありがとうございます。コロナのおかげで、いろいろなところに配信ができるというのもまた新しい手法だと思います。今日は、プロフィール紹介等は割愛していただき、いきなり本題に入るというかたちでやらせていただきます。
■はじめに
今のウクライナ戦争は世界の地殻変動の始まりです。脅すわけではありませんが、この状況の中で、日本の防衛はもう盤石とは言えません。私は自衛隊のOBですが、例えば5年後の日本を守れるかというと、その自信はありません。そこまで追い込まれているということを、どのくらいの方が認識されているのでしょうか。
私は反米ではありませんが、アメリカに頼り切る同盟からアメリカから頼られる同盟に変わらなければ、日本の将来は全くないと思っています。はっきり言えば、バイデン政権は、いろいろなものをぶち壊しています。私は2015年にアメリカに行って関係者の話を聞いてきましたが、既にそのころから日本とアメリカの間には、いろいろな乖離(かいり)がありました。それが今、もう致命的になっています。
今日は軍事的な解説をしますが、今の日本は政治や外交などいろいろなところにおいて、軍事という視点が欠けています。ですから、ものの見え方が偏っていて、大切な部分が欠落した日本になっています。その最たるものは日本のマスコミです。新聞も、朝日から産経に至るまで、同じ論調です。おかしいと思いませんか。皆さんは、英米の大本営発表しか聞いていないのです。ウクライナの戦況についても、皆さんの認識とは違うことを今日はお話しします。
■ウクライナ紛争
そもそも、欧米の戦い方とロシアの戦い方は全く違います。それを理解せずに、ロシアがどうしたなどと言うのはおかしな話です。一方で、ロシア側の発表をよく聞かなければなりません。そこには、本当のこともたくさん入っています。
そして、今回のウクライナ戦争を考えるとき、自由・民主主義vs専制主義の戦いという視点だけでは駄目です。勧善懲悪だけで捉えてはいけません。ウクライナ戦争はある日突然起こったわけではありません。もちろん侵攻したロシアは悪いです。しかし、そこで止まって、ロシアを袋叩きにするだけでは何の教訓も生まれてはきません。
渡部昇一先生が引用されていた言葉ですが「虹は近くから見れば水滴、ある角度・距離から見れば七色の虹に見える」というのがあります。今の欧米や日本のメディアは、水滴の話ばかりなのです。それでは、虹は見えません。ある角度と距離を取って見ないと、歴史も、そしてウクライナの情勢も見えてきません。ただ、情勢は動いていますから、確定的にこうだとは私にも言えません。動いている情勢は動いたまま捉えてものを考えるべきです。
ロシアのいう「特別軍事作戦」を、侵略しているくせに、とただはねのけてしまったら、何にも見えません。限定目標の攻撃であろうと、無差別な攻撃であろうと、国土を破壊して、永年の繁栄の努力を無に帰して無辜(むこ)の国民を殺傷することにおいて、戦争を引き起こすものは愚かです。決して肯定はしません。ただ、なぜ起こったかということが大切です。
そして、今回のウクライナの紛争で、われわれがしっかりと肝に銘じなければいけないのは、核保有国が非核の小国に攻め込んだという現実です。核保有国による力の行使は止められないということです。これは冷徹な事実です。そして、核拡散防止条約のような文書は無力であり、全く意味をなしません。世界が完璧な地殻変動を起こしているということを自覚しないと、戦争になっても生き残ることはできません。今、われわれは新たな戦国時代に入ったのだと、腹の底から思えるかどうかです。
元スイス参謀本部大佐、元スイス戦略情報部員のジャック・ボーという人がいます。彼は、ソ連が崩壊した後、ロシア軍の改革に携わり、そして2014年以降、弱体化したウクライナ軍を鍛え直した張本人なので、彼はウクライナで何が起こっているかを全部知っています。彼の分析は秀逸です。彼の言っていることは信頼できる一つの大きな情報源だと思っています。彼の言葉を引用します。「戦争への道を断ち、過ちを繰り返さないためには、冷徹に戦争を検証し、戦争を正当化することではなく、何が私たちを戦争へと導いたのかを理解することが重要だ」ということです。
ロシアによる虐殺についての話も、軍事的な視点がなく、感情的に話されているだけです。もっと冷徹な検証が必要です。
ブチャの虐殺について、ある時から報道しなくなりました。フランス憲兵隊の解剖医とウクライナの側の解剖医の調査で、死体の中に、金属製のダーツのようなものがたくさん発見されました。これは榴散弾というぱっとはじける砲弾です。イギリスのガーディアン紙の記事によると、ロシア軍が撤退をする数日前に、ロシア軍がそこに弾を打ち込んだというのですが、軍事常識から考えると、味方の陣地にどこに落ちるか分からない砲弾を、ましてやダーツの矢が飛び出るような弾を落とすなどということはおかしいです。日本人は軍事常識がないので、それを分析することができないでいます。
戦争は何故起きるかについてお話しすると、まず一つは、あってはいけないのですが、懲罰としての戦争があります。これは中国がベトナムに対して、1979年に起こした戦争が一例です。それから、支配欲、覇権の獲得のための領土拡張戦争というのがあります。今の中国の「中華民族の偉大な復興」「核心的利益」によるウイグル、チベット、南シナ海、台湾、尖閣、沖縄への拡張はこれにあたります。このような戦いは完全に悪だと思います。
それから、生存の危機に対する戦争というのがあります。この判定は難しいです。ロシアは、国民保護ということでウクライナに侵略しました。それはとんでもないことと言われますが、ソ連が崩壊してロシアになり、ロシア人が住んでいる所が飛び地みたいにたくさん残っています。それについては、いろいろな意見があるのだろうと思います。
プーチンのやっていることが国際法違反ならば、近年のアメリカの戦争は一体何でしょうか。私は反米ではないと言いましたが、アメリカの実態はよく見る必要があります。朝鮮戦争の時のアチソンラインでは、朝鮮半島も台湾も防衛ラインではありませんと言った途端、朝鮮戦争に入ってきました。湾岸戦争のイラクにも、クウェートには手を出せないというメッセージを送って入ってきました。今回バイデン政権がやったことは全く一緒です。
プーチンは、今回、欧米が仕掛けたコソボ紛争の逆をやっています。欧米は、コソボという地域に対して、アルバニア人の民族自決のために、徹底してセルビアから分離をさせました。今回は、この戦と全くの裏表です。だからプーチンにしてみれば、コソボでやられたことの逆をやっているという話になります。ただ、やったからやっていいということではありません。
ロシアの「特別軍事作戦」は「国軍の解体、ネオナチの壊滅」と言っています。日本ではとんでもないという話になっていますが、とんでもないのは英米仏加であり、彼らが、いわゆるネオナチに加担しているのです。第2次大戦からの、いわゆるナチスの親衛隊がウクライナにだけは残っています。ドイツでは、ナチは全部裁判でやられましたが、ドイツの人は、対ロシア、対ソ連ということで、ここだけは残したのです。彼らは、ナチ側に立って、ソ連を追い出してウクライナを助けたということで、全く違う位置付けになっています。今も、アゾフやウクライナ正規軍の兵士の胸に「黒い太陽」というナチスドイツを象徴する徽章(きしょう)が付いた報道写真がありますが、それについての解説がありませんので、分からないだけです。
それから生物兵器研究所ですが、ウクライナは元ソ連でしたから、ロシアはマウリポリに生物兵器研究所があったことを知っています。アメリカがそこを接収して何かをやっているということです。アメリカのヌーランド国務次官も、生物研究所はあったと言っています。その生物研究所について、奇妙な話があります。今、マウリポリのアゾフスターリ製鉄所で激戦をやっていますが、5月1日に、アゾフスターリ製鉄所の中から、つい4月までカナダの陸軍司令官をやっていた人間が捕虜になりました。彼は、バイオラボNo.1という生物兵器の研究所の指揮官をやっていました。そして、そのバイオラボNo.1というのは、ウクライナのメタバイオタという生物研究所が運営管理していると言われているのですが、バイデンの息子のハンター・バイデンが経営をしているところなのです。そしてそのメタバイオタは、アメリカの国防省からの出資をもらっています。そのメタバイオタは武漢の研究所とも関係があります。
ロシアは、アメリカなどの指示でウクライナが生物兵器を開発している証拠をつかんだと言っています。一方、マウリポリの市議は、ロシアはマウリポリの製鉄所の中で化学兵器を使おうとしていると言っています。でも逆なのです。ロシアが今から占領しようとしているところに対して化学兵器や生物兵器を使うなんていう愚かな作戦はやりません。今からコントロールして住民を守っていこうとしているところに対しては使いません。
NATOとの戦いはロシアにとって脅威です。ロシア陸軍は陸上自衛隊の倍のたった28万しかいません。それがウクライナだけでヒーヒー言っているということならば、なぜNATOが集団的な自衛権を行使して、ロシアを脅威と思わないといけないのでしょうか。地上戦闘でアゾフが攻め込んでくれば、ロシアには戦う力は全くありません。ただ、核兵器だけはあります。
日本では全く触れられていませんが、2015年から、ウクライナ軍は東部ドンバス地域に対して攻撃を続けていました。また、2月24日にロシアが侵攻を始めたとなっていますが、2月16日から、ウクライナ軍は、東部地域に対して、全面的な砲爆撃を開始しています。そして2月17日に、バイデンは、ロシアがやがて参戦するだろうと言っています。こうなったら、プーチンは、虐殺を黙って見ているか、悪者になるのを承知で戦争に入っていくかという決断しかなかったということです。決め付けはできませんが、そのような見方があるということです。
ジャック・ボーは、「もともとウクライナ軍というのは、幹部の腐敗で弱体化しており、脱走者が多く、90%は招集に応じない状態だった」と述べています。そこで頼った民兵というのは、ネオナチの暴力団的な人たちのグループをコアにして、英米仏加の支援もあり、2020年にはウクライナ軍の40%の約10万人を擁するに至り、国籍は19カ国以上の外人部隊となりました。ですから、国家に対する愛着なんてありません。その中のアゾフが、マウリポリで住民を人間の盾にして立てこもったのです。
ジャック・ボーによると、「ナチスの議論の前に、民兵は暴力的、吐き気を催すようなイデオロギー、猛烈な反ロシア・ユダヤ主義者であり、狂信的で残忍な個人で構成されている。西側は2014年以降、民間人に対する数々の罪を犯した民兵を支援し、武装させた。そして、国家警備隊は『非ナチ化』を伴っていない」ということです。
ゼレンスキーは民間人によるロシア兵の殺害を、3月10日に合法化しました。危険です。組織化もされていない、軍隊としても認められない人間が銃を撃つとテロリストです。彼らは軍隊としての軍法会議に掛けられません。だから、民間人がたくさん死んでいることの裏側では、このような命令を出しているウクライナがあるということです。もちろんそこには、ウクライナとロシアの両方が混在しているという悲しい事実もあります。
そして、ロシアのキエフへの攻撃は助攻撃だったのです。みんなは、最初、キエフを攻略すると思っていましたが、キエフなどは狙っていません。ロシアは、キエフへの展開は「おとり」だったと明確に言っています。キエフは助攻撃で、十分な任務を果たしたということです。戦車部隊は絶対に市街地には突っ込みません。助攻撃は主攻撃のように見せるだけなのです。
今、ハリコフを取り返したと言っていますが、ロシアはハリコフなど取りに行ってはいません。ロシア軍がいなくなった所にウクライナ軍が入ってきたのではないでしょうか。オデッサも取りに行っていません。
今回は、3月25日が大変な分かれ道だったのです。ジャック・ボーによると、ロシア軍は、固いところ(兵力的に厳しい都市部)は避けて、水のように柔らかいところ(抵抗の弱いところ)に流れていくという流水の原理に従った戦いをしたということです。これは、ロシアがソ連から引き継いだモンゴルの戦法です。モンゴルの戦法まで落とさないと、この戦の意味が分からない。全面にわっと展開するのは、モンゴルの戦法なのです。そして最後に、得意技の二つの釜(包囲網)に変えて包囲したというのです。
クリミアの水源を確保するために東部地域は絶対に必要でした。ですから、主戦場はここなのです。ヘルソンは絶対に必要だったのです。だから今、ハリコフの正面から横に入ってきています。これは最後の仕上げをしているのです。ここがどうなるかです。ここが完全に閉じ込められてしまったら、ウクライナ軍はもう手を上げるしかありません。
このウクライナ戦争について、三つの視点が考えられます。一つ目は、米英が仕掛けたものだということです。それは、ロシアに対する憎悪と欧米メジャー・グローバリストの独占支配です。二つ目は、米英の仕掛けに怒り、自らはまったロシアの勇み足ということです。そして三つ目が、政府や軍の腐敗で自ら墓穴を掘り、スケープゴードにされたウクライナということです。
アメリカに国際問題評議会という組織があります。ここはアメリカの大統領や国務長官、国防大臣がみんな出ている大切なところですが、「アメリカの外交の核心は、世界をアメリカの国益に奉仕する体制に組み込んでいくことである」と言っています。やっていることは、アメリカの設計したイメージに合わせてつくり変えることなのです。それを承知のうえで、われわれはその中に組み込まれていたのですが、そろそろ日本もお役御免になるときが近づいてきたと思ってください。
かつてソ連の封じ込めを主導したことで知られるアメリカの外交官ジョージ・ケナンは、NATOの東方拡大には反対していました。それは、ロシアを反米に追いやり、ナショナリズムを先鋭化し、深刻な戦争を誘発する。そしてそれは、冷戦後のアメリカの政策上、最も致命的な誤りになるだろうと言っています。
一方、ポーランド出身の政治学者ブレジンスキーは「ロシアの覇権阻止のためにNATOを東方に拡大せよ。最重要のウクライナを西側に帰属させよ。ロシアは激しく反発するが、西洋化し無害化せよ」と言っています。今、アメリカはこれをやっているのです。ブレジンスキーの呪いがずっと掛かっているのです。彼の息子は、今、アメリカの駐ポーランド大使をやっています。
このままウクライナが泥沼化すれば、アフガン化ということに加えて朝鮮半島化するということで、常に半戦争状態になるということです。そして、ウクライナを助けるという名目で、ウクライナを使ってロシアを弱体化させ、そしてプーチンを排除するということです。
バイデンは、ポーランドでの演説で、プーチンを権力の座に残してはいけないと言ったようです。ブレジンスキーは、「ウクライナ西部にNATO地上軍を送って非戦闘地域をつくれ」と言っています。泥沼化させよということです。また、マクマスター前安全保障補佐官は、「ウクライナをアフガンにして、流血の泥沼にする。そうすればロシア側で体制変換が行われる」と言いました。プーチンを倒せということです。カービー国防総省報道官は、「ウクライナ全体の主権回復とロシアの完全撤退を望んでいる」と発言しています。そしてNATO会議では、「ロシアの脅威に長期的に対抗する防衛態勢を協議して、ロシアがウクライナのような侵攻ができない程度に弱体化する」と国防長官が言いました。不思議に思いませんか。ウクライナの国民のためというのは一つもありません。ウクライナを泥沼化させるということです。ここに本心が出ています。
私たちは、このウクライナ紛争を一方的な大本営発表で決め付けて見てはいけません。そして、情緒的感情論で終わりにしてはいけません。
■戦争ビジネス
アフガン後の戦争ビジネスについては、これまであまり言いませんでしたが、露骨なので、今日はこの話をします。
グローバリストにとっては、敵・味方はなく、常識も善悪もありません。何でもありの世界です。戦争はビジネスなのです。
レイセオンという会社は対戦車ミサイルのジャベリン等をつくっているアメリカのメーカーですが、今の取締役はオースティン国防長官です。彼は「わが社が利益を得られることを強く期待する」と言っています。ウクライナ政府の金が、いつの間にかアメリカの武器にキックバックされるのです。見事にウクライナにお金が集まってきています。アメリカで武器貸与法が成立しました。貸与です。われわれは日露戦争の時にそれでやられました。勝ったけれども、たくさんお金を取られました。
中国やロシアも、自分たちが儲かる体制に転換させる。その後は、グローバリストが資源を収奪するということです。プーチンを倒してロシアは残すのです。習近平を倒せというのは、儲かる中共は残すということです。
同盟国にも敵にも、高額装備品や先端技術を提供して金儲けをしています。日本では相互運用性ということが言われていますが、それはアメリカのものを買えということです。防衛費を対GDP比2%にという話がありますが、大切なのは、何を揃えなければならないかということなのです。しかし、元防衛庁長官だった石破茂は、イージス・アショアをまた買えと言っています。これが商売です。
今のウクライナは代理戦争ですから、長期戦に持ち込むということです。緊要な時期での決戦はしません。アメリカは仲裁にも入っていません。ものをどんどん送って、「戦え、戦え」と言って、へたるまで戦わせるのです。紛争地の国民の塗炭の苦しみは関心の外です。
■日本の防衛
ノルマンディー上陸作戦の戦勝記念式典で、日本への核投下の映像に拍手喝采したのが、オバマ大統領以下、欧米の指導者でした。プーチンだけは十字を切りました。この差はお分かりでしょうか。よく考えてもらいたいです。
中国の一帯一路構想の中で、ウクライナと中国は戦略的パートナーシップで結ばれていました。中国は、ウクライナがなければ国防上の利益を得られることはなかったと感謝しています。空母ワリャーグ、大型ホバークラフト、戦闘機、巡航ミサイル、対空ミサイル、戦車のエンジンなどの最新兵器、技術、人材、これら全部を中国に提供したのはウクライナです。日本にとっては敵性国家です。表現は悪いですが、今回、ロシアが、両国のそのような関係を止めたという反面はあります。
それから、インドはロシアの言うことを聞きます。北朝鮮も、今のミサイルはロシアから行っていると言われています。だから北朝鮮を黙らせようとしたら、ロシアをいかに手なずけるかが大切だというのが分かるはずです。これが国益であり、われわれ日本が生きるためには何をしたらいいか、という外交上の話です。
ロシアに対する大規模経済制裁や、ドローンや防衛衣を送ることは戦争行為です。だから日本は戦争に完全に加担しています。その自覚はあるでしょうか。情緒的感情論を捨てようということです。一方的なメディアの扇動、一方的な大本営発表で決め付けてはいけません。
それから、アメリカは核大国のロシアと戦争しないと明言して、ウクライナによる代理戦争を始めました。ということは、それなら中国を相手にしたときには、日本も第2のウクライナです。アメリカは戦いません。日本は戦場になる腹を決めなければならないのです。
プーチンを追い詰めれば核を使います。彼らは通常の戦力の中に核を使うことを組み込んでいます。もちろん、その前に、警告として、核もどきのようなものを全然違う所に使う可能性はあります。現在の対応は、中露を強固な同盟へどんどん押しやっています。突き進めば、核戦争の危険が極めて高くなるということです。今、このような戦を始めていて、第三次世界大戦の引き金を引いていると言わざるを得ません。われわれ日本にその覚悟があるのでしょうか。
今回のことから日本について考えたとき、憲法9条とか非核三原則とか専守防衛などは、危機に際しては何の役にも立ちません。軍隊がないのは日本だけです。それから核保有国同士は戦争しません。自前の核をどうするかを、もう考えないといけません。
日本の外務省が発行している2022年の外交青書には、「外交政策でアメリカが主導力を発揮し、国際社会の安定と繁栄を支える時代は変化」とあります。ここで立ち止まって冷徹にアメリカを見るべきということです。今までのアメリカとの関係は終わったということを外交青書でそう認めたということだと思います。だから日本が独立国である証は、基本的な自由・人権などの価値観をアメリカと共有しながらも、生殺与奪の権を自ら持つ自主防衛力(核を含む)を構築して「アメリカに頼り切る同盟からアメリカに頼られる同盟」に転換しなければならないということです。
アメリカは中国とロシアに対峙の2正面と言っていますが、「最重要の戦略的競争相手である中国」、そして、「アメリカと同盟国の『深刻な脅威』であるロシア」と再定義しています。アメリカにとって中国は競争相手であって戦う気がないのです。トランプ路線を本質的に継承と言っていますが、矛盾しています。
一方、日本は3正面です。中国の台湾への攻撃は日本への攻撃です。この作戦地域に奄美大島が完全に入ります。北朝鮮は、在日米軍を攻撃する役目を引き受けさせられるでしょう。北海道はロシアが攻撃します。最悪な3正面作戦です。こんな戦いに勝った先例はありません。
共和党のポンペオ元国務長官は、中共がロシアと同盟を結ばせないことが重要であり、ロシアをG8に復帰することを支援するべきだ、と言っています。そうなのです。日本の外交官が必死で考えなければいけないのは、中露の分断です。中・露・北朝鮮が一体で戦う今の体制を推し進めることが、外交政治家の役割ではないのです。ロシアのことをもう少し理解しろと言っているのは、戦争を正当化するために言っているのではありません。われわれは、切り口を探さないといけないのです。ポンペオは、台湾を主権独立国家として外交をすべきで、あいまいな政策では駄目で明確な戦略が必要である、そしてウクライナよりも重大な事態は、中国による台湾進攻だとはっきり言っています。
今、敵基地攻撃のことが盛んに言われています。しかし、アメリカの中国本土への攻撃は、核戦争へエスカレートする危険があるとして、通常兵器であっても極めて慎重です。それはやらないと、私は2015年にアメリカではっきり言われました。それを日本に判断させるなんてことはありません。核シェアリングはあり得ません。独自で核を持つ以外に核戦争の抑止はできません。アメリカは絶対に日本とターゲティングを共有することはありません。地下を移動するような、車両などで移動する発射体をリアルタイムで破壊することはできません。中途半端な攻撃は、中国の全力の核反撃をくらいます。中国は警報即発射ということで、核ミサイルか通常弾頭かの区別はしません。ミサイルが飛んできたら、100%核反撃をします。特に、日本にはします。
今の日本の防衛力は、ショーウインドウに並べただけの戦力で、弾も燃料もありません。これでは戦えません。しかし防衛費を増やしても、その中身が問題です。またアメリカの高額商品が入るのでしょうか。日本は、自前で防衛力をしっかり揃えなければいけません。赤字であっても、国があってこその話です。日本政府はその危機が分かっていません。
軍事の作戦分野の中に、サイバー・電磁波があります。ここに日本の唯一の勝ち目があります。電波妨害のバリアをつくって、蚊をフマキラーで落とすように、電磁波で落とすということです。これは日本列島だからできるのです。それに欠くことができないのは最強の電源です。これがゲームチェンジャーの鍵を握っています。私はこれに関与しているのですが、今、中国に取られそうであるにもかかわらず、日本は全く守ろうとしません。アメリカには、ハイリスクハイリターンの研究しかしないDARPA(ダーパ)というところがあります。国がお金を出して積極的にハイリスクを取ってくれるのです。日本では、リスクは企業が取るのです。第2次大戦の時の八木アンテナと同じことになろうとしているので、今、必死で盛り返そうとしています。
今回のウクライナ紛争で、日本はロシアを敵に回してしまいました。これは中国、ロシア、北朝鮮と対峙する3正面作戦を余儀なくされることを意味します。3正面なんて勝ち目はありません。そうは言っても備えなければなりません。
ロシアを手なずけたら北朝鮮も手なずけることができます。北朝鮮は鉄砲玉であればこそ役割を果たします。ですから、中国とロシアを分断することこそ念頭に置いて政治家は外交をやらないといけません。外交は紛争の芽を摘むことをやらなければいけません。主敵は中国です。ロシアを敵にしてはいけません。そして軍事は、あくまで最悪の事態に備えるためのものだということです。
今日は修猷の会ですから、「現代の元寇を打ち砕け」ということでイメージしていただきたいと思います。3方向から襲い掛かる敵を打ち砕けることを知らしめよということです。そして武器を置かせよということです。筥崎宮の宮司が、「戦う前に武器を置かせろ」とおっしゃいました。全くそのとおりです。それだけの実力を着けることが必要です。
だから、覚悟も必要ですが、核を持つことも考えなければなりません。それを使うことではありません。武器を置かせるということです。核のないウクライナは、攻撃をされ侵略をされました。今回、バイデン政権は、ロシアとは戦わないと言いました。そうなると、中国に対しても本気ではやらないということです。ウクライナの代理戦争は最悪です。そこまでを考えて、われわれは自主防衛をやらないといけません。これが私の結論です。ありがとうございました。(拍手)
■会長あいさつ
○伊藤 今日は、私も初めての話がたくさんありましたが、今回のウクライナ問題は、わが国の防衛の在り方を考えるうえでの大きな転機だと私も思います。
とりわけ、同盟国であるアメリカが、いざというときに、日本にどれだけの力を貸してくれるのかについて、改めて考える必要があるのだろうと思います。安保条約があるから大丈夫ということではなく、核戦争を考えた場合、用田さんがおっしゃったように、アメリカが自国への核攻撃も覚悟してわが国を守ってくれるのかというのは昔からの問題点ではありましたが、それが今回は、明らかなかたちでわれわれに示されました。国の防衛は、自国で守るというのが全ての国の基本です。その中で、同盟というのが一つの助けになるのですが、他国がわが国のためにどれだけ本気で戦ってくれるのかというのは、結局その国のみで戦うことを考えるしかない問題です。
これまで同盟に入っていなかったフィンランドやスウェーデンが、NATOに入るというかたちで動いていますが、それだけで国の防衛ができるのかという問題があります。わが国の場合は、ロシアだけではなく、中国という大きな国が、核心的利益という言葉を使って動いています。そして、今や、沖縄が自国の核心的利益であると言い始めていて、わが国の防衛にも大きな変化が求められています。それらを鋭くご指摘いただきました。
ウクライナとロシアの戦略的、戦術的なお話もいただきました。本日はありがとうございました。
(終了)