第666回二木会講演会記録

「SDGsと新国富指標〜豊かで持続可能な社会の実現を目指して〜」

講師:馬奈木俊介さん(平成6年卒)
開催日時:令和4年7月14日(木) 19:00-20:00

○田中(司会) 本日は、平成6年卒の馬奈木俊介(まなぎしゅんすけ)さんに、「SDGsと新国富指標~豊かで持続可能な社会の実現を目指して~」と題してご講演いただきます。
 馬奈木さんは1997年に九州大学工学部を飛び級中退、1999年に九州大学大学院工学研究科を終了後、2002年に米国ロードアイランド大学大学院で博士(経済学)の学位を取得されました。その後、米国サウスカロライナ州立大学、東京農工大、横浜国立大学、東北大学等を経て、2015年より九州大学大学院工学研究院教授に就任されています。2019年には「豊かさ(持続性)指標の構築に関する研究」により第16回日本学術振興会賞を受賞。この豊かさ指標が、国連総会において高い関心が示され国際的に評価されたことで、馬奈木さんはアジア太平洋から初となる世界環境・資源経済学会の共同議長も務められました。現在、第25期日本学術会議会員・日本学術会議サステナブル投資小委員会委員長も務められています。
 ここで、講師と同期の緒方進さんより講師紹介をしていただきます。

■講師紹介

○緒方 平成6年卒業の緒方進です。私と馬奈木くんは、2年の時にクラスが一緒でした。馬奈木くんは水泳部で、吹奏楽部の私とは部活が違ったのですが、自転車での通学路が一緒でしたので、部活が終わって一緒に帰ったこともありました。高校の時の馬奈木くんは、基本的には無口で無駄なことや面倒なことが大嫌いで、人付き合いが苦手な人という印象でしたが、今日、馬奈木くんに会ったら、その高校時代の印象とは全く違っていました。とてもフレンドリーになっていて、大学から社会人になって、教授になられた中でだいぶ変わられたと思いました(笑)。今日の話は私も楽しみにしています。
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■馬奈木講演

○馬奈木 平成6年卒の、かつては社会性がなかった馬奈木です(笑)。今日は、国連の取り組みについてもお話ししますが、厳密には、私は国連の職員ではありません。外部の専門家として、国連の各担当部局を取りまとめて全体の合意を取っていくことを、比較的自由にやっています。私は多くの人が健康であり、教育を受けて、自然にも優しく、気候変動も災害もないような社会をつくるための目標設定について、国際的な合意を取る活動をしています。それについて、たとえ国連事務総長が「こうしましょう」と言っても変わりません。各国に対して伝える必要があり、そして次に、その国の各自治体や企業に伝わらないと意味がありません。私は、その本当に使えるまでにする仕組みづくりをやっています。

■自己紹介

 私は工学部の土木工学科の出身で、排水処理などを研究していました。そしてアメリカに行って、その後、転々とし、8年前に、福岡に戻ってきました。そして、九州大学に都市研究センターというものをつくりました。主幹教授というのは、大学の中では、比較的、好き勝手にやっていいという立場で、ありがたく、いろいろな分野の方と連携しながら国際的にやっています。コロナ前には、月に2回ぐらい海外に行っていて、東京にも月に3回ほど来るような生活でした。その時の大きな取り組みが、SDGsを含めた持続可能な開発、持続可能な社会の本当の価値を測ってみようというプロジェクトです。国連事務総長が提唱されたもので、今ちょうど内部ドキュメントを製作中です。そして持続可能性の評価指標に持っていこうというのが大きな流れです。
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■現代社会の課題

 社会の課題の例を三つお話します。東日本の大震災の時、私は仙台にいました。震災後、インフラは壊れて瓦礫となりました。インフラが壊れるということは、そのものはゼロになっているのですが、普通の経済指標では計算しません。次の課題は途上国です。途上国では、子供たちは栄養が与えられておらず、そして教育されていません。先進国だったら本来得られるものが彼らにはありません。普通の経済指標では、その点で単純に価値が低いとみなされます。でも本当は違っているのですが、その困っている部分が見えていません。最後の例は戦争です。戦争で人の命が失われます。東日本震災でも失われました。でも、普通の経済指標ではこのようなマイナスの度合いというものも計算しません。
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 これらの課題のマイナス部分は、普通の経済指標では計算できませんので、その度合いが見えていません。GDPの計算ですと、人が生まれて、何かの利益になればプラスになります。人が亡くなっても、その保険についてはプラスになります。でも、そのプラスが人の幸せにどれだけの貢献をしているのかは分かりません。あくまでも、物質的な計算だけなのです。GDPが使われるようになったのは、もともとはアメリカで戦争のための生産力を測る必要性があったからで、社会にとって一番望ましい状況に配慮した指標ではありません。
 今は、持続可能な開発目標にもあるような、社会の課題もしっかり理解してそれを目的にしようと変わってきています。国連のトップが、「GDPという指標だけではなく、もっと社会の違う価値をつくっていこう」と発言されました。その裏で、私はそれについての報告書づくりに関わりました。この国連報告書Inclusive Wealth Reportのinclusiveというのは「包括的」という意味です。SDGsにとって一番大事な単語はこのinclusiveです。包括的な健康、包括的な教育とか、よく使われます。inclusiveな成長をしようというのが、国連のSDGsの一番のメインです。私はその国連報告書の代表を2014年以降、ずっとやっています。
 その成果のアウトプットとしては、今年大きな二つのイベントがあります。
 まずG20という主要国会合があり、今週財務大臣のトップが集まります。そして11月には、首相、大統領級が集まります。そのときに、外部の専門機関が提言をするT20という集まりがあります。その会合で20のトピックが提言されるのですが、今年の一番大きなトピックが持続可能性です。そのトピックの提言文は私と私の部下2人で書いています。それは、企業による新しいチャレンジとしてのサステナブル、持続可能な投資を、今日お話しする新国富指標で測りましょう、それを持続可能な投資をする際の必要条件としましょうという提言です。しかし、最後は政治ですから、それが提言文に使われるかどうかは分かりません。ちなみに去年の一番のトピックは、コロナでした。
 また、私は、学者の国会と言われている日本学術会議の会員です。私はそこで同じような趣旨で国内の議論をまとめようとしていて、今、その審査中です。ですから、国内と海外で同時並行的にやっているということです。
 本当のいい投資をした企業、産業界というのは、それが長期にどう影響するのかをきちんと測りながら見ようと思っています。いい投資とは、例えば、人権問題を起こしていないとか、技術開発の方向性が脱炭素になっているということで、そのようなことに注目することが大事なのです。

■SDGsの成り立ち

 持続可能な開発目標「SDGs」という言葉は、2015年の国連総会で採択され、その時から急に有名になりました。持続可能な開発という言葉は、学者や専門家の人たちは昔から使っていましたが、政治の場に出てきたのが1987年のブルントランド委員会です。このブルントランドという人は、元のノルウェーの首相だった女性です。私が国連の外部でやっているのと同じように、この女性が依頼を受けて国連の外部から取りまとめた委員会です。この委員会の中心的な考え方が、「持続可能な開発目標」という概念だったのです。80年代は、環境問題、資源問題がこの持続可能な開発の中心のテーマでした。
 90年代になると、さらに発展して途上国問題、アフリカ問題も対象となり、2000年の国連ミレニアムサミットで、SDGsの一つ前のMDGs(Millennium Development Goals)というのが、2015年までの国際開発目標として採択されました。そして15年経って、半分が成功、半分が失敗という結果でした。
 それでは次の15年はどうしようというのが、2015年から2030年です。そこで合意したのが持続可能(Sustainable)のSDGsでした。2000年のMDGsと同じようにDGs(Development Goals、開発目標)という名前がついています。それが終わる2030年以降も、また同じ議論をします。恐らく、「持続可能な開発」とか「持続可能」という言葉はずっと残るだろうと言われています。

■見えない価値

 SDGsにはいろいろな内容があります。大ざっぱに言うと、一つは、自然資本です。もう一つは人です。これは教育、健康を含めた人的資本です。人的資本というのは、企業の目標、国の目標と一緒なので、人的資本戦略とかよく言われます。最後に人工資本です。普通の資本です。建物、パソコンなど、普通のハードウエアです。この三つに分けることが可能です。それら全体のストックの価値を上げていこうというのが趣旨です。
 このストックの価値を計算するのは少し大変なのですが、蓄積された、残されたものです。最初に東日本大震災の話をしましたが、失われたものは無くします。残ったものの蓄積された価値を足し合わせたものを、経年で毎年少しずつでも増やしていけば、社会は前よりも良くなったという進展を表します。これを持続的に増やしましょうというのが、大きな社会全体の仕様になります。
 その全体仕様を経済の価値に直します。人工資本については分かりやすいです。人的資本は難しいですが、その人の給料や寿命であれば統計上は算出することができます。そしてこの人工資本と人的資本は、通常は増加します。人は成長するし、教育も受けるし、だんだん健康にもなります。そしてものづくりも増えるからです。ただ、残された石油が少ないとか、気候変動というマイナス要因が多い自然破壊を考えると、自然資本は通常は減ります。でもこの三つを足し合わせたものを増やし続ければよい、自然を含めた見えない価値を持続的に増やしていこうということが、非常に大事になります。メディアもそのようなことに興味を持っていただいて、いかにこの見えない価値を上げていくか、それを上げること自体が将来の価値につながるのだということに大きな興味が移ってきています。
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 この見えない価値を測るというのが今日のお話の全てなのですが、政治の世界で、その見えない価値が大事だと言い始めたのは、フランスのサルコジ大統領です。彼が依頼したノーベル賞学者たちの委員会での報告書に、われわれの報告書が取り上げられました。そして、それまでは学者たちの勝手な言い分だった、ストックの富を包括的に測定する新しい「新国富指標」が2012年に国連で提示されました。私はその流れでスタートした国連の新国富報告書のメンバーで、今はここの代表をしています。

■各国の対応

 日本国内については、国の大きな方針の中で、持続可能な投資とまでははっきりは言いませんが、グリーンGDP(仮称)とまで言うようにはなりました。このようなトピックは昔からあったのですが、実際に政治政策が検討するということが大事なのです。
 それを後押ししたのが、国連のIPCCという組織です。気候変動、温暖化を取りまとめる専門家集団と、昔からあったエコシステム(生態系)というもっと自然寄りのことを取りまとめている専門家集団(IPBES)が共同して、昨年初めてそれぞれの報告書を合体して一冊の報告書にまとめました。私はそのそれぞれの報告書と、この共同報告書の全部に作成に関わっています。このような報告書によって、専門家の合意ができて、その上で、次に国も合意するというのが、やりやすいプロセスです。
 だからといって、全ての政治で話が進むわけではありません。例えば、以前のアメリカのトランプ大統領は、IPCCで気候変動が出てきても、「自分は信じない。以上」で終わりでした。それもあり得ます。ですから、正しいから当たり前にやるのではなく、正しいことを国際的に合意して、次に進むのが国際的な合意形成だと思っています。
 イギリスでは、ダスグプタ教授が代表となって示されたダスグプタ・レビューという報告書が2年前に発表され、私もこれに関わりました。これに関連して、去年、ジョンソン首相が、「自然資本を測って増やします。世界中の皆さんもそうしましょう」と言いました。それは、単純に生物を増やしましょうということではなく、CO2を削減しましょう、生態系を保全するような取り組みをしましょうということです。
 アメリカは資本主義のど真ん中だからやらないと思うかもしれませんが、アメリカでも3か月前に商務長官が、アメリカ国内の自然資本を地域ごとに計算して政策の目標にしていくという発表を行いました。こうなると、各調査機関がどのようにして資源をきちんと測ろうかとかという流れになってきています。
 中国も言い出しています。私の英語の本の中国語訳が出ています。そのようなことで後方支援の役割を果たしています。
 大きな国だけではなく、パキスタンのような、ほどほどの大きさの国もやり始めていて、それが大事な点です。そして、今、デンマークやフィンランドとかがやる気になって少しずつ推進しています。
 また、世界で最も大気汚染がひどい国は、昔は中国でしたが、今はインドです。大気汚染で人は病気になりますが、インド政府の公式見解は、「わが国に大気汚染はありません」でした。その理由は、大気汚染対策をするとお金がかかるからということだったのです。そこでわれわれは、医学者、環境科学者、経済学者、インドの学者等を巻き込みながら医学の雑誌に、「大気汚染は人の健康を阻害します。1年間当たり、統計上150万人の命を奪っています。少なくともインドのGDPの1.4%以上のマイナスがあります。対策費用はそれよりも安く済みます」という論文を出しました。それを普通のメディアにも発表しました。そうすると、それでは対策をやろうと、少しずつ変わっていきました。もちろん、そのために誰に話していくと話が早いかというのを、インド国内の方々と連携を取りながら進めていきました。このように、見える化をすることで少しずつ変わるのです。
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■活用方法

 そのような取り組みが持続するためには、個々人の幸せに訴え掛けないと意味がありません。企業は、利益につながらないと動きません。基礎自治体にとっては、その市長さんの利益につながる仕組み化が大事です。このウィン・ウィン・ウィンにする仕組みをつくりましょうという課題設定になります。
 行動科学という学問分野を使うと、人の選択から幸せ(ウェルビーイング)の数値化もできます。基礎自治体は、このような値を上げる政策目標をつくりましょうという合意形成に使ったりします。その中で世代や地域によっても変わりますし、男女によっても変わりますが、個々人の幸せも、これによって少しずつ理解できるようになりました。これは大きなことです。
 企業は今、この持続可能、ないし、環境のE、社会のS、ガバナンスのGのESGに対するプレッシャーで大変です。コストもかかります。でも、本当に何をしたらいいかというのは分からないのです。そこで、企業単位で見える化を全部やろうと、アジア一番のPR会社のベクトルと電通とで連携を取りながら、全ての上場企業の指標化、データ化をして、彼らがコンサルティングをするようにしました。非上場企業については、九州大学が地銀トップの福岡銀行(FFG)と連携を取って、子会社をつくっていただきました。このおかげで、今700社程度の非上場企業の数値化がされました。小さな企業にとっても、自分たちが何が強くて弱いかの相対評価がわかり、何をしたらいいか考えるきっかけになります。10年だった固定金利が最長15年提供されるので、やる理由ができます。

 次にCO2の話です。CO2の排出量を削減するのは大変です。製造業の方は、この25年間、減らすのに苦労されていますが、実際にはそんなに減っていません。この5年、10年で少しずつ、CO2を吸収するのに農地、林地のような場所を活用できることが科学的に分かってきました。アメリカ、オーストラリアなどで事例があります。一毛作の農家が、畑を使わない春までの間に、CO2を吸収するライ麦を植えて、1千万円以上のプラスの利益を得たということです。それは誰が買うかというと、オーストラリアだと政府、アメリカだと企業が買うのです。
 今、少し出てきているのは、日本国内で減らすのは大変だから、海外でCO2の単位を買いましょうというのがあります。でもこれはある種の国富の流出です。むしろ日本で減らして日本で売る、日本で減らして海外に売るなどの仕組みをつくれば国富も上がるでしょう。
 それで、農業、林業、もしかしたら水産業も含めて成長産業にしようという取り組みを、複数の自治体と一緒に始めました。JAXAやアメリカのNASAと連携しながら衛星画像を使ってCO2吸収量を測ります。実際に土壌でも測ります。そういうのを使いながら、植林をして農地貯留を推進します。このような取り組みがこれからのCO2削減の例になります。つまりCO2の対策をすることが、それぞれの新しい企業の取り組みになるということです。製造業であっても、農業、林業に入っていき、自分たちで減らせない分をそこで補完するということです。

 次の例は、人的資本、人の健康です。われわれは、医学者、薬学者、そして自治体と連携を取りながら話を進めています。最新の科学では、腸内細菌をゲノム解析すると、人の健康が分かります。何の病気のリスクが高いのか、同年代の男性・女性と比べてどうなのか、いいのか悪いのか、では、悪いとなったら、何を食べたらいいのか、何を食べてはいけないのか等が分かります。これらの情報を、ピンポイントに提供することで役立つ仕組みをつくろうとしています。
 大豆産地である佐賀県江北町で実施した納豆サプリを3カ月摂り続ける実験をしました。その効果を医学的に検証しました。その結果として男性と女性で病気のリスクが変わりました。この取り組みを推進すると、この企業の売り上げが2倍以上に増えました。このようにして、農地と健康、自然資本と健康資本が少しつながります。
 次に、医学住宅の例です。今はやりの人工知能と住宅を融合しました。非接触型のセンサーで心拍数や心臓の波形などのデータを収集してリスクの高い患者を識別し、10日前から1週間前までに通知します。それにより重症化を防ぎ人命を救います。その精度は97%です。通常は高齢の方ほど病院に行きますので、その分社会保障費がかかります。また最後に手遅れで病院に行っても、医療費がかかります。なので、適切な段階で病院に行って命を救えたら、それはいいことです。そのように、健康であり続けるような仕組み化をしようということです。
 また、転倒防止の観点から、家の中で高齢者の重心を測り、それを医学的に分析して転倒を防ぐ仕組みをつくりました。それから、肌着に心電図に代わるセンサーを着けて、適切な温度に調整できる機能も開発しました。このような取り組みは、自治体と連携することで公共性を持ちます。公共性をもつことは、企業にとっては、自分たちの価値を売り込むことができるため、とても重要なポイントになります。
 例えば、福岡県中間市ですが、新国富指標を活用したまちづくりに向けてわれわれと連携することにしました。すると、福岡県の中での地域注目度ランキングが、25位から11位に上がり、そのニュースが出ると、一瞬だけ全国の1位になりました。10日後には、また県の中位に戻りましたが、一時効果でも変化の兆しとなります。それで市役所のアナウンスで流したそうです。それで十分なのです。そのやる気をトップから奪わないでやり続ける仕組みを、みんなで考えながら進めています。このように行政のやる理由をつなぎながら、企業が付随して進めていくのです。
 最後の事例は、別府温泉の取り組みです。温泉という自然の資本に医学を入れようということです。西日本シティ銀行系列のInclusive Cityという子会社をつくっていただいて、その仕組みづくりを進めています。別府温泉に1週間入浴を続けた人を調べ、病気のリスクが下がることが分かりました。これも、ニュースになって少しでも興味を持ってもらえればそれでいいのです。このような、行政と企業が連携しながら新しい取り組みをする中で、社会課題の解決につながったり、二酸化炭素の面や健康の面から、SDGsにいいとなれば、まちづくりのプラスの価値になったりするのです。
 私の今日の話の目的は、SDGsと言って、何となくいいことをやっていますとアピールすることではなく、知識があればいいということでもなく、最終的に、企業が利益を取る仕組みを持続的に持ちましょうということです。そのためには、まず新しい取り組みの実験をします。それを実行するのは、小さな自治体ほど早いです。小さな自治体と、大企業や中小企業とで連携しながら進めているところです。その推進する仕組みとして、九州DXコンソーシアムというのを、県知事、九州大学、そして九州経済連合会と連携してつくっていただきました。一度成功すれば他の自治体もどんどん増やす仕組みです。よく、東京都とか福岡市とかの大きな都市でやると目立ちますよと言われますが、現実は実施が難しいです。われわれが東京都で2015年にプロジェクトをやり始めた時に、都知事が代わり、そのプロジェクトは半年で全部なくなりました。担当者が全部替わったのです。でも、それも仕方がありません。そうならないうちによい結果を出して、やり続ける理由をつくり、企業に利益をもたらし、行政に利益をもたらし、個々人にも利益をもたらすような、持続可能な社会に向けての皆さまの取り組みに少しでも役立つことができたら幸いです。
 これで終わります。ありがとうございました。

■質疑応答

○宗像 平成6年卒業の宗像大五郎です。ご無沙汰しています。
 私は今、木を植える仕事もしているのですが、農作物を植えることでカーボンクレジットができるというお話は大変興味深く感じました。ただ逆に、木を植えても、それが後々、家などの材木に使ってしまう分であれば、それはクレジット化できないのではないでしょうか。

○馬奈木 CO2を蓄積したままならいいのです。燃やすから駄目なのです。蓄積させて残してやるやり方で継続してもらえば十分です。次に、蓄積されないならバイオメタンにするなどのやり方で変えていくとかを考えます。でも、本当の最後は増えるかもしれません。それはよく分からないのです。それについては、農水省や、環境省、経産省等の研究機関や、海外のところも連携を入れながら、ガイドラインをつくり、この計算式でCO2を減らしているという合意を取ります。その減らした分を、まずは相対取引にします。つまり、何々銀行が何々林業から100トン分いくらで買いましたというような事例を積み重ねていって、最後は普通の証券市場のほうに、金融の方と連携しながらやるという仕組みです。ですから、木材にするから駄目というものではありません。その後のシステムまでを考えているので、そこの使い方を変えることでうまくいくのだと思います。
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○多久 平成14年卒の多久と申します。自然資本が日本では減ってきているというお話でしたが、企業の取り組みを、自然資本、特に生物多様性を高める方向に持っていくためにはどうすればいいのでしょうか。環境汚染とかに対する最低限の対策で終わるのではなく、ネイチャーポジティブの世界で、もっと大きく動くためにはどのようなスキルがあるのでしょうか。企業が変わっていくために必要なことがあれば、ご意見をお聞かせください。

○馬奈木 既に国内でも、NEXCOという高速道路の会社の事例があります。高速道路をつくるときには山を削りますが、その削った分はマイナスでも、他の地域で生態系保全活動をして、プラスに持っていくということです。そのような仕組みで、マイナスになったものに対して、プラスアルファの解決をしようと、今、国内でも役所にネイチャーポジティブの研究会ができたりしてきています。
 そして恐らくこれは、CO2の取引と同様に、土地利用の取引、水使用量の取引というように、今後、いろいろな自然資本は取引の対象になると思います。高速道路の事例のように、マイナスだったら別のところにプラスする、または、他から買うというかたちに変わるのだと思います。それは国内に閉じなくてもいいのかもしれません。そのような補完するやり方を、企業の技術に合った合意形成ができるやり方で行っていくのが、今、現実的に進んでいて、これからはもっと増えると思います。

■会長あいさつ

○伊藤 昭和42年卒の伊藤哲郎です。今日は遠路はるばる東京まで来ていただき、貴重なお話を聞かせていただきました。
 SDGsという言葉は近年よく耳にしますが、それを実際に行動に移すことが大事なことなのだと思います。そのためには、取り組みの成果を可視化することが大切なことになり、そのことによってトップが自分の利益になり、やる気を持って取り組んでいくことが必要だということです。馬奈木さんは、国連まで巻き込んで、その実現に向けての取り組みをなさっているということでした。修猷館の卒業生として、本当に立派なお仕事をされていると、心から感心した次第です。
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 これからの地球を危惧する声がある中で、そのような取り組みで、実質的な国富が増えていくことを、また、馬奈木さんの今後の活躍を、心から期待しています。本日はありがとうございました。

(終了)