第654回二木会講演会記録

『新型コロナウイルス感染への危機管理対応の問題点と今後の方向』

講師:伊藤哲朗会長(昭和42年卒)
開催日時:令和3年1月14日(木) 19:00-20:00

■講師紹介

○服部 執行部で二木会を担当しています昭和59年卒の服部です。昨年2月以来の二木会、初めてのオンライン開催となります。今日は、首都圏だけではなく、全国各地から240名近い館友の皆さんにお申込みいただいています。お忙しい中、ありがとうございます。昨年の春以降、東京修猷会の活動は休止を余儀なくされましたが、2021年はこの二木会を皮切りに、やり方を工夫しながらできるところから活動を再開したいと考えています。まだ困難な状況は続きますが、変わらぬご支援をいただけますようお願い申し上げます。
 今日は、警視総監、内閣危機管理監を歴任されました伊藤会長に「新型コロナウイルス感染対策の政府の危機管理上の問題点と今後の方向」というテーマでご講演いただきます。
 お願いが2点ございます。録音・録画はお控えください。それから質疑応答の時間は、会場の終了時間の関係からご用意しておりません。ご質問等がございましたら、このネットの中のチャットにお寄せください。代表的な質問については後日まとめてホームページの講演記録に記載させていただきます。

■伊藤会長講演

〇伊藤 昭和42年卒業の伊藤です。今日は昨年2月以来の二木会です。昨年の3月以降、新型コロナの関係で、二木会も含む東京修猷会の活動ができなくなっていました。何とか活動を再開したいということで、今日は会場とオンラインのハイブリッドでの講演会にしたいと考えていましたが、1月7日に緊急事態宣言が出て、今回はオンラインのみでの開催となりました。
 私は平成20年から平成23年の暮れまで内閣危機管理監をしていましたが、その間対応したさまざまな危機の一つであった平成21年の新型インフルエンザ発生時の対応時の経験と、今回の新型コロナウイルスへの政府の対応や今後の方向についてのお話をさせていただきます。

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■想定すべき危機は数多くある

 われわれを取り巻く危機というのは数多くあります。一見平穏な日常に潜む危機を認識する力こそが想像力と危機意識です。新型コロナウイルスのパンデミックも想定される範囲内の危機だったと言えます。
 危機というものを大きく分けてみると、「自然発生のもの」と「人為的なもの」と「その他」があろうかと思います。「自然発生のもの」とは、地震・津波とか風水害とか火山噴火です。「人為的なもの」は事故とか事件です。私自身が危機管理監の時に経験した最も大きな事故は、原子力災害でした。
 そしてこれ以外の「その他」の中で重要なものが「病疫」です。われわれ人類はこれまでもさまざまな「病役」を経験してきています。そうした「病役」のパンデミックに備えることも一つの重要な危機対応です。

■新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年)の策定経緯

 2009年に新型インフルエンザが流行した時のことを少しお話しいたします。20世紀の末から2000年代にかけ、H5N1型という強毒性の新型インフルエンザが、アジアを中心にトリからヒトにうつるようになってきました。これは罹患すると、その6割が死亡するという恐ろしいものでした。トリからヒトという限定的なものでしたが、いつヒトからヒトに感染するウイルスに変異するか分からないという危惧がありました。この危惧は現代でも続いているのですが、政府としてこれに備えて新型インフルエンザ対策行動計画をつくっていこうということで、私が内閣危機管理監になった翌年の平成21年春に、ヒトからヒトへの感染に備えた政府の行動計画をつくりました。

■2009年のパンデミックへの対応と豚由来新型インフルエンザの特徴

 3月に行動計画が出来上がった直後の4月に、豚由来の新型インフルエンザがメキシコで発生して、アメリカ経由で拡散し、パンデミックとなりました。この新型のインフルエンザは、高齢者の感染が少ないものの、若年層、特に5歳から9歳児の多くが感染するという恐ろしいものでした。
 それで直ちに政府の対策本部をつくって、さまざまな水際対策をやっていこうとしました。その時は新型インフルエンザ対策行動計画に基づく対応が可能でしたが、それでも水際対策や、発熱外来や帰国者外来の対応、そして入院隔離等の措置やワクチンの製造について、十分な対応ができないでいました。
 その時、さまざまな営業の自粛をお願いしたのですが、「どのような根拠で言うのだ」と言われて、法的根拠がないため十分には応じていただけず、にまたたくまに全国に蔓延(まんえん)してしまいました。また、外国からの入国者を水際で食い止めるための停留が検疫法上できるのですが、実際には停留施設がなく、その施設を確保するための法的根拠もありませんでした。ワクチンについても、当初、日本の製造体制では間に合わないということで、外国から輸入せざるを得なくなりました。
 ただこのウイルスは、当初は毒性も強いのではないかと言われ、世界中ではその年に28万人が亡くなったそうですが、毒性は従来の季節性のインフルエンザとあまり変わりませんでした。このためこれまでのタミフルやリレンザのような抗インフルエンザ薬が使えたうえ、従来のやり方でのワクチン製造が可能でした。

■パンデミックに備えた体制の整備と法制の整備

 そのような状況の中、パンデミックに備えた体制の整備について四つのポイントが必要だと感じました。一つ目は、「ワクチン製造体制の整備」で、国民全員分を半年間のうちに製造できる体制をつくりたいということです。二つ目は、「インフルエンザの治療薬の備蓄」で、我が国にはこれが十分に備蓄されていませんでしたのでそれを増やしたいということです。三つ目は「パンデミックに備えた医療体制の整備」です。そして、四つ目は「水際対策、行動制限、営業制限、緊急医療体制の整備等を可能とする緊急事態法の新規立法」です。

■強毒性のウイルス渦に備えた新規立法

 行動計画の中で、ワクチン製造体制の補助金制度ができ、治療薬については逐次備蓄を増やしていこうとなりましたが、問題は残りの二つでした。
 新規立法については、厚生労働省は消極的でその必要性はないということでしたので、それなら私たちがつくろうということにしました。この「私たち」というのは、内閣危機管理監以下の内閣官房です。本来このような法制は厚生労働省所管のはずですが、内閣官房で立法作業をして所管も内閣官房にすることになり、厚生労働省はデータ等の提供について協力をいただくことになりました。その立法作業にあたっては、修猷館53年卒の田河慶太さんに室長として来ていただいて法案をつくり、それを国会に提出して立法しようとしました。
 ところが当時は野田政権で、与党がこの法案については消極的でした。与党の国対とか部会に審議をお願いしたのですが断られました。そこで当時の野党であった自民党や公明党の方々にお願いして賛同を得て、与党とも話を進めることができました。
 最終的に今議論になっている営業制限に従わない人々に対する罰則などについては、与党には個人の権利制限に対する抵抗がけっこう強く、また野党であった共産党、社民党は法案に反対しましたので、法案に罰則の適用を盛り込むことはできませんでした。
 この法律は平成24年4月に成立し、翌年の平成25年に施行され、当初のお約束どおり内閣官房の新型インフルエンザ等対策室が法令を所管することになりました。法律はできたのですが、実際にこのような特措法が発令される事態はできるだけ遅く来てほしい、できるならば来ないでほしいと思っていましたが、実際には今回の新型コロナウイルスが来てしまいました。
 この新型インフルエンザ等対策特別措置法のポイントは、まず新しい感染症が発生したときに政府対策本部が設置できます。普通、内閣総理大臣が各省の大臣を直接に指揮監督することはできませんが、これができると、総理大臣が大臣に対して総合調整という形で実際上の指示ができます。また知事は市町村長に対して総合調整ができます。
 もう一つは、水際対策として外国から来た人たちの停留施設が足りない場合は、空港周辺のホテルや一定の施設を要請したり、収用という形で強制的に借り上げて使うこともできます。また、厚生労働大臣と知事は医療関係者に対して医療従事要請を行うことが可能になります。
 さらに、緊急事態宣言が発令されると総理大臣は大臣と知事に対して指揮命令ができるようになります。知事は市町村長に対して指揮命令ができるようになり、住民や施設管理者に対して「営業をやめてください」というような協力要請もできます。中には「やめるように」という指示権まであります。
 また医療体制が逼迫(ひっぱく)したときに臨時の医療施設を開設したり、必要だったら土地や施設を収用して、医療施設として使用することも可能になります。その他、医療関係物資の強権的な確保や売渡要請、また物価統制についても可能となります。強制的なものについては損失補償制度や損害補償制度も付いています。

■新型コロナウイルス発生と新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく危機管理対応

 今回の新型コロナウイルスは、一昨年の11月頃に中国の武漢で発生したと言われています。この報道は12月頃から始まっていましたが、中国はこの新しいコロナウイルスについて12月31日になってようやくWHOに報告しました。そしてその時は、既に中国では多数の感染者が出ていました。私はその時、「これはヒト・ヒト感染しているのではないか」と思いましたが、1月になってもまだ中国政府はヒト・ヒト感染とは言っていませんでした。そして1月16日に日本で最初の新型コロナウイルスの感染者が出ました。そして1月20日になってようやく中国はヒト・ヒト感染を発表しました。
 以降、新型コロナウイルスがパンデミック化しました。私はその時、特措法を適用しての水際対策、医療体制の整備がすぐに必要だと思ったのですが、当初政府はこの新型コロナウイルスに対して、新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用は難しいと考えていました。総理はそれを国会でも答弁されましたので、特措法の適用はできない状況になってしまいました。
 この新型インフルエンザ等対策特別措置法の「等」というのは、一つは昔あったインフルエンザがもう一度強毒化した復興型のインフルエンザであり、もう一つは新しい感染症という理解なのですが、当時の政府の見解では、今回のウイルスはSARSやMARSと同じ既知のウイルスで新しい感染症ではないから、この「等」には含まれないということでした。だから厚生労働省が通常の感染症法で対応しようとしました。
 また、最初の海外における積極的情報取集や検疫、停留措置等の水際対策も効果的に行われませんでした。迅速な入国停止も行われませんでしたし、停留も行われませんでした。ですから停留に必要な施設の確保も行われませんでした。それでも中国からの入国規制は遅まきながら行われましたが、最初は武漢からだけでした。ですから武漢から北京経由で来る人たちもいましたし、欧米からの入国規制も後手後手になってしまいました。
 また武漢からの在留邦人の帰国に際しても特措法の適用がありませんでしたので、停留施設の確保ができずに、ようやく三日月ホテルに協力していただいて、要請ベースでのホテル滞在となりました。またホテルに泊まらず「うちに帰りたい」と言う人も出てきました。
 私は、国内感染前の早期の段階での準備が遅れたのではないかという感じがしています。そしてある程度新型コロナウイルスの性質が分かってきた時に、改めて新型コロナについての行動計画をつくる必要があると思うのですが、本当につくられているのか、あるいはそれが周知されていないのか国民には分からない状況にあります。そして、国内の医療体制の整備、医療資機材や個人防護具の準備、検査体制の準備、医療関係者の確保ということが果たして十分に行われたのか、初動が遅れたのではないかという感じがします。 今でも医療関係については、感染症関係の人たちは本当に大変な思いをされていますが、その他の分野の医療関係者については、必ずしも総動員でこれに対応している状況はまだ見られません。我が国は欧米諸国に比べて病床数は十分あるのですが、既に現在は医療崩壊の危機に瀕していると言われています。それはなぜかということを考えてみる必要があると思います。
 加えて当初はPCR検査体制に遅れが見られ、なかなかPCR検査が受けられませんでした。受けられないから、無症状とか軽症の潜在感染者の把握が遅れ、その人たちが街の中で生活をする結果になりました。

■新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正

 そうなって、やはり特措法を適用する必要があると政府も考えたのだと思います。しかし総理が特措法の適用は難しいとお答えになった以上、これを適用できませんので、法改正するしかないということで、新型コロナウイルスも今後は含まれますということを法律で決めようということになりました。法律の後ろにある附則という部分に、「等」の中には今回の中国発の新型コロナウイルスも含まれますという解説みたいな条文を一つ入れて、特措法が適用できるように法律改正をしました。これが成立したのが3月13日です。
 これでいよいよ緊急事態宣言が出ると期待していたのですが、これの発出はそれから3週間以上経った4月7日でした。これがなぜこのように遅れたのかはよく分かりません。しかも最初はその対象が7都府県に限られていましたので、感染が広がりそうだという自治体では独自の宣言を行ったり、法的根拠に基づかない独自の自粛要請を出すところがたくさん出てきました。その時に各メディアが行った国民アンケートでも、発出が遅すぎたのではないか等の意見が多数ありました。
 しかしこの4月の緊急事態宣言の発出による一定の効果はありました。そしてもう少しで国内の感染者がゼロに近づこうか、あと2週間ぐらい頑張ればほとんどゼロに近づくのではないかという時の5月25日に、もう我慢できないという声もあったのか、解除が行われました。これは少し早いのではないかと私は感じました。

■その後の経過

 5月25日に早々と緊急事態宣言が解除されたという印象があったのですが、解除後の対応にもいろいろな意味での危機管理上の問題点が多い気がします。
 危機管理において大切なことは、目標と優先順位をはっきりするということです。今、国として何を第一目標にしているか、国の優先順位というものがはっきりしていません。はっきりと目標を立ててその目標に向かって国民に理解を求めて、その政策を迅速強力に行う必要があるのですが、このままでは感染拡大を抑え込むにはまだまだ数年近い時間がかかってしまうのではないかと危惧します。
 今回の新型コロナウイルス感染の危機管理においては、一つは感染拡大の防止(国民の命を守る)が第一です。それから、国民生活を安定的なものにしていくことが大事です。それから雇用の安定とか経済活動を維持していくことも大事になってきます。
 この中で第一優先にするのは、感染拡大の防止であることに異論はあまりないと考えられます。医療崩壊が起こり感染が本当に爆発的に広まれば、経済活動どころではなくなってしまいますので、その目標に向かって直線的に考えることが危機管理の要諦です。
 今の政府は経済が悪くなったら経済を何とかしよう、感染が広まったらそちらを何とかしようということで、やや対処療法的な目先の政策が多くて、国民の目には非常に分かりにくくなっています。
 例えば感染拡大中のGoToキャンペーンは、これ自体が感染拡大の全ての要因ではないかもしれませんが、少なくともアクセルを踏むことにはつながっていました。
 1月7日と13日に、再び緊急事態宣言が出されました。私たちの郷里の福岡にも緊急事態宣言が出されましたが、感染拡大防止のためには対策が十分ではないと感じます。収束までの道筋もどうもはっきり示されていません。とりわけ、医療とか経済活動や国民生活、学校教育、生活困窮者の生活支援についての道筋が示されていません。
 現在、医療崩壊の危機と言われていますが、本当は昨年の春以降、医療体制の整備を行う必要があったのです。新型コロナウイルスに対応するための有効な医療資源の活用を考える必要があります。真に効果的な感染拡大の防止対策ができていません。ですから国民は政府の施策を理解できないし、納得できる将来のビジョンもなかなか描けていないので、ただ感染を恐れて言われるままに行動しているに過ぎません。先が見えない中では疲れも出てきて、いつまでこれが続くのだという状況になってきます。
 感染拡大の防止には何が必要かをお話しします。海外の方々とメールでやり取りする中で思うのは、我が国の感染者が欧米諸国よりも少ないのは、国民が政府の呼びかけに応じて、マスク着用、うがい、手洗いを励行しているからだということです。また3密を避けて外出や旅行を自粛して、会食も控えています。そもそも我が国の場合は国民の衛生観念が高く、生活も衛生的です。
 それでも我が国の感染が拡大している理由として、会食による感染があります。それから最近は若年層を中心に感染者が増えていて、無症状の方や軽症の方は、病床やホテルが足りずに自宅療養になっている方からの感染もあります。もう一つは、外国からの入国者(特に感染者)からの感染があります。それから4月頃と比べてみると、人と人との接触がやはり増えました。4月中はテレワークが大変多かったのですが、今はそれもだんだん減ってきているようです。

■これからの見通し

 しばらくは東京で1日平均1千人以上の感染者が出るでしょう。また背後には無症状の人もたくさんいます。1都3県の知事が要請して、やむを得ずという感じで1月7日の緊急事態宣言が出ましたが、2月7日までとお尻が切ってあります。それまでに500人以下にしたいという希望がありますが、果たしてそうなるのでしょうか。私たちが一緒に研究している政策研究大学院大学の統計数理学の土屋隆教授は、「緊急事態宣言がなければ、月末には東京だけで1万人近い感染者が出たのでは」と言っておられます。
 今回の緊急事態宣言は昨年の4月ほどの厳しいものではありませんので、大きな効果は考えられません。 では何をすればいいのかということです。一つは、やはり緊急事態宣言の内容を強化していくことが重要です。外出自粛とかテレワークを4月の時点に近いところまで進めるべきでしょうし、感染の可能性の高いイベントや事業については中止してもらうことも必要になってきます。今、法改正の議論がなされていますが、場合によっては罰則付きの強制力も必要かもしれません。
 また、陽性者の自宅待機を少なくすることです。ホテルへの収容について法改正もしながら、自宅待機の方々を減らして一定期間ホテルで療養してもらい様子を見ることが必要です。そこでは感染症の専門家ではないお医者さんや医療関係者でも十分対応できるかと思います。そのためのホテルや医療関係者の確保が必要になってくると思います。 それから海外入国者の制限と停留が重要になってきます。ようやく海外からの入国者は全面的に制限するということになり、一部を除いて劇的に減ってきましたが、いろいろな国で行われている停留措置がいまだになされていません。それがあって初めて感染者が入国しないということが可能になるのだと思います。
 もう一つ大事なことは、医療の崩壊を防ぐための医療体制の充実です。これは新型コロナウイルス対応病院を民間の病院を含めて増やしていき、場合によっては病院以外の施設を医療施設に改良して利用することも重要なことだと思います。
 今後の見通しですが国際的な交流がある以上、この問題は短期間では収束しません。長期間を見据えた対応が必要になります。
 ワクチンを皆が接種できるようになるか、あるいは有効な治療方法が確立するまでのこれからの数年間をどうするかです。その間は強い活動制限期をつくって感染者をゼロに近づけて、その後の数カ月間は普通通りの活動をするということです。この1~2カ月の「活動制限期」と3~5カ月の「活動期」を交互に行うことによって経済の落ち込みを減らしつつ過ごすということをやるべきだと思います。
 そうした中で今年のオリンピックが予定されていますが、果たしてどうなるでしょうか。国民のアンケートによると、もう既に約9割が難しいのではないかという悲観的なことになっています。まずは感染を本当に減らして、500人と言わずにゼロに近づけて、その後の自由に活動できる社会を数カ月にわたりつくっていくことが大事だろうと思います。 政府にお願いしたいことは、危機管理の順位をはっきりさせて、まず感染拡大防止を直線的思考で行うことです。その際には、救済措置や公平感も重要になってきます。そして収束までの長期的視野に立って、いつごろになったら国民の希望者全員がワクチンを打てるようになり、医療体制がこうなるだろうという将来の予測も見せながら、一方で厳しい内容も含む具体的政策を国民に示して実行していくことが大切だと思います。そのためには国民の理解と幅広い協力が必要です。国民も、またわれわれとしても、これに協力して行動することが重要だと思います。このようなことができなければ、医療崩壊、経済の失速が待っているのだと思います。今こそが本当に大事な時期です。

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■おわりに

 われわれ人類は、過去数々のパンデミックに遭遇してきています。最近でもコレラとかスペイン風邪といったパンデミックがありましたが、そうしたいずれの危機も乗り越えて現在があります。普段の生活が戻る日は必ずやって来ます。心配するだけではなく、その日がどのようなかたちでやって来るのかをイメージしながら生活していくことが大事だと思います。しばらくは我慢の日々が続くと思いますが、しかし明日は必ず明るい日が来るということを信じて、この新型コロナをわれわれ一同乗り切っていきたいと思います。

(終了)

■質疑応答

※講演前及び講演中によせられたご質問等について、後日回答を作成させていただいたものです。

(問1)新型コロナに対応する医療体制の整備が何故整わなかったのでしょうか。3月から9ヶ月間で、体制、ベッド数等、もっと充実できたのではないでしょうか?
(回答)行政がその後の事態を甘く見ていたというべきでしょう。イマジネーションができないことと、面倒なことは避けたい、できれば先延ばしにしたいという意識や危機感のなさが原因だと思われます。政治家の見識のなさも原因です。

(問2)日本の政治行政に対するコメントです。国民の生死・生活費の危機などの災害リスクを予測し対応するシナリオを予め作成する研究機関が必要ではないかと思います。今は自殺者の増加を防ぐ対策を急ぐべきではないでしょうか。
(回答)組織を作れば解決する問題でもありません。実際に政治や行政が動くことが重要です。自殺者の増加も深刻ですが、自宅療養者の死亡や、命の選択などと言って病院によっては高齢の重症患者が放置されている現状の方がより深刻です。

(問3)コロナ感染症の抑制と経済の落ち込み回避を両立させるには、広範な検査、それにIT駆使による感染可能性の低減が不可欠だと思います。政府は、これらに力を入れていないように見えるのですが(やった振りはしていますが)、実態はどうなのでしょう。
(回答)検査体制などが十分でない理由は、問1の答えと同様の原因からくると考えられます。実態もご指摘のとおりとみて良いと思われます。

(問4)新型コロナウイルスに関するマスコミ報道についてどうお考えですか。
(回答)マスコミの報道は、いつものことながら皮相的な部分や一面を取り上げて「大変だ」という姿勢を出ていません。全体を俯瞰しての今後の対策の在り方の提示や政府の方針に対する評価や批判が少なく、見識のなさ露呈しています。専門家の意見も、耳目を引くものであればなんでも取り上げるといった節操のなさも相変わらずです。

(問5)昨年2月段階で特措法の適用を決断していれば、海外からの流入阻止や必要病床確保のための柔軟な医療体制の構築ができていたとお考えでしょうか。
(回答)海外からの流入阻止のための水際対策は、特措法の適用を早めに決断しておれば、台湾のように効果的な流入阻止がその時点で可能であったと思います。病床数の確保は必ずしも特措法の発動がなくとも可能ですが、適用があればなお効果的でしょう。

(問6)現行の特措法で医療関係者が従事要請に従わなかった場合の罰則は、どの条文をみれば良いのでしょうか。
(回答)罰則はありません。説明が間違っていました。

(問7)伊藤会長が大学で講義されている資料や教科書を入手する方法はありますか。
(回答)大学で講義に使用している教科書として、拙著「国家の危機管理~実例から学ぶ理念と実践~」(出版社・ぎょうせい)があります。本屋または出版社に注文してください。

(問8)医療体制の確保など、現下問題となっている点について、法律を発動できていないのはなぜなのでしょうか。
(回答)問1に同じです。