第635回二木会講演会記録

『人の心をとらえるありがとう上手の習慣~』

講師:堤信子氏(昭和56年卒)

■講師紹介

○田代 昭和56年卒「すごろく会」の田代早苗です。私は、堤さんが最初に入社された福岡放送と同じ系列の日本テレビで今でも働いています。同じ業界というご縁で、今日はここに立たせていただいています。
 堤さんとは、ラグビー部顧問の守田先生のクラス、1年9組で一緒でした。当時、清楚で可憐な美少女という形容がこれ以上フィットする人はいない、本当に大変な人気者で、3年生の時の堤さんの担任の国語の藤山先生は、今の時代だとどうだというのはあるのですが、「うちのクラスは美人クラスだ。なんてったって学年一の美人の堤さんがいる」と、胸を張っていつもおっしゃっていました。私は違うクラスでしたが、そのくらい人気のある堤さんでした。本当に時の流れが堤さんだけは止まっているのではないかと思うぐらい、今も当時と全くお変わりになっていません。
 堤さんはその後フリーになられ、「ズームイン朝」、「ズームインスーパー」、「はなまるマーケット」という番組で長年ご活躍されました。当時はちょうど各社が競って早朝の番組の開拓をした時代でした。どんどん時間が繰り上がっていって、働くほうは本当に大変だったのですが、まさにその早朝番組の開拓者の1人であると申し上げても過言ではないと思います。
 その後、「伝える」という仕事を活字の世界にも広げられ、多彩なテーマで、執筆活動や講演活動で活躍されています。
 今日、堤さんをご紹介するにあたって、高校3年間を一つの言葉で言うと何かと聞きましたら、「気合」だそうです。(笑い)こんな可憐な堤さんもやっぱり修猷生だったのです。

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■講演

○堤 田代さんはアナウンサーではないのですが、滑舌も素晴らしいフリートークでした。ありがとうございます。もったいないお言葉をたくさんいただきました。
 全員が修猷の先輩方や同級生や後輩方たちという前でしゃべったのは、東京修猷会、大阪修猷会、福岡修猷会に次いで4回目です。でもそれらの時は司会でしたので、自分の話をするのは今回が初めてです。私は講演会に呼ばれることも多々あるのですが、講演会の前は、控室で担当の方と打ち合わせをするというパターンがほとんどなのですが、今日は、もう1時間前から下のレストランでハヤシライスを食べながら、執行部の皆様等とわいわい昔話に花が咲きました。同じ学校を卒業というだけで、初めて会った人とでもこんなに話が盛り上がるというのを再認識して、とてもいい気分で今ここにいます。
 私は水泳部で3年間過ごしました。修猷館のプールは25m×25mで立派なプールだったのですが、浄化槽がよく壊れ、夏の合宿の時には大体決まって浄化槽が壊れていました。すると、どろどろの緑の沼のようになって、その緑色の沼の中で泳いでいました。息継ぎをすると口の中にアメンボが入ってくるようなこともありました。

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■はじめに

 業界で長く活躍している方は、感謝の気持ちを人に伝えることがとても上手です。それは、長年のアナウンサー生活で実感し学びました。そういう方々は、とてもコミュニケーション上手です、一発で人の心をつかんで、そしてたくさんの人に感謝しながら自分の活躍の場をきっちりキープしていらっしゃいます。そのコミュニケーションの達人が感謝の達人ということに気付いて、私もたくさんの真似をさせていただきました。そのコツについてまとめたのが、『100人中99人に好かれるありがとう上手の習慣』という本です。
 アナウンサーは伝えることが仕事です。テレビの番組で、カメラマンやプロデューサーや放送作家やディレクターが、膨大な時間や労力をかけてつくり上げた作品を、最後に伝えるのがアナウンサーの仕事です。私は新人アナウンサーの時に、先輩から「番組が成功するかしないかは、アナウンサーの伝え方次第です。それはうまくしゃべることではなく、まず、堤さんが見ている人に好かれることです」と言われました。テレビを見ている人から、「この人の話は聞いてみようかな」と思われることがまず最低条件だということです。第一印象が大事なことを新人アナウンサーの時に教わりました。これがまず「伝えること」の最低条件です。伝わってなんぼなのです。「理解してくれる人が理解してくれればいい。誤解されてもいい」というのではありません。

■感謝の気持ち

 そこで感謝の話です。これまでに私が出会った、人に好かれて人の心をつかむ方々は、皆さんとても感謝上手でいらっしゃいます。感謝のアンテナがとても発達しています。自分が「うれしい」「良かった」と思うことを真っ先に人に素敵に伝えます。何となく終わってしまいそうなことでも、素早く感謝のアンテナが働いて「ありがとう」という表現をしてくれます。
 そこで会場の皆さんに、今日、メールや電話で使った「ありがとう」とか「感謝」という言葉の回数と内容をお聞きします。

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○7回ぐらいです。お客様に成約いただいた時に「ありがとう」と言いました。

○5回です。会社の同僚に人の紹介をお願いしたところ、うまく紹介してくれたので「ありがとう」と言いました。

○4回ぐらい言いました。今日、二木会の仕事をするために、娘を母に預かってもらいましたので、母に「ありがとう」と言いました。

○4回です。今、隣にいる村川さんに、今日、来る時の電車で前の席が空いた時に席を譲ってくれそうになった時に「ありがとう」と言いました。

○サークルのお稽古の終わりに、教えてくれた先輩に「ありがとうございました」と言いました。

○今日は30回ぐらい言いました。一つは、今日ここに来る前にロイヤルホストで食事をしてきたのですが、「コーヒーのお替りいかがですか」と、非常にいいタイミングでにこっと笑って言ってくれたのです。それで「ありがとう。いただきます」と言いました。

○今日、妹から、実家の父を散歩に連れていったとラインが来たので、「ありがとう」と返事をしました。

 先ほど、30回の方がいらっしゃいました。私も、この本を書く時に、毎日意識してカウントしてみたら30回から50回言っていました。皆さんもきっと気付いていらっしゃらなくて、今、たまたま思い出せるのが5回とか6回なのだと思います。日々の暮らしの中に、無意識でも30回から50回の「ありがとう」のシーンが出てきていると思います。
 ちなみに私は、自分で書いたこの本1冊の中の「ありがとう」の言葉の数は281回でした。「感謝」という言葉もカウントしてみたら186回でした。
 「感謝」と書くだけで運気が上がるそうです。画数を調べている専門家によると、漢字にも画数の凶と吉があるそうです。子供の名前を付けるときには画数を意識しますが、言葉にも画数の大吉、吉、中吉、凶があるそうです。悪い言葉は凶の画数だそうで、「感謝」の画数は大吉だそうです。不思議です。「感謝」という言葉を使えば使うほど運気が上がるそうです。そういう意味でも、「感謝」という言葉を意識することは大切で、世の中とか運気とかはそうなっているのです。ですから、毎日「ありがとう」を意識して一日を過ごすと、それだけでハッピーになると思います。さんまさんの「生きているだけで丸もうけ」という有名な言葉があります。生きているから自分に起きる全てのことに感謝ということです。私は、何かあったらいつもその言葉を思い出すようにしています。

■表情・態度、声、言葉

 カリフォルニア大学の心理学者アルバート・メラビアンという方が1970年代に提唱したメラビアンの法則というのがあります。「表情・態度」、「声」、「言葉」のどれがその人の第一印象を決めるかということを研究したのです。ちなみにそれら三つを100%とすると、メラビアンの法則では、「表情・態度」が55%、「声」は38%、「言葉」が7%となっています。
 人に与える印象は、声を発する前から「表情・態度」で決まってしまうということです。好感度の高い人の話は「聞いてみよう」と耳を傾けます。嫌いな人がいいことを言っていても、最初から聞く耳が半分閉じてしまいます。ですから、まず表情と態度で相手にシャッターを下ろさせないことが大事になります。
 「表情・態度」の好感度アップ法の一番は、「素の顔のレベルを上げる」です。素顔は、私たち女性が言えばメイク前の顔のことです。性格について言うこともあります。それに「の」が入るのです。人の話を聞いているときの顔が「素の顔」に一番近いと思います。講演会のとき、会場に入っただけで、その日の講演がうまくいくかどうかが一発で分かります。聞いてくださる方の「素の顔」のレベルで会場の空気がつくられるのです。今日はさすが修猷だなと思いました。自分は置いといての話ですが、修猷館の皆さんは勢いのある方が多いです。今日の皆さんは、きちんとうなずきながら聞いてくださっています。そして目力があり生き生きした顔をしていらっしゃる方が多いです。会場の空気がいいと、とてもしゃべりやすいのです。空気中のエネルギーは全然目には見えませんが、立った瞬間に分かります。
 普通、自分の「素の顔」はなかなか見ることがありません。私は、電車に乗っているときに、扉のガラスに映っている自分の顔を見て何度もぎょっとしたことがあります。自分の「素の顔」というのは、油断するとひどく不機嫌な顔をしています。気を抜くと口角が下がってどよんとした顔をしています。鏡とかスマホで自分の顔を正面から見てください。女性が多い講演会では手鏡を用意してもらい、一斉に手鏡を見ていただきます。すると、その瞬間に、全員、目が開いて口角が上がるのです。これは本当の話です。こちらから動画を撮りたいと思うぐらいです。
 私たちは、自分の顔は鏡を通してしか見ることができません。ですから鏡に映った顔が自分の「素の顔」と思い込んでいます。でも、普段の顔は、鏡に映った目がぱっちりの口角が上がった顔マイナス2割なのです。それが1日で一番長くしている顔なのです。例えば面接とかだと意識しているので、そこはスイッチが入ります。でも皆さんの第一印象となる「素の顔」は、あいさつするときの顔ではなく、実は鏡の顔マイナス2割の、ちょっと不機嫌でつまらなさそうな顔なのです。自分が知っている自分の顔と人が見ている自分の顔は違うということなのです。
 ではどうしたらいいのか。口角が大事です。口角を5度上げてください。それで空気が変わります。感じのいい顔は、見えない「気」を発します。怖い目をして口角を下げてつまらなさそうにした瞬間に会場内の「気」が下がります。たかが表情されど表情ということです。口角5度というのを口輪筋に意識させ、形状記憶させるのです。放っておくと重力の法則で口角も下がります。顔の筋肉のことですので、筋トレだと思ってください。
 口輪筋は脳と密接な関係があるそうです。辛いことや頭に来ることがあると、口が「へ」の字になりますが、そこを口角だけでも上げてみると、その筋肉の動きが脳に指令され、脳の中が後ろ向きから前向きに早くリセットされるそうです。そのときの目は怖くてもいいそうです。たかが口角なのですが、心を強く持つのにも口角を上げる筋肉の動きがとても大事だということです。
 そしてもう一つ、話を聞くときにうなずきながら聞くということです。うなずきながら聞いてくれると、話す側にとって、話しやすいリズムの交換がされます。うなずくというのは首の動きですが、それはしゃべる人のためだけではなく、そのときの首の筋肉の動きが、話の内容を脳によりインプットさせやすくなるのだそうです。皆さん、筋トレだと思って、今日はうなずきながら聞いていただきたいと思います。
 「表情・態度」の次は、38%と意外に数字として大きかった「声」です。声に良し悪しはありません。いろいろな声はそれぞれが特徴で、一人一人の性格だと思ってください。声はそのままでいいのですが、滑舌だけは良し悪しがあります。滑舌を良くすると、自分の思っていることがきちんと伝わります。
 滑舌を訓練する方法はいろいろあるのですが、一番簡単で早く結果が出るものをご紹介します。これをやると本当に滑舌が変わります。「あいうえお、いうえおあ、うえおあい、えおあいう、おあいうえ」一文字ずつずれていきます。私の口元を見てください。口輪筋が縦横と動きます。年を重ねていくと口がだんだん動かなくなります。口は横には開きやすいのですが、大事なのは縦の動きです。ア行から始まって、カ行以下も同じように一文字ずつずらして言います。では、姿勢を正していただきます。肩甲骨は寒い冬は前に閉じますので、1回肩を上げて後ろに落とし、そして少し胸を開きます。そして今からラ行まで行きたいと思います。頭と声といろいろなものがフル回転です。ではまいります。

〇全員 あいうえお、いうえおあ、うえおあい、えおあいう、おあいうえ、かきくけこ、きくけこか、くけこかき、けこかきく、こかきくけ、さしすせそ、しすせそさ、すせそさし、せそさしす、そさしすせ、たちつてと、ちつてとた、つてとたち、てとたちつ、とたちつて、なにぬねの、にぬねのな、ぬねのなに、ねのなにぬ、のなにぬね、はひふへほ、ひふへほは、ふへほはひ、へほはひふ、ほはひふへ、まみむめも、みむめもま、むめもまみ、めもまみむ、もまみむめ、やいゆえよ、いゆえよや、ゆえよやい、えよやいゆ、よやいゆえ、らりるれろ、りるれろら、るれろらり、れろらりる、ろらりる

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素晴らしいです。皆さん、口が縦横に開いていました。口を縦横に開けながら声も出しながら順番にずらすという、とても忙しい発声練習でした。ものすごい筋トレです。
 最後の7%の「言葉」について、感謝の言葉を相手に伝えるためのちょっとしたポイントをお話しします。一つは、デジタルとアナログの合わせ技です。メールやSNSで「ありがとう」というやり取りは、今、みんな普通にやっていると思います。私の周りの感謝の達人は、メールで送った後に手書きの手紙やはがきが来ます。この合わせ技の人はとても印象に残ります。
 次に、紹介してくれた人をいつまでも覚えていて感謝の気持ちを持ち続けるということです。人との出会いで、紹介されてということがよくあります。紹介してくれたときに、ついつい仕事で前のめりになってしまうと、紹介してくれた人を置き去りにしてしまいがちですが、大切なのは紹介してくれた人なのです。その素敵な出会いをつないでくれた縁をいつまでも忘れないこと、そしてその方とのやり取りを必ず報告することが大切です。これは私が先輩から教わったことで、私は守るようにしています。
 それから「ありがとうの先手を打つ」ということです。例えば、ごちそうしてもらった側がしてくれた側に「ありがとうございます」と言うのは普通です。私は、先輩の服部真湖さんという方からときどきランチに誘われます。一緒に食事をして、彼女がごちそうしてくれて、それなのに彼女が先に「堤さん、今日は忙しいのに付き合ってくれてありがとう」と「ありがとう」の先手を打たれることがあります。自分がうれしかったら、やってあげたとか、してもらったとかではない、先に「ありがとう」を言うということです。それから、身内が一番「ありがとう」と言いにくいです。その身内にすらっと丁寧に感謝の気持ちを伝えるというのが、感謝上手になる一番の近道だと思います。
 最後に、これは私の大好きなことなのですが、いろいろなシーンで、ぜひ上質な文具を使っていただきたいと思います。丁寧なお礼状を書くときは、私は自分の中で一番の万年筆を使います。いいペンで書くといい言葉が出てきます。私はそう信じています。紙もいい紙を使うと、ありがとうの気持ちがより相手に伝わると思っています。
 感謝をする心が一番ゆとりを生み出します。感謝の心にあふれた人がその場にいるだけで、ものすごいオーラがきらきらと見えます。私が今まで出会ってきた素敵な方々はみんなそんな方々ばかりです。これからは、「感謝」の気持ちと言葉を意識して生活していただければと思います。

■質疑応答

○庄山 昭和54年卒、水泳部の庄山です。現役時代は気合を入れてしごき過ぎました。すみませんでした。
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○堤 竹刀のようなもので、何度かたたかれた記憶があります。
○庄山 竹刀はないと思います。ビート板では何度かたたいたかもしれません。
 感謝を身内に一番言いづらいというのは自分でも感じています。特に家内に「ありがとう」を言い過ぎると、「ありがとう」のバーゲンセールのようになりそうで、うそっぽく聞こえるのではないかと、勝手に自分で思っています。その辺はどのように自分の気持ちを処理すればいいのでしょうか。
○堤 「ありがとう」を言い過ぎると軽く感じられるのではないかというのは、単なる思い込みで、言い方が大事です。相手の目を見てゆっくり伝えることが大事です。回数は、自分では言い過ぎたかなぐらいが相手にとってはちょうどいいのだと思います。「ありがとう」は無料で無尽蔵です。自分が思うほどバーゲンセールにはなりません。「どうしたの」と言われるぐらい言ってみてください。

○中津 平成4年卒の中津です。私も講師として人前でしゃべる仕事をしています。受講者から、話すときに緊張して、どもったりパニくってしまうということに対してアドバイスを求められます。堤先輩はそのような質問にどのようにお答えになりますか。
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○堤 一番来る質問です。しゃべりというのは、呼吸の中では吐く息です。医療の専門家から、息を吐くことは気持ちを落ち着かせるという話を聞いたことがあります。どうしても緊張する場合は、たくさん息を吐くといいです。それでも緊張が取れない人は、吐く息が少ないのだと思います。3吸って7吐いてください。最後は体の中に空気がないぐらいに吐き切ると、少し落ち着きます。呼吸という言葉は、後に「吸」という字が来ます。吐くことが大事だから「呼」が先なのです。

■会長あいさつ

○大須賀 一番寒い時に、ほのぼのと心が温まるお話をありがとうございました。社会が変化する中で生活習慣も変わってきています。昔は態度や言葉で伝えていたことが手紙になり、電話になり、今はメールになりました。その中で、人間は伝え方がだんだん下手になってきているようです。ですから今日のようなお話が大事になってくるのだと思います。大事なのは心の持ちようで、それはつまり「気合い」だということでしょう。(笑い)(終了)

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(終了)