第618回二木会講演会記録

『日本の農業改革について~農協改革とTPPなど~』

講師:山口 英彰 氏(昭和55年卒)

■講師紹介

○棚町 山口さんとは3年5組の文系男クラで一緒でした。2人とも帰宅部でしたので彼の家に遊びに行ったことがあります。その時に面白い本があると言って出されたのが時刻表でした。チンチン電車のがらくたのようなものも自慢そうに見せてくれましたが私は何がいいのか分かりませんでした。その後、修猷館4年生を終え、彼は東大に私は早稲田に行きました。当時、東京上野の本牧亭で中山千夏とか矢崎泰久などの政治寄席というのをやっていて、偶然そこで山口さんに会いました。彼に声は掛けましたがサークルの友達が一緒にいましたので話があまり盛り上がらずに私は1人で帰りました。学生時代は勉強もしたのでしょうが随分楽しんでもいたようです。

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■山口英彰氏講演

 私は町中の中央区赤坂に住んでいて農家でもありませんでしたので農業には全然縁がありませんでした。大学卒業後に公務員になろうと官庁訪問をした時、農林省に大学の先輩がいたのでそこで冷やかし半分に話を聞いているうちにいつの間にか入ってしまった感じでした。しかし、私自身、食べることが好きですし、少し凝り性なところもありましたので仕事がおもしろくなり、今では妻から「農林省の仕事は天職」と言われています。最初から意識を持ってやったというよりも、やっているうちにだんだんと好きになってきたということだと思っています。

■日本の農業の現状

 まず、日本の農業の現状についてお話します。平成24年度の資料によると、日本の国内生産額は911兆円で、このうちの第一次産業(農林水産業)はわずか12兆円です。ただ、食品関連の製造業や流通業、飲食業も含めた食品関連産業で見れば95兆円となり、日本の全経済活動の1割を占めていることになります。
 農業を主たる仕事にしている基幹的農業従事者は177万人で、長期間にわたって減少し続けています。その平均年齢は67歳で、こちらはだんだん上がってきています。年齢構成を見ると、都会に出ていた農家子弟が定年前後に帰農することで50代~60代が増加する傾向がありましたが、直近(平成27年)の統計ではこの傾向が見られなくなっています。定年帰農に期待できなくなってきた中で、若い担い手をどのように確保していくのかが重要な課題になってきています。
 そして荒廃農地(荒れていて通常の農作業では作物の栽培が不可能となっている農地)の問題があります。最近ではマスコミでもクローズアップされて国もいろいろ対策を講じていますが、荒廃農地面積は27万ha(ヘクタール)と、横ばいの状況です。
 このように、農業従事者の減少、荒廃農地の問題への対応を考えたときに、今の農林省が重点的に進めている政策が農地の集積・大区画化です。
戦後の農地改革により、一戸当たり1ha程度の農地が配分されて自作農が創設されたのですが、現在ではこの面積でコメをつくると所得(収入-経費)は40万円ほどにしかなりません。しかも、実際の農地は1haがまとまっているのではなく、小面積の農地が分散しています。これは、病害虫が発生した時に全滅しないようにとか、農地改革の時に地力がある良い農地と悪い農地を平等に割り振ろうとしたからとかいろいろな説がありますが、この分散・錯綜(さくそう)した農地を担い手ごとに集約化して効率的な農地利用ができるようにすることが農業の再生のために必要です。
そこで、農地中間管理機構(農地集積バンク)という組織を都道府県ごとにつくりまして、自ら耕作しない農地所有者から農地を借り受け、これをある程度まとまった形に整備して、農業経営に意欲を持っている担い手に貸し出す仕組みを設けました。コメを中心とした水田農業で生計を立てようとするならば、最低でも10haの農地を集める必要があります。制度が始まってまだ2年目ですので十分な成果があがっているとは言えませんが、今後、農業従事者のリタイアが加速すると見込まれますので、農地集積バンクが活躍する場面がもっと増えると考えています。
 農業の産出額については、20年前に比べると2兆円程度減少していますが、その中でもコメの減少幅が大きくなっています。生産調整(減反)で生産量が減ったことやコメの価格が下がったことが主な原因ですが、それでもコメを作る農家はあまり減っていません。
それは、おコメが最も作りやすい作物だからです。田植機やコンバインなど農業機械の力を借りれば80歳でもコメは作れます。また、5月の休日に田植えをした稲は約4ヶ月後の休日に一斉に刈り取りができますが、野菜や果物では枝ごとに次々と実がなるため、収穫期になると毎日(トマトなどは朝と夕方)畑に行かなければなりません。ですから、昼間会社に出かける兼業農家はコメを作るしかないのです。
 ここまで統計データの説明をしてきましたが、実際のところ、農業ほど、統計だけで理解できないものはありません。山奥で小規模に農業をしているおじいさんがいらっしゃるかと思えば、広い平野で大型機械を使って大規模経営をしている若手経営者もいます。統計は平均値とか総体の数が出てくるので、個々の農家にしてみると自分たちの農業の実際の姿を現していないと感じています。
 農業の目指すところも人によって違います。産業として成長していく、儲かる農業を目指すというのは他の産業でしたら当たり前のことで、そういった農業経営者がマスコミで紹介されます。しかし、農業の世界では、代々農家だから家業として田んぼをやっていくという方も多くいらっしゃいます。地域のコミュニティが緊密ですから、周囲の目を気にしてやめられないといったこともありますが、農業用水は上の田んぼから順番に引き込んでいくので(水路の管理は農家が自ら行います)、上の人が田んぼをやめて水路が荒れてしまうと下の田んぼに迷惑がかかるといったことで年をとっても続けておられます。
 農業の議論をしていて、TPPなんか怖くない、どんどん外国に打って出て産業としてやっていけるぞという人たちがいて、もう一方ではTPPなんか来たら大変なことになるという方がいらっしゃるのは、このように二極化した農業構造になっていることにも一因があります。
農水省の職員は、現場に入って、個々の農業者と意見交換する中で、その地域や農家の事情を聞き出して政策を立案するよう努めており、このような両極端の要請の調和を図るため、政策の内容を産業政策と地域政策とに分けて、それぞれの政策体系をつくっています。

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■農協改革について

 農協が批判されている原因もまさに二極化にあるわけです。正組合員は農業者なのですが、その農業者が二極分化し、これらの人たちが同じ農協の組合員になっているのです。
 農協は農業協同組合法に基づき設立される法人です。一定の資格要件を満たす組合員の自主的な相互扶助組織であり、議決権は1組合員ごとに1票です。組合員は加入脱退の自由があり、脱退したときには出資金が戻ってくるのが株式会社との違いです。役員も組合員から一定以上選出する必要があります。事業から利益が出れば、農協では利益とは言わずに剰余金と言いますが、その剰余金は事業利用した組合員に還元する(事業利用配当)というのが根本の考えです。「組合員の」(所有)「組合員による」(経営)「組合員のための」(利用)組織が農協なのです。
 農協系統(JAグループ)の事業は、大まかに、経済事業、信用事業、共済事業の三つに分けられます。これらの事業を全部実施しているのが総合農協です。最近ではJAと言っていますが、これが地域レベル(かつては市町村単位でしたが今は郡単位か、もっと広い区域を地区にしています)にあり、事業別に設立された連合会が都道府県レベルにあり、その上に事業別に全国レベルの連合会があります(現在は、連合会機能の重複をなくす観点から全国連と県連との統合が進んでいます)。
 戦後設立された農協の数は、最高1万5千以上あったのですが、その後、広域合併を進めて今は731まで減少しました。組合員数は正准合わせて1千万人近くいます。そのうち農業者が資格を有する正組合員の数がだんだん減ってきていて、一方で農協の地区内に住む自営業者、サラリーマン、主婦などが資格を有する准組合員が増えてきています。准組合員には地区内に住んでいて出資をすれば誰でもなれますが、総会での議決権や役員の選挙権を持ちません。今では准組合員数が正組合員数を上回る状況です。
 農協の経済事業は、いくつかの種類に分かれています。まず、農業者の所得を確保するためのメインの事業として、農畜産物販売事業があります。販売とはいいますが、今の農協は、組合員が生産した農畜産物を単に集荷して卸売市場に送り、市場で決まった価格を出荷数量等に応じて農家に配分する「委託販売」が中心です。この委託販売では、卸売市場内の卸売業者と仲卸業者との間で価格が決まってしまいますので、農協は実際の需要先であるスーパーや小売店、料理店などと価格を交渉する権限も、誰に売るかを決める権限もありません。このため、高い品質のものを作って他より高く売りたい農業者にとっては全くメリットがない仕組みになっており、経営感覚があり意欲的な農業者ほど農協離れをするという事態を招いています。
 生産資材購買事業では、農家が使う農薬、肥料、飼料、農業機械などを農協グループで共同購入します。全農が全国からの注文を集めてメーカーに大量に発注するため価格が安くなるというのが農協側の主張ですが、実際にはホームセンターより高いという批判がしょっちゅうあります。
 利用事業というのは、おコメの乾燥と貯蔵のためのカントリーエレベーター、田植えのための苗を育てる育苗センター、青果物の集出荷場や農産物直売所など組合員が共同利用する施設を設置し運営する事業です。
 生活物資購買事業では、LPガス、ガソリン、食料品などの組合員の生活に必要な物資を共同購入して供給しています。近年では採算が悪化して農協本体から分離して子会社に移管するケースが出てきています。その他には、老人福祉事業、地域ボランティア活動、介護保険事業、葬祭場の運営なども経済事業の範疇に入ります。
 信用事業は、組合員から貯金を受け入れて、営農や生活に必要な資金を組合員に貸し付けるという金融事業を行うものです。現在は、組合員の資金需要が少ないため、集まった貯金は上部機関である信連・農林中金に預けられ、そこで企業や地方公共団体への貸出や有価証券運用に回されて、その運用利益は配当や利息という形で農協に還元されています。いわば、農協は貯金の窓口となっているに過ぎず、農林中金などの働きで利益を得ているのです(もちろん、農業が盛んな九州や北海道の農協では、営農ローンや制度融資も行われていますが)。
 共済事業は、いわゆる生命保険と火災や自動車などの損害保険に該当するものを一緒に取り扱っています。生命共済の規模は、日本生命には負けますが第一生命などをしのぐレベルで、損害共済のほうも、大手の損保会社と遜色ない程度になっています。
 中央会(農業協同組合中央会)というのがありますが、これは昭和29年に経営困難な農協が多くなって問題となった際に、グループ内できちんと指導する組織をつくろうということで法定されたものです。したがって、農協や連合会の健全な発達を図ることを目的としており、全国レベルの「全中」と都道府県レベルの「県中」とに分かれて設立されています。今は農協の数が700ぐらいに減少していますので、中央会が指導すべき内容も変質してきているというのが実態です。
 農協の収支構造を見ると、農畜産物の販売事業や資材の購買事業といった経済事業が赤字となっていて、信用事業と共済事業の黒字で補填し、収支全体としては黒字になっています。ですから信用・共済事業を分離すると農協の経営が成り立たず、組合員へのサービスが低下するというのが農協側の言い分です。
 現在、農協を取り巻く環境は変化しています。食料事情は戦後しばらくの不足の時代と違って今は過剰基調になっています。ニーズに合ったもの、商品価値が認められたものは高く売れるけれども、消費者のニーズに合わないものは安く買いたたかれるという時代です。農業者についても、先ほどからお話ししているように、大規模な担い手農業者と小規模な兼業農家に分化してきています。
 現在の農協は、農業収入より兼業収入が多い組合員や農業をやらない組合員のニーズに応えようとして信用・共済事業や生活関連の事業を伸ばしてきたことに対し、農外の方々から批判されています。そもそも農協は、農業者が設立した自主的な協同組合(職能組合)ですので、農協組織における主役は「農業者」でなければならず、次いで農業者と直に接する「地域農協」が農業者を支援するために存在するのです。
 地域農協が農業者と力を合わせて農産物の有利販売等を行い農業者の所得の向上を目指すというのが本来の姿だと考えており、農業者の所得向上のために経済事業を行うという原点に立ち返ってもらいたいと考えています。
 一方で、農協は営利事業ができないとか、組合員は必ず農協を利用しないといけないとか、誤った考えがはびこっていましたので、これを是正するための法改正を行いました。
 また、農協の中には地域住民の利用が多くなっているところもあることから、農協から株式会社や生協等の形態に組織変更できる規定を置いて、組合員以外の利用が制限なくできるような措置も講じています。
 中央会の事業は、時代の変化に合わせて抜本的に見直しました。全中が行っていた監査については他の金融機関とのイコールフッティングの観点から公認会計士の監査に移行し、指導権限がなくなる全中は一般社団に組織変更することになりました。一方で、地域農協と直接のつながりのある県中は、連合会として存続することになっています。
 これらの一連の農協法改正によって、農業者のための農協ということを明確にするとともに、地域農協が自由に経済活動を行える体制を整えることになったのです。

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■T P P の合意内容について

 TPPは、2010年からニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4カ国の貿易協定がベースになって、米、豪、ペルー、ベトナム、マレーシアが加わって9カ国で交渉が開始されました。その後、メキシコ、カナダ、日本が参加して合計12カ国になり、途中難航する場面もありましたが、昨年10月に大筋合意ができ、今年の2月にニュージーランドで署名となりました。
 今回の合意について農業サイドから見ると、多くの品目で関税が撤廃されるなど不安を持っておられる方が多いと言われていますが、他の参加国に比べると日本の農産物はかなり守られていると思います。
 今まで合意した貿易協定と比べると、農林水産物の82%の関税が撤廃されるのは初めてであり、かなり思い切った判断が行われたのは事実ですが、詳細を見てみると、重要5品目の関税は、コメも小麦も砂糖も「維持」というのが基本です。牛肉や豚肉の関税は下げましたが、相手国が求めていた撤廃はしていませんし、最終の関税率になるまで長い期間をとり、その間に国内の体質強化を図ることで影響を最小限にできるものと考えています。
 TPPでは輸入の話ばかり言われるのですが、農林水産物の輸出に関する交渉も行っています。今の私の仕事は、内閣官房で農林水産業の輸出力強化を考える部署でして、どのような戦略をたてて輸出を伸ばしていくかを検討しています。
 農林水産物の輸出額は3年連続で過去最高を更新しており、年7000億円という目標額を1年前倒しで達成できています。これは、インバウンド(訪日外国人旅行者)が大幅に増えたり、日本産品の品質や安全性に対する海外の評価が高くなったことなどの原因があげられますが、その裏には、輸出に取り組む関係者の努力も大きく貢献していると思っています。今回のTPP合意では、わが国が輸出に関して重点を置いている品目のすべてで相手国の関税が、即時ないしは数年で撤廃されますので、コメ、牛肉、水産物、日本酒などについてTPP加盟国に対する輸出拡大が大いに期待できます。
 なお、TPPの発効については、国内手続きを終えた参加国のGDPの合計が85%以上になることが必要となっておりますので、GDPが大きい日本と米国のいずれもが承認しないとTPP協定が発効しない仕組みになっています。

 農業の今後の在り方を考えたときに、国際情勢も踏まえた中で、儲かる農業を構築していくこと、経営感覚のある農業者を育成することが重要だと思っています。

■質疑応答

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○高橋 41年卒の高橋です。私は30年ぐらい前に久留米周辺の農家をヒアリングで回ったことがあります。そこでは農協をほとんど当てにせず国の補助金もほとんどない中で高い所得を上げていました。それを考えると、農協なんかないほうが先端的な農業の発展につながるように思い、むしろ農協の制御のほうが必要なのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

○山口 品質の良いものを安定的に作れて、欲しい人が多くいて、高く売れているという農業になれば、確かに補助金も農協も要りません。
 ただ、その場合も、代金決済を自分でやるとなると生産活動以外に時間が取られてしまいますので、農協を通じて決済したほうが事務の手間がかからないというメリットがあります。このように、農業者が自ら決めた価格で販売した相手方への代金の督促や回収、さらには相手方のオーダーに応じたパック詰めや1次加工を農協が積極的に行う体制になれば、先端的な農業者も利用するのですが、現実は、品質が落ちる他の農業者の生産物と一緒に出荷されて価格も自分で決められないという委託販売の形態をとるため、利用しようとしません。農業者が自分の技術を生かして生産に集中し、その価値が正当に評価された価格で農協が販売してくれれば効率的な農業ができるのにもったいない話です。
 ただ、今はインターネット通販とかで自分で決めた価格で高く売って、代金もネット業者が回収してくれるサービスが確立していますので、農協の役割は何なのだということになってしまいます。農協が先進的な農業者のためにもっと多様なサービスを提供できるようになれば農協の役割も大きく変わってきます。我々も農協の経営感覚が高まるような改革をして、農協の運営を変えていくよう働きかけたいと思っています。

○中嶋 63年卒の中嶋です。私の家は、母方の祖父が農業者で農協の理事をしていて、そこに出入りしていたのが農機具メーカーに勤めていた私の父だったという家でした。今日のお話で、皆さんが農業を続けられているということに私は興味を持ちました。皆さんが農地を手放さないインセンティブがあるのでしたら、政策的に手放すようにすることは考えられないのでしょうか。

○山口 おっしゃるとおりで、農地を大規模に集めようとする農林省の構造政策の一番のネックは、農地を手放さない農家にどのようなアプローチをするかということでした。実際には、高度成長で地価が上がったとか、市街地周辺の農地の転用期待があったり、先ほどお話ししたように、農業の機械化が進み兼業でも農地が維持しやすくなったということもあって、買い取りという形での農地の集積は進みませんでした。最近になってやっと農地の所有権は手放さないけども、農作業は人に任せようという気運になってきていますので、公的な機関として農地集積バンクを設置して、農地所有者と担い手農業者の仲介をする仕組みをつくったのです。
 それから昨年末に税制改正をして農地を荒らしたまま持っている方々の固定資産税は引き上げ、一方で中間管理機構に預ければ固定資産税を半分にするという税制上のインセンティブ措置も加えています。これと併せて、地域全体で将来の農地利用に関する話し合いを進めて、地域農業の維持のために農地集積バンクに農地を預けようという運動を今展開しています。

○有江 61年卒の有江です。例えばオーストラリア産の牛肉でWAGYUと呼ばれているものがあったりしますが、商標の問題は政府としてどのようにお考えなのでしょうか。

○山口 商標権はそれぞれの国で取らないとその国では有効となりません。残念ながら日本の農家とか日本の産地には知的財産権の意識があまりありませんでしたので、逆に日本の商品の商標権を外国人に取られてしまうということが結構ありました。
 オーストラリア産でどうしてWAGYUかということですが、これは純血の和牛ではありません。牛の精液はストローに入れて凍結保存するので、どこでも持ち運びできます。誰かがオーストラリアにその冷凍精液を持っていって、他種の肉牛に種付けをして、生まれた牛の中から形質が和牛に近いものだけを選んでWAGYUとして出しているのです。日本の和牛が世界で評価され始めたのは2000年代以降ですが、その頃、BSEや口蹄疫が発生して日本の和牛が海外に出せなくなった時に、困っていた海外のレストランがオーストラリアWAGYUを使っているうちに市場を取られたというのが現実です。
 本来、純血種は日本の和牛ですから、その品質や味の違いを強調して、日本産和牛を食べてもらおうといろいろなプロモーションを掛けて今やっているところです。

■伊藤副会長あいさつ

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○伊藤 農業問題というのは特に都会に住んでいる者にとってはなかなか理解し難いものがあります。私自身も役人をしていましたが、農業政策の問題についてはマスコミの報道等で知る限りで、実際にはどのように農業が行われていて役所がどのような政策に誘導しようとしているのかは分かりにくかったのですが、そういう点を今日は分かりやすくお話をしていただきました。
 TPPの問題についてもいろいろな異論ももちろんあるでしょうし、農業自体も課題がたくさんある中で、本当に日本の農地を儲かる農業にしていくことが一番の課題なのではないかなと思います。私自身もじゅうぶんに消化しきれなかったところもありますが、これを機会に農業についてじっくりと考えてみたいと思いました。今日はありがとうございました。

(終了)