第610回二木会講演会記録

『最近の市場動向の振返りと日本取引所グループ(JPX)の取組み』

講師:清田 瞭 氏(昭和39年卒)

■講師紹介

○松本 彼は1年生の2学期に小倉高校から転校して来ました。そして3年の時に一緒に執行部をやったことが一番の思い出です。
 私も彼も東京で1年浪人して大学に行きました。卒業後、彼は大和証券に入り私は住友銀行に行きました。
 その後、たまたま銀行での証券業務を私がやることになった時に、当時、大和証券の債券部長として「大和に清田あり」と言われるほどマーケットで存在感があった清田君に「売ったらいいと?買ったらいいと?」と相談したこともありました。
 「株屋」という言葉がありますが、彼は持ち前の誠実で温厚な人柄を保ちながら、仕事は極めて論理的に進めるということで、証券界では異質な存在でした。
 この6月には、日本の証券市場の司令塔でもある日本取引所グループの最高経営責任者に就任するということで、昔からの友達としてこのポストへの就任を心から喜びたいと思います。そして、多くの課題がある時に、それにふさわしい見識を持った彼がこれから大いに活躍してくれることを期待しています。

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■清田瞭氏講演

○清田 私は7年前にこの二木会でお話しさせていただきました。その時の話題は、ライブドア社長の堀江貴文氏がフジテレビを買収しようとして大騒ぎになり、会社は誰のものかという議論が日本で初めて公の場で行われていましたので、「株主権と買収防衛策」についてお話ししました。今回は、去年からコーポレートガバナンス・コードが話題になっていますので市場の話だけではなく、今の私の立場から、当事者としてこの話もしたいと思っています。

■はじめに

 私の父は満州電業という満州の電力会社の技師でしたので、私は昭和20年5月に満州で生まれました。
 8月に終戦を迎えましたが、父は抑留されたので、母は3歳と2歳の兄に、ゼロ歳の私を加えて男の子3人を連れて熊本の実家に引き揚げてきました。一歩間違えれば「大地の子」になっていたという人生のスタートでした。
 2年後に父が帰国し、九州電力に勤めました。サラリーマンですから、九州をあちこち転勤し、私は小学校を三つ、中学校は一つ、高校は二つ行きました。
 高校1年の時に、小倉高校から修猷館に転校しました。小倉高校では制服や身なりに厳しい規律がありましたが、修猷館に来たら非常にフリーで驚きました。
 こんないい加減なガバナンスしかない高校が、大学入試では福岡で圧倒的に実績があることがショックでした。
 高校3年間で生徒会執行部を2期やりました。私の修猷館時代の思い出の大半は、その修猷館執行部で出来た友達と楽しくやってきたことです。
 しかし大学受験は失敗して、東京の駿台予備校に行きました。そこに松本君がいて、松本君は東大に入り、私は東大に落ちて早稲田に行きました。
 松本君との縁はそれだけではありません。松本君の両親も私の両親も熊本出身で、共に熊本中学出身でした。また私と松本君は修猷館で同級生です。そして松本君の息子さんと私の息子は東京の開成の同級生で同じクラスでした。私と松本君は3代にわたって違う場所で同級生なのです。
 大学は早稲田に行きましたが、東大に落ちたので、しばらくひねていた時期もありました。しかし、だんだん楽しくなって早稲田の雰囲気もいいじゃないかと思うようになりました。早稲田も修猷館と似ていてフリーだったということもあり、大変楽しい学生生活を送りました。
 4年生になるとゼミの同級生がみんな就職の話をするようになり、5月頃には大半の同級生が就職内定していました。私だけは全く動いてなくて、焦りました。両親に相談したら、母の叔父が当時東京ガスの会長をやっていたので、そこに頼んでもらうことになりました。そして試験の要領を教えるから「会長室に来い」と呼び出されました。
 当時、東京ガスの本社は日本橋にありました。早稲田からは東西線1本で行けます。約束の時間に遅れないようにと朝早く出て東西線に乗った所までは良かったのですが、降りる駅を間違えて大手町で一駅早く降りてしまったのです。地下鉄の駅から出て永代通りに出たのだと思うのですが、そこから東京ガスまで通行人に道を聞きながら歩いて行きました。最後の呉服橋交差点に立ったところで、約束の時間まで1時間半ぐらいあることに気が付きました。その時その角にあったのが大和証券だったのです。
 大和証券という名前には聞き覚えがあったので入ってみました。当時、そのビルはきれいで、昔、森繁久彌の社長シリーズとか駅前シリーズの映画の社長室はそのビルで撮影していたらしいのです。
 当時は昭和40年の証券不況直後で、証券業界は大変な不況産業と見られていたのですが、私はそんなことは全く知りませんでした。
 ビルに入ったら「よく来た」と弁当を食べさせてもらってとても歓待されました。その後、東京ガスの本社に行って秘書室で話を聞いたあと夕方になって下宿に帰ると、大和証券から内定の電報が来ていたのです(笑)。業界がそんな状態だなんて全く思っていなかった私は大和証券に入ることにしました。
 入社当時の証券市場は、昭和36年に付けた1,829円という史上最高値を8年間も抜けないでいたのですが、私が入社した翌月の昭和44年5月にはその史上最高値を更新したのです。それ以降バブル期の高値、38,915円まで上がり続けたのです。私は上がる株を呉服橋の交差点で拾ったようなものだとよく人に言っています。
 最初は営業をやりました。当時は、まだ「株屋」と言われるような、お客様の利益よりも会社の利益を大事にするような社風でした。営業を1年やって、次に債券の仕事をやり始めたところでアメリカのビジネススクールに留学することになり、大和証券で3人目のMBA取得者になりました。その後債券のトレーディングシステムの開発や債券ポートフォリオ分析の仕事をやった後、大和証券債券部のチーフディーラーとして10年間、相場を張る仕事を務めました。債券部長になるまで十数年間同じ職場にいたのです。サラリーマンというのは転勤しながら偉くなるものと思っていたのですが、その後何とか役員になることが出来ました。
 大和証券の役員になったところで不祥事が起きました。最初は損失補填事件でした。当時は株取引で顧客に損失が起きた場合に、特定の大口顧客に損失を補填することは証券界では一般的慣行でした。従って、この時は大和証券だけではなく、証券業界全体を巻き込んだ事件として大騒ぎになりました。
 間もなく、お客様に発生した巨大な評価損を証券会社が隠すお手伝いをしていた、いわゆる「飛ばし」事件が明らかになりました。その時、大和証券は社長が首を差し出してその不正操作に伴う損失/責任問題を処理したのですが、その時に表に出さずに隠していた山一證券はそれが原因となって7年後に破綻しました。やはり何でも隠さず処理しなければならないということを、私は学びました。
 その後、総会屋への利益供与事件というのがありました。株主総会を平穏無事に終わらせるために、総会屋に不当な金品の供与を大量に行うのは当時証券界だけではなく、金融界や一般企業でも決して珍しくなく行われていました。その時は、大和証券も含め大手証券会社すべての会長、社長以下、代表取締役が経営責任を取って退陣しました。
 そのおかげで私は平取から常務に昇格してわずか3カ月後に急遽副社長になりました。必ずしも素直に喜べない状況で偉くなったことには、今でも違和感はあります。
 拓銀、山一がつぶれ、翌年には長銀と日債銀がつぶれるという金融危機の中で、次は大和証券がつぶれるという噂を流されましたが、代表役員として経営の改革を徹底し、何とか生き延びることが出来ました。
 さて、最近の株式市場は2年前から動き出したアベノミクスによって活況を呈しています。アベノミクススタート前は8,600円台だった日経平均株価は今、2万円直前まで来ています。証券業界はアベノミクスの恩恵を最も受けている産業ではないかと思っています。

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■市場動向

 世界と日本の株価の推移を見てみます。アベノミクスがスタートした2012年の11月14日から見ると、日本が最も上がっているかもしれませんが、去年の1月からの統計だと、中国が一番上がっています。そしてインド、ヨーロッパ、日本、アメリカとなっています。これらの国の株価は全部上がっていますので、株価は非常に堅調に上昇しているということです。
 株価が上がるということは、株を持っている人の資産の価値が上がるわけですから、株を持っている人たちの心が豊かになります。また個人で直接株を持っていなくても、機関投資家が株を持っています。機関投資家は、個人のお金を集めて運用を委託されている年金や信託銀行、投資信託などの団体や企業です。郵貯や簡保も今は株を買っています。 このように機関投資家は最終的に個人が出しているお金で買っているわけですから、株価が上がれば、直接株を持っていない人にもプラスになるのです。また、株が上がると、金融機関や保険会社の財務が安定し、保険商品や銀行預貯金の安全性が高まっていくので、間接的に大きなプラスがあるのです。
 株式時価総額の観点から株価を見てみると、アベノミクスのスタートした2012年11月14日の時価総額は251兆円で、昨日現在のそれは572兆円です。ですからこの2年3カ月で倍以上になっています。増えた金額は321兆円です。日本の株の20%は個人が直接保有していますので、64兆円が個人の懐を温めているということになります。
 最近の日本株の売買動向を見てみると、昨年は海外投資家が大量に買っています。海外投資家は4月までずっと大幅に買い越しています。それに対して個人投資家は、上がったら売る、下がったら買うという傾向です。そういうやり方を「逆張り」と言います。うまくいけば一番上手な株の売り買いの仕方です。機関投資家も、個人投資家と同じような動きをしています。昨年、年金基金の株式への投資枠が広がり、買い越しになっています。年金は個人投資家と同じような発想で運用しているように見えます。

■コーポレートガバナンス・コード

 最近、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)という言葉がよく聞かれます。これは金融庁と東京証券取引所がまとめた企業経営者の守るべき諸原則です。経営者が絶対権力を握っているような企業では、ガバナンスの問題が起きやすいといわれています。例えば、一般の会社では社長は人事権を持っているので社員は社長のイエスマンになりやすく、社長が間違った判断をしても反対意見を言えないということが起きやすいのです。そこで社長に人事権を握られていない社外の目を入れようということが、今回求められることになったのです。今回のコーポレートガバナンス・コードでは、東証1、2部上場企業は複数の独立社外取締役を選任することが求められています。社外の目を取締役会に入れることによって経営の間違いを少なくしようというのです。必ずしも絶対ではありませんが、イリーガルなことや凡ミスの発生を予防し、ブレーキや歯止めの役割を果たそうというのです。また良い経営方針だと思ったときには、それを奨励することも期待されています。つまり社内の論理だけで経営判断をするよりたような視点で経営を良くしようというのです。
 一方去年の2月には、政府(金融庁)その他によって、日本版スチュワードシップ・コードが策定されました。これは機関投資家に対してもっと物を言えということです。機関投資家は、個人から大量のお金を集めて運用しています。このため株主としての議決権を大量に持っているのですが、これまでは企業に対して経営上の注文を付けることはほとんどありませんでした。日本版スチュワードシップ・コードは、機関投資家に企業経営者との建設的な対話を通じて保有している株式の企業価値の持続的な向上に努めるように求めるものなのです。このように、日本企業が経営上これまで監視を受けてこなかったところを、内と外から監視して企業価値向上に繋げようという動きが出ているのです。
 こうした日本企業経営者の経営規律の向上に期待する外国の投資家は、日本企業の変化を大いに注目しています。日本株を売らずに継続的に買っているのも、こうした期待が背景にあるからなのです。直近の3月も相当買っていますが、あまり売っていません。
 ところで、実は日本の企業は世界的な比較でみればあまり儲かっていません。株主資本から生み出される利益率が低いと言われています。大量の資本を株主から預かっているのに、効率的に資本を使っていないということです。その点で見ると、外国と比べて二流国に近いぐらいの収益力しかありません。
 これは株主がおとなしいからなのです。日本では、企業は頑張っているのだから配当が毎年ちゃんとあればいいよという株主が多くて、あまり文句を言いません。しかし今は経営者がそのことに目覚めて、考え方が変わってきています。この変化に持続力があれば、恐らく日本の株式市場はヨーロッパやアメリカ並みの、株主にとって投資する価値のあるものに変わっていくのではないかと思います。

■株価指数

 「日経平均株価」というのは、1,800ある一部上場企業の中から代表的な企業225社を選んで、増資その他で株数が減ったり増えたりしたものを調整して計算したものです。それが今19,937円とかの数字になっているのです。
 東京証券取引所の上場会社は約3,400社ありますから、一部というのは大変選ばれた企業、信用度の高い企業の集まりと言えます。二部もそれに準じる企業です。また、成長過程にある企業のマーケットがジャスダックとマザーズで、新興市場と言われています。ソフトバンクや楽天も、初めはみんなジャスダックに上場していました。そして成長して今や東証一部でもトップクラスです。
 1989年には東証一部の銘柄は約1,200社でしたが、今は増えて約1,800社です。バブル崩壊後、過去25年間に銀行の合併が続いたことなど、東証一部上場銘柄数は減少要因もありましたが、それをはるかに上回るような新規の企業の上場によって、過去25年間で600社増えているのです。日本の経済成長はまだ止まっていません。
 かつてはソニーやパナソニックのような企業が急激な成長をして日本の経済を支えて来ており、今も勢いのある新規上場企業が次々に出てきて、日本経済を支えています。
 市場に上場するということは、株主が外部に出来るのでしがらみも増えます。外部株主がいる会社の経営は、一定の基準できちんと会計処理をして経営の情報を3カ月ごとに全部発表します。これが公開会社になるということです。
 その代わりに、資本調達が必要となると市場の投資家が資金を出してくれるので、それを上手に使えば企業がより成長していけます。成長する企業はみんなそうやってきています。
 次に代表的な指数が「TOPIX」です。東証一部の全上場1,800銘柄の時価総額加重平均株価です。時価の加重平均ですから、ある面ではよりマーケットを素直に映しています。全銘柄の動きを反映しているので、個別に勉強して投資をやりたい人にとっては面白味がありませんが、投資のことはよく分からないけど投資をしてみたいという人の入口としては非常に良いです。
 そして「JPX日経インデックス400」という指数があります。東証上場の約3,400社全ての中から一定の基準でランク付けして上位400銘柄を選び、その400銘柄で構成される株価指数です。この400社を選ぶ基準については、株主資本利益率と営業利益を重要な指標としています。この指数は世界の機関投資家からも高く評価され、急速に広がっています。

■おわりに

 今後とも、日本から資本市場がなくなることはありません。株式会社を中心にした企業活動が日本経済の大半の付加価値を生み出しています。その付加価値が経済取引を通じて無数の経済主体に移転しているのです。企業で働く個人の所得は、企業のコストとして企業活動から生み出されます。企業の支払う法人税や個人の支払う所得税、消費税を含む幾多の税も、元々は企業の経済活動により生み出されたものが伝播していると考えることもできるのです。個人が、野球やテレビや映画を見たり、新聞や雑誌を読んだりしていることは芸能人の所得になったり、野球選手の所得になったりして分配されているのです。
 国の成長と繁栄には、企業活動がとても大事です。またその企業が成長するための燃料としての資本を提供し、チャンスを与えられるのは証券市場だということを皆さんにご理解頂きたいと思います。

<新入会員歓迎会>

 講演会終了後、新入会員歓迎会(懇親会)が開催され、過去最多となる200名(うち新入会員が58名)の参加があり、盛会のうちに終了しました。

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大須賀会長 ご挨拶

IMG_7138.JPG新入会員への激励の言葉(清田副会長)

IMG_7141.JPG乾杯(清田副会長)

IMG_7152.JPG東京修猷会の紹介(土肥幹事長)

IMG_7157.JPG新入会員代表挨拶

IMG_7165.JPG福岡総会案内(S61年卒)

IMG_7169.JPG東京総会案内(H1年卒)

IMG_7171.JPG館歌斉唱

IMG_7178.JPGご挨拶(伊藤副会長)

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IMG_7044.JPGH27年卒 集合写真

IMG_7048.JPGH26年卒 集合写真

(終了)