第600回二木会記念大会講演会記録

『日本の未来への提言』

講師:長谷川閑史 氏 (昭和40年卒)

■開会のご挨拶と講師紹介

○喜多川 おかげさまでこの二木会も昭和29年に始まり、今年で60年目を迎え、第600回を数えるに至りました。これもひとえに諸先輩方のご尽力と館友の皆様方の暖かいご支援のお陰に他ならず、この場を借りまして厚く御礼を申し上げます。また、本日は370名の事前登録があり、非常に多くの館友の皆様にお集りいただき改めて感謝申し上げます。
 さて、本日のご講演は600回記念にふさわしく、現在 経済同友会代表幹事を務めておられる昭和40年ご卒業の武田薬品工業代表取締役社長 長谷川閑史(はせがわ・やすちか)様に「日本の未来への提言」というテーマでご講演いただきます。
 ご講演に先立ち、講師の長谷川様のご紹介をさせていただきます。長谷川様は昭和21年に山口県でお生まれになり、修猷館入学のために福岡へ移られ、昭和40年に母校をご卒業後早稲田大学政治経済学部に進まれ、昭和45年に武田薬品工業株式会社に入社されました。昭和61年からは海外の子会社の社長を歴任され、平成10年に本社医薬国際本部長、平成11年に取締役に就任され、その後、経営企画部長、事業戦略部長を経て、平成15年に代表取締役社長に就任されています。平成23年からは公益社団法人 経済同友会代表幹事を務めておられ、日本を代表する経営者として幅広く活躍されておられることは、皆さんご存じのとおりです。本日は非常にご多忙の中、無理をお願いし、東京修猷会のためにお時間を取っていただきました。

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■長谷川閑史 氏 講演

○長谷川 思い起こせばわが人生、開き直りとくそ度胸で生きてきたかなと思いますので避けるわけにもいかず、今日はこのようなかたちでお話をさせていただきます。

■はじめに

 今、世界では技術革新に負けないほど環境変化が生じており、三つの大きなパラダイムシフトが起きています。一つ目は人口動態の変化です。二つ目は、経済の成長が先進国から新興国に大きくシフトしているということです。三つ目は技術革新に関して輸送手段や情報交信の時間の大幅な短縮により世界はフラット化しつつあるということです。国家でも企業でも、このような時代にはリスクを冒してでも挑戦をしないと、何もしないことが最大のリスクを取っているという結果になりかねません。

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■人口動態

 世界の人口は1950年には25億人でしたが、2011年に70億人を超え、2085年ごろにはピークを迎えて100億人を超えるだろうと言われています。経済が発展し1人当たりのGDPが増え生活レベルが上がっていくと人間は子供を産まなくなります。それは親は子供により良い生活をさせたい、そのためにレベルの高い教育を受けさせるには高いコストがかかる、親も便利な生活をエンジョイしたい、となると多くの子供を育てる余裕がなくなるわけです。農業に従事していた昔は、子供がいれば人手が増え、丁稚奉公にも出せるといった時代背景がありましたが、今は全然違ってきていて、人口は100億人をピークにそれ以上は増えないと言われています。
 先進国の人口は既にピークアウトをして、もう減少傾向に入っています。一方で新興国や途上国と言われている国々は人口が増え続けています。その中で、アジアの場合は医療の改善で寿命が長くなり人口が増えており、それももうすぐピークアウトするだろうと予想されています。注目すべきはアフリカ大陸の場合で、広大な土地に加え人口爆発を迎えようとしていて、世界の人口増加のほとんどはアフリカが占めています。

■経済成長の停滞

 2000年には新興国全体のGDPは世界のわずか4分の1でしたが、2010年には約4割を占めるようになっています。これが2018年には5割ぐらいを占めるようになるのではないかと言われています。
 世界の総GDPは2000年には33兆ドルでした。これが2010年には倍になり、2018年には約3倍になるとされています。一方、日本では長いデフレに苦しみ、GDPはほとんど増えていません。2000年の日本のGDPはまだ一カ国で世界の14.5%を占めていましたが、2010年には8.6%になり、このまま行けば2018年には6.1%しか占めなくなります。一方、例えば中国は2000年には3.7%だったのが2010年には9.3%になり、この調子で行けば2018年には14.2%になるということです。既に総GDPでは2年前に中国に逆転されています。日本の経済は停滞していてその間に世界は成長していますので、相対的な日本の地位は低下してきているという2番目の大きなパラダイムシフトが起きています。
 どこの国でも経済の成長と人口の増加というのは両方同時に起きるケースが多くて、それを「人口ボーナス」と言う人もいます。日本は経済の成長の停滞と人口のピークアウト、少子高齢化が同時並行で進んでいます。それらに加えて食料やエネルギーも多くを外国に頼っています。化石燃料は98%ぐらいを海外から購入しないと賄えませんが、特に原発が止まってしまった後は莫大なお金を払っています。経済が成長していない中でそのような状況ですから、当然のことながら貿易収支にも赤字が起きて、経常収支にまで赤字が及ぶ状況になってきています。
 まさに日本は課題先進国ということになっていますが、アジアの国々は日本のすぐ後に来ていますし、ヨーロッパの国々もそう遠くないうちにこのような状況に達します。アフリカといえども人口がピークアウトした後はどこの国でも必ずそのような状況を迎えます。そうすると、それに合った社会システム、インフラ、ソフトウエア、ロボットなどを早く開発してシステムとしてつくり上げることができれば、日本はそれを商売にできるということになります。ですから、必ずしも悲観したものではなく、見方を変えれば「ピンチはチャンス」と言えるかもしれません。

■国の存在力

 私は、国家の存在力というのは多分三つか四つの要素で支えられているのだと考えます。一つは当然ですが経済力です。もう一つは軍事力、三つ目は政治力であり外交力です。さらにそれに加えて文化力があると思います。過去に日本の国力がピークのときは、やはり日本と話をしなければビジネスも成り立たないということで、ジャパンパッシングなんてことはあり得ませんでしたが、今の状況で日本は今後どうやって国力や存在感を維持していくかが問題になります。
 第二次世界大戦後、いわゆる平和憲法というのができて、攻撃の兵力は持たないという専守防衛を憲法で定めた日本が、軍事力で存在感を示すことはあり得ません。そうなると日本は経済力しかなく、さらに重要になります。文化の力として、日本のコミックやコスプレがヨーロッパやアメリカではやっていますが、まだ大きな潮流というほどのものではなく、むしろ韓国の方が国家戦略的にうまくやっています。
 国の存在力とは少し違いますが、今、世界の先進国の中で問題を抱えていることが多い人口3千万人以上の国々の中で、比較的うまくいっている国と日本との違いは連邦制の有無ではないかというのが私の一つの考え方です。連邦政府は例えば外交などに集中し、地方に自治権や予算権を移譲してお互いに競い合わせる連邦国家のほうがうまくいっている気がします。日本で言えば地方分権です。中央から指示をしてうまくいっていた高度成長時代は終わり、学校教育も含め独自性をつくらなければリーダーや突出した人間といった人材の育成はできず将来の展望も開けません。
 今、日本は過渡期というか、変革期に直面していて、中央は痛みや負担の再配分をしないといけない時代に来ているのにもかかわらず、相変わらず富の再配分をしています。例えば社会福祉ですが、日本の給与所得者は税金と社会保障の費用の拠出に収入の4割を使っていると言われ、国民が平均的に受益している社会保障費は給与所得の5割であり、その差の10%をずっと赤字国債で埋めているのが実態です。1990年以降の予算項目で増えているのは社会保障費用だけで、あとは公共投資も含めて全部減っています。このシステムを国民も持続性のないシステムであることを理解し、痛みを分ち合い、削るところは削り、自分でできることは自分でやりこの状況に歯止めをかける必要があります。

■財政赤字の解決

 日本の存在感を復活させて高めていくためには経済成長が必要なのですが、日本が抱えているジレンマの一つは財政の大赤字です。GDPの200%に及ぶ累積債務を国家が抱えているというのは先進国には例を見ず、スペインやギリシャでさえGDPの140%程度しかありません。日本の過去を見ても、終戦直後の壊滅的な経済状態以外にそれだけの債務を持ったことはありません。
 それを解決するには、一部の緊縮財政はもちろん、一時のカナダやニュージーランドに学び三つの要素をバランスよくやるしかないと思います。一つはマイルドな経済成長を続けることによって相対的な赤字の比率を下げていくことです。もう一つは歳出の削減、もう一つは歳入の増加を図るということです。この三つをバランスよくやらないと、経済成長と財政再建という二つの相矛盾する要素を両方解決する方法はないと思います。
 ハーバード大学のアルベルト・アレシナ教授が、破産状態に陥った国の成功した例と失敗した例を分析したら、歳出削減と歳入増加について、両方を合わせて10としたとき、歳出(予算)削減を7、歳入(国民の負担)増加を3というのが国民が納得するボーダーラインになるということでした。絶対ではありませんが、多分それに近いことなのだろうと思います。
 よって経済成長はマストですが、歳出の削減もマストであり、同時に歳入の増加のための増税もマストです。それについては、景気の変動に左右されやすい法人税や個人所得税よりは、間接税である消費税のほうが安定的な税収が得られ、ヨーロッパの先進国もそれにより成功しています。

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■経済成長の要素

 理屈で言えば、経済成長には三つの要素があります。一つは投下する労働人口の問題です。二つ目は国内の投資家が投下する資本と海外からの海外直接投資をいかに増やしていくかということ、そしてもう一つはイノベーションの源泉となる1人当たりの全要素生産性をいかに上げていくか、ということです。
 それに加えて今の日本がやらなくてはならないことが二つあると思います。一つは、復興特需を経済の安定成長へのスプリングボードに使っていくということです。復興の予算は25兆円です。これは複数年度にわたって使うのですが、政府の税収が、アベノミクスでボトムの40兆円ぐらいから今年度は51兆円ぐらいに回復するだろうと言われており、その半分に当たる巨大な投資が累積で東北地方にされるのですから、これを将来につながるかたちで使っていくことが大事です。
 それと同時に、われわれの周辺には中国をはじめ東南アジアにも相対的に日本より高い成長をしている国があり、アジアには向こう10年でインフラ投資に円換算で1,000兆円ぐらいのニーズがあるのではないかと言われています。その社会インフラというのは、例えば高速鉄道や高速道路や上下水道や発電所など日本が得意としているものです。官民がうまく協力してそこにインフラ投資をしたり、企業が自ら出ていってそこに投資をし、消費者に近いところで生産・サービス提供を行い、その国の経済成長に貢献して、その富の分け前を日本に持って帰ってくることが短期的には手っ取り早い方法だと思います。
 労働人口については、人口を維持しようと思えば合計特殊出生率が2.1ぐらいないといけないと言われていますが、今の日本はそれに程遠い1.4ぐらいです。カナダ・ニュージーランド・オーストラリアと行った先進国はそのような状況に直面したときに移民を受け入れました。ところが日本では拒絶され難しいため、一体どうするのかを真剣に考えなければなりません。労働人口が減っているのなら1人当たりの生産性を何倍にも上げたらいいと思う人もいるかもしれませんが、高度成長のときとはビジネスモデルが違ってきている現在ではそれはおよそ不可能なことです。今は自分たちで新しい産業を興し新しい技術を開発してつくっていかなければならないのですが、起業率は先進国の中で一番低いというのがこれまた日本です。これからは先進国の中でも格段に低い対外直接投資割合の問題も含めて、いろんなところに全部きちんと打つべき手を打っていくことが大切です。労働人口についても安倍総理が盛んにおっしゃっていますが、女性の労働参加率をとにかく上げるということ、それから年を取っても元気な間は給料が半分になっても働いてもらうということをやらないと日本の成長はなかなか維持できないだろうと思います。私はドイツで3年、アメリカで10年仕事をしましたが、ヨーロッパの人もアメリカの人もいかに早く金を儲けてリタイアするかということに一生懸命でした。日本はそうではなく、年を取っても必要とされるのだったら給料が下がってもいいから働きたい、という人がけっこういます。これをうまく活用しない手はありません。だから皆さんは元気な間は働かなければならないのです。そうしないとこの国は持たないという時代に私たちは晩年を迎えており、それを不幸と思うか幸せと思うかはそれぞれの人生観です。老老介護も当然必要でしょうし日本の社会性なら可能だと思っています。こういう他の国ではできないことを私たちはお互いに協力し合ってやっていくことを考えなければならないと思います。

■制度改革

 全ての経済の成長のファクターの根底にあり、やらなければならないのは制度改革です。既得権益を守ることによって参入障壁を高くして競争をできないようにし利益を守るという制度を変えていかないといけません。競争がなければ強い企業、強い人、強い組織は育たないというのも一つの真実です。
 前述の通り、先進国の中でうまくいっている国は連邦制を取っているから、というのが私の見方です。それは日本で言えば地方分権だと思います。いまや交付金を同じように地方に配ってやる時代は終わったと思います。一説によると、国と地方の税収のうち6割を国が、4割は地方が集めていて、使っているのは地方が6割、国が4割ということです。この差の2割を交付金というかたちで中央から地方へひも付きで渡し、地方の無責任体制をつくってしまいました。昔は地方は東京になることが夢でしたが、今は地方独自の産業や、その地方のニーズに合った福祉をしていかなければいけない時代であり、中央からのひも付きの交付金で箱物をつくる時代ではなく、地方自治、地方分権にしないとこの国の将来はないと思います。地方分権をやるときには交付金を削ってしまっても駄目で、予算と権限と人材の三つをセットで渡すくらいの大改革をやらないとうまくいきません。
 日本は技術立国であり技術の基はやはり全て人材です。これからの日本のニーズ、世界のニーズに合う人材をどうやって育てるかも大切です。そのために本気になって教育改革をしないと日本は本当にずるずると沈下していくことになりかねません。私は産業競争力会議の雇用・人材分科会の主査をやらされていて、そこで大学改革についても随分提言しました。職員の数や生徒の数ではなくパフォーマンスに応じた助成金交付を行うことで競争関係をつくらないとなかなか本気になっていただけないと思います。マーケティングの先生が、一番大事な自分の生産物である学生がニーズに合っているかどうかマーケットリサーチもしないで、十年一日のごとき教育をして、そして就職ができないとか留学生に競争で負けたとか言って嘆いています。こんなことを恥じないのでは駄目なのです。昔は企業が一生懸命に育てたのですが、今はグローバル化のスピードに間に合わないので余裕がありません。それに、今は大学生も他の大学の日本人学生だけではなく、日本に来ている留学生とも競争しているのです。また多くの企業は周辺国の主要大学に直接採用に行っています。そこには多国語を自由にビジネスに使える学生がたくさんいるのです。
 安倍政権の第三の矢がうまくいくのかどうか、海外から今はその瀬戸際と見られています。成功するには、本当に必要な構造改革をやり通せるかどうかだと言われています。そのシンボルが農業、医療介護、雇用労働の改革です。第4の矢と思われるTPPは今、漂流しかけていますが、初めから高いレベルで関税の障壁を撤廃するということが前提です。経済連携協定のパートナー国との日本の貿易はどんどん減っており、もともと自由貿易の恩恵を一番受けてきた日本が自由貿易のチャンピオンでなければいけないのに、いまや逆になっていることを考えると、ある程度国民に犠牲を強いるけれどもその犠牲を緩和するためのちゃんとした段階的な緩和策を実行していくことによって納得してもらい一刻も早く解決しなければいけないと思います。農業についても、日本の技術は確かに個々には強いかもしれませんが、外国との競争になると、効率性では弱さがあります。やはり国内の農業を大規模化して生産性と競争力を高めることが必要だと思います。漁業についても競争力を高めるためには個別では無理があり、ある程度の規模をつくらなければいけないという状況にあります。

■創造性

 今、世界の多くの国々は起業ができるだけ多く起こるようにいろんなインセンティブを取っています。その中で一番有名なのは、皆さんもご承知のようにパロアルトであり、もう一つはイスラエルです。イスラエルはアメリカ以外の国でナスダックに上場している企業の数が一番多い国なのだそうです。
 パロアルトとイスラエルの共通点を私の独断と偏見で考えてみます。パロアルトには80カ国以上の人が出入りしていて、そこでさまざまな考え方ややり方が交錯しています。それが衝突をしたりフュージョンを起こしたりして創造性が発揮されているのが強みです。そしてそれを取り巻くエコシステムができています。そのようなものが日本にもできないと、日本人だけで「ベンチャー1000社計画」とかをやってもなかなかうまくいかないのだろうと思います。イスラエルは戦後に人工的に作られた国で、ディアスポラで世界中に散り散りになっていた民族が唯一の共通項のユダヤ教により国に帰ってきたのですから、人種も考え方も文化も違う人たちが集まって同じような環境の中で衝突を繰り返して創造性を生み出しています。日本でもそのように日本人だけではなくて、刺激を与えてくれる異分子を外から入れてその中から創造性を刺激するということを考えていかないと多分なかなか急には変わっていけないのだと思います。
 私事になりますが、私は武田薬品の社長の後任にフランス人を任命しました。物事というのは、論理や理屈で考えて当然の帰結として導かれる結論をいかに粛々と障害があっても実行するか、その実行の部分が一番難しいのです。前の成功体験に縛られたり、また自分の既得権益やポジションへの固執などさまざまなものがあり、それをどうやってぶち抜くかはリーダーに掛かっています。今の武田が国際的に競争力のある会社になるためには、残念ながら日本人だけでは主な部門の長を務められる人は足りないと判断し、それならばグローバルなスタンダードのタレントを持ってきて、まずはやってみせてもらい、それをロールモデルとして日本人にキャッチアップをさせるという戦略を取って、その究極の選択が後継者にフランス人を選んだということです。われわれが大事にしている経営の哲学は「常に誠実であれ」ということです。それを「公正」「正直」「不屈」という三つの要素に分けていますが、本社の問題とこの武田の精神に共鳴してそれを守って日々のビジネスに生かしてくれるということを固く誓ってくれた人だから採ったという部分もありますが、私も後1、2年はそのフォローアップをして皆さんにも安心してもらってバトンタッチできれば一番いいと思っています。

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■最後に

 宇宙が誕生して地球ができ、その中で生命が生まれ様々な生物が誕生と進化と滅亡を繰り返してきて、その頂点にあるのが人間だということです。そうであるなら、その人間にのみ与えられている特徴を最大限に生かすのがわれわれの使命だろうと思います。人間に与えられた特徴の中で特に私が一番大事に思っているのが、自ら目標を定めてその達成のために常に努力をするということです。成功するかしないかは努力と運と才能で決まり、それは、努力7割、運が2割、才能が1割だというのが私の理論です。志の実現に向けて努力を続けることは何にも増して大事なことだろうと思いますが、ただそれを最大限に生かせるかどうかはその人次第です。
 リーダーの役割というのは、私なりの定義でいけば、自らの率いる組織やグループのミッションを実現するための5年後とか10年後のあるべき姿のビジョンを設定し、その実現に向けて自らの従うもののベクトルを合わせて最大限の力を引き出し、最高の結果を持続的、継続的にもたらすということだと思っています。
 もう一つ大事なのは、企業、組織は社会の公器であるということです。常にあまねく公の視点を忘れないでその存在目的を徹底的に突き詰めれば、自分たちのやっていることが必ず社会や人の役に立つようにつくられているということです。全ての人類はそのようにつくられていると思うほうが心安らかだと思います。従って常に自らの志を達成するために努力をするようにつくられていますし、それをやらないのは産んでくれた親に対する忘恩であると思っています。
 先ほどの人類の歴史とか地球の歴史に戻ると、チャールズ・ダーウィンの進化論にも言われていますが、生物の進化の歴史を見ても決して最も強いものや賢いものが生き残ったのではなくて、最も賢明に変化に対応したものが生き残っているということです。これは人間でも企業でも一緒だろうと思います。常に努力をして、チャンスが来たときにはそれを本能的に感覚的に分かってつかめるような状況にしておかないと、チャンスはあっという間に逃げていきます。
 最後に、英語のギフトには、贈り物という意味と、もう一つは才能とか適性という意味があります。He is a gifted personと言えば、非常に才能に恵まれた人だということですが、私は才能に恵まれている人たちが修猷館に行ったのだと思います。皆さんはgifted peopleです。恵まれた人たちなのです。だったら二つの使命があると思います。一つはギフトの涵養(かんよう)ということ、与えられた能力を最大限に活用するために常に自分を磨きあげるということです。もう一つはギフトの循環ということで、自分の知識、経験、能力を人や社会のために、あるいは後進のために役立てるということです。この二つをやることが多分義務付けられているのだと思います。

(終了)