第596回二木会講演会記録

『世界で戦う日本の建設機械産業』

講師:木川理二郎 氏 (昭和41年卒)

■講師紹介

○中村 木川くんとは高校3年のときに初めて同級生になりました。なぜか馬が合いました。文化祭では太宰治原作の「カチカチ山」で彼がウサギで私がタヌキを演じ大変盛り上がりました。体育祭のときは、スタンドの警備係を彼と2人でやり、西新に晩飯を食いに行って、スタンドに寝袋を持ち込んで2人で満天の星を見上げながら夜通し語り合ったのを覚えています。

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 彼は九州大学の工学部に現役で通りました。私が浪人生活の間も、月に2回ぐらい長文の手紙をお互いにやり取りし彼はずっと私のことを励ましてくれたり相談に乗ってくれたりしてくれました。今でもそのことで彼に感謝しています。大学卒業後は、彼は関東に行き私は九州でしたのでなかなか会う機会がなかったのですが、縁というのはすごいもので、私はその当時、福岡から佐賀の病院に1週間に1回当直(産婦人科医)に行っていて、彼の奥さんが里帰りして佐賀の病院で産気づいたときにあたり、私が彼の息子を取り上げました。

 彼が日立建機の中国の子会社の後、本社のトップに上り詰めたということで、びっくりしたと同時に大変喜びました。それは多分彼の実力なのでしょうが、彼は上司や同僚からとても愛されますし部下からは慕われます。大変まじめで優しいです。そして大変気配りのできる男なので、多分そういうこともトップに上り詰めた要因じゃないかと私は想像しています。

■木川理二郎氏講演

○木川 私は二木会には初めての参加です。41年卒業よいよい会の堀さんから電話があり、「絶対に断れないからね」という一言でやらせていただくことになりました。

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■はじめに

 今日は、当社、日立建機の話が中心になりますが、それは宣伝ではなく、日本の建設機械業界というのは早い段階から世界に展開し、厳しい世界競争の中で闘っています。私共の話を聞いていただくとこの業界の動きが一応ご理解いただけるだろうと思います。

■日立建機について

 日立建機は、日立製作所グループに属し、グループ全体の8.5%の売り上げ、営業利益で14%を占める位置にあります。

 当社は、私が入社した1970年に設立されました。建設機械が77%、鉱山で動く大きなダンプトラックと油圧ショベルが21%という製品構成になっています。今、私共は、マイニング(鉱山)事業とソフト(ソリューション)事業を特に強化しようとしています。

 建設機械の中で、日本勢が世界の技術のマザーになっているのが油圧ショベルです。当社は1965年に純国産技術の新しい油圧ショベルを開発し、それが当社のルーツになっています。この1号機は2011年度に日本の機械遺産に認定されて当社で展示しています。

 油圧ショベルというのは、「掘る」だけではなく、「吊る」、「運ぶ」という機能であらゆる現場で活躍することができます。その三つの機能は人類が地球上に誕生してからずっと必要とされてきたもので、人類が生活をしていくために必要な機能です。

 当社は世界を、米州、欧州・ロシア・中東、日本、中国、インド、アジア・オセアニア、アフリカという七つの地域事業に分けています。1985年のプラザ合意で急速に円高が進み、日本からの輸出ではなく現地生産を拡大してきました。現在は75%が海外事業からの売り上げになっています。これからのテーマとしては、本当の意味でのグローバル化を目指すということと、もう一つは事業全体の最適化を目指していくということです。

 日本の位置付けは先端技術開発を継続し、機械を構成する重要なユニット、エンジンや油圧機器などのキーコンポーネントの生産をやり続けます。そのコンポーネントを海外に輸出し、油圧ショベルやダンプトラックという製品に仕上げていくという事業分担をして日本の産業を残していこうと考えています。

■建設機械業界の概要

 この建設機械業界ではアメリカのキャタピラー社が巨大で、小松製作所が2番目になります。この2社は、すべてのジャンルで製品を持っています。当社は油圧ショベルと鉱山機械に特徴を持っており、2006年に世界で6番目の位置にいましたが現在は3番目になっています。3番の当社は、海外事業比率は75%ですが、まだ他社に比べて北中南米のように弱い地域があり、更に強化するためにロシアやブラジルの工場を積極的に推進していこうとしています。

 私共の主要製品である油圧ショベルの世界需要ですが、2001年には新興国比率で27%でしたが、今は8割が中国をはじめとする新興国でのマーケットになりました。トレンドとしては新興国の比率が上がっていくと思います。 今後も新興国が豊かになっていこうとすると必ずインフラが必要になり、そこには工事用の機械が必要になります。そしてそのためには資源やエネルギーが必要になり、そこには必ず鉱山開発が出てきます。したがって、建設機械産業は長期的に成長産業であると考えています。

 ところが一方では、景気の変動を大きく受けてしまう業界でもあります。私は2006年から12年まで社長をやっていたのですが、最初は順調でしたが、が2008年のアメリカのサブプライムローン、そしてその後のリーマンショックで世界中の建機需要が一瞬にして消えてしまいました。その後は世界中に増えた在庫をどうするかという地獄の2年間でした。ところが、リーマンショックの後に中国が4兆元(日本円で50兆円)の財政出動をしましたので、中国でのインフラ投資が急激に増えて、急激に建機需要が増加しました。そんな中、2011年3月11日の東日本大震災が起きました。そして震災の復興を果たしてやっと動き始めたと思ったら、今度はヨーロッパの金融危機と中国の成長抑制で、急激に建機需要が落ち込むという激動の6年間だったと思います。このように、私は部下に「想定外が起こることを想定しておけ」といつも言っていますが、成長もしますが変動も激しい事業だということです。

 直近の課題としては環境規制があります。私共はディーゼルエンジンを使っていますおり、特に先進国でそれから出る排気ガス規制があります。この規制ハードルは大変高く、そのレベルはこの辺の大気よりきれいで、私共の車の排気ガスのところで深呼吸をしても大丈夫なくらいです。しかし一方で、新興国では精製レベルが低い軽油しか手に入りません。先進国の規制に対応したエンジンに粗悪な燃料を使えば、エンジンは一発で壊れてしまいます。そのため、先進国向けのスペックと新興国向けのスペックをきちんと分けないと世界全体のマーケットをカバーできません。

 業界の課題とキーワードは各社共通になると思います。一つは、圧倒的な技術革新で需要をつくりだし、新たな市場を作り出すということ、そのためにお客様にとって価値の高い製品(未来的にはガンダム?)を生み出していくということです。技術については、オープンイノベーションで、いろいろな知的ノウハウを共有してそれらを取り入れなければならなくなっています。もう一つは、製品が生まれてから最後に地球上のどこかでなくなるまでの間のいろいろなチャンスをすべて取り込むことがこれからの課題になります。

 それから、全世界での展開のポイントは、いかに現地に密着した戦略、製品構成、商売のやり方をやっていくかということです。一番基本になる経営基盤は、極力オペレーションを現地化していくということです。それは、当然ITとかICTを徹底的に使い込んで標準化を進めていくことが課題になっています。

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■日立建機の経営計画

 当社では「2020 VISION」というのを掲げています。日立建機の人間の企業行動規準を示すのに開拓者精神の「Challenge」、お客様に誠を尽くす「Customer」、風通しをよくする「Communication」という三つのCを基本に置いた「Kenkijinスピリット」という言葉を使っていますが、あらゆる事業分野で「Kenkijinスピリット」を浸透させ一体となって目標に向かっていくことが当社の2020年におけるこの業界での生き残りの条件だとはっぱを掛けています。

 私共は事業ドメインを、「ハード(製品)」と「地域」と「ソフト(ソリューション)」という三つの軸で明確化し、その中で六つの戦略テーマを掲げています。

 その戦略の概略です。まず「ハード(製品)」の軸については、日本では先端技術を研究開発し、海外では現地のニーズに合ったスペックを開発する。先端技術については、省エネ電動技術を用いたハイブリッド建機、地震の後のがれき処理でも活躍した双腕建機を開発しています。

 「地域」戦略については、日本では機械を「買いたい」、「借りたい」、「直したい」というお客様にワンストップで対応できる体制を構築しています。アジア・大洋州は当社の重要なマーケットです。ASEANというのは、今後、大変成長すると言われていますし、私共はその中でも資源・林業などのマーケットが拡大しているインドネシアに積極的な展開をしています。

 「ソフト(ソリューション)」については、製品を世の中に出すと、ファイナンス、アフターサービス、レンタル、それから部品、部品の再生、中古車にしての再販、そしてそれらが回って最後にスクラップになります。これらのチャンスをきちんとすべての地域で我々のビジネスに取り込んでいこうということで、ここには無限の領域があると考えています。

 次に強化している鉱山機械(マイニング)事業ですが、足元は少し不安定になっていますが、このマーケットは価格の変動が大きいという問題もあり、少し不安定になっていますが、将来は伸びる事業だと考えています。

 経営基盤ですが、今、従業員は2万名ぐらいで、海外の人の比率が半分以上の51%になっています。今私が述べたような展開を今後していくと、特にアジア・大洋州、ロシアでサービスのメカニックが必要であり、海外従業員は今後も増えていくだろうと思います。そうすると、人種や性別や宗教の多様性(ダイバーシティー)を受け容れた人材の育成の教育プログラムを整備していく必要があります。また、これからは現地のマネージメントを根付かせるための後継者育成プログラムをつくることが大切だと考えています。しかし何でも自由に、というのではなく、「Kenkijinスピリット」という日立建機の行動基準をきちんと守ったうえで自由にやってくださいという権限移譲を進めます。私はアベノミクスではなくキカワノミクスの三つの矢を考えています。一つは、コアコンピタンスです。これは技術開発です。それから、バリューチェーンです。そして三つ目は、全地球規模での展開をやっていくということです。そのためには人材とITの基盤をきっちり積み上げなければできないということです。

 成長の段階が終わりました。ここで私は社長を降りました。次は成長の促進となるステージで2020年の東京オリンピックが4本目の矢になります。東京オリンピックでは私共は建機業界の金メダルを獲得したいなと思っています。

大変雑駁(ざっぱく)な話で申し訳ありませんでした。ありがとうございました。

■質疑応答

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○?? 建機類の遠隔操作とか無人化技術というのは日立建機さんではご研究をされているのでしょうか。

○木川 積極的にやっている分野です。古い話になりますが、雲仙普賢岳の土石流災害のときの復興に建機が随分入りましたが、あれは全部無線でした。それが起点になっていて、その後も技術開発は続けています。直近では福島原発のがれき処理があります。あれにはいろいろな建設機械が入っていますが全部無線です。

 それから、ダンプトラックの無人運転の研究に取り組んでいます。今、自動車の自動運転が話題になっていて基本的にはそれと同じなのですが、建機の場合は極めてハードルが高くなります。使われる環境が、道路がないとか、粉塵(ふんじん)や気温の問題があります。我々も積極的に研究をやっています。

○安田 同期の安田です。中国で6年間社長をやられたということですが、中国でのビジネスについてどうお考えでしょうか。

○木川 本当に「アッと驚く為五郎」という毎日でしたが、結局、そんなに難しいことではなく、一緒に飯を食ったか、乾杯(カンペイ)をやったかで友人関係がだいぶ変わりました。それについては一生懸命やりました。

 当初は販売もやったのですが、売りにいってサインをしてくれても金を払わないのです。そのようなびっくりすることがたくさんありました。ただ最近、私が思うのは、世界中で日本もかなり特殊かもしれないということです。でも日本はいいところです。

(終了)