第592回二木会講演会記録

『福岡県の発展戦略 ?「県民幸福度日本一」を目指して?』

講師:小川 洋 氏 (昭和43年卒)

■講師紹介

○大友 私は同級生として2年前の福岡県知事選挙を手伝った関係で今日は彼の紹介をさせていただいています。小川くんは、通産省に入り、長い国家公務員生活の後、いろんな困難を乗り越え、知事に就任。今の小川くんがあります。今日は新入生の歓迎会だそうですが、彼は新入生の皆さんの門出を祝うにはぴったりの背中を見せられる先輩だと思います。

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■小川洋氏講演

○小川 2年前の秋に母校で講演をさせていただきました。今日出席されている新入生の方が2年生のときで、今日はそのときに参加された方がいらっしゃるかもしれません。

■地方政府の役割と福岡県の取組み

 私は地方政府の役割が三つあると思っています。一つは「雇用の場の確保」、2番目は、額に汗して頑張った人が報われるような「県民が幸せを実感できる生活」、3番目は、自治体の身の丈に合った「日本及び世界の国への貢献」ということです。

 知事に就任するにあたり、改めて福岡県の強さと魅力を整理してみました。一つは「西日本屈指の人口と経済力」を有していることです。人口は今508万人です。それから「多様な産業と研究機関、教育機関の集積」があるということです。1次産業から2次、3次とバランスの取れた産業構造を持っています。また学生数は全国8番目で優秀な人材を多く抱えています。それから、成長発展著しい「アジアとの交流の歴史と実績」があります。また「インフラの整備(空港、港湾、高速道路等)」が進んでいます。

 これらを活かして、私は二つのことをやろうとしています。一つは福岡の持てる強みを最大限発揮して福岡県を元気にする、「元気を西から」ということです。昨年7月に九州北部の集中豪雨で大きな被害がありましたが、ここの復興を成し遂げて、そして東日本大震災後の東北地方の復興も含め、日本の国力の維持増進の一翼を、福岡県が担っていきたいと考えています。もう一つは、県民の一人ひとりがこの福岡県に生まれてよかった、生活してよかったと実感できる「県民幸福度日本一」の福岡県を目指したいと思っています。

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■日本及び県経済の状況

 マクロの日本経済と県経済の状況を整理してみると、ほぼ一緒の状況です。日銀総裁の黒田さんは大牟田出身で私も知っていますが、4月4日に日銀の新たな金融緩和策の発表があり、昨年の12月の安倍内閣の登場以降、円安株高の傾向が進んできていて景気回復の期待が高まってきています。これを期待だけではなく、個人、企業、地域が頑張って現実のものにしていくことが必要です。

 福岡県の25年度予算では、県民生活の「安定」と「安全」と「安心」のこの三つを向上させて「県民幸福度日本一」の福岡県を目指す政策を展開しています。

 1番目には、国の予算等を活用して、「景気、経済、雇用対策」の施策を重点的に展開したいと思っています。2番目には、昨年7月の集中豪雨で災害に見舞われましたので、「安全・安心で、災害に強い福岡県づくり」に取り組みます。この中には治安の維持、向上も含まれ、暴力団対策を一生懸命にやっています。そして3番目には、さまざまな問題を抱えている県民の皆さんに向き合って、「誰もがいきいきと活躍できる社会」をつくっていきたいとしています。行財政改革にしっかり取り組み、メリハリを付けた予算配分にしています。

 私は着任以降ずっと積極予算を組み続けています。これは、経済を元気にし、税源を涵養(かんよう)して将来の税収等につなぐためです。これから、景気・経済対策として、その予算をしっかり執行していきます。

■グリーンアジア国際戦略総合特区

福岡県と北九州市・福岡市の両政令市が共同申請をして、一昨年の12月に国の「グリーンアジア国際戦略総合特区」の指定を受けています。

 福岡県は、公害問題を克服した技術、ノウハウがあります。そして、自動車、半導体、ロボットといった環境性能の良い製品の製造業を持っていて、その集積があります。また、大学も多く、その研究成果を誇っています。それから、アジアと距離的に近いネットワークを持っています。それらを最大限に活用していこうということです。

 政府の成長戦略は、環境を軸としたグリーンイノベーションとアジアの活力を取り込んで、ともに発展していくということが柱になっています。福岡県を元気にしていくことで、日本経済の成長・発展にも貢献するとともに、アジアの環境問題、資源問題の解決にも貢献していきたいと思っています。特区の下で、具体的なプロジェクトを進めていくことで、アジアの中でも福岡県が先進的で魅力ある地域になっていくようにしていきたいと思っています。

 具体的には、四つの柱を考えています。「都市環境インフラのパッケージ化によるアジア展開」で、アジアの環境問題に貢献していきながら、我々もWin-Winでいきたい。次に「環境配慮型製品の開発・生産拠点の構築」ということで、低公害車、高効率ロボット、パワー半導体などを輸出し、その母工場をこの地域に残して、空洞化を九州で止めたい。3番目は、「資源リサイクル等に関する次世代拠点の形成」で、表舞台での産業が動脈産業だとすれば、静脈産業として、レアメタル、レアアースといった希少資源を回収する新しい産業を育てていきたい。4番目は、県内中小企業のアジア展開支援など、アジアとのネットワークを活用した「シームレスなビジネス環境」を実現したいと思っています。

 指定地域も大牟田、久留米にまで拡大され、この1年間で新しい設備投資が300億円超、新規雇用も300人を達すると見込まれ、今後、さらに300億円の設備投資が予定されています。

■先端成長産業の育成

 福岡県は先端成長産業の育成に力を入れています。その一つ目は自動車です。福岡県は平成18年度から「北部九州自動車150万台先進生産拠点推進構想」を掲げて、地元調達比率70%を目標に、地元企業の参入の支援と人材育成に力を入れています。北部九州の自動車生産台数は、平成24年度に142万台と過去最大となりました。140万台以上生産しているのは11か国のみです。トヨタは中京地区が国内生産の最大の拠点ですが、北部九州は第2の拠点で、日産グループとダイハツはいずれも国内最大の拠点になっており、今や、日本メーカーの国際生産の2割を北部九州が占めています。

 二つ目の先端成長産業は水素です。この水素エネルギーの特徴の1番目は、エネルギー効率が非常に高いということです。2番目は、水素と酸素をくっ付ければ熱と電気が起こり水しか排出しない究極のクリーンエネルギーということです。3番目は、水素エネルギーは工場の副生ガス、汚泥など多様な供給源から取り出せるということです。将来の選択肢を広げていくという意味で、水素をしっかりやりたいと思っています。その蓄積は福岡県が全国に先駆けています。海外からも注目を集めていて、将来有望な産業分野とされています。今後は、自動車や家庭用の燃料電池の普及促進と将来の大規模な水素発電の研究開発を進めていきたいと思います。

 三つ目の大きな先端成長産業は有機光エレクトロニクスです。現在の有機ELは第2世代ですが、希少金属のレアメタルを使い、基本特許はアメリカの企業が押さえていて、非常に高額になっています。内閣府の最先端研究トップ30に選ばれている、九大の安達教授が開発した素材は、レアメタルのイリジウムを原料に使わず、世界最高の発光効率で、九大が基本特許を持つ有機発光材料です。国も福岡県もこれを応援し、シーズを実用化へ橋渡しし、一大開発拠点となることを目指します。

 四つ目は、国際リニアコライダー(International Linear Collider)という計画があります。今はスイスのジュネーブのCERNという機関で、円形加速器を使って陽子同士の衝突実験が行われていますが、電子と陽電子を直線で衝突させるリニアコライダーを世界で1か所作ろうというものです。世界で数か所の地域の候補のうち、アジア地域で脊振山地と岩手県の北上山地の二つが挙げられています。私どもは、世界の基礎科学の発展に、この日本・脊振の地域が貢献できればと思っています。福岡地域は、研究環境はもとより、研究者、技術者、その家族が安全・安心、快適に生活できる都市機能を持っています。脊振、頑張っていきますので、応援して下さい。

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■福岡県の主要農林水産物

 福岡というのは有数の農業県で、全国で14番目の農業生産額を誇っています。全国のベスト5に入る農産物も多いです。例えば、富有柿は全国で1番。田主丸や久留米を中心にした種苗・苗木等も1番。いちご、小麦、キウイフルーツ、それから輪菊が2番、そして冬春なす、巨峰が3番、大豆が4番、いちじくが5番などです。

 ブランドとしては、いちごの「あまおう」、いちじくの「とよみつひめ」、「八女茶」、お米の「元気つくし」と「夢つくし」、博多ラーメン専用の「ラー麦」、「合馬たけのこ」、大輪白菊の「雪姫」、「はかた地どり」、それから「豊前海一粒かき」などがあります。

 ブランド化には、第一に、独自の品種を開発する。第二に品質の高めて増やす、そして、第三に、認知度を高めて販売を拡大、という3本柱に掲げて政策を展開しています。「あまおう」は開発に6年、市場に出して10年目です。「八女茶」は玉露で12年連続農林水産大臣賞を受賞。「元気つくし」は2年連続特Aになっております。

また福岡は、日本でも珍しいのですが、筑前海、豊前海、有明海という三つの違った海に囲まれています。その中で、水産物については、有明海区で生産される海苔が全国で3位です。ワタリガニ(ガザミ)は豊前海で「豊前本ガニ」としてブランド化しています。カキは冬に豊前や糸島でカキ小屋を立ち上げています。それから加布里の天然ハマグリが日本一に近づいてきています。今後、それぞれの品目の実態に合わせて、精一杯ブランド化を進め、販売を拡大していきたいと思っています。

■エネルギー

 県民の生活や経済活動の根幹をエネルギー・電力が占めています。今までは国の枠組みの中で行われてきましたが、東日本大震災で原子力発電所が止まり、改めてエネルギー分野でも地方の役割が高まっていると実感しています。その中身は二つあります。一つは、エネルギーの供給の多様化と分散化です。もう一つはいかに効率的に使用するかです。供給と需要の両面から地方自治体の役割が大きくなってきています。「福岡県地域エネルギー政策研究会」を立ち上げ、分散型電源や高効率発電の普及などに向けた地方の役割や取組みに関する研究を行っています。

 再生可能エネルギーが着目されていますが、県民の意識改革のために、例えば災害時の避難所に設置することなど、各種の再生可能エネルギーを市町村がモデル事業として取り組むものに県として支援しています。当然PRや啓発活動も行っています。

 もう一つは、実際に導入を促進するためのいろいろな支援措置がありますが、福岡県は、住宅用太陽光発電の導入を直接補助していない少数県の1つです。しかしながら、個人や事業者が再生可能エネルギーを導入するときの環境整備ということで、県内を250mメッシュに切って、日照時間、風力、風向などの詳細なデータをインターネットで調べられるようにしています。逆に希望条件からの検索もできます。これを昨年7月から運用開始しています。これは全国で一つしかなく、今までに4,000件ぐらいのアクセスがありました。

 その結果、再生可能エネルギー固定価格買取制度が昨年7月にできてからの設置認定状況は、福岡県は全国4番目です。メガソーラーについても4番目です。

 さて、エネルギーの効率利用、省エネルギーというのは、新しい発電所の建設と同じような意味合いを持ちます。需給両面からエネルギーの安定供給をしっかり図っていき、地方としてできることを目一杯やっていきたいと思っています。

■「70歳現役社会」づくり

 高齢社会が急速に進んでいる中で、福岡県は全国に先駆けて「70歳現役社会」をつくりたいと考えています。高齢者は65歳と定義されていますが、これが決まったのは昭和31年です。そのころの平均寿命は男64歳、女68歳ということで高齢者を65歳にしたのです。今の男性の平均寿命は79歳、女性86歳で、平均寿命は83歳です。この50年ちょっとで15年以上延びています。今、皆さん元気です。要介護・支援認定を受けていない高齢者は全体の約8割います。70歳になっても、それ以上でも、まだ働き続けたい、ボランティアで社会に貢献したいという意気込みを持った方がたくさんいらっしゃいます。行政にはそのような皆さんのお気持ちにも応えていく必要があります。

 経済成長というのは、労働の投入と資本投入と広い意味での技術革新の3つの要素で規定されます。技術革新について日本は頑張っていますが、少子高齢化で生産年齢人口が急速に落ちています。資本投入も落ちてきています。経済が成長していくためには、労働投入と技術革新を進めていくことが大事です。このため、女性や高齢者の方にもっと社会で活躍していただく必要があります。

 元気で意欲のある高齢者の方が多様な活躍の機会を得られるように、全国に先駆けて「福岡県70歳現役応援センター」というものを昨年4月につくりました。そこでは、高齢者の方が活躍できるような企業、NPO、NGO等を掘り起こし、高齢者の方々とのマッチングをやっています。これまでに5,000人くらいの方が応援センターに来られています。その中で本当の意欲を示した方が1,400人くらいいらっしゃいます。そして1年間で300人が仕事やボランティアに就かれています。

 若い生産年齢人口が高齢者を支えるわけですが、これまでは2.8人で高齢者1人を支えてきています。ですから、頭と両横にいて1人支えるという騎馬戦型でした。この騎馬戦型から、これからは1.7人で支えるようになると言われていますから、肩車です。若い人の負担がものすごく増えるわけです。ですから元気な高齢者が活躍することが社会にとっても大事なわけです。そして高齢者が元気で活躍すれば、医療費や介護費用も減る可能性もあります。

 去年から「ふくおか子育てマイスター」制度というのをつくりました。高齢者の方の育児経験をマイスターというかたちで役立てようというものです。研修を受けて認定された方々に、地域のさまざまな育児の現場で活躍をしてもらおうというものです。この1年間で280人の方が認定を受けて、保育の現場で活動されています。

 高齢者の方は、今までは社会から支えられる側だという認識だったと思いますが、支える側にもなるのだということが大事なことだと思っています。中国、韓国でも高齢化が進んでいますので、福岡県がアジアの中でも高齢社会の新しい地域モデルになれるかもしれません。

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■その他

 福岡でよく言われているのが飲酒運転の問題。飲酒運転事故件数は、私が知事に就任する前の年は全国最下位のワースト1でした。県民の皆さんと力を合わせて、昨年、知事就任2年目でワースト10までになりました。飲酒運転は絶対しない、させない、許さない、これが大事です。このほか、福岡県がワースト上位となっている分野、マイナスの部分を返上していきたいと思います。

来年1月からのNHKの大河ドラマは黒田官兵衛が主人公に決まっています。これを機に県の魅力を内外に発信していき、県民の皆さんの郷土愛を育むきっかけにしていきたいと思っています。

■質疑応答

○山本 昭和25年卒業の山本です。県としては中高一貫校をどのようにしようとお考えでしょうか。

○小川 福岡県内には既に小中一貫でやっているところもあります。現在、県立の中高一貫校が3校ありますが、さらに宗像などモデル校2校を選んで、実際にやってみて、その成果によって今後を考えることとなっています。修猷館には中高一貫の動きはありません。

○?? 難民の問題について県政では何か議論や方針があるのでしょうか。

○小川 私が子供のとき、博多湾で密入国者が捕まって大村の収容所に運ばれたり、友達のお父さんが李承晩ラインで捕まったりしていましたから、私なりの問題意識はありますが、今の段階では県としての具体的な対応・検討はしていません。

(終了)