第580回二木会講演会記録

『情報通信でつながる世界、そして"つながる未来へ"』

講師:和才 博美 氏 (昭和40年卒)

580_1.JPG○井上 「名は体を表す」と言われますが、和才さんはまさにそのとおりで、高校時代から性格は非常に穏やかで才能あふれる人でした。
大学では電子工学を専攻され、卒業後電電公社に入社されました。若い時代はポケットベルの開発に従事され、30歳代後半に米国MITスローンスクールへ派遣されMBAを取得、卒業後引き続き米国勤務をされました。 当時は日米の貿易摩擦が激しいときで、和才さんは電電公社の資材調達窓口の担当者として非常にご苦労されました。そして最終的にはNTT副社長として経営の一翼を担ってこれらました。

■和才博美氏講演

■NTTグループについて
○和才 まずNTTグループについて少しご紹介したいと思います。NTTは、1985年に電電公社から民営化されたわけですが、その後も何度となく分割論議があり、1999年に持株会社NTTを作りその下に地域会社「NTT東日本」「NTT西日本」の2社と長距離・国際通信会社「NTTコミュニケーションズ」、そして先に分社していた「NTTデータ」と「NTTドコモ」の2社を含めた5社体制に再編しました。従業員は現在22万人程になります。
私が2005年から社長を務めたNTTコミュニケーションズは、長距離通信と国際通信、法人向けの通信サービス、それから、ひかり電話やひかりTVのplala(ぷらら)、インターネットサービスのOCNを展開しています。 通信業者として、我々の基本ミッションは、「つなぐ」「日本品質でつなぎ続ける」ということ。それがNTTコムという会社が世の中に存在する意義だという考えで取り組んでいます。 ちなみに英語では海外現地法人の支社員からの提案を受け、「Connect」ではなく「Bridge」と表現しております。今ではグローバルフォーチュン100社のうちの8割が私共のお客様になって頂いています。

■世界と日本
 西暦元年の世界の人口は2.3億人だったと言われています。1800年に10億人となり、昨年2011年10月にはついに70億人に達し、産業革命以来急激に増え続けていることが分かります。 そして世界のGDPは、西暦元年の1,054億ドルから、1820年に7倍の7,000億ドル、2008年に51兆ドルですから、ここ200年間で74倍に増えています。
 一方、日本の人口は西暦元年に300万人、1800年頃に約10倍の3,100万人、現在は1.28億人です。そしてGDPは、西暦元年に12億ドル、1800年に200億ドル、現在は2.5兆ドル超えとなりました。
 これを人口とGDPの比で見ると、西暦元年の時点で日本は世界の人口比率で1.3%、GDPで1.1%とおおむね人口比と同じ。1800年時点でもどちらとも約3%と同じ比率でありますが、今や人口比1.8%に対しGDPは5.7%です。 日本がここ200年の間に、少ない人口にもかかわらず世界第2位のGDPまで経済成長し維持して来た訳ですから、かなり頑張ってきたということだと思います。

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■産業革命?情報通信のはじまり
 1980年に、米国の未来学者アルビン・トフラーの『第3の波』が発刊されました。そこでトフラーは、「第一の波の『農耕革命』、第二の波の大量生産・流通の『産業革命』を経て、これからは『情報通信革命』の波が押し寄せ、脱産業社会、情報通信の世界になる。情報は物理的資源の大部分を代替する」と言っています。
 1775年に英国で発明されたワット式蒸気機関の技術が日本に伝わったのは、インドやブラジルに遅れて、江戸時代の鎖国が終わった1872年(明治5年)のことです。日本は鎖国政策があったために新しい技術の伝播が他の国々に比べてかなり遅れました。
 有線電信は英国で1837年、グラハム・ベル(米国)の電話は1876年、無線電信は1895年にそれぞれ発明されました。
 それらが日本に導入されたのは、有線電信が1869年、電話は米国での実用化から11年後の1889年です。その翌年の1890年には東京?横浜で電話サービスを開始しました。無線電信は、英国での実用化から3年後の1900年には日本に導入されました。
 有線電信では線がつながらないと通信が出来ません。一番の難題は海越えでした。1851年に初めて英仏海峡に海底ケーブルが引かれ、1866年にはアメリカとアイルランドの間に大西洋横断ケーブルが敷設されました。日本では技術が導入されたその年の内に、東京?横浜間に電柱593本建て電線を架設しサービスを開始しました。 問題の海越えは、その2年後にオランダの会社が長崎?上海間と長崎?ウラジオストック間に海底ケーブルを引き、その翌年には日本の国産ケーブルを使って関門海峡越えを果たし、その3年後に青森?函館間に海底ケーブルを敷設しています。そして6年後にはもう長崎?函館までの縦貫電信網を完成させています。 導入から6年であっという間に海外ともつながり、日本人の技術吸収力の速さ、高い整備能力には感服の一言であります。
 無線電信はマルコニーというイタリア人が発明しましたが、その特許を日本海軍が売ってもらおうとしたところ軍艦1隻分の値段を要求されたそうです。それは無理だと諦めよく調べてみると、逓信省の電気試験場で独自の研究開発をやっていたのです。 そして、実用化を急ぎ、1903年には370?の交信能力を有する36式無線電信機を完成させたのです。1904年日露戦争勃発時には哨戒艦・駆逐艦以上の全軍艦に装備がなされ、日本海海戦で連合艦隊が情報戦に勝ち、バルチック艦隊に勝利することとなったのです。
 明治維新以降にこれだけのことができたというのも、江戸時代の物理学者や数学者や蘭学者の素養がとても高く、明治以降に海外から技術が入ってもすぐに吸収し新しいものにできたのだと思います。日本人はこのような技術開発や応用が得意な民族ですので私はあまり未来に失望していません。

 このように明治時代から昭和にかけて通信革命が世界中で次々に起こり、次の情報革命へとつながりました。

■インターネットの出現
 戦後の通信の世界では、コンピュータを始めとするデジタル技術の進展とインターネットの出現がとても大きなインパクトとなりました。 インターネットは、アメリカの国防省が核戦争に耐えられる通信ネットワークをつくろうと音頭を取って研究を開始しました。 これは自走ロボット式の通信と言えるもので、信号が自分でルートを探して通信するコンピュータ通信ですから、災害時に、通信路が寸断されても、メールなど少ない情報量の通信は可能となる場合が多くあります。 今ではデジタル化が一気に進み、光ファイバーで帯域が増し、またメモリの小型化でスマートフォンのように手のひらサイズのものでもネットにつながって本当に便利になりました。
 インターネットの商用サービスは、前述の通り1988年にアメリカで始まり、日本ではIIJさんが1993年にスタートさせました。私共のOCNは1996年にスタートしています。 そして今はインターネットという共通のプラットフォームで、国境や時間を意識することなく、いつでもどこでも世界は一つに「つながる」ようになりました。

580_3.JPG 今や世界中で20億人が利用していると言われています。このようにネットの進展で世界の情報の量が伸びてきて、世界の全人類69億人が1年間毎日174ページの新聞を読んだ場合の総量に相当すると言われています。 すごい量です。この急激なインターネットの普及によりライフスタイルや企業のビジネスモデルが大きく変わってきているのです。
 アルビン・トフラーの言葉に、「私たちが『第三の波』について語る時、多くの人はテクノロジーの変化のことだと思っている。 しかし『テクノロジーの変革は社会のありとあらゆる構造を変えていく』のだということに気付くはずだ。日本やアメリカだけではなく、『至る所でこれまでの枠組みが根底から崩れてきている』」というのがあります。 これが今まさに起きていることだと思います。
 インターネットの利用で一番注目されているのが、個人が情報発信の主役になったということです。この前のアラブの春では、ツイッターで民衆が蜂起しました。
 今後企業は、ネット上でのお客様との接点を、マーケティングや新しい商品開発などの参考にして、より活用していくようになると思います。
 また、膨大な情報量の中で、自分の代わりに検索し、結果を届けてくれる代行ロボットのようなものも出てくるのではないかと思います。

 このようにネット利用者が世界中でどんどん増え続ける中、避けて通れないのがセキュリティ問題であります。
 ここには法人関係者も多くいらしてると思いますが、絶対にインターネットと企業基幹系システムを物理的に接続してはいけません。どうしても必要な場合は、最小限のデータベースとネットとを完璧なセキュリティで遮断する必要があります。ウィルスの侵入する余地の無い表示機能のみのパソコンや暗号鍵の付いたUSB型のものも多く導入されておりますので、検討に値すると考えられます。
 ちなみに、弊社セキュリティーセンターでは24時間体制で監視をしており、おとり捜査を始め新種のウィルス対策やハッカーの新しい手法を探り目を光らせています。ハッカーに対抗するにはハッカー以上の実力が求められます。

■ネット時代を迎え・・・これからの日本のかたち
 日本の新技術開発力は素晴らしく、商品を出したときは結構なシェアですが、残念なことにすぐに追い付かれ、価格競争力がありませんからどんどんシェアを落としてしまいます。 例えばデジタルのチップの場合、アナログと違って玄人の経験で培った感覚による調整箇所がありませんから、回路を真似すればすぐに同等の性能を出すことができます。 こういうデジタル社会になっていますから技術のリードタイムが極めて短くなってきています。そろそろこういった現実を受け止め認識することが必要ではないかと感じています。
 何しろ日本は法人税も人件費も高いし、電力料金も値上がりしそうだし円高もあるということで、企業は次々と海外に出ていっています。
 これからはアップルのようにインターネットというグローバルなプラットフォームを最大限に活用し、商品やサービスを創出することが大事だと思います。 ネット時代の商品というのは、「使い易さ」「デザイン」「技能」「価格」等を、消費者との対話の中で創り出していく時代に変化しているのだと思います。
 我々は、ハードウエアだけで勝負するのではなく、足元を見つめ直し、ネット時代における商品の創造・融合・競争力向上について、消費者や市場の視点を見据えた新たな発想が必要と感じています。

 そして最後にご紹介したいのが、まだ広く語らていない日本の海底資源についてです。日本の国土面積は世界61位ですが、領海+排他的経済水域(EEZ)面積はなんと世界第6位であります。 そして、EEZ内にはコバルトリッチやメタンハイドレート等の資源が多く賦存されていると言われています。今、日本は宇宙開発を行っていますが、海についてはあまり行っていません。 資源の乏しい島国と言われて久しいですが、今こそ私は建設国債でも出して国を挙げて海洋開発を実施し、海洋国家権益の断固たる確保、エネルギー自給率の向上を図るべきだと思っています。 何度も言いますが、日本の技術は捨てたものではありません。日本は技術立国で生きるしかありません。宇宙開発もいいのですが、深海資源調査にもぜひ取り組んで、新しい次世代の若者に日本の将来に対する夢を与えられるプロジェクト、橋頭堡(きょうとうほ)をつくってもらいたいと思っています。

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■ 質疑応答
Q インターネットセキュリティーの話をもう少し詳しくお話し願います。
A 防ぐ手段はいろいろありますが、ハッカーはなかなか止められません。次々と生み出される新しい攻撃手法や新種のウイルスを早く検知することが大切になってきます。
 それから、日本はサイバーテロ等に関する法律がとても不備です。以前中国で対日の暴動があったとき、攻撃メールが防衛庁等にどんどん来て麻痺してしまいました。我々通信事業者はその事象を異常事態と察しましたが、通信の秘密が大前提でありますので、それを口外することはできません。 その辺の危機時の例外を担保する法律がないのです。昨今の尖閣列島問題やサイバーテロが頻発する中、日本は本当に危機管理が出来ていないと思います。今こそ法的整備をきちんと打っておかなければ、将来に禍根を残すことになります。

Q 今は株価が売り出したときの半分か3分の1ぐらいだと思います。このような立派な会社なのになぜ株価が暴落をしているのでしょうか。
A 全体の市場が悪いというのもあると思いますが、IPO直後はけっこう上がりますがしばらくすると下がる傾向があります。アメリカはやはり高水準の利益を出すのでかなり配当もいいのですが、我々は電電公社時代からあまり高い電話料金を取るわけにもいかず、どちらかというと常識的な範囲で契約をしますのでそのような制約があって株が上がらなかったということもあります。全く申し訳ありません。

(終了)