『ゼロエミッション社会に向けて!?電気自動車の市場投入に携わって?』
講 師:鳥羽 隆一(昭和61年卒)
○冨永 私と鳥羽くんは長尾中学校からの同級生です。そのころの彼は、成績優秀で美術もスポーツも得意で、ポーカーフェイスで冷静沈着で、ちょっと取っ付きにくい優等生でしたが、修猷館に入った後に、実はとても熱い人だなというのがよくわかりました。それは、彼の周りにはたくさんの友人がいて、運動会などでの活躍を見ていると、みんなで何かに向かってものをつくり上げていくのがとても好きで、そのプロセスを大事にする人だということがわかり、私自身が新発見という感じでした。
彼が日産に就職した後、何度も会っているのですが、鳥羽くんは天職を手に入れたのだなとうらやましく感じています。ものづくりに携わる人に必要な資質の、明晰な頭脳とものに対する愛着とそしてたくさんの人とコミュニケーションできる能力という、この三つを鳥羽くんはバランス良く兼ね備えた貴重なキャラクターだなと思っています。今日は彼の話を通して、アラフォー世代の後輩たちもこのように頑張っているということを感じていただければうれしく思います。
■鳥羽隆一氏講演
○鳥羽 今の冨永さんの紹介がほとんど耳に入ってないぐらい緊張しています。私たち61年卒というのは、200周年のときの卒業生になります。そのとき450人中300人以上が浪人をして「君たちは恥だ」とも言われた代です。我々は長い時間をかけながら皆様に恩返しをしていかないといけないと思っています。
■はじめに
「ゼロエミッション社会」というのは、簡単に言うと「電気自動車のある生活」です。日産自動車はルノーと共にゼロエミッション社会に向けた取り組みをしています。
■低炭素社会の重要性とEVへの取り組み
(1)なぜゼロエミッションか?
一つには環境問題があります。そしてそれに呼応するかたちで、お客様の環境意識の高まりというのがあり、そしてもう一つ、技術革新があります。この中で一番キーになっているのが技術革新です。電気自動車は昔もつくることができたのですが、なぜ今かというと、バッテリー、モーター、インバーターといった電気自動車の技術を安全でかつ、お客様にお届けできる値段で提供できることができるようになったということです。
(2)地球温暖化問題
地球の温度が平均で2℃上がると大変なことが起こると言われており、今、CO2(二酸化炭素)排出量の削減が急務となっています。そうなると「温暖化による危惧種への影響」、生態系の最大で30%が地球からなくなり、また「サンゴの白化」や「砂漠化」や「海水面の上昇」が起きると言われています。
その2℃の上昇を抑えることを日産社内で試算してみると、2050年までに新車からのCO2量を2000年比で90%ぐらい下げる必要があるという結論に至りました。そうするためには、ガソリンエンジンの車やハイブリッド車では難しく、発電を、風力や太陽光のような再生可能なものにすると、電気自動車や燃料電池車で90%以上のCO2削減が可能になることがわかり、そのためにも電気自動車の普及を目指しています。
(3)自動車の動力エネルギー
世界の自動車のエネルギーは、今、ほとんどガソリンかディーゼル(軽油)に依存しています。昨今のようにガソリン代が上がればお客さんの財布にもそのまま響いてきまし、ガソリン代は将来に向けてまだまだ上がっていくと予想されています。電気自動車の場合は、電気は、火力、原子力、水力、風力など、いろいろなものからつくることができますので、石油依存からの脱却が可能になると考えられます。
(3)世界的に厳しくなるCO2削減のトレンド
日本では、2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比25%削減の目標を発表しています。アメリカは、自動車産業の燃費基準を2016年に8mpgの向上達成と平均35.5mpgにするという話です。ヨーロッパでも自動車メーカーは2012年から2015年の間にCO2の排出量を130g/kmにするようにとか、中国も自動車メーカーに2015年までに今から新たに18%の燃費向上を義務付ける計画があるというように、それぞれの国が政策としてCO2削減や燃費を良くすることにかなり厳しい規制を引いています。各国の目標や計画をプロットしていくと、これからCO2を2050年までに90%下げないといけないのと同様の目標に向かっています。
(5)日産の自社技術
電気自動車のコア技術の話です。電気自動車の大きな三つの要素は、バッテリーとモーターとインバーターで、この中でもバッテリーが一番大きい要素と言われていますが、日産自動車ではこれらは内製です。日産自動車では18年前の1992年から自動車用リチウムイオン・バッテリーの研究開発に着手し、それがようやく花開いたということになります。電気自動車についても古くから開発を進めるだけでなく、市場投入の経験を重ね、技術を蓄積してきています。また、日産自動車は、1947年に「たま電気自動車」というのを発売しています。これは2010年8月に機械遺産に認定され、リーフを出したタイミングでレストアして、もう一回走るようによみがえらせました。
2007年には、NECさんと組んでバッテリー会社をつくりました。リーフはそのバッテリーを載せて走っています。日産のバッテリーは、ラミネート型と呼ばれる薄型のもので、紙のような電極をプラスとマイナスでたくさん重ねます。重ねたものを今度は袋に入れます。今度はそれを缶の中に入れてモジュール化し、それをたくさん並べてパッケージ化し、車の床下に配置しています。
それから、昔から開発してきたテレマッティクス技術を活用してインテリジェントな双方向通信システムを開拓してきています。これは例えばドライバーと日産のオペレーターの双方向の通信を可能にします。ガソリンエンジンのときにはそれほど普及しませんでしたが、電気自動車ではこれがかなり有効な手段になるということです。
CO2の削減とパワートレインのエンジンなどの基幹部品のコストとの関係ですが、ガソリンエンジンは、コストはそれ程高くありませんがCO2の排出は多いです。これを一生懸命下げようとするとコストが跳ね上がってしまい、かつ排出量があるところまでで限界が来てしまいます。ハイブリッドもプラグインハイブリッドも、頑張ればCO2排出量は減るのですが、コストがだんだん上がって限界が来てしまいます。電気自動車の場合は、コストは高いですがCO2排出量は最初からゼロで、長い目で見ると、電気自動車は投資対効果がいいということです。
■ゼロエミッション社会へ向けた包括的な取り組み
今回の日産自動車とルノーの取り組みは、電気自動車をつくって売るだけではなく、社会全体を変えようという取り組みです。電気自動車をガソリンエンジンの社会にただ入れても普及は難しく、社会全体を変えない限り普及はできないと思っています。この取り組みこそが、今までの日産自動車や、いろいろな他のメーカーさんがやっていることと違うところです。ですから、「電気自動車」とは言わずに、あえて「ゼロエミッション社会」という言葉を使っているのはこのためです。
2012年ぐらいには、多分いろいろなメーカーから電気自動車が出てくると思います。そうなると、競争としては厳しくなりますが、だんだん電気自動車が普及していくという意味では、それはうれしいことでもあります。
(1)グローバルパートナーシップの強化
多くの国や都市、様々な企業がEVの普及に関心を示していて、それぞれとパートナーシップを結んでいます。提携を始めた2008年ごろは、10個ぐらいでしたが、電気自動車が目の前に見えてくるに従って声が高まり、今や90を超えるまでに膨れ上がってきています。
(2)日産ディーラーへの充電器設置計画
充電には、短時間で充電できる急速充電と、家庭でもできる普通充電があります。日産自動車はこの充電器を各ディーラーに置くようにしています。普通充電は、約2,200店舗に2基ずつ置いて約4,400基があります。急速充電は、全国、半径40キロ以内のディーラーさんに約200基置いています。
国も積極的で、2020年までに普通充電を200万基、急速充電器を5,000基設置することを閣議決定するなど、かなり努力をしてくれています。
(3)急速充電の標準化(日本)
急速充電器については、トヨタ自動車、三菱自動車、富士重工業、それから東京電力と手を組んで急速充電器の普及と「標準化しましょう」と、「CHAdeMO(チャデモ)協議会」というのが設立されました。日本だけではなく、アメリカでも同じ標準化でやるように動いていますし、ヨーロッパにも働き掛けています。
世界的な普及には、アメリカが動かなければ難しいところがあるのですが、グリーン化や雇用創出など国の事情も相俟って、アメリカもかなり前向きに動いていて、急速充電器や普通充電器を次々に設置しています。ヨーロッパも普通充電器と急速充電器を将来に向けて増やしていく計画です。
この取り組みの中で、各国、各都道府県が補助金を出しています。そして、例えば、今、国によっては高速道路料金の割引や、優先道路が検討されていますし、フランスでは、新築ビルの駐車場には必ず充電器の設置を義務付ける法制化の流れがあります。このように政府や自治体としても大きな取り組みをしています。
(4)バッテリーの2次利用:4Rビジネス
バッテリー自体は携帯電話の電池とは異なっていて、長く使っても容量がかなり残りますので、自動車として使い終わった後も十分使えます。例えば補修部品などで再び使おうという再利用(Reuse)、組み替えての再製品化(Refabricate)、それから、例えば建物や病院の非常用の電源のバックアップ電源などに仕立てての再販売(Resell)、そして原材料の回収と再利用を目的とするリサイクル(Recycle)、この四つのRで「4R」というビジネスを、住友商事さんと一緒に会社をつくって取り組んでいます。
(6)ルノー・日産アライアンス
ルノーと日産は、例えば日産が中心となってバッテリーを開発し、ルノーはその他のものを開発するという分担をやっています。技術開発の共有については、それぞれが分担するというのもありますが、もう一つあり、例えばマーケットの先が見えないものでは、敢えて日産とルノーは並行して別のものを開発し、本流が見えたところでどちらにでも対応できるような、そのような開発分担というのもあります。
また、バッテリー工場を、日本、またこれからアメリカ、ポルトガル、UK、フランスにも建てるのですが、これらに共同で投資しています。
それからグローバルパートナーシップの強化があります。例えば日産がどこかの都市とパートナーシップを結ぶとルノーもそこに入ります。逆もあります。
■スマートグリッドの実現に向けて
(1)EV専用の情報通信システム
リーフは携帯電話を積んでいて、常時日産カーウイングス・データセンターにつながっています。携帯電話と言っても、電話として載せているのではなく、通信手段として載せています。常につながっているからこそ遠隔操作ができ、充電も部屋から始めることもできます。そして「地図情報」や「交通/サービス情報」、それから「車両情報」などを24時間つながった状態で提供しています。
(2)オンデマンド ドライビングサポート機能
具体的なリーフの機能ですが、「オンボードサービス」として、ナビゲーションによる走行可能距離の表示が常にあります。そして一番近い充電スポットも教えてくれます。それから「オフボードサービス」として、寒いときに、出発前に外からパソコンや携帯電話で暖房を始めておくこともできます。
(3)情報通信システムサポートによるスマートモビリティ
将来は「EVのモニタリングによる移動効率と利便性の向上」など、常に連絡を取りながら、空いている充電設備の情報なども提供できるようになると思います。
(4)スマートグリッドの実現に向けて
一つは、「スマートモビリティ」という情報のやり取りによるモビリティの革新です。具体的には、例えば、横浜でもプロジェクトとして実証実験をやろうとしています。「スマートエネルギー」についても、例えば横浜市でスマート・シティ・プロジェクトとして取り組んでいます。将来は、これらを合わせ、「スマートシティ」というものをつくり上げていきましょうという話です。
■ニュー・モビリティへの提案
(1)NISSAN New Mobility CONCEPTがもたらす社会的価値
日産自動車は新しいモビリティの提案もおこなっています。一つは「あらゆる人の日常の移動手段のサポート」として、例えば高齢者や子供連れの外出を支援するというものです。車そのものについては「効果的なモビリティによるさらなるCO2排出量の削減」にもなりますし、「地域活性化の促進」として観光都市で使うことも考えられます。また車というのは、駐車場にとまっている時間のほうが長いので、「2モードEVカーシェアリング」という考え方で、朝夕は通勤用に個人が使い、それ以外は使い方や使う人を変えて有効活用しましょうということです。また、「シームレスな移動手段」ということもあります。電車でどこかの駅に着いて、その駅にとまっている電気自動車情報が瞬時にわかり、スムーズな移動を実現しようというものです。
(2)NISSAN New Mobility CONCEPTの概要
リーフは市販しましたが、しかし一方で小型モビリティの活用によるモビリティそのものの革新も考えています。これはもしかしたらバイクに近い使い方になるかもしれません。
■日産リーフ
リーフはV6のエンジンの車よりも加速の立ち上がりがいいです。それから静かです。車というのは乗っているときにガソリンエンジンの音がかなりしていますが、エンジンの音がないので圧倒的に静かです。それから、床の真ん中の重心が低い位置にバッテリーを配置していますので、安定していて、回頭性も良く、ハンドリング操作がやりやすく、取り回しがいい車になっています。
電気自動車になると、車の使い方そのものが変わります。まず、ガソリンスタンドに行く手間がなくなります。家で充電するもの、買い物など止まったところで充電するものになります。もう一つは、排気管が付いていませんので屋内にも入れます。例えばお年寄りがいらっしゃるご家庭では、軒下まで電気自動車が近づくことがでるでしょうし、救急車で病院に着いたとき、建物の中まで入ることができるようになるかもしれません。それから、携帯やパソコンから車のエアコンの遠隔操作もできるようになります。
航続距離については、リーフはフル充電で、日本の基準の測り方ですと約200キロの走行が可能です。しかしそれは、スピードが高いか低いか、エアコンがオフかオンかなどで違いが出ます。エコ運転向上のためにエコツリーの表示があり、エコ運転度が表示されるようになっています。
メキシコのカンクンで開かれた「COP16」という会議や、この間のダボス会議にもリーフを持っていき、一緒にゼロエミッション社会をつくっていきましょうと、いろいろな方に乗っていただきアピールしてきました。
それから、「欧州カー・オブ・ザ・イヤー」や、アメリカの「10ベストエジン賞」、それから日経の「優秀製品賞」での最優秀賞など、いろいろな賞もいただきました。
電気自動車は電気があるところは全部走ります。ガソリンエンジンの車は、国によってガソリンの性状が違いますので、それが対応しないと走れないこともあります。電気は至るところにありますので全世界走れます。本当に「海の内外、陸(くが)の涯(はて)」という感じです。「皇国(みくに)の為に世の為に」という歌詞もそうなのですが、今回この準備をしていて、昔の先輩たちが考えていたことはすごいな、しかもあの時代にと強く感じました。
(終了)