第565回二木会講演会記録

第565回二木会講演会(兼 新入会員歓迎会 平成22年4月8日)
テーマ:『民主党の今後の課題について』
講 師:笠 浩史氏(昭和58年卒)

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565_DSC00001.JPG○紹介者 佐伯 智洋氏(同期) 私は笠代議士とは3年9組のクラスメートでした。新聞部に所属され3年間中核記者として活躍されました。当時は今よりかっぷくが良くて大柄だったという印象です。慶應の学生時代は郷里の大先輩の太田誠一代議士の事務所でアルバイトをしていました。彼は学生ながら、ばっちりスーツを着て第一秘書の傍らで公設秘書のように仕事をされていました。そして卒業後はテレビ朝日に入社され、途中から政治部に配属されて以来ずっと永田町番として活躍されました。「ニュースステーション」で久米宏さんが、「国会の笠さん」と言うと、笠さんが国会議事堂の前でレポートするというシーンがよくありました。その後2003年に松沢神奈川県知事の選挙区を受け継がれて神奈川9区から出馬され3回当選されています。2005年の夏の郵政のときは厳しい選挙でしたが、前回は開票して30分以内に当選確定と出ていました。

■笠浩史氏講演

■はじめに
 まず自己紹介を兼ねて、なぜ議員に、しかも神奈川の川崎から議員になったのかを少しお話しさせていただきます。私が大学生のころは郷土の先輩といえば山崎拓大先輩がおられて、柔道部の同級生なんかはよくお手伝いに行かれていました。ただそのころ修猷館の先輩の下宿で国会便覧なるものを見ていましたら、唯一、慶應で当時の中選挙区福岡2区で出ておられた若い代議士に太田誠一さんがおられて、私も少しへそ曲がりなとこがありまして「やはり慶應の人のところにちょっと行ってみよう」と訪ねて行きました。太田誠一さんは私の生活環境のことも察してくださり「じゃ、書生をしろ」ということで、これが政治との出会いになりました。
 そのころはまだ政治家になりたいという気持ちは正直あまりありませんでした。当時は中選挙区で、大変激しい、しかもお金のかかる選挙でした。太田誠一さんの選挙の手伝いで1カ月ぐらい一緒に走り回りましたが、そのとき政治家というのは家族がこんなに大変なのかと実感しました。政治に大変関心はあったのですが「自分は政治家になるよりも、むしろ記者として政治をしっかりと見ていきたい」ということでマスコミを志望し、幸いにテレビ朝日に就職できました。
 その試験のときに私は修猷館でよかったなと思ったことがあります。当時は7,000人ぐらい受験して24人しか通らないような世界で、途中筆記試験もあり面接も5回ぐらいあるのですが、役員面接に行ったときに当時田代さんという朝日新聞社から来られた社長さんがおられて、いきなり「笠さんは笠信太郎さんのご縁戚かな」と聞かれました。それで私は「いえ。でも関係がないわけではありません。高校の大先輩です。『ものの見方について』を高校時代に読んで今の私自身があります」と答えましたら、にこっとされました。そのときはほんとに修猷館を出ていてよかったなと思いました。
 私は一般職で入り、最初の5年半は営業をやりました。そして村山内閣のときの94年に初めて政治部に配属され、それ以来約9年間ずっと永田町の取材をやりました。
 平成15年5月にはライバルの日本テレビの政治記者をしていた女房と結婚しました。そのとき新婚旅行から成田に戻ってきたら、その年の4月に衆議院議員から県知事になった松沢成文さんから「新婚旅行から帰ってきたら、とにかく早く、笠ちゃん来てくれ」と携帯の留守番電話サービスに入っていました。松沢さんとは、私が選挙区に住んでいた関係もあり、野党時代から非常に親しくお付き合いをしていて結婚式にも出ていただいていましたので、お土産を持って自宅に伺ったら、いきなり「自分が知事になったので今度の10月に補欠選挙がある。笠くん、それに挑戦しないか。出たい人間は他にもいるが、自分は出したい人間に挑戦してほしい。ぜひ決断しろ。時間がない。1週間以内に答えをくれ」と言われました。「どうしたものか」と思って女房ともいろいろ相談をしました。
 私は自分の信念として「外国と同じような2大政党で政権交代が常に起こるような当たり前の民主主義を日本に取り戻さなければならない」ということがありました。そのころ自民党もどうしようもないところがあるけれども民主党も本当に大丈夫かなと思っていましたが、少なくとももう一極をつくる動きに参加できるのであればいいのではないかと思い決断をしました。結局10月に解散になりましたので補欠選挙はなくなり、11月9日に初当選させていただき現在に至っています。これが私の転機になりました。
 前々回の選挙はほんとに厳しい選挙でしたが、今回は大きな風に乗り圧勝させていただき、今7年目の活動に入っているところです。私はずっと一貫して「教育がすべてである」ということでいろいろな政策に取り組み、「人づくりなくして国づくりはない」ということで教育の問題にずっとかかわってきています。一貫して文部科学委員会には所属し、今は文部科学委員会の与党の筆頭理事をやりながら国会対策委員会の筆頭副委員長をやらせていただいています。
 今日は民主党政権の中で当事者の立場からわれわれが何をしようとしているのかを、こういう同窓のお仲間の席ですので率直な話でさせていただきたいと思っています。

■官僚主導ではなく政治主導に

 今の私の立場は役所や他党との交渉など雑務が多いのですが、全体の流れが見えている中で感じるのは、今一番問題なのは官邸の機能強化ができていないということです。これが大きな組織的な課題です。大臣については、人間力を持ってたくさんいるいい官僚たちを巻き込んで仕事をやっている人と、あまりうまく組織を束ねられてないという人も少々いたりしますが、しかし少なくとも政務三役は、政治主導でということで本当に多くの仕事を一生懸命やっています。
 政治主導というのはある意味では官邸主導なのです。初めて予算を年度内に成立させて関連法案を仕上げるという責務も一応順調に行っています。そして内閣府と総理官邸の主導の下に「行政刷新会議」と「国家戦略室」という二つの目玉の組織を設置しました。それらは役所と役所の縦割りの弊害をいかに政治主導で調整をしながらスピーディーに決断して実行していくかというのが本来のあるべき姿なのですが、それをやるだけの仕組みがまだできていないのが問題だと思い、先般官房長官や総理にそのことをご提言しました。それは官邸の人の善しあしとかではなく、官房長官や副長官の下に他の省庁との調整をしたり党との連携をする人が別に5、6人いなければだめなのかなと思います。
 例えば普天間の問題でも、外務省と防衛省に政務官を増やすのではなくて、人を増やすのであれば、官房長官の下に政務官的な普天間問題担当というかたちの専任の政治家を置いて、そこで外務省や他のお役所との調整をして長官の決済を得ながら、ある程度早い判断と決断をしていかないと、結局官房長官のところにすべての仕事がたまって、毎日のことに追われて優先順位が後になったり、何か矛盾したように映るようなことになっていると感じています。ですからそういう組織的な改革が必要なのだと思っています。

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■政策的な課題

 マニフェストではどちらかというと各論の「ムダづかいをなくす」とか「予算をコンクリートから人にシフトする」ということを皆様方に訴えてきました。これはわかりやすくもっともなことですが、しかし例えばこれからの日本が高福祉、高負担の社会を目指すのか、それとも中福祉、中負担なのか、その辺りの国家像がない中で選挙があり、そこを一人一人の議員が徹底的に議論してみんなで共有する大きなところがない中で政権がスタートした気がしています。
 平成22年度の予算編成では、概算要求までは麻生政権でやってきたことですから、官邸主導の中での政治主導が見えるような大きな場面がまだつくられていないということがありますが、次の平成23年度予算はわれわれがゼロからつくっていきます。そのためにも、昨年末に出した成長戦略の基本方針をこの6月に工程表を含めて具体策をまとめることになっていますが、その中でこれからどういう戦略で日本が発展していくのかという辺りをなるべくわかりやすく具体的に打ち出すことが一番大事なことだと思っています。
 そして昨年行われた事業仕分けですが、「これによって一つのお金の流れが国民に見えるようになった」という意味では評価をいただいていると思います。去年は限られた時間で限られたところしかやれなかったのですが、今度は4月から本格的にやるということで、どれだけの財源を生み出すことができるのかというところが問われてくると思います。
 これは私見ですが、埋蔵金と言われるお金ももうそんなにありません。一時的に10兆円や20兆円が出てきてもそれは単発で終わる話です。例えば子ども手当や高等学校無償化で5兆円の恒久的な財源を必要とする政策を続けていくためには、単に無駄をなくすだけでは財源不足に陥ることは間違いありません。われわれは「あれもやります。これもやります」と言ってきたつもりはありませんが、皆様方にはそう見えていてご批判もあるようです。ですから年末の予算編成に向けた今度の8月の概算要求等々の中で「これだけの財源は生み出しましたがまだ足りません。足らないからこれとこれは後に回します」とわかりやすく丁寧に説明するリーダーシップを鳩山総理にも発揮していただき、われわれもそういう方向に行くように党内の議論を進めていきたいと思っています。
 先週からマニフェストの取りまとめの作業が始まりましたが、やはりそこでも出てくるのは「子ども手当の財源をどうする」という話です。これについての考え方の一つは、「財源論をあいまいにしたまま今年の参議院選挙に向けたマニフェストを出すと大変なことになる」というのと、もう一つは「マニフェストで約束をしたのだから、苦しくても曲げずにやっていく」という二つの考え方があります。それについては私自身も迷っています。両方正論だと思います。
 前回の選挙では民主党が戦後初めて本格的な政権交代を行うというムードが高まっていて、マニフェストの個別の政策がどうだというよりも大きな流れの中で政権交代をさせていただきました。ただマニフェストは大事にしたいと思っています。これから政権が常に交代する可能性を持って選挙をやるときには、自民党もわれわれもマニフェストを出し、皆さんにその政策の選択をしていただくという民主主義は大事にしていかなければなりません。そうであるならば、私たちはこの4年間、少なくとも約束をしたことについてはしっかりと実行していくという責任があると思っています。そして直さなければならないことが出てくれば、そのことを総理もわれわれも正直に説明をして柔軟に修正をしていくことに努めなければなりません。その点はぜひご理解をいただきたいと思います。われわれはこれからその課題を乗り越えていかなければなりません。

■鳩山総理と小沢幹事長

 私は鳩山総理とは記者時代からずっとお付き合いをしてきていますが、ほんとに人がいいです。だれの意見でも常に真摯(しんし)に聞きます。私は鳩山さんが幹事長のときに副幹事長をやっていましたが、例えば提言をするとものすごく喜んでくれます。
 小沢さんというのは、何をすれば選挙に勝てるのかを熟知している人で、難しい候補者調整をぶれずに反発を恐れずにやります。私も候補者擁立に関わった経験がありますが、だれがやっても決まることは簡単にできます。しかし、どちらかを立てればどちらかを敵に回すような決断をするのは大変難しいと実感しています。小沢さんは選挙のために党にプラスになるような決断がいくらでもできる人だと思います。
私たちが皆、小沢さんにものが言えないのではないかということがよく一方的に言われます。小沢さんはアポイントを取って会って率直に言えば「それはいいじゃないか」というのも「それはだめだ」という結論も早いです。少なくとも私自身は、「怖いな」とか「言えないな」とかいう感じはあまりありません。
 すべて小沢さんが指図しているとか子供扱いしているとも言われています。しかし子供扱いなんてしようと思いませんし、みんなが一国一城の主として出てきていますので、しようと思っても絶対できません。私も党の役員の一人として、そういうところをもっとうまく姿を見せていくような開かれた党運営をやっていくべきではないかなと思っていますし、そこ辺りに党としての課題もあるのだと思っています。

■質疑応答

○Q 私も新聞部でしたのでご縁を感じています。去年の8月には私は民主党に投票しましたが、残念ながら現状は少し首をかしげざるをえないと思っています。今の日本にとって一番大事で大きな項目は、10年20年先のあるべき姿だと思うのです。しかし半年たった今は目前の話ばかりを細かくやっているようで、将来の希望を与えるような筋道、目標が具体的に国民に示されていません。
 今からの日本を考えると五つの問題は避けて通れないと思います。一つは教育。2番目はエネルギーの確保。3番目は国民生活に絶対必要な将来の食物と水の確保。4番目は年金。5番目は国防です。笠さんは文部科学委員会の筆頭理事さんだそうですのでその認識の元にお聞きします。科学技術と将来のエネルギーというのは切っても切り離せない関係にあると思っています。具体的にどういうことを考えていらっしゃるのかをお聞かせください。

565_IMGP3952.JPG○笠 もっともなご指摘をいただきました。今、私たちは、どういうかたちで中長期的な戦略を示せるかというのが一つの課題だと考えています。今のお話の年金や医療についても、今まさに長妻大臣の下で取り組んでいます。その辺りの主要政策についてはしっかりと一つの工程表を出せるかどうかが大事なところだと思っています。
 私の分野のエネルギーと食糧についてですが、これは防衛・国防だけではなくすべて安全保障ですから、しっかり取り組んでいます。私は自分の立場から科学技術振興にもっと本腰を入れてやらなければならないと思っています。同時に人材育成についても、意欲のある子たちが経済格差を受けずに平等に学ぶ機会が与えられるということはもちろん大事なのですが、それと併せて、あえて言うならばある意味でのエリート育成もやっていかなければならないと思っています。国が人材をしっかりと育成していかなければなりません。技術の進歩があるとすれば、それはすべて人です。今、文部科学にかかわる成長戦略についての議論を行っていますが、何とかこの辺も盛り込んでいきたいと考えています。
 ほんとにご指摘の点が今一番足りないところだと思いますので、今そこを各部門でまとめているということをご理解いただきたいと思います。

○Q 私の意見ですが、民主党の一人一人を見れば本当に人材が揃っていて、これだと非常にいい政治ができるのではないかと思って期待していたのですが、トップにいる小沢さんが旧態依然とした自民党の古い政治をやっています。
 結論を申し上げます。これから民主党がよりよい政党になって日本の国を背負ってくれることを期待します。それには一刻も早く小沢一郎と決別をするべきだと思っています。

○笠 私もそういうご意見をいただきます。よく「民主党らしさ」ということを言われます。われわれの兄貴分世代には、例えば前原さんとか平野さんたちがいて、次がわれわれの世代になります。そういうフレッシュな面々で「しっかり新しい政治をやってくれ」という民主党に対する大きな期待がありました。しかし半年たって、小沢さんの問題や総理自身の問題が出てきて、それらが大きな要因になって今の不信を招いているのだと思います。
 ただ一つだけ思うのは、われわれの層は先輩たちとは体質も違いますから違うやり方でやりますが、幹事長的なことができる人をみんなで育てていかないといけないと思っています。党の中核として党の組織をしっかりと担っていく人材については、これは小沢さんじゃなければならないということではなく、これまで育成ができてなく、それがこれからの民主党の一つの大きな課題になっていくと思います。今、私たちはみんな経験を積ませていただいている時期だと思いますので、ご批判はしっかりと受け止めて、必ず来年の今頃は皆さんに「民主党はよくなったな。少し期待が持てるようになったな」と思っていただけるように、私も修猷館の卒業生としてしっかり頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。
(終了)


新入会員歓迎会
講演会に引き続き、新入会員28名を迎える新入会員歓迎会を開催しました。

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565_DSC00080.JPG○箱島会長 挨拶
 首都圏の大学に進学された皆さん、おめでとう。東京修猷会にまたフレッシュな会員をお迎えして大変うれしく思っています。
 小学校から高校までの12年間を終えて、皆さんは、これから社会に出る準備の仕上げの段階に入るわけですが、「これからの世の中は大変だよ」とさんざん言われていると思います。それには違いないのですが、だからこそ、これからわくわくするような、君たちの面白い力で変えていく余地がたくさんある世間に踏み込んでいくわけです。将来何をするにしても共通しているのは、「舞台は世界だ」ということで、その中で頼りになるのは自分自身です。
 東京という広い舞台はきっと皆さんの頑張りに応えてくれると思います。東京修猷会は、卒業生の親睦と、それから先輩として後輩の皆さん方をできるだけお手伝いしようという組織です。多彩な東京修猷会の活動にも積極的に参加していただきたいと思います。
 毎月第2木曜日に「二木会」という勉強会をやっています。皆さんの中からも優れた人材がどんどん政治家になってほしいですし、またそういう人たちが政治家になろうと思うような環境を整えることも大事だと思います。その辺のところも含めて本日の講師 笠さんに激励の言葉をお願いします。

○笠 浩史さん 挨拶
 東京で新しい生活をスタートされた新入生の皆様方、おめでとうございます。私が20年以上前に上京して、大学生、サラリーマン、政治家とやっていて思うのは、修猷館というのは多くの方に知られているということです。これほど知名度のある県立高校は少ないのではないでしょうか。今日の自分はそのきずなで助けられていると思っています。皆さんもこの縁を大切にして後は自分の可能性を信じて真っすぐに頑張れば、道は必ず開けると思います。

565_IMGP4019.JPG○甲畑幹事長 挨拶
 新入会員の皆さん、おめでとうございます。さだまさしの歌にある「元気でいるか・・・」という歌詞を思い出しますが、皆さんのご両親も「東京にやったあの子は、どげんしとうかいな」と思っていらっしゃると思いますので、時折「元気にしとうばい」と声をかけてあげてください。
 二木会も今日で565回になり、これは年数にしたら60年近くの歴史ということになり、日本でも類を見ないような高校の同窓会活動を誇っています。
 どうぞ皆さん、修猷生の気概、人としての気概を持って今からを過ごしていただきたいと思います。

○新入会員代表 平成22年卒 川本雄三さん挨拶
 本日は私たちをお招きいただき、ありがとうございます。東京で一人暮らしを始めて、今、親のありがたみをかみしめているところです。初めての東京で不安はありますが、ここにこれだけ修猷館の先輩方がいらっしゃるということで心強く思っています。これからいろいろあるとは思いますが、先輩方のご声援を胸に、精いっぱい頑張っていこうと思います。これからもよろしくお願いいたします。

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参加者全員での館歌斉唱