第564回二木会講演会(平成22年3月11日)
テーマ:『沖縄米軍基地問題について』
講 師:佐藤 守氏(昭和33年卒)
○紹介者 日? 久萬男氏(昭和36年卒) 多くの館友が各方面で活躍しているのを「修猷山脈」と呼んでいますが、佐藤さんは、かつて台湾総督で亡くなられた明石元二郎から始まる人脈につながる人なのだと思います。国防・軍事・安全保障関係の面で活躍されている人脈があるということです。佐藤さんは修猷館をご卒業後、防衛大学から航空自衛隊に入られ、平成9年に退官されるまで34年間、戦闘機パイロットとして航空自衛隊の各部隊はもとより、航空幕僚幹部とか、市ヶ谷の学校や霞が関の外務省国連局の軍縮室等、地域的にも内容的にも幅広く勤務されました。その間、ずっと戦闘機には乗り続け、総飛行時間は3,800時間に及んでいます。
退官後は、評論活動をなさりながら数冊の本も出されています。そして「軍事を語らずして、日本を語るなかれ!」というブログも書かれていて、本当に話題の尽きない人です。
■佐藤守氏講演
○佐藤 民主党政権ができて、普天間基地移設問題が14年前の振り出しに戻りました。当時私は沖縄にいて、本土にはほとんど報道されていない話もありますので、その辺りを今日は聞いていただければと思います。
■自己紹介
私は昭和14年8月に樺太で生まれました。樺太にはこれまでに2度行って先祖の墓を探しましたがだめでした。防大卒業後は、34年間、航空自衛隊でお世話になり、その間22回の人事発令があり転居を24回しました。三沢や松島で戦闘機に乗っていましたが、それだけではなく、外務省軍縮室にいたときや、また沖縄でも米軍の幹部と家族ぐるみの交流もいろいろとしました。その小さな交流も大切なことだったと思っています。しかし私は単なる戦闘機乗りです。そのつもりでお聞きください。
■沖縄の基地問題=「75%集中」のからくり
沖縄に米軍基地の75%が集中していると言われていますが、これはからくりの数字です。日米安保に提供している全国の基地面積のうち沖縄県は25%でしかないのです。三沢とか岩国とか厚木とか、日本の自衛隊と共同しているところは外してあるからそうなるのです。
■普天間基地移設問題の経緯
(1)継続使用契約はほぼ終わっていた
普天間の2,328人の地主さんの中で契約した人は1,624人、反対と言った人が704人ですから、地主さんの人数の契約率は約70%です。では面積ではどうかというと、反対しているのは6,049坪で、全体のわずか0.45%に過ぎず、面積の99.55%は継続に判子が押されていたのです。この6,049坪を700人で割れば、それはいわゆる一坪地主だということです。既にほとんど契約が終わっていて当時の村山総理が代執行して判子さえ押せば済んだものが、判子を押さなかったことで問題がまだ尾を引いているということです。
(2)反対運動
普天間基地移設問題の発端は1995年に起きた少女暴行事件でした。そしてこれを契機としてSACO(沖縄における施設及び区域に関する特別行動委員会)が立ち上げられ、村山さんは辞め、1月11日に橋本内閣が成立しました。
そして4月12日に突如モンデール大使と「普天間基地の移設条件付返還」で合意したのです。この辺りから「県民の怒り」とか「まだ犠牲強いるのか」のような新聞の見出しが出てきて米軍基地に対する反対運動が大きくなっていきました。このとき、地主3,000人が公開で実質審議をやりましたが、そのうち沖縄県の人が1,478人です。3,000人の半分以上が県の外から来て騒いでいたのです。沖縄の住民闘争、反基地闘争というのは大半が本土からの人たちだったのです。地元の意見として琉球新報に「基地対策費が750億円も落ちているのに、基地がなくていいのですか」という投稿が載りましたが、このような健全な意見は少しだけ出ますが、ほとんどが無視されていました。
■現状の問題点
(1)軍事的観点から
沖縄の位置を考えていただきたいのですが、空軍の嘉手納を考えると、ここから北京まで2時間です。沖縄を中心にして1時間、2時間、3時間、4時間、5時間というサークルを描いた地図で見るとよくわかります。それをグアム島にやろうとするのはとんでもない考えだと思います。
(2)沖縄が抱える財政・産業問題
沖縄県は、8割行政と言って、80%は国からいただいているもので成り立っています。おんぶに抱っこ状態です。そして沖縄の財産所得の内訳は、3分の1かそれ以上は軍用地の賃貸料で賄っているのです。地場産業は建設業です。橋本さんの海上ヘリポートの話で儲かるのは本土企業だけだと、沖縄の建設会社の人たちは嘆いています。私が沖縄に行く直前の平成6年の統計では、1人当たりの所得は全国で一番悪い212万円で、学力も一番悪いということでした。経済成長率が問題ですが、私がいたころは軍用地地代だけはこの経済成長率とは別にはるかに突出していて年率5%のアップだったと聞いています。そこが揺さぶられる話になったたわけですから、沖縄は大混乱に陥りました。沖縄の人たちは本土の人たちに沖縄の事情をもっとわかってほしいと思っています。大混乱になって不利な立場になるのは沖縄県民です。
(3)振り出しに戻った移転先
橋本さんご推薦の海上浮体工法は沖縄の建設業者にメリットがないという理由でだめです。次に県外か県内かですが、県外は「沖縄の地政学上、アジアの安保維持上」だめです。伊江島と嘉手納はどちらも自民党政権のときから防衛庁が全部踏査して調べ上げてだめだとなっています。結局、辺野古しかなく、それは海兵隊が一番動きやすい場所で弾薬庫と密接にないといけないということです。
沖縄本島の南に那覇と普天間と嘉手納の三つがくっ付いてあり航空管制権上の問題があるので、普天間を一つ移すことでトラフィックの交錯が解決できるということがあります。これは航空上の問題なのですが、巻港補給所地区の機能も移そうとしました。すると沖縄の南北戦争が起きてしまいました。これまで那覇市以南は軍用地としてお金が落ちていたのが、これが行ってしまったら困るということです。
普天間基地を移動させる目的は飛行安全と騒音問題です。ですから陸地から離れたところで二つの滑走路を上がるとき下りるときと使い分けて騒音問題に対処しようというのがV字滑走路の案です。そんなにうまく使い分けられるかどうかはともかく、滑走路が2本あるのはパイロットにとっては安心ですから何本でもつくってくれればいいと思います。
平成9年に地元による立派な研究案が出ました。これには数案ありますが、そのうちの一番現実的なものは、高速道路やモノレールも含めて辺野古を巨大な基地にしようというものです。港も充実させ、更に彼らの夢はアジアのハブ空港ということです。これらをどうかみ合わせるかが政治家の手腕だと思います。
■今後の見通し
私の意見は、普天間は今のままでいいのではないかということです。移設案の目的は「飛行安全」と「騒音防止」ですが、安全については普天間基地整備や飛行安全向上策で対応でき、騒音軽減については防衛施設庁が得意とすることなのではないかということです。
凍結案の長所としては、地主の生活確保があります。沖縄経済の安定ということです。普天間の登記簿は自己申告の勝手なものでかなりひどいものです。この秘密がばれたら大きな問題が噴出するから地主たちは大変なのです。
普天間基地凍結案のマイナス面は、「米軍再編の一部変更」の必要が出てきますがそれは予算を付けるだけです。それから「誘致に動いた地元と土建業者は失望」するかもしれません。また「那覇空港の交通管制業務の混雑不解消」と言われますがJALが少し減便するでしょうから少しはいいでしょう。そして沖縄の「『南北問題』解消棚上げ」になりますから名護市以北は過疎化が変わらず市長は大変になるでしょう。
三沢基地でも厚木基地でも昔の福岡の板付でも普天間でも、事情は同じようなものです。基地があるとその周辺は地価が安く、そこに家を建てた人たちが騒いでいるということがあり、また国も周辺住民には莫大な金を付けて対処しているという状況は同じです。
普天間の安全と騒音問題については、基地滑走路の前後の延長線のところを丁寧に動かしていただければ安全は確保されます。ここには学校がたくさんあり、子供たちは人質のようになっています。子供たちの安全のためにはこれらを動かせばいいのです。
もう一つの問題は、文化財があります。琉球王朝時代の文化財がたくさん眠っているのです。宜野湾市はこれをどうするかということです。
■結び
「民主党の信頼回復になるか」、「沖縄県民をどう説得するか」、「米国はどう出るか」これは見ものです。「中国はどうするか」、「韓国、台湾も自国の安保確保上、大関心を寄せている」。韓国、台湾はアメリカに「普天間から行かないでくれ」と言っています。何かあったときに助けに来てくれるのがグアムではとても難しいということです。更に「座間、横田、横須賀、佐世保、嘉手納、普天間、ホワイトビーチの7基地は国連軍が共用」することになっています。鳩山さんはご存じなかったようですが、いずれにせよ「今月が山場」となっています。
これが私の言いたかったことです。ご清聴ありがとうございました。
■質疑応答
○箱島 今のお話は、佐藤さんの考えとして、普天間はそのままのかたちで上と下を延ばせばいいということでしたが、しかし現実にはどういうかたちで決着しそうだと見通しておられますか。
○佐藤 私が言いたいのは、普天間はそのままにする以外にないということです。今度の民主党のやり方で仲井真沖縄県知事自身が本土や政府に対する不信感を持たれたと私は個人的に思っています。では仲井真さんの承服するかたちはどこにあるかというと、辺野古に持っていけば県民は絶対反対するわけですから、普天間でいいじゃないかということにしかなりません。「よかったね、地代がちゃんと入る」ということでしょう。軍用地を担保にお金を借りたりといろいろな状況があり、その水面下に隠された部分を仲井真さんは処置できないと思います。それに加えてアメリカが予算をどうするかという問題もあります。米軍と沖縄県民の心情をどうバランスを取るかというのは非常に難しく、今さら辺野古でもないとすると、14年前に戻ってしまうのではないかなという気がしてなりません。
大先輩に恐れ多いのですが、私の個人的見解です。あまり報道されないことばかりでしたから、眉つばと思って聞いていてください。いずれこの3月いっぱいで決断をしなければならないことです。
○箱島 この二木会で防衛問題をテーマとして捕えたのは久しぶりだったと思います。佐藤さんは操縦の大変な名手でいらっしゃいますが、話術の名手でもいらっしゃると思いました。しかし、軽快な語り口で、人間模様まで話してくださったその話の中身は相当悲しくて厳しい現実だなという感じを持ちました。私がもし沖縄の地主であれば、欲の皮が突っ張ってどういう考え方をするだろうか、またどういう受け止め方、考え方をするだろうかと、佐藤さんの話術で笑いながらも、そういう深刻なことをわが身に置き換えて考えていました。防衛問題というのは大変大事な問題でこれからもたびたび取り上げていく必要があるかなと思いました。ありがとうございました。
(終了)