第562回二木会講演会記録

第562回二木会講演会(平成22年1月14日)
テーマ:新春 私の新しい日本の成長戦略
講 師:山? 養世氏(昭和52年卒)


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562_IMGP3825.JPG○紹介者 平嶋 彰英氏(同期) 彼とは高校では一緒にサッカー部でした。大学卒業後、彼は大和証券に入社、その間にUCLAに留学をしてMBAを取得、そして大和証券のニューヨーク支店に勤務し、その後ゴールドマン・サックス社にヘッドハンティングされました。そしてあるとき突然徳島県知事選挙に立候補しましたが準備不足であえなく落選しました。
 その後、彼はシンクタンクという道を始め、管直人先生を1人で口説いて高速道路無料化を民主党の政策にさせました。総務省の原口大臣も相当山崎くんの折伏を受けているところもあります。政権交代後、総務省の顧問になっていろとご指導されています。彼は豪胆な意見を堂々と述べるという印象ですが相当繊細な神経も持っています。


■山?養世氏講演

私は高校のときは「伊藤」と言っていました。母親のほうは土佐の高知出身で、それこそ龍馬と同じような郷士の家系です。大学生だった20歳のときから家を継ぎ「山?」という名前です。


■はじめに

 小泉政権が誕生したときはやはり私も期待をした口の1人で、最初は竹中さんや島田晴雄先生を随分とお手伝いさせていただきました。そのときに「日本の経済は完全に限界に来ていて、これからは地方の経済を活性化しなければこの国は大変な悪循環に陥る。そのためには高速道路ぐらいは無料にする必要がある」と申し上げましたがご理解をいただけず、残念ながら民営化されました。
 そのときに「高速道路無料化の政策を分かってもらえるのは、千葉県の木更津の人たちと徳島の人たちだろう。この政策を知事として言えばインパクトがあるだろう。選挙のことを考えたら徳島県知事だ」と考え立候補しましたが、落ちました。
 それがあったので管さんという人が興味を持って「話が聞きたい」ということで20分説明したら、「これで政権が取れるからやらせてください」となり、2003年に次の総選挙での内閣の閣僚予定者として国土交通大臣に指名されてしまいました。
 一昨年ぐらいから本格的に何かが来るという予感がしています。かつては石油の値段が上がれば物価が上がりインフレになってそこで成長が止まりましたが、今は石油が15倍になっても物価が下がり、金融の膨張が続きブレーキがない構造になってしまいました。そして経済全体が先進国から途上国へとすさまじい勢いでシフトしてきていますが、今の中国やインドの繁栄の裏には資源や環境の問題が存在していて、これからもっとすさまじい世界が来るだろうと予測されます。それでは日本はどうしたらいいのかということです。


■崩壊した成長の方程式

 小泉・竹中改革について竹中さんは、「改革が足りなかったから日本経済が元気にならなかった」とよくおっしゃるのですが、私は違うと思っています。確かに不良債権の問題とかいいこともやりました。「企業収益の上昇が国費も個人も政府も豊かにする。とにかく企業の収益をたくさん残せばいい」とやってみて現実に起きたことは、税収はピーク時から4割下がりました。そして今年はついに税収が国債の発行を下回りました。これは1946年の敗戦直後と同じなのです。

562_IMGP3837.JPGこうなった一番の大きな原因はグローバリゼーションです。工場労働者に手を焼いたアメリカと、国営企業がいくら頑張ってもトヨタやソニーになれないことに手を焼いた中国が92年から結んだのが米中経済同盟です。するとコストが50分の1とか100分の1になるわけですからすさまじい勢いで企業収益が増えました。
 こうして先進国企業が人件費と土地代を大きく節約することで企業の収益が伸びました。日本の企業は次々に海外の企業を買収して成功しています。日本全体の企業の収益は増え、日本の対外純資産も増えています。みんなお金持ちになっているはずです。しかし企業はこのお金を海外に持っていって日本に持って帰ってきません。企業がもうかっても労働者の手取りは減ったのです。
 企業の収益がいくら増えても株価は正直なもので、日経平均株価を見てみると日本の経済は衰退していることを表しています。20年前に比べると今の株価は4分の1です。アメリカは20年間で株価が5倍になっています。つまり20対1という非常に大きな格差がついているということです。
 そして個人の借金は減ってはいません。所得が減り資産が減り、でも住宅ローンは返さないといけません。使える金が激減するから激安に走るしかありません。デフレになるのが当たり前です。すると売り上げが減り、企業の収益が下がるという悪循環が今起きています。
 どうして税収が低いのか。なぜ経済成長が来ないのかという根本的なところから考えていかないと話は展開しません。


■新政権の課題

 今の問題の一つは、トヨタやソニーが出ていった後、新しい経済の担い手がいないということです。それを育てることをやっていないし財界もそういうことに興味がありませんでした。
 2番目の問題はもっと深刻で、東京が一番いいという日本の経済の常識が全部くつがえってしまうということです。これまでは首都圏を中心にして地方の財政構造が成り立っていました。首都圏は例えば富士山のような存在で、雨が降って富士山から裾野に水が行きわたるように全国を潤してきました。地方の財政構造も首都圏を中心にして富士山の裾野のようなかたちで成り立っていました。それが20年後には首都圏が一番破綻して一番お金が要るようになるのは確実で、そうすると今の絶対の構造が不可能になるということです。
 3番目は、食糧もエネルギーも輸入に頼っている日本では、新興国の経済成長が進めばこれも全く維持不可能になっていき、これも大きな問題です。


■東京一極集中の限界

 これから20年で首都圏は高齢者が450万人から800万人になります。今まで首都圏が豊かになってきたのは現役の町だったからです。現役の方がこれから引退に入れば当然所得は減り、所得が25パーセント減れば税収は半分以下になります。高齢化問題というのは実は土地の問題で、そのときに首都圏に介護施設をつくれば土地が高くて維持不可能になるということはほぼ明確です。
 最初に国勢調査をした明治時代に一番人口が多かったのは新潟県で、東京は4番目でした。米が一番採れるところに人が行ったのです。それが工業化に伴って首都に人が集まったということなのですが、今それをもう一度考え直さなければならないのです。
 近代日本というのは明治維新で藩の境目をなくしました。引っ越しが自由になり基本的にはどんな職業にも就いていいとなりました。これが明治維新のすさまじい経済成長のもとになり、あらゆる近代産業が起きました。
 戦後は戦った敵のはずのアメリカと経済同盟関係を結びました。太平洋ベルト地帯に工場を集中させてアメリカに輸出して、もらったドルを円に換えて、それで「国土の均衡ある発展」で全国を整備しました。東京がもうかれば地方も豊かになったというたわけです。よく「ばらまく」というのは悪い言葉のように言いますが、これは人類の歴史に残すべき大偉業です。25年で経済成長と所得・地域格差の縮小を同時になし遂げた国家は日本以外にありません。ですから自民党の長期政権は当たり前です。1980年ぐらいまではそれで行きました。
 しかしそれは日本が世界で一番安くいいものをつくれる工場国家で、それが太平洋ベルト地帯というところに集まり、かつソ連邦、中国、ベトナム、インドはすべて社会主義国家で資本主義競争には参加していないという特殊状況の中の繁栄であったということです。
 そういう国々がすべてゲームに参加してくると、日本が世界の工場ではなくなり、資源・エネルギー・水・食糧の不足が起きてきます。
これからは大都市を離れるという発想が必要だと思います。その一番大きい理由は土地が安いということです。例えば羽田が24時間の国際ハブ空港になるとホテルが必要になります。アクアラインを渡った木更津にホテルをつくれば値段は銀座の半分か3分の1ではるかに内容のいいホテルができます。
 中国はどうして発展したかというと、海外から企業を持ってくることによって、貧しさや人件費の安さを強さに転じたのです。それでは日本はどう発展させるかということですが、地方の土地だけではなく、空が澄んで青く水も澄んでいて真っ白な砂浜があって、紅葉があって、桜があって、そして温泉があって、スキーができて、そして安全で民主的で言論の自由があるという日本では当たり前のことを生かすということです。
今北海道に行かれたら半分は中国からの観光客です。彼らは私なんかよりはるかに詳しいです。ちょうどわれわれの世代が学生のころ「地球の歩き方」とかを見て一生懸命ヨーロッパに行きましたが、あれとそっくりな姿です。
 中国人やインド人が欲しがるものは日本から引っ越しできないものです。富士山はさすがに引っ越せと言わずに見に来ます。見に来た人はそこが好きになってそこのものを買う、食べる、そのうちに投資をして会社を持ってきます。日本人は、オーストラリアやヨーロッパやアメリカに行き、こういうパターンをやっていますが、日本自身がそういうことにまだ方向を転じていません。
 日本の最初の政策は藩の垣根をなくして「東京に行け」だったのですが、今の私の経済政策の中心は「東京を出よ」です。
 そのとき、2,000万、3,000万人が移動できる社会でなければいけません。日本の国土の8割は完全に車社会ですからせめて高速道路は無料にしましょうということです。

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■成長戦略の基本方針

 「山?オンライン」という私のホームページに「成長八策」というタイトルで私の提案を載せています。これは料理に似ています。今の日本経済というのは世界中から一番いい材料を持ってきて料理をつくろうとしています。しかしうまいシェフというのは、冷蔵庫にあるものでいい料理をつくります。博多なら博多の今ある材料の中で一番おいしいと思うものをつくるのです。人、空間、国土、山紫水明、歴史など、風土全部、日本そのものを使うビジネスをやっていくということです。その中に技術とかもあります。また東大や京大ばかりを重視するのをやめて地方大学をもっと支援して、そこからその地方のものをいかに日本国内や外国に売るかという発想に換えるのです。
 ヨーロッパは20年前日本に負けましたが、今は日本を抜き返しています。各国いろいろある自分たちの歴史や伝統や国土や風土やライフスタイルを考え直すということです。今の博多を考えても、あのアイランドシティはどうなるのでしょう。こんな宝物のような土地がありながら何もしていません。これはアジアに向けて使うしかないと思います。太平洋ベルト地帯はアメリカに向いていますが、アジアに一番近いのは日本海側です。例えば鎌倉時代の博多というのは実際具体的にどのように中国人に土地の権利を与え、通商や金融はどのようにして、どのようなかたちで都市計画を行っていたのかというのをきちんと発掘をしていけば新しい答えがたくさん出てきます。いいところは昔もいいし今もいいのです。かつてはアジアとの交易率が高く広域レベルで幅広く栄えた土地というのは、もう一度その歴史を現代に復元してみて、つまり飛行機があるとか、ITがあるという今の条件で補正を加えて最適化すればいいのです。
 あとは24兆円の公共事業をやっていたり、一般道路と高速道路を分けてお互いに使えないようにしていたり、路面電車をなくして道路ばかりをつくったり、国際空港と国内空港をわざわざ分けて、羽田には新幹線もJRも入れない、このような無駄な状態をやめなければなりません。交通はすべて接続をすることが必要でしょう。
 世界で一番高い不動産はビーチですが日本はこれも全く放置しています。緑もきれいな海も島も値打ちがない、地方は切り捨て、東京にみんな集まるという常識を捨てないといけません。
 今は平均寿命が80歳を超えました。だから都市の構造も変わりました、これからは長距離通勤なんかをする町ではなく歩いていけるような町にするとか、やることはたくさんあると思います。一番大切なことは、「東京を出よ」ということで、東京自体が復活するためには新政権がこのことを大きな方向として出すことが必要だということです。
 ご清聴ありがとうございました。


■質疑応答

○Q 菅副総理も成長戦略として新しいいろいろな展開を言っていますが、基本的には民間ではなく国が積極的に動かなければいけない状況だと思いますが、財政規律というのがいつも財務省の問題で歯止めを掛けています。財政規律を守らなければいけないというのはどこから来ているのか、どうしたら守られるのかということをお聞きしたいと思います。

○山? 国債の発行残高とか財政規律が守られていたのは、70年代までの日本がまだ貧しかったころです。豊かになった80年代以降に一貫して財政赤字になりました。なぜかと言うと、一貫して貿易黒字が巨額になったからです。よく日本経済が破綻するとか国債が暴落するとかおっしゃるのですが、あり得ません。それは日本が世界一の資産大国だからです。日本人は国債が毎年買えるわけです。それがあるから財政規律が働くことが内在的にはほぼないのです。
 日本が今デフレを起こしているのはほとんどが日銀の責任です。量的緩和をやらないといけないのに日本はそれをやりません。ほかの国は目標は政府が与えるか政府と協議のうえ、合意していますが、日本はそのまま放置されています。つまり日銀と日本の財政当局は極めて異常な関係にあるのです。
 ただ申し上げたいのは、年金や医療費はほぼ自動的に増えていますので今ごろ100兆円ぐらいの税収がないことのほうが最大の問題です。切り詰めていって財政赤字を克服した国は近代世界ではありません。税収増加で、その中にある程度のたがをはめるということです。ですから財政の問題というよりは、先ほども申し上げましたが、企業が海外に収益を持っていって持って帰ってこないという、この辺のほうが大きいと思います。

○Q 東京集中から地方の時代にという趣旨には賛同です。ただ私もこの数年金沢とか熊本とかで生活をしましたが、その都市にとってどのようなかたちで生活を成り立たせればいいのでしょうか。さまざまな産業とか経済の部分がどうしても東京の支店経済というかたちで成り立っているような感じがしています。いいものはたくさんあるのですが、現実問題として地方を成り立たせるためにそれをどのように生かせばいいのかという提案をお聞かせください。

562_IMGP3850.JPG○山? 言葉では「地方分散」とかいう美しい言い方があるのですが、ビジネスマンとしては理念よりは商品やサービスを考えます。その商品の最たるものが高速道路無料化です。少なくともどこかに行き来できないことにはまず第一歩はあり得ないでしょう。交通とか国土とか教育とかの身の回りをそういうかたちで見ていけばいいのです。
 もう一つは、中国の発展は上海や北京で始まったのではありません。深圳(しんせん)という名もなき町に特区をつくって発展させました。しかしよく見ると深圳は香港の隣なのです。それでは日本の深圳はどこかと考えると、それは木更津や淡路島でしょうということです。
 ヒトラーは、古代ローマの8万キロの馬車専用の道が300年間のローマの平和をもたらしたということに学び、まねをしてアウトバーンという無料の高速道路をつくりました。そしてヒトラーを破ったアイゼンハワーが戦後アメリカにも高速道路をつくりそれが大繁栄をもたらしました。
 そしてアイゼンハワーが日本にお金を貸してつくらせたのが名神と東名とそして新幹線です。
地方に住みたいと思うのでしたら、高速道路無料化という私の意見にご賛成をいただきたいと思います。そしてそのときには全部電気自動車が走れるようにし、町の真ん中は人が主役で歩ける町、コンパクトな町、自転車でも行ける町、20分でどこでも行けるようにというように国土とか町の在り方を変えていくことで地方が再生し、そこで産業の構造も全部変えていくことができるということです。


○司会 最後に箱島会長お願いいたします。

562_IMGP3853.JPG○箱島 内容的には深刻な話でしたが、スケールの大きなすかっとした感じで新春最初にふさわしいお話だったと思います。ありがとうございました。私も菅さんと同様に相当折伏されたかなという感じもしました。山?さんがおっしゃるように頭を切り替えて大きな絵を描いてみることが大事だと思いました。日本ではやはりつつましやかに風呂敷を広げることが伝統的なインテリ文化かもしれませんが、これからはますますスケールの大きな風呂敷を広げて、そして貢献していただきたいと思います。どうもありがとうございました。
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