第549回二木会講演会記録

現場から見た医療崩壊危機
平成20年7月10日

nimoku549_1.jpg横倉稔明(昭和36年卒)

略歴:
昭和36月 福岡県立修猷館高校卒業
昭和50年3月 日本医科大学 卒業
昭和51年 日本医科大学放射線医学教室助手
昭和57年 私学共済下谷病院放射線科医長・診療部長
昭和61年 日本医科大学放射線科講師
平成8年 医療法人愛正会やすらぎの丘温泉病院病院長
平成20年 茨城県多賀医師会会長


運営/進行  昭和56年卒(スゴロク会)田中昭人


1 日本の医療評価

日本の医療評価は高い

日本の医療制度は崩壊すると言われているが、日本の医療の評価(WHO等の前回のデータ)健康寿命は1位。健康達成度の総合評価も1位。乳幼児死亡率3.02人。スウェーデンは非常に少ないがそれに匹敵する位。
医療でリードしているアメリカは健康寿命29位。健康達成度15位。乳幼児死亡率6.8人。

健康寿命とは、日常的に無介護で生活できる生存期間。

平成12年に介護保険が始まった時に、日本は寝たきりが多すぎると大騒ぎして、スウェーデンを見習えという話があったが、意図的にOCEDが流してきた話。


2 地域医療体制(茨城県北部の医療状況)

茨城県高萩市は医療過疎の状態。なんとか地域で守ろうとしているが、能力が足りない。
そこで、日立医療圏として、高萩・北茨城・日立市の3市で医療連携体制を作った。

(問題点)
(1) 救急医療体制=それぞれの医療機関がお互いの特徴を持ち合って、何とか生きていこうという付き合い。

・ 高萩市は人口約3万人。救急医療対応施設病院は2つしかない。急性期病床数は2病院併せて約291床。これで、約3万人の療養救急の対応をしていかなければならない。介護施設の問題は超越している。どうにもならない時には、日立総合病院(地域の一環病院)にお願いする。しかし、ここも医者不足で苦労している状態。

・ 今までは、それぞれの病院、あるいは診療所が勝手に独自にやっていたが、どうにもやっていけない。なぜか?→総合病院がない。全ての病気を一つの病院で診れるという状況がまるっきりない。その為、どうしても連携を取っていく必要がある。

(2) 在宅支援診療所
・ 24時間在宅の患者さん対応できるように、いろいろな連絡システムを持ちながら、なんとか高齢者医療の連携をとっている。町にいる眼科、耳鼻科等専門医院とも連携。

・ 医師、看護師、病床の不足。急性期の治療が終わった後すぐに家に帰れない場合は、どうしても療養病床になる。ワークシェアが必要になるので、病院療養長いと、ここで入院が長くなるという問題がある為、連携が大事。

(3) 高萩市の救急医療状況
・ 昨年の高萩北茨城消防署管内の救急件数3295件。心肺停止件数が104件。心拍再開4件。、うち社会復帰したのが1名。

・ 日立医療圏の場合、人口約27万人で、医師が250人。人口10万対医師が92.6。全国平均の半分以下。昨年の救急件数約1万件。心肺停止件数275件。心拍再開36名。1ヶ月生存が5名。生存率が1.8%。全国平均7.19%。社会復帰できた方4名。救急医療というのは、生存率と社会復帰というのが最大の目標だが、全国平均からずっと落ちる。そういうレベルの日立医療圏の状態でやっている。

(4)救急医療の問題のまとめ
・ 救急医療の場合、患者と医療者との信頼関係を構築する前に医療行為がどんどん始まるので、トラブルを起こしやすい。そのため、初期救急は非常に大切。

・ しかし、当直医が医療訴訟等の恐れから自分の専門外は診ない。初期救急の力が地域でものすごく落ちる。

・ 初期救急の弱体化により二次救急、三次救急が混雑。二次救急は本来入院や緊急手術の設定だが、初期救急の患者が押しかけパンク状態。

・ 日立医療圏の場合、二次救急を輪番制でやっているが、補助金が少ない。輪番でだいた2回分の人件費しか出てこないとういう事で、やればやるほど赤字になる。スタッフが少ない上に、7名のスタッフが別枠でとられてしまうという問題がある。

・ 救急医療終了後の後方病院問題。高速道路の出口のような状況。出口があればすっと出れるが、出口がないと渋滞。救急病院、救急療床の在員数がどんどん長くなる。この原因は、厚生労働省による療養病床削減策(36万床から12万床へ削減)を実行した為。

・ 今後の課題。厚生労働省は、地域拠点病院を作る方針を打ち出している。1個の箱物を作ればなんとかなるという考え。日立医療圏の場合は、何でもできる病院が1個あればいいという考えではなく、救急医療を地域で考える面の思考で取り組む必要がある。

(5)産科医療の状況
・ 多賀医師会内での昨年12月31日付年間出生数約500人。産科医2人で、出産取扱数50%以下。

・ 日立医療圏では、産科医9人。日立総合病院にいるが、暮れに6人から3人に減らされるという状況。日立総合病院での出産取扱数は70%。

・ 15年前はお産ができる医療機関13件。現在は4施設。実家のある故郷でお産ができない状況。産前産後のサポートをどういうふうにするのかという問題も出てくる。


(6)高齢者医療の状況
・ 県の年金者組合で今年の始めにやったアンケートで、入院治療後、療養をどこでやるか?人生の最後をどういう風にするというアンケートをやったところ、自宅に帰って自宅で最後を迎えたいが16.9%。ところが、同じ年金者組合が20年前に調査した結果は、自宅で64%で極端に今減っている。病院でが51.4%。

・ 病院で最後を迎えたいという結果が51.4%。理由は、病院で治療するような病気をした場合継続的に治療を受けたい。自宅や介護施設は不安がある。家族に迷惑をかけたくない。自宅療養の場合、家族が一番の問題になっている。

・ また独居者が非常に増えている。急変時にどうしらいいかわからない。昨年、高萩警察署管内16件の孤独死があった。奥さんが亡くなられている、旦那さんが亡くなられている。一人暮らしされている。比較的健康だったとか、あるいは医者に行くのは大変だという事で、なんとなく医者に行かなくなって、亡くなられて1週間、10日。見なくなっておかしいなと行ってみると亡くなれているというケースが増えている。

・ 向こう三軒両隣で、町会を活性化しましょうという取り組みを市でやっている。毎日顔を会わせてチェックしていくようなやり方をしようと勧めている。しかし、戦後60年経つと住民意識が難しくなかなかうまくいかない。


3 近年の医療制度の変遷と日立医療圏への影響

・ 平成4年療養型病床群の創設。急性期病床と区別し、機能分化の面で非常に有効で、これからもっと勧めていなかければいけない制度。

・ ところが、そういう制度を勧めようとしている時に、平成6年に付き添い看護療養費廃止。19床以下の医院がやっていけなくなった。入院してると赤字になるという事で、いわゆる有床診療所と言われている所は、日立医療圏で半分に減った。

・ 平成9年に薬剤費別途負担導入、老齢患者負担引き上げ起こる。年金生活患者の受診抑制。高齢者への負担が大きくなっている

・ 平成12年に介護保険成立。この介護保険が成立した時に、色々な介護施設ができた。その結果、看護師さんが介護施設に大量に移動。特に40代になってくると、病院勤務は、夜勤もあるので、苦しい。介護保険法を最初設立した時は、看護師さんの介護士給料がけっこう高く出せた為、老練の看護師が移動するという事が起こった。

・ 平成15年に多賀医師会で経営していた准看護学院閉鎖。教育カリキュラムが変更になり、年間のカリキュラム総数が増えた。1年延長し全カリキュラムを取り組めばいいが、働きながら資格を取るののには難しい状況になり、看護師養成の機会が減った。

・ 平成16年新研修医制度開始。日立医療圏からは約15%病院医師が減少。今そこで何とかやりくりしており、どこの病院も苦労している状況。

・ 平成18年第5次医療法改定。医療病床の削減を強化。その為救急医療班の手柄がなくなり、医療難民が現実にものすごく増えた。そのために、在宅支援診療所を作らざるをえなくなった。介護力、家庭内努力の問題で、なかなかどこの医療難民も支援診療所で十分な援助をできないという問題がでてきた。

・ 7対1看護体制。7対1というのは、手厚く看護をやりなさいと。手厚い人数でやれば、点数をたくさんつけてあげますよという制度。東京で一番問題になったのは、東京大学病院がうわっと看護師を募集。一気に300人位看護師を増やした。日立医療圏からも看護師さん達が随分東大病院に行った。その為。私達の地域から看護師が15%位減った。

・ 医療制度が変わったり、診療報酬が変わっていく度に、右往左往していくというのが、日本医療制度の流れ。

・ 平成24年介護療養病床が廃止になる。今後の課題。


4 医師数

(1)小児科・産婦人科病院医師数
・ 全国的にみると、小児科の医師2002年8429人だったのが、約200人、年間で減減少。

・ 産婦人科は98年から統計出ているが、8年間で約1000人減小。

(2)内科・外科病院医師数
・ 病院で一般的に働いている内科医は、10年経って3万6千から3万1千。5千人以上の内科医師減少。

・ 外科医は1万9千から1万6千人。約2千5、600減少で減り方が非常に急伸。昔花形と言われていた診療科から逃げ出している。

(3)日本の医師数・ OECDの平均医師数は1000人辺り3.1人。10万人単位で310人。日本は210人位で非常に少ない。日本の医師数は、他の各国に比べても圧倒的に足りない。

・ 1970年に最小限医師数を10万対150人に設定しようという事が決まり、1県1医科大学を閣議決定。115人以下だったのが、150人まで持ってこようと設定。37医学部が、10何年かで支援設置されて、新卒の医者が4000人増えた。総計で80大学医学部ができ、昭和58年に人口10万対150人達成。

・ しかし、1983年に医療費亡国論をいうとんでもない論文が出てきて、医学部の定員削減が決まった。(1割削減)

・ 1998年に医師の削減を提言するというような事で、日本の医師数の増加傾向非常に緩やか。昭和62年に医者が多すぎるというので、10%減らす事が決まった。財政構造改革の推進の閣議決定で、医学部の整理合理化も視野に入れて定員削減しろということが決まった。平成11年には、文部省が21世紀医学医療懇談会第4次報告で、やはり現状より更に削減するとい事を言ってきた。

・ OECDは平均310人になるまで、1970年代からずっとあがってきている。日本は差引14万人不足。足りないという状況になる。

・ 平成16年厚生労働省としても医師数充足と判断。10万対201人の案を言う。日本の平均が今206。OECDが310。しかし、この全国平均に越しているのは、東京を始め大きな所いくつかしかない。210を越しているのは6県で、他は圧倒的に足りない。偏在はしているが、全体数がどこも足りていない。大学が一番多い東京ですら、260位しかないという状況。

(4)医師供給体制の問題点
・ 医師のキャリアパスについて、考察すべき。医師が大学を卒業してトレーニングを受けながら、どういうキャリアをパスを持っていくかという事だが、拘束が長いので、病院勤務医の増加はなく、ずっと横ばいになっている。中年以降の医師が年々増加。

・ なぜ、勤務医が横ばいになるのか突きつめると、何年間病院医師として働けるのかという問題が出てくる。現在、勤務医の週平均勤務時間70.9時間。

・ 病院勤務型というのは、常に、だから点数を増やさない限り、病院勤務がこれからも同じように増えない。そして、診療所の従事者が、どうしても増えるという問題がある。


5 看護指数(看護配置と患者死亡に関連した研究結果)

・ アメリカの医師会、ジャーナル2000年に出されているデータからとったものでは、看護師が担当する患者が1人増えると、30日以内の入院患者死亡が7%増える。また。救命できずに死亡する割合7%増える。担当する患者が2人に増えた場合、患者の死亡率が14%に増加。4人増えた場合、31%死亡率増えたというのが、アメリカのデータ。これに日本看護協会からは基本的に異論がない。日本ではデータ出すのが難しいという事で、日本のデータは無い。


6 医療救急体制の各国比較

・ 日本は長期入院で、ベッドが多すぎるという事を厚生労働省にいつも言われている。確かに、人口当たり2003年のデータでは、ベッド数は14.3%。アメリカ3.3%。

・ 医師の数100床あたりで13.7人。アメリカ66.8人。イギリス49.7人。人口当たりの医師数は2.0人とアメリカと変わらないが、アメリカの場合は、週に20時間以上働く病院勤務だけをカウントしている。日本は医師免許持っている人全部をカウント。数字の上では近いが、実際にはすごくかけ離れていという事が言える。

・ 看護職員数は100床当たり54人。アメリカは233人。ところが、人口千人当たりの看護職員数7.8と7.9。あまり差がない。ここからわかるように、日本の厚生労働省のデータの取り方がいい加減で、信用できない。

・ 医療提供施設別病床数、日米比較した場合、日本は一般病床、療養病床、精神病床、結核病床。アメリカの場合は、短期入院病床、長期入院病床、精神入院病床、結核療養病床。そして、アメリカの場合はナーシングホームがある。

・ アメリカの場合、3日か4日以内の入院で、ナーシングホームに移る。日本の場合の療養病床に移るのと似ている。

・ アメリカは短期入院病床+長期入院病床にナーシングホーム。日本の場合、一般病床+療養病床。併せてみると、ほとんど差がない。そういう意味でいうと、アメリカとしてはベッド数多くない。問題なのは、一般病床数は充分整備されているが、療養病床少なすぎる。その為、一般病室はどうしても在員人は増え、ベッド数は減らせないというのが、問題を起こしている。

・ 死亡場所。これも介護保険始まってから、ここ2,3年厚生労働省は在宅支援診療所で在宅で在宅でと言っている。アメリカと比較すると、診療所で死亡が2.8%。病院が78.4%。病院での死亡がなぜ高くなったかというと、昭和51年を境に病院が多くなった。それまでは、在宅が多い。日本は、病院・診療所での死亡が80.2%。アメリカは75%で、6%位の差。在宅がでの死亡日本が13.5%、アメリカ21%。この中身については、なんとも言えないが、まだそんなに無茶苦茶差はついていない。ここら辺も厚生労働省は都合のいいデータを、都合のいい解釈書を私どもの手元にくれたなという感じ。

・ 病院の景気はどうなっているかを見ると、2001年から2006年までデータでは、上がったり、下がったりしているが、全体72.8%が2006年は赤字。

・ 自治体病院の赤字90.7%。要するに、10%も黒字の病院はない。その他公的病院もだいたい6割位が赤字だと。私立病院、医療法人の病院も47%赤字。これは、個々の経営能力がないのか?言われるが、これだけずっと赤字体質というのは、それぞれの病院の経営能力の問題ではない。こういう危機的な状況をずるずると続け、自治体病院は税金をつぎ込んでいる。そういうのを病院は続けていいかどうか?今の医療費のままでいいかどうかというのも問題。

・ 国民一人あたりのGDPに占める総医療費の割合はどうなっているのか比較すると、1960年から1999年で、一番多いのがアメリカ。アメリカはGDPに対して13%。そのあとがドイツやフランス。イギリスと日本は低い。95年で日本が7.2%。GDPイギリスが6.9%。非常に似ている。国民一人当たりの医療費はアメリカが断トツに多く5000ドルを越している。国民一人当たりでいうと随分と差がある。

・ イギリスはなぜ低いGDPでうまくいっているのか?イギリスは、NHSとい国民医療サービスを1948年に作った。ゆりかごから墓場までという超高級志向。イギリスの場合は、勝手に登録制の家庭医と病院と2段階の医療体制に別れている。そして、医療費を上げずに医療の質を上げるという事で、内部市場というシステムを成立。サッチャーさんが財政危機を乗り切る為の市場原理制作を導入してうんと小さくしようという事で成立した。これは、家庭医が患者さんを診て、どの病院がいいから、あんたあの病院に行きなさいと病院間の競争を促す事によって、医療費上げないで質をあげようとした。ところが、どういう事が起きたかというと、救命救急センターで、生きるか死ぬかというような状況で救急車が入ってきた時、救急患者の平均待時間3時間32分。だいたい死んでしまう。また、一般医療受診では、半数が2日以上病院で待たされる。専門医療の入院待機者100万人以上。こういう事が起こって、患者が国外へ流出。それと同時に英国政府もこの後フランスにお願いする。その為医師は海外へ当然逃げ出してしまっている

・ イギリスの医師、看護婦の自殺率は、同学歴比、医師の場合が2倍で看護師の方が4倍。そこでブレアさんがヨーロッパ大陸並にあげようということで、1997年3倍位まで医療費を増額しようということで、2008年には3倍弱。ところが、一度壊れた医療システムは、医師の信頼育てるのに10年以上かかるので、全然戻ってこない。未だにサッチャーさん以前の状態に戻れていないとういう状態。

・ アメリカの医療制度。医療の質は素晴らしい。本当に最先端の医療。世界で医療をひっぱってくれているが、医療制度は悲惨なもの。

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7 薬剤

・ 厚生労働省の管轄で動いているが、日本の薬剤比率非常に高く31%。薬漬け医療と言って、薬に頼る日本の医者はダメだと厚生労働省に叩かれている。ところが、医薬分業しても病院の薬剤収益は殆どない。医薬品は、圧倒的に外国メーカーのコントロール下にあって、それをどういう風に入れていくのか?それをどのタイミングで認可するのか?非常に体制が遅れている。新しい薬出ても、なかなか認可できない。ある意味、行政の怠慢。

・ 医療機器の値段を見るとびっくりする。日本のぺースメーカーは1個で160万円。アメリカ60万、イギリス30万円。PTCDカテーテルは、25万7千円。一番安い国だと4万円。心筋梗塞の時に心臓に入れようとする冠動脈ステントはイギリス、ドイツ10万円、日本35万円。この内外格差は色々な意味がある。圧倒的に輸入品が多い。また、公定価格、保険の点数が決まっているのも値段が高い問題点の一つ。

・ 専門職、医者以外で、臨床技工士というのは、要するに専門職が必要の場合多い。専門職は日本の場合は、本当に雇えないというか、育てられていない。その為、販売会社やアメリカ人やヨーロッパ人の専門職に手術現場に着てもらったりする。こういう販売会社の仕事を受ける事が多い事も医療費が高い問題。


8 医療費の負担

・ 色々流れの中で、誰がどれくらい払ってきたのか?1980年は国庫負担が30%。家計が40%。これ、患者負担+保険料。事業主24%。2002年には、国庫が25%。家計が45%。事業主22%。国庫負担が5%減って個人負担が5%増えた。

・ 高齢化すると日本の医療費はとんでもない事になると厚生労働省必死になって言っているが、日本はゆっくりした形で上がってきている。医療費率÷高齢化率では、とりあえず0.4。面白いのはアメリカ。高齢化率下がっているにも関わらず、1.2と跳ね上がってきている。イギリスもこれくらいで急にどんどんあがってきている。データを見ると、日本は素晴らしい健康状態を持っている。それにも関わらず、英国、米国のようなお金の使い方で問題。


9 医療崩壊への道

・ こういう時に、今、医療崩壊を言われている。昭和34年国民皆保険制度、国民健康法が施行た。この時に医療費あんまり上げないという基本的な合意があった。それに対して昭和36年、武見さんが全国一斉休診闘争で診療報酬引き上げ決定。ここから、日本医師会主導の医療政策がずっと続いていく。昭和46年に保険医総辞退。そういう形でずっと続いていたんが、武見さんが昭和55年にがんセンターに入院。武見さんが制度事態を無くした訳ではなく、少し前からチーム医療の時代に突入した。これまでは、医師一人の能力でたいていの事ができた。CT,MRI,超音波診断装置、内視鏡、IVR。体の中に色んな管を入れるような治療するような治療が発達してくる。そういうものが発達してくると、どういう事が起こるのか?経済的意味は何だろうと考えると、利点としては、診断治療への大きな貢献。患者満足度の向上する。ところが、欠点としては、専門職がどんどん増える。そういう事で、人件費・諸経費が増加する。

・ 昔は診断から術後まで外科医一人が担当できた。ところが、診断は放射線の先生がやりますよ、手術は外科の先生がやりますよ。麻酔は麻酔科の専門がやりますよ。術後管理は術後管理の担当医がやりますよ、という風な形で、一つの病気に対して、医師だけでものすごく増える。ところが、診断から術後管理までの診療報酬は基本的に変わらない。そこに医者だけではなく、看護師他色々な職員がいるので、診療医療でも支えきれなくなる。

・ 昭和58年に一番の問題点、医療費亡国論を厚生労働省吉村仁保険局長が発表した。これにより、医療政策を厚生労働省が主導権を取り戻した。ということで、次々に医療費抑制策があり、GNPの伸びを下回るような世界一低い医療費の時代に入っていく。

・ 昭和60年に、もう病床数増えたからといって、第一次医療法改正。その時に病床規制の地域医療できた。

・ その後に平成4年に第二次医療法改正。病院機能分化、特定機能病院や療養型病床群。これはなかなか医療の機能分化を進める上でよい政策。

・ 平成18年に診療報酬、介護報酬の大幅引き下げ。色々走り出す。

・ 病院医師の給料はどんなものか?厚生労働省の2005年賃金構造基本統計調査を見ると、39歳病院勤務医が1047万相当。同じ位の専門職として言われるパイロットや弁護士も同じ位。医師自身、給料が欲しいとは、あまり言わない。問題は労働時間。病院勤務医の労働時間が週70.9時間。だいたい朝8時に来て、そのまま夜勤入りして、次の日の昼間の仕事をして、だいたい22時位まで仕事やる。その間36時位ぶっ通し働いている。こういうのが、どんどん常態化する。

・ 日経新聞7月6日発表によると、全国主要547病院、341病院が回答の中で、外来の診療縮小が56.9%。入院診療縮小も46.9%。手術や分娩の縮小も三割。診療科の廃止19.1%。診療科の縮小、内科34%。産婦人科33.4%。小児科21.7%。麻酔科16.4%。つい最近のデータでも、依然として病院の診療縮小、医療崩壊が進んでいる。


10 医療事故と訴訟

・ 1980年富士見産婦人科事件。ある新聞の金儲けの為に健康な子宮を切除したという記事で、ものすごい三面騒ぎになった。最初は傷害事件として埼玉地検が調べて、不起訴。それから5年後に理事長やっていた人の無資格診療、あるいは、看護師が補助でやってはいけない事をやったというふうな法令違反で執行猶予付有罪判決。

・ 93年には、大手の新聞が虚偽の新聞報道という判断で、全面敗訴している。

・ 2000年に医道審議会で不処分決定。

・ 2004年に民事訴訟で富士見産婦人科が敗訴することによって、次の年に不処分が決定。民事訴訟の結果を見て、医道審議会で医師免許を取り消した。どうもすっきりしない。

・ その後、横浜市大患者取り違え事故。広尾病院の注射ミス、割り箸事故、東京女子医大心臓手術事故。それから、県立大野病院分娩中死亡事故等々挙げるときりがないが、一つずつ見ていく。横浜市大患者取り違え事故。あきらかに、二人の患者さん手術しなきゃいかん、途中まで二人の看護師さんが一名ずつ運ぶ。ところが、忙しいから、一人で運べるという事になって、一人の看護師さんが手術室に運ぶ。そこで、間違えて違う手術をした。これ、一人の看護師の一つの問題だが、システムとしてきちっと患者さんを知るシステムを持ってなかった。

・ 広尾病院注射ミスは、本来注射してはいけないものと、注射していいもの、同じナースステーションの処置テーブルにあった為間違えた。これもバタバタして、実際準備した看護師と処置する看護師が違った。安全管理システムと同時に看護師が足りない事によって簡単に起こる事故。

・ 割り箸事故の場合、救急医療の問題になっているが、救急医療の体制システムが整っていない為起こった事故。スタッフから何から全然足りない。

・ 女子医大の手術事故。これは、医療機器の問題。医療機器の専門家が居ない。圧倒的に使われる機械が持っているリスクがわかってない。もう一つ問題なのは、カルテが改ざんされた。非常に医療側に対する信頼をなくした。これ以降、カルテを改ざんした事はほとんどないと思う。

・ 以上の例のとおり、チーム医療が可能な状況であれば、起こらない事故ばかり。それは、なぜかというと、医者が足りない。看護師が足りない。要するに、医療費増やせない。しかも、裁判になっちゃうと、裁判の過程で医学医療の姿が明らかにはならず、誰の責任だという問題にすり替えられる。医療訴訟はものすごく不毛。結局誰が悪いのかを追求する話になり、なぜ起こったのかという問題、責任が明らかになっていかない。


11 モンスターペイシェント

・ 患者が身勝手な行動をするケースが多くなっている。東京都が2006年に発表したモンスターペイシェントの存在の為暴力被害にあったのが2674件。これを原因として、医療職の離職者が273人。医療訴訟、モンスターペイシェントと非常に悩ましい問題を抱えている。


12 医療費亡国論

・ 要するに、厚生労働省が租税社会保障負担が増大すれば、社会の活力が失われるという事で、低医療費政策をとってみようということ。

・ また医療費効率提言論という名前も出てきている。これは、予防重点の方が効率的。メタボ検診、一時的にこっちから始まっているが、これをやっていく事によって、早期での発見、継続した治療で重症患者を抑制できる。将来的に、医療経済的にもいい。

・ 医療費需給過剰論。(病床数世界一、病床数削減、介護保険導入、工学医療機器導入数世界一)


13 まとめ

・ 医者というのは、人間の死亡率100%で、死ぬまでの過程どのように関わり合うか考える。人間の体と生命減少は複雑だからよく解らないことが多い。医療行為そのものは、必ず体に対するダメージを与える。しかし、その医療行為に利益がある。ダメージが利益を上回るという事で、医療行為をやっている。これを前提として信頼を得て治療しなければならない。