<日時> H19年2月8日(木) <場所>学士会館
<参加人数> 82名
<テーマ> 『ニッポンの宇宙開発〜国際宇宙ステーション計画と今後の動向〜』
<講師> 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙医学グループ 主任研究員
泉 龍太郎氏(S.52年卒)
<運営/進行> S.55年卒(GOGO会)間中紳介
<内容>
〇講師紹介(司会及びS52年卒/寺岡氏、渡辺氏)
〇九州大学医学部を卒業、研修医修了後、同大学大学院へ進学。平成4年に博士医歯学課程を修了。 ○ その後、(財)宇宙環境利用推進センターを経て、平成10年に宇宙開発事業団へ。 ○ 平成15年、同事業団と宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所が統合。 現在の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が誕生。現職に至る。 〇宇宙飛行士にもチャレンジされたご経験あり。 〇高校時代は、ラグビー部に所属(高3春で途中退部)。 |
泉 講 師 | 質疑応答風景 |
○講演
◇ はじめに ◇
・医学部出身で、医者になった者が、何故宇宙開発に携わるのか?との疑問をもたれ
ることと思う。
・宇宙空間は、人体にとって過酷な環境であり、宇宙ステーションに長期に滞在する場合は、人体には様々な医学的な影響が生ずること、また長期宇宙滞在に当たっては、宇宙飛行士(クルー)の中に、医者(もしくは医学の知識を持つ者)が最低一人は必要になる。
・ 前置きとして、以下の3つのことを紹介する。
1)宇宙の業界も「普通の人間の集団」であり、その意思決定のプロセスは他の組織と変わらない。
2)組織の性格は「官僚組織」(JAXAの場合、正確には独立行政法人)。これは日本以外もほぼ同様。また、日本以外では、その性格上、軍組織との関係が強い。
3)宇宙開発は全てが先端技術のみで成り立っているわけではない。ロシアのロケットなどは、ローテク・既存技術をうまく使いこなしている。まとまったプロジェクトとして進める上では、これも、たいへん重要な要素。
◇ 国際宇宙ステーション計画(現在・過去・未来) ◇
(国際宇宙ステーションの現状)
・ 国際宇宙ステーションでは、現在3名のクルーが滞在している(うち一名は女性)。
・最初のステーションの人の滞在は2000年から始まった。平均で3-6ヶ月の滞在となり、現在のクルーは14番目(女性の国際宇宙ステーション長期滞在者としては3人目)。
・ 日本も宇宙ステーションの一部分(「きぼう」と言う名称のモジュール)の打ち上げを間近に控えている。最初のモジュールは、今年(2007年)末から翌年(2008年)はじめの間に打ち上げられる予定。
・ 宇宙ステーションは地上約400kmの上空で地球の周囲を回っている。人工衛星などの静止軌道は地表から36,000kmの距離ゆえ、極短距離の上空を回っているといえる。
天気の良い日の明け方/夕方には、(移動の速度は極めて速いが)地上から宇宙ステーションを見ることができる。その軌道はJAXAやNASAのホームページから知ることが出来る。
・ 宇宙ステーションの目的は、地球上では得られない環境(無重力、高真空等)で、各種の実験を行うこと。
・ 宇宙ステーションは、各国がモジュールを分担して成り立っている。米国、ロシアを中心として、日本、欧州、カナダが主な参加国。構成は、米国グループとロシアに分かれており、米国グループ内では、米国=76.4%、日本=12.8%、欧州=8.3%、カナダ=2.3%が主な構成比率(ブラジルなどもマイナーながら参画)。
・ 日本は3つのモジュールを担当しており、加えてHTV輸送機を開発。
・ モジュールが打ち上げられると、日本は当該モジュールを使う権利が生ずるだけでなく、日本人宇宙飛行士が宇宙ステーションに滞在する権利を有することになる(長期滞在は、1回/2年程度のペース)。
・ HTV輸送機は、宇宙ステーションに物を運ぶ輸送機で、5-6トンのものを運ぶ能力がある。
・ そもそも宇宙ステーションの大きさは、サッカー場ほど広さで、重さはジャンボジェット機1機分程度(約450トン)。
・ 国際宇宙ステーションの中では、それぞれの国が担当しているモジュールは、それぞれの国が管理することが基本となる。
・ 筑波には、日本のモジュール「きぼう」のための管制センターがあり、今年末の打ち上げに備えている。
・ 宇宙の環境を活用した様々な実験が行われている。
@ 比重の違うものが、均一に混ざる。
A 容器がなくても、物を浮かべることができる。
B 対流の影響がなく、単一結晶を作ることができる。
などを活用し、新規の(機能性)材料、結晶体を作ることができ、様々な科学実験が計画されている。
・ また、モジュール内の実験のみならず、船外パレットを利用した天体(地球を含む)観測を行うことも計画されている。
(日本の宇宙ステーション計画)
・ 日本にとっての宇宙ステーション計画の意義としては、以下の点が上げられる、
@ 有人宇宙技術の蓄積
A 経済社会基盤の拡充
B 新たな科学的知見を得ること
C 国際協力の推進
・ 基礎科学のみならず、応用科学、一般科学への適応も検討されている。
(例:宇宙映像の利用、教育の場としての活用など)
・ 日本の今後の計画は、いくつかのステップで進められてゆく。
第一段階(2007年-2010年):「きぼう」モジュールを打ち上げてから最初の数年間。既に、実験のプログラムはほぼ決定済み。
第二段階(2010年-2013年):第2期利用に当たり、現在その方向性を定め、詳細な計画を煮詰めている段階である(我々の主要な仕事)。
第三段階(2013年〜):これから検討を進める段階。
(宇宙ステーションの歴史)
・1984年に米国のレーガン大統領が提唱し、計画がスタートした。日本もこれに応え、参画を決定(当時の首相は中曽根康弘氏)。背景には、米ソの「冷戦構造」があった。
・米国はもともとはスペースシャトルを中心とした短期計画を主軸に置き、ソ連は宇宙長期滞在に早期から取り組んでいた。その後、ソ連が崩壊し、1993年にロシアが宇宙ステーション計画に参画し、国際宇宙ステーション計画の目的と枠組みが変わった。
・この枠組み変化に加え、スペースシャトルの事故により、国際宇宙ステーション開発の歩みが大幅に遅れることになった。
・映画でも、米ソの宇宙開発は取り上げられ、「RIGHT STUFF」などの話題作が作られた。
・国際宇宙ステーションは、1998年11月に最初のモジュールが打ち上げられ、2000年10月に最初のクルーが宇宙ステーションに搭乗し、現在(14代目のクルー)に至っている。この間、女性クルーも第2次、5次、14次に搭乗。
(スペースシャトルについて)
・ スペースシャトルの当初(1980年台)の構想は、「再利用できて低コスト(30億円/回)」というキャッチフレーズであったが、事故発生(2回/約100回のフライト)以降、安全性を高めるため、大幅なコストアップ(500億円以上?)となってしまった。
・ 「人と荷物を同時に運ぶことが必要なのか?」といったそのコンセプト自体や、宇宙航空会社数社が開発に相乗りで参画したことなどから設計思想が必ずしも統一的でない、等の問題点が指摘されている。
・ 一方で「地球に物を持ち帰ることができる」利点は大きい。
・ 2010年に退役予定で、今後の宇宙開発計画への影響は必至。
・ 各国がロケットによる次世代の輸送手段の計画を持っている(米国次世代輸送機:CEVは2014年を目処に開発中)
(JAXAの長期ビジョン(JAXA2005)と民間の宇宙開発)
・ JAXA長期ビジョンでは2025年ぐらいまでにはヒトが月に着陸し、基地化する計画。
・ 将来的には民間の「宇宙観光」も実現化する見通し。(←日本宇宙船「観光丸」)
◇ 宇宙での生活と医学 ◇
(宇宙が与える影響)
・ 宇宙では、高真空であることや温度環境からそのままでは人間は生存できず、閉鎖された空間で生活せざるをえない。
・ また微小重力の影響で骨・筋肉がもろくなるため、2時間/日程度の運動が欠かせない(アニメ「巨人の星」の大リーグ養成ギブスのようなロシア製の「ペンギンスーツ」といったものもあるが、宇宙飛行士が実際に装着しているかどうかは不明)。
・ 方向感覚は、理屈の上では、どこが上になっても関係ないはずだが、人間にとっては上下方向を決めておかないと混乱してしまう。
・ 宇宙放射線も大きな問題で、人体だけでなく、機器類(例:CCDカメラなど)にも影響がある。
・ また閉鎖空間での心理問題など、様々な問題が発生する。
(宇宙ステーションの生活を紹介)
・宇宙食は、温めるか、湯を加えるかで食するものが主流。塩や胡椒などは、飛び散らないように液体にして持ってゆく。
・日本人宇宙飛行士の長期滞在に備えて、つい最近、宇宙日本食の認証基準が制定され、定番メニューを届けられるように準備をしている。歯磨きやシャンプーは水を使わないタイプを使用、散髪はバキュームで吸いながらやる。トイレは使いづらい(微小重力では体や排泄物が浮いてしまうため)。
・宇宙ステーションでのクルーは、7.5時間/日勤務して、週休2日のサイクルで、3-6ヶ月滞在する。船外作業(宇宙遊泳)の場合は、予めの準備(気圧調整)などもあり、拘束時間が長い。
・自由時間には、CDを聞く、DVDを見る、電話やインターネット/メール、地球を眺めるなどで過ごすケースが多いようだ。当然ながら外に出ることは出来ない。
(宇宙飛行士について)
・自分が宇宙飛行士に興味を持つきっかけとなったのは、「宇宙からの帰還」(立花 隆著/中央公論社)。
・宇宙飛行士になるには、「健康であること、共同作業を行うための協調性、意志を伝える伝達力・語学力、その他専門知識などの基本要件があり、数次の選抜試験を受けてクリアする必要あり(その時々で試験の内容、合否基準が変わる)。
・宇宙飛行士の種類にも、パイロット、ミッションスペシャリスト、ペイロードスペシャリスト、ツーリスト(=観光客)などいろいろあり、それにより試験の内容も変わる。
◇ 宇宙開発の現状と今後の動向 ◇
・宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、文部科学省傘下の組織であり、同省下の宇宙開発委員会で定められた方針に従い、活動している。
・宇宙開発は、現状では、「文部科学行政」の位置付けとなるが、本来、外交や防衛といった観点もふくめて、「国としての取り組み政策」が必要との考え方が求められ、「宇宙基本法」が検討されている(「宇宙戦略本部」を設立し、文部、経産、総務、国交など各省の総合調整・実施を行うなど)。
(例:自民党/河井克行議員の案「宇宙開発の五原則」(1.外交、2.日本の安全保障への活用、3.宇宙の産業化、4.国威発揚、5.‘種としての人類’の進化 の必然性)
・有人宇宙開発の歴史は(宇宙初飛行以来)たったの45年。地球の誕生(45億年前)生命の達成(35億年前)に比べると、一瞬に過ぎないほどの短い期間。将来の50年、100年のタイムスケールで考えると、人類の宇宙進出は必然の方向性。
◇ 終わりに 〜皆さんに理解、御願いしたいこと〜 ◇
(1) 宇宙は想像以上に身近なものであるという認識を持ってほしい。
(2) 今後の宇宙開発を考えるに当たっては、日本の外交、安全保障など、「国としていかにあるべきか」といった視点で、是非関心を持ち、考えてもらいたい。
〇質疑応答
Q:エネルギー消費の観点から、現状の宇宙開発は問題はないのか?
A:現在の打ち上げ回数、一回あたりの消費燃料からみて、大きな資源問題となるほどの影響があるとは思えない。もちろん打ち上げ一回あたりのコストは掛かってはいるが…(日本のH2Aロケットでは100億円/回程度)
Q:宇宙ステーション閉鎖空間の中で細菌の問題はないのか?
A:閉鎖空間の中で「カビ」の繁殖は機械への影響も報告されており、人体への感染も問題。対策としては「きれいにすること」が大切。国際宇宙ステーション内の細菌の変遷についてはモニタリングが行われている。
Q:お風呂はどうなっているのか?
A:現在の国際宇宙ステーションには、風呂・シャワーはなく、タオルで体を拭く程度。
Q:中国の人工衛星破壊実験の評価は?
A:二つの意味で極めて問題。一つは、政治的な見地から、もう一つは宇宙ゴミ発生の観点から。宇宙ゴミは、宇宙ステーションや人工衛星の軌道・運行へ支障をきたす懸念がある。また発生したゴミ同士の衝突で、宇宙ゴミが際限無く増えてしまう事態が懸念されている。
Q:宇宙空間に人工的に重力空間を作ることは可能なのか?
A:人類の長期滞在には、重力は必要と考えられている。(映画「2001年宇宙の旅」のような重力空間をもった宇宙ステーションの組立てについては)要は、お金と技術の問題。
Q:宇宙観光は現実的か?搭乗するには、厳しい健康状態の検査があるのか?
A:現在話がでている「宇宙観光」は地球を2〜3周回る、あるいは、地上高く上って降りてくるといった類なので、(飛行機に乗るよりは、多少厳しくなるだろうが)それほど高いハードルが設定されるとは思えない。
追記:宇宙に関する情報については、JAXAやNASAのホームページが充実しているので、是非参照して下さい(JAXA:http://www.jaxa.jp/)。
<その他:交流会での意見交換/今月のお題=「心に残る映画」>
○ 「心の旅路」(戦後「カサブランカ」に続いて日本で上映された洋画)
○ 「寅さんシリーズ」(年末の映画館で、寅さん映画の特集を観たときの思い出)
○ 「シェルブールの雨傘」他フランス映画
○ 「オーケストラの少女」「未完成交響曲」などの音楽映画の紹介
○ 戦後、映画とともにJAZZが日本に入ってきた。「シャープ&フラッツ」などの草分け的バンド登場。
など
以 上
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