第535回二木会

<日時>        H19111日(木) <場所>学士会館

<参加人数>  68

<テーマ>      『ニッポンの伝統芸能〜邦楽を取り巻く状況と尺八演奏〜』

<講師>        尺八演奏家、国際基督教大学・テンプル大学非常勤講師

クリストファー 遙盟氏(外部講師)

<運営/進行>  S.55年卒(GOGO会)間中紳介

<内容>

<講師紹介(司会)>

      米国テキサス州のご出身。本名はクリストファー・ブレィズデル(Christopher Blasdel)氏。

      1972年に早稲田大学に、留学され、竹盟社宗家・山口五郎氏に師事。

いったんご帰国後、再来日。東京芸術大学大学院へ進学。82年に修士課程を修了。

      84年に、師匠である山口五郎師より「遙盟」の号を授かり、88年に母校アーラム大学の客員教授、91年にはタイ国王立チュラロンコン大学客員教授にも就任。

国内のみならず世界各国で尺八の魅力を広めるべく活動中。

      執筆活動にも取り組まれ、著書「尺八オデッセイ〜天の音色に魅せられて」(2000年、河出書房新社)では、第六回蓮如賞を受賞。

      現在、(財)国際文化会館の芸術監督を勤められる傍ら、朝日カルチャーセンター東京(新宿)では「琴古流尺八」講座を担当。

 

 

○講演

<自己紹介>

 ・自分はただの尺八吹きにすぎないが、尺八という楽器のすばらしさを皆さんと分かち合いたい。 

  <尺八独奏:「調子」古典尺八本曲>

   ・「調子」という曲は、演奏会の「場」を整えるために演奏される。

    すなわち、尺八を吹く側と聞く側の準備を整え、場を清め、雰囲気をつくる「儀

式的」な意味合いのある曲。 


会場風景 演奏中の遙盟氏


<お話:尺八とその魅力>

     尺八の魅力を一言で言えば、「音色の魅力」に尽きる。

     日本音楽の共通の魅力でもあるが、簡単な道具(竹の筒)で様々な質の

豊かな音を出すことができる。

     シンプルな形式(簡潔な言葉)で大きく豊かな世界をかもし出す点は、俳句とも通

ずるところがある。

     「最小のmaterialで、最大の世界を表現し、作り出す魅力」といえる。

     自分を幸せにし、自らを知るためには、できるだけ簡単な道具がよい。

尺八は、自分の声に似ている。そこが魅力である。

     尺八の構造は、単純。竹の筒の根の部分に穴が5つあいているだけ。

     5つの穴のふさぎ方をかえて、音階をカバーする。

     西洋音楽は12音階が基本となっているが、尺八も穴のふさぎ方で、12音階を表現することはできる。ただ、本来、音は12の音だけでなく、その間に無限の音が存在している筈。それを12の音しか使わないのはもったいない。

     尺八はこの無限の全ての音を演奏で使うことができる。

     加えて、音の質、たとえば、「澄んだ音」や「(かすれたような)風の入った音」も出せる。「Noise」や「Non Musical Sound」も取り込んで、表現がより幅広くなっている。(三味線、琴なども、同じような要素がある)

     尺八は「一尺八寸」の長さが基本であるが、「一尺六寸」のものや、「二尺三寸」、「三尺二寸」のものもあり、いろいろな音色が楽しめる(実演で吹き比べ)

 

 <尺八独奏:「現代調子」クリストファー遙盟作>

     三尺二寸の尺八を使う。音の広がりと豊かさを感じてほしい。

     音と音の間にいろいろな「層」がある。ちょうどお城の中に様々な部屋や、庭があり、そこを覗き込んだり、見渡したりするように。

 

<お話:尺八と宗教>

     尺八の音を感じると、いろいろな連想ができる。それほど広がりが大きく、豊かである。そのため尺八は吹くのも、聞くのも集中力が必要となるが、集中すればするほど、楽しむことができる。「瞑想的な音色」とも表現できる。

     尺八と禅仏教との結びつきは強い。1415世紀に、多くの僧侶が瞑想を行うのに、尺八を使った。有名な一休禅師の著作のなかにも、尺八がよく登場する。

「人々の悟りを促すための道具」との位置付けでもあった。

     江戸時代になると、尺八に「宗派」ができてくる。代表的なものが普化宗の流れで、いわゆる虚無僧が出現してきた。この普化宗は江戸末期には、退廃してゆくが、江戸時代初期には、尺八の音に対する探求心が旺盛で、多くの楽曲を残した。これが現在の「本曲」と呼ばれるものとなった。

     普化宗の寺では、各々の寺で、持っている曲が異なり、僧侶がそれぞれの寺を訪れ、新しい曲を習得してゆくようなことが行われていたようだ。

 

<尺八独奏:「三谷」古典尺八本曲>

 

<お話:一音成仏>

     「一音成仏」ということばがある。

     尺八修行の最高の目標であり、「一音吹くことで,成仏できる音を出す」こと。

     日本には中世時代から「音は悟りを開いてくれる、導いてくれる」という考え方があった。現代は、音も物も氾濫しているが、一つの音でも、それがFULLで豊かな広がりがあれば、充分だと思う。

     加えて、日本には、「音は自らを知る手段である」という考え方も存在しており、そのことにも魅力がある。

     自分の流派は「琴古流」というものであるが、これは虚無僧がルーツである。明治時代に入り開花したもので、尺八のもつ「あらい」音(吹き方)に洗練された装飾をつけて、表現豊かに演奏することに特徴がある。

 

<尺八独奏:「巣鶴鈴慕(そうかくれいぼ)」琴古流尺八本曲>

     この曲の面白さには、以下の点があり、是非楽しんで聞いていただきたい。

@     ひとつの音階のパタン(音階)を繰り返すことが基本だが、それがどんどん複雑になってゆくこと

A     音の終わり方も、あらゆるバリエーションがあり、最後の最後まで意識して作り上げていること

B     鶴の鳴き声などの擬声,擬態音の表現の面白さ

 

鶴は人間と同じで一生涯同じパートナーと添い遂げる。子供も大切に育て、人間に近い生き物。この曲はその様子を曲にしたもので、子供の巣立ちの時の緊張感あふれる表現もききどころ。

 <お話:現代尺八音楽>

     尺八の曲は、全て江戸時代に創作されたものではなく、新しい曲もどんどんできている。

     戦後1960年代は、NHKが著名な作曲家に邦楽の作曲を依頼して、邦楽ブームをおこした。

  1967年武満徹氏が作った曲「ノヴェンバー・ステップス」を横山勝也氏が(ニューヨーク交響楽団とともに)  演奏するなど、世界を舞台とした活動が始まり、世界を驚かせた。
  また1966年にニューポートジャズフェスティバルにも、山本邦山氏が登場し、新たな世界を開いている。

     自分の師匠(山口五郎氏)も米国の大学で1年間教えにゆくなど、尺八の舞台を広げた。

     現代に作られた曲をひとつ紹介(披露)する。

 

<尺八独奏:「一定」杵家正邦作>

     「一定(いちじょう)」とは、人間は、日々様々な感情(躁・鬱・興奮、悲哀など)の起伏があるが、その中で人間の本質は変わらない(=「一定」)であることを表現したもの。

 

<お話:世界音楽としての尺八>

     尺八はシルクロードをつたわり、7-8世紀頃,日本に入ってきた。

     いまや尺八は、世界各地に根を降ろしている。もはや「日本の楽器ではない」

     1998年に米国/ボルダーで尺八の世界フェスティバルが開催され、日本からも150名、米国からも150名も尺八愛好家が集った。

     その後ニューヨークなどでも,開催され、2008年にシドニーにて開催予定である。

興味のある方は、是非ご参加ください。

 

 

     質疑応答

Q:音楽療法に尺八が使われることはないのか?
A:自分の一生を掛けての夢は、音楽療法に尺八を使えるようにすること。
 日本の音楽療法も確実に進みつつあるが、西洋の楽器に目が行き勝ち。尺八には必ず応用できる要素はある
 が、自分の中では、方法論がまだ見つかっていない。
ヒントがあれば、教えてほしい。 

Q:日本のポピュラーな曲を演奏してほしい。
A:(リクエストに応じて、「出船」を演奏)

Q:尺八には「調律」というのがあるのか?
A:新たに作るとき際には、作成者が一応調律を行うが、吹く人により,徐々に変わってくるので、完璧なものはできない。完璧でない方がかえって良いのではないか。

Q:尺八にも色々流派があろうかと思うが、世界規模で広がりをもたせるには,統一の基準,組織のようなものが必要ではないのか?
A:自分の琴古流以外にもたくさんの流派がある。楽譜も流派によって異なることから、今後さらに世界規模で拡大してゆくために、大きな課題と認識している。 

Q:現状の楽譜の非統一は、大きな問題であろう。西洋音楽であれば、楽譜に基づき(ほぼ)同じ演奏が再現できる。楽譜の統一なくして世界音楽への脱皮は難しいのでは?
A:尺八には、ノウハウや特別なスキルを「秘伝」として伝える(「口伝」)傾向がある。もともと音は耳で覚えるものとの考え方。西欧でも初期は簡単な番号を記して「楽譜」とした時代もあるが徐々に現在の形になってきた。尺八の「楽譜」は複雑で、豊かな表現を作る装飾音が楽譜に書ききれず、楽譜は複雑で、初心者が見てもわからない。これも克服すべき課題と認識している。 

Q:テンプル大学でのお仕事は?
A:非常勤講師として、日本音楽全体を紹介する講座を担当している。


    以上

第535回二木会

ニッポンの伝統芸能
〜「邦楽を取り巻く現状と尺八演奏」

 初冬の候、館友の皆様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申しあげます。

さて、1月は新春に相応しく、尺八演奏家のクリストファー遥盟(ようめい)氏をお迎えし、尺八を通して見られた邦楽の現状についてお話を伺います。
遥盟氏は米国テキサス州のご出身で、本名はクリストファー・ブレィズデル(Christopher Blasdel)。72年に早稲田大学に留学され、竹盟社宗家・山口五郎師に師事、その後、東京芸術大学大学院へ進まれ、82年に修士課程を修了されました。84年には、師匠である山口五郎師より「遥盟」の号を授かり、88年に母校アーラム大学の客員教授、91年にはタイ国王立チュラロンコン大学客員教授にも就かれ、国内のみならず世界各国で尺八の魅力を広められておられます。

また、執筆活動にも取り組まれており、著書「尺八オデッセイ〜天の音色に魅せられて」(2000年、河出書房新社)では、第六回蓮如賞を受賞されております。現在、(財)国際文化会館の芸術監督を勤められる傍ら、朝日カルチャーセンター東京(新宿)では「琴古流尺八」講座を担当され、多くの方々に尺八の手ほどきをされております。

邦楽についての深い知見に基づくお話を頂くと共に、実際に尺八の音色もお聞かせ頂く予定です。尚、時間をなるべく講演に当てますので、今回の交流会は休会します。また、通常より開始時間が早くなっておりますので、ご注意下さい。

多数の館友のご列席を心よりお待ちしております。

尚、出欠のご返事は1月5日(金)必着でお願い致します。
             
                          東京修猷会  会 長  藤吉 敏生  (S26年卒)
                                    幹事長 甲畑 眞知子(S44年卒)
1.テーマ ニッポンの伝統芸能〜「邦楽を取り巻く現状と尺八演奏」
2.講師 クリストファー遥盟 氏(外部講師)
尺八演奏家、国際基督教大学・テンプル大学非常勤講師

3.日時 2007年1月11日(木)
午後6時 〜 食事、 午後6時45分 〜 講演
*食事を申し込まれた方は、遅くとも6時20分までにお越しください。
4.場所 学士会館
 (千代田区神田錦町 3-28)
電話 03-3292-5931
地下鉄東西線
 「竹橋」下車5分
半蔵門線・都営新宿線・三田線
 「神保町」下車3分
5.会費 3,500円(講演のみの方は1,500円)
70歳以上および学生の方は2,000円(講演のみの方は無料)