<日時> H18年10月12日(木) <場所>学士会館
<参加人数> 67名
<テーマ> 『ニッポンの地球環境問題』〜環境科学の役割と地球の今後〜
<講師> 不破 敬一郎 氏(昭和18年卒)
<運営/進行> S.55年卒(GOGO会)間中紳介
<内容>
○ 講師紹介(司会及び 安心院 幸敬氏[S.18年卒])
(略歴)
大正14年8月18日 東京生まれ。国は愛媛県宇和島
昭和18年:修猷館卒業
昭和20年:福高理1卒
昭和23年:東京大学理学部化学科卒
昭和30年:フルブライト留学(ハーバード大学医学部)*1
昭和43年:東京大学教授*2
昭和63年:国立環境研究所所長
平成8年 :日本分析センター会長
現在 :東京大学名誉教授、国連大学顧問、日立環境財団理事
*1:米国では、金属の人体への影響について研究。本来2年で帰国の予定が、14年間在米。
*2:東大で分析関連の新たな学科設立に際し、文部省、東大の要請を受け、帰国。
農学部の中に、新に分析化学教室が設立され、教授として着任。
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不破講師 会場風景
1.巨大科学(Big Science)と環境科学
○ 20世紀前半は「戦争の時代」。
(1894〜日清・日露戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争 など)
○ Scienceの世界のトピックス
1900-1910:X線(01)、放射能(03)発見
1920-1930:原子構造解明(22)
1940-1950:原子炉第一号(42)、広島・長崎原爆投下(45)、電子計算機・情報理論(48)
1960-1970:スプートニクス打ち上げ(57),DNA,二重らせん(62)、「沈黙の春」発刊(62)
1970-1980:アポロ月面着陸(69)、国連人間環境会議(72)、火星探査バイキング(76)
1990-2000:国連環境開発会議(92)、ゲノム計画(97)、火星探査パスファインダー(97)
「奪われし未来」発刊(97)
○ 巨大科学(Big Science)の誕生
1890頃〜 :核科学(原子力・放射能、量子科学)
(研究の成果が上記原子炉や原子爆弾開発につながる)
1960〜1980頃:スペース科学、生命科学、環境科学
1980〜1990頃:情報科学
・上記のような、巨大科学が次々と誕生してきたことが、20世紀の特徴のひとつ。
・「環境科学」もこの巨大科学のひとつ。
・巨大科学の特徴は、従来の学問(自然科学=物理、化学、生物、医学等、社会科学=法律、経済、文化等)が全て関与しており、環境科学はそれらが等しく関与している(Equally
Distributed)ということ。
2.環境問題の重要事項 〜範囲と定義〜
○年代順トピックス
1962:「沈黙の春(Silent Spring)」(R.カーソン=海洋生物学者・詩人・作家)発刊 (農薬散布による生態系への悪影響について警鐘。当初は農薬会社などからの圧力もあっ たが、ケネディ政権がRカーソン氏をバックアップ)
1967: 公害対策基本法(厚生省)
1968:水俣病・イタイイタイ病原因認定
1971:環境庁発足、MAB(UNESCO)発足
1972:国連人間環境会議(ストックホルム会議)
UNEP;「成長の限界(The Limits of Growth)」(ローマクラブ)
1975:ロンドン・ダンピング条約;ワシントン条約
1980:「西暦二千年の地球(Global
2000)」(G.バーニー)
1985:オゾン層保護ウィーン条約
1987:オゾン層モントリオール議定書、「我々の未来(Our Common Future)」(G.H.ブルントラント)
1992:国連環境開発会議(地球サミット)「リオ宣言=‘Sustainable Development’」
1993:環境基本法(環境庁)
1994:気候変動枠組条約(地球温暖化問題)
1997:気候変動枠組条約締約国京都会議(COP3)「奪われし未来(Our Stolen
Future)」(T.コルボーン)環境ホルモン
1999:COP5(ボン)
2000:COP6(オランダ)、酸性雨国際学会(日本)
2001:環境省に昇格
2005:京都議定書発効(2000年以降COP11まで継続の末、議定書発効)
○「地球環境」という定義の変質
「環境科学」を位置付けるために、「環境」という(言葉)の定義を行う必要性が
生じてきた。
@1960年代〜1985まで
「自己以外の全て(Everything
Except Me)」
(個人主義的であり、生命倫理的な位置付け)
A1985〜
「自分を含んだ全て(Everything
Including Me)」
(全体主義的、環境倫理的な位置付けに変質)
3.地球環境問題(具体的な重要課題)
(1)
成層圏オゾン層の破壊(Depletion
of The Ozone Layer)
(2)
地球温暖化と気候変動
(Increase of Global Temperature and Climate Change)
(3)
酸性雨(Acid Rain)
(4)
海洋汚染と有害廃棄物(Marine
Pollution and Toxic Chemicals)
(5)
熱帯雨林の減少と砂漠化(Deforestation
and Desertification)
(6)
野生生物種の減少(Loss of
Biodiversity)
4.成層圏オゾン層の破壊(Depletion of The Ozone Layer)
○ 地上20kmを極大として、オゾンのフィルム層(大気圧下で3mm程度)あり。
太陽からの有害紫外線を吸収。地球上に徐々に生成されたおかげで、
生物が海⇒陸上に上がることが可能に。
当該オゾン層が破壊されつつある現象が発覚。問題化
○ 有毒紫外線(UVB,280〜320nm)の影響
オゾン量1%に対し、UVB=2%増、皮膚がん患者=3%増、白内障患者=0.6〜0.8%増
○ 南極オゾンホールの観測などにより、オゾン層の破壊の原因が「フロン類」*にある
ことが判明。
*「フロン類」
CFCs、クロロフルオロカーボン、塩弗化炭素類。冷媒、溶媒、発泡剤、スプレー噴射ガス などに使用。「安定」で人体に無害。(=人の役に立つ物質)「安定」ゆえ大気中で分解せず、オゾンと反応し、オゾン層を破壊することが判明。
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○ 1985年:ウィーン条約、1987年:モントリオール議定書により、フロンの使用規制が開始。
←フロン規制により、オゾン層が復活し、解決の目処がついた。
5.地球温暖化と気候変動(←現段階で解決の目処立たず)○ 温室効果ガス(炭酸ガス、メタン、亜酸化窒素、オゾン、フロン)の増加により、地表温度が
増加する現象。(炭酸ガスなどは、植物が本来吸収するが、発生と吸収のバランスが崩れ増 加。発生>吸収)
(ハワイ/マウナロアの大気中の二酸化炭素濃度の時系列変化:(季節による変動はあるも、)
1960年頃=310〜320ppm → 1980年頃=340ppmへ上昇)
○ 国連でも問題化し、1988年に気候変動政府間パネル(IPCC)が設立。
○ 21世紀末までに炭酸ガスが540〜970ppmに増加し、気温が1.4℃〜5.8℃上昇、海面が0.09m 〜0.88m上昇すると予測されている。
○ 1997年:気候変動枠組条約・京都議定書(日・米・欧=6%・7%・8%の炭酸ガス排出
削減を織り込み)作成。
←ロシア、米国が参加せずに、発効できなかったが、ロシアの参加を機に、2005年に発効。
但し、米国は未だに不参加*。
(*考えうる不参加の理由
@ 予測が間違っている可能性
A 途上国(含む中国)参加せず、
B もともと米国は「個人主義」の国。「全体主義」的な動きは、生理的に
受け付けないのでは? )
6.化学物質(特定の化学物質による環境への悪影響懸念)
○典型7公害(1967年/法律132)
大気汚染、水質汚濁、土壌汚濁、騒音、振動、地盤沈下、悪臭。
このうち、大気汚染、水質汚濁、土壌汚濁、悪臭は化学物質の問題。
○重金属類(水銀(水俣病)、カドミ(イタイ・イタイ病)、鉛、クロムなど
○環境ホルモン(内分泌攪乱物質、EDC;ビスフェノールA,アルキルフェノール類、ダイオキシン類、
TBT、PCB 等)
○残留性有機汚染物質(POPs:アルドリンクロルデン、DDT,HCB,PCB,ダイオキシン類等12種)
←2004年:ストックホルム条約による規制措置発効
○電気・電子機器における特定有害物質(鉛、水銀、クロム、カドミ、PBB、PBDE6種)
←EUにて、使用制限指令(Rohs指令:2006年発効)
7.持続可能な開発
○1992年「地球サミット(国連環境開発会議)」のリオ宣言標語=「Sustainable Development」
G.H.ブルントラント:「私共は、次世代の人々を裏切ることはできません!」
(We cannot betray future generations!)
直訳は「環境が壊れるような、開発はしないほうが良い」という主張。
(「持続可能な開発」の訳は誤解を受けやすい)
8.水素エネルギーの社会
○ エネルギーの大別
「再生エネルギー(水力、風力、太陽熱、地熱、バイオ燃料、水素等)」は現状10%以下。
90%以上を「非再生エネルギー(石油、天然ガス、石炭、オイルサンド、原子力等)」が占める。
○ 1941年〜45年:マンハッタン計画(米国):原子核のエネルギーに着目(→原爆製造)
原子力エネルギー=現段階では、「核分裂」エネルギーの活用。
○ 水素エネルギーの種類
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軽酸素(1H):燃料電池(ハイブリッド車にも搭載) 等
A
重水素(2HまたはD)
B
三重水素(3HまたはT)
→「D」と「T」が融合すると、核融合がおこり、エネルギーとして活用できる期待。
○ 核融合エネルギー=「夢のエネルギー」
(全てのエネルギー/環境問題への解決策となる可能性を期待)
2005年仏/カダラッシュに「国際熱核融合実験炉(ITER)」が設置。世界規模で、研究を推進。
今世紀末に「経済炉」として運転可能となることを期待されるも、「実現不可能」と唱える人も。
9.地球の今後
○ 「今後」の捕らえ方
・宇宙の始まり(ビッグバン)=150億年前、太陽系(+地球)の誕生=46億年前
あと46億年経てば、太陽が惑星を飲み込み、地球もなくなるとの予測。
○ 「近い将来(2〜3世代後)」の見方は?
・悲観論と楽観論あり。悲観論は根強いが、核融合研究者の中には、楽観論も。
・悲観論:O.シュペングラー「西洋文明の没落」、H.ヘンダソン「文明論」
J.ラヴロック(「ガイヤ仮説」3つのCにより、神の怒りに触れ、人類は滅亡。 (3つのCとは、Car(車)、Cattle(家畜)、Chainsaw(糸鋸)))
・楽観論:吉川充二、関口忠(いずれも核融合研究者)
10.環境問題に貢献した3人の女性
R.カーソン(1907〜1964) :「沈黙の春」
T.コルボーン(1927〜 ) :「奪われし未来」
G.H.ブルントラント(1939〜 ) :持続可能な開発
・NEGATIVEな見方(悲観論)だけではなく、POSITIVEな道も示している。
女性の力で、未来は「楽観的な」ものになるはず。
(「東京修猷会も女性幹事長のもと、将来は明るい!」(笑))
<質疑応答>
Q:環境問題に人口増減のもたらす意味合いは大きいと思う。世界規模での産児制限の問題など
は、環境問題の中で取り扱うべき話ではないか?
A:人口問題も「環境問題」の大きな要素の一つであるとの認識をしている。核融合エネルギ
ーが開発されれば、産児制限などの問題もかなり緩和されてくると思うが、それまでは、たい
へん。また、日本においては、少子化の問題も大きいし、オスのメス化、メスのオス化などの事例もでて おり、環境ホルモンの影響もあると考えている。
Q:北朝鮮の核実験の真偽についてのご見解は?
A:地下の閉鎖された場所での実験では、放射性物質の検出はなかなか難しい。一方チェルノブイリ原発 事故など場合は、日本でも検出された。核を持つ国が、核を待たない国に、「持つな」という構 図はなかなか抑止力が効かないのではないかと懸念している。
<その他:交流会での意見交換/今月のお題=「お勧めの本」>
○「経産省の山田課長補佐、ただいま育休中」(山田正人著、日本経済新聞社)
(S.22木下氏よりご紹介)
○「一化学者の回想と告白 周期表・蝶・女性」(不破敬一郎著(今回講師)、広川書店)
(S.18安心院氏よりご紹介)
○「日本人の魂〜明治維新が証明したもの〜」(渕上貫之著、駒草出版)
(藤吉会長よりご紹介)
○「大地の咆哮 元上海総領事が見た中国」(杉本信行著、PHP研究所)
(S.25山本氏よりご紹介)
以上
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