「九州・福岡の今未来」
九州電力株式会社常務取締役 橋田紘一先輩(昭和36年卒)
2006年3月9日(木)学士会館にて
■観光王国九州
(1) 九州国立博物館の現状と九州観光推進機構の活動
九州国立博物館は東京・京都・奈良に続いて108年ぶりに誕生した国立博物館である。久留米の菊竹さんの設計事務所が設計された極めてユニークな建造物である。隣接する太宰府天満宮には年間600万人が訪れる。この足を九州国博に呼び込むため、修猷館の後輩である西高辻宮司は、太宰府天満宮からトンネルで直結しエスカレーターで九州国博に上がれるように協力してくれた。せいぜい年間30万人だろうと国博にせせら笑われながらも、私達はこの博物館を起爆剤にして何とか九州の観光を盛り上げたいという思いから、年間100万人を目標に掲げ、開館記念展覧会「中国からの宝と正倉院の宝」などの集客に努め、10月にオープンして2月19日にはみごと100万人を突破した。
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講師:橋田紘一さん
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他の3国博と基本的に異なる点は、@独立法人になって国立博物館の運営のコンセプトも「面白くなければ博物館ではない」と変化し、目線を市民において楽しんでもらうという発想で、展示だけでなくファッションショーや歌謡ショーなど多目的に活用していく。A周りの杜と調和した建物そのものがユニークで素晴らしい。世界一を誇る収蔵庫は観覧でき、修復工房も外からの見学が可能である。免震構造も先般の地震で実証された。展示品以外にも見所があるということである。B1階の広大なエントランスを無料で自由に楽しむことができる。
以上の要因に加えて、待望の国博完成への九州人博多っ子の飢餓感と期待感とが100万人達成を後押ししたとも言えるだろう。
(2)九州観光推進機構の活動
九州観光推進機構は「九州はひとつ」を実現する官民一体の推進機構である。国において現在観光立国の施政に向けてさまざまな取り組みが行われているが、九州においても以下の6つの点から、観光を21世紀の戦略産業と位置づけて発展させていきたいと考えている。
@観光産業は裾野が広く、他産業への経済波及効果が大きい。A九州の観光消費額は自動車等輸送機械出荷額に匹敵する規模で、戦略的取り組みによってさらなる発展が期待できる。B発展を続けるアジアに近く観光客の増加が期待できる。C観光産業の進歩は魅力ある街づくりと表裏一体であり、地域づくりのツールとしても重要である。D「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を、「ビジット・九州」に移行して観光振興に取り組み、相乗効果を期待する。Eライフスタイルのニーズにマッチした新たな観光が増加している。
九州は多彩で魅力的な観光資源に恵まれ、ホスピタリティに対しても高い評価を得ているにもかかわらず、各県の相互の連携が不良で、観光客増加は横ばいまたは下降線。そして鍵を握る東アジアと、3大首都圏のシニア層の訪問希望地としても北海道、東京、大阪に比べ低位である。観光ニーズに応える受け皿作りの遅れ、九州観光の一体的な施策推進体制が脆弱であるという課題を解決することが求められている。そこで、九州中央知事会、九州山口経済連合会など官民が一体となり平成15年10月に九州地域戦略会議が発足した。翌年2月には九州観光戦略委員会が設置され、「戦略4本の柱と49の施策」を実行する。
@ 旅行先としての九州を磨く
A 国内大都市圏から九州に人を呼び込む
B 東アジアから九州に人を呼び込む
C 九州観光戦略を進める体制作り
九州観誘致促進協議会、九州誘致協議会、広域振興事業推進協議会の3つを統合し九州観光推進機構に1本化し、これらの具体的な49の施策を実現するために3年で15億円の資金が調達された。九州の観光の振興を成功させるためには、関係者は次の3つの共通認識を持って対処することが必要であると考える。
@九州各地での「観光地を磨く努力」を九州全域における観光地作り運動として展開し、県境を越えた商品の実現に取り組む。
A県境を越えた広域連携だけでなく、従来の観光関連産業と他の産業が業界の壁を越えて結びつく超域連携によって新規事業を増やす。例えば世界屈指のトヨタの宮田工場、日産の苅田工場。そんな工場を見学しながら吉野ヶ里に行く、九州国博を見る・・・学びながら観光する。
B道路の整備で域内交流が盛んになることによって、自分の地域の長所、短所を認識し、また他地域の観光を熟知し、観光客に口コミで伝えることができる。
要はこういう観光から「九州はひとつに」という運動を盛り上げていこうということが狙いにある。
■アジアで活躍できる人材の育成を目指して 〜九州・アジア経営塾〜
人材養成の重要性を認識し、約7年前から準備してKAIL(The Kyusyu-Asia Institute of Leadership)を設立した。ここで実践される「碧樹館プログラム」は経営トップと現場の結節点である40歳前後のビジネスパーソンが、自己確認を通じて戦略的なリーダーへ成長することを願い設計されたもので、確立した価値観を「ものさし」に、自ら考え判断し新しいビジネス像、企業組織像、社会経済像の実現に向けて行動しうる「泥にまみれる実行者」たる次世代リーダーの育成を目指している。このプログラムに一貫して流れているのは「自分でしっかり考えて、第一人称で語れ」ということ。碧樹館プログラムは最先端の経営哲学教育を提供し、経営ビジョンの潜在能力の開発と向上を行う。グローバルに通用する高度な知識の提供をおこなうMBAの盲点となっている経営哲学の分野を軸に、リーダーシップ教育のあり方を再構築し「価値観」、「創造的知力」、「組織行動力」、「感情力」からなるリーダーシップ資質を醸成する。
約9ヶ月間230時間の授業料は250万。「振り返りから気づきへ」、「分析から想像へ、そして創造へ」、「行動から変革へ」の3つのモジュールからなり、各セッションで企業トップ、各分野での先端の研究者などを講師に迎え、塾生相互に学び合い自分の座標軸をつくっていく。また、この塾の目玉である「寺子屋式リーダーシップ対話」では、マレーシア首相マハティール・モハマド氏、日産自動車のカルロス・ゴーン氏、建築家の安東忠雄氏、ジャーナリストの筑紫哲也氏、福岡ソフトバンクフォークス監督王貞治氏など、第一線で活躍する各分野のリーダー達とひざを突合せ、生の言葉を聞き、語りあう。目からうろこの感動である。ちなみに卒論となったのは「社長になったつもりで社長の初心表明」を語ることであった。我々としては彼等の勉強する姿勢をサポートし、学んだものをぜひ実践させてくれるよう各企業にもお願いする。毎年30人卒業すれば30年後には900人になり、それはまさに人材の森であり、彼らがネットワークを作っていくことだと確信している。
■ 九州をよりいっそう盛り上げていくために〜九州電力の取り組み〜
「Ambitious Island Kyusyu」九州が発展するためには、共存共栄で地域が活性化することが我々にとってもプラスとなるということで去年中期計画を策定した。地域活性化のために平成17年から21年の間にフリーキャッシュフローで600億円用意し、「地域戦略ブロック」をつくった。現在メキシコやベトナム、中国になど海外向けに約200億投資してきていて、あと約400億ある。九州進出企業誘致に限らず、活性化と成長につなげるべく、共に何か一緒に取り組みたいことがあればとPRしたい。
■ 2016年オリンピック誘致への挑戦
3月3日、九経連の会長鎌田迪貞氏を委員長に、王監督などをアドバイザーに迎え「福岡九州オリンピック招致推進委員会」を立ち上げた。なぜ今福岡なのか・・・
@「オリンピックを初心に戻そう」。クーベルタン男爵が望んでいたオリンピックは1936年ベルリンオリンピックで国威発揚をねらった20世紀型へと変貌してしまった。北京大会もしかりだろう。しかし2016年は初心に戻ろう。世界の片隅にある福岡九州のような小さな地域の拠点が全世界のアスリートを受け入れるホスト足りうる意思表示をするのが21世紀型オリンピックではないか。
A「九州は東アジアのコモンハウス」である。九州は東アジア共同体への威信であることを強く意識し、沿岸諸都市と協力してオリンピック開催の準備をしたいと考える。
B小戸・百道クラスター、須崎埠頭と中央埠頭にメインクラスター、そして海の中道クラスターとして、この博多湾全域をスタジオに編成するという発想。
C保持可能性競技施設として、すべてを新しく作るのではなく、既設のものはいろいろ工夫し、また新しいものはオリンピック後の活用を考えて作っていく。
D会場にはアスリート、役員、報道陣、大会関係者世界各国のVIPなど数十万が集う。博多湾という地の利を生かして彼らの生活の場を海上へ船上へと押し出す。快適な生活を営める海上のオリンピック選手村。停泊した大型客船や巨大催事船は完璧なセキュリティーシステムに保護された報道関係の宿泊施設となる。
大会後オリンピック村は都市に限りなく近く快適な住居施設に改善され、メインクラスターは中洲を囲んで博多と福岡が海に向かって発展し、最後に博多福岡埠頭から海に向かって開く大コンベンション都市へ発展する。このようにオリンピック会場計画は福岡の既存の骨組みを21世紀に向けて大きく編成替えしていくことになろう。市中心部の活路を博多湾に向けて開き、ことのとき作られた施設は新しい拠点になっていく。博多と福岡という歴史的に二種二極の構造を持っていた街が那珂川で交差し、2q四方のウォーターフロントを交えて新しい福岡となる。
招致に向けてぜひ皆さんのご協力をいただきたいと願っている。
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