「憲法改正と日本の将来」

衆議院議員 山崎拓(昭和30年卒)
2006年1月12日(木)学士会館にて

私は今朝、東南アジアの旅から帰ったばかりです。マレーシア、インドネシア、シンガポール、ベトナム、いわゆる「ASEAN10」の中の4カ国を回りました。

「ASEAN10+3」と言う場合、この3というのは中国、韓国、日本です。東アジアという北から南まで縦断する地域で共同体を構成しようという構想です。私は政治家になりましてから、ずっとアジア問題をライフワークとして取り組んでまいりました。今回もアジアを回り、各国首脳とお会いしました。彼らは一様に日中関係のことを心配しておりました。

東アジアというテリトリーで申しますと、12月に東アジアサミットというのがあり、これにはインドとオーストラリア、ニュージーランドが加わりました。東アジアという言葉を使いますと、「ASEAN10+3」を指すのが常識でございます。この東アジア経済共同体というのを仮に想定いたしますと、近い将来、世界で最も大きな経済圏になることは間違いないと予測されます。それは何よりも中国の経済の発展が目覚ましいからです。まだGDPは日本の4分の1程度ですが、いずれ日本を抜き、21世紀の半ばには経済の規模だけでいうと世界一になるだろうと予測されております。その中国に引っ張られ、東アジア経済共同体は世界で最も大きな規模になるでしょう。ASEAN10は各国の発展段階は違います。シンガポールのように1人当たり25,000ドルのGDPの規模に達している国もあれば、ベトナムのように560ドルという国もあり、さらにずっと下に同じインドシナ3国のカンボジア、ラオス、ミャンマー。日本が40,000ドルとしますと相当な差があるわけです。その格差を埋めながら、やはり先進国を目指して、彼らは昇竜の時を迎えようとしているのです。中国は規模において断然先行しているわけですが、一人当たりのGDPからしますと日本が断トツでございます。韓国も先進国の仲間入りをしたばかりです。アセアン諸国は日中韓3国との関係を非常に重視しております。日本と仲良くすれば中国から文句を言われる。やはり日本が国連安保常任理事国入りを求めてくれば、ODAをたくさんもらっている関係もあって、賛成してやりたいのだが、なかなかできないのです。それは中国からに睨まれるからです。インドネシアのユドヨノ大統領も、シンガポールのリー・シェンロン首相も、あるいはベトナムのファン・バン・カイ首相も、率直に、日中関係はなんとかならないのかと、仲良くしてもらえないかという話がありました。我々は日中と一体となって進みたいから、そこのところを日本の政治家によろしく頼むよ、ということを逆に諭されたしだいです。

講師:山崎拓さん

私の盟友とされております小泉総理は、昭和47年に一緒に当選してから33年間自由民主党の一員として政治活動を共にして切磋琢磨してまいりました。従って私は彼の気性についてはよくわきまえております。一度言い出したら聞かないところがあります。彼が総裁選挙に出たときのたった2つの公約、その1つが郵政民営化であり、もう1つが靖国神社参拝です。

小泉総理は我々が何を申しましても靖国参拝を続けておりまして、「これは心の問題だ。その心の問題を外交問題にして、内政干渉的に圧力を加えてくる中国、韓国の態度は許せない」と総理は常に申すわけです。本人がいくらそう主張しても、総理たる者が靖国神社に参拝すれば、非常に政治的な意味をもったものと外国は受け取るわけです。この問題については議論すればきりがないのでありますが、要するに我々は中国と韓国との付き合いなしに生きていけない国柄になっていると思います。国際国家を標榜する以上、国際社会の中で受け入れられるということでなければなりません。

それからまた、日本は第2次世界大戦後日米貿易の大きな恩恵を受け、あの廃墟の中から立ち上がって、今や9千億ドルになんなんとする外貨保有高を持つにいたるほど貿易から利益を得て、経済大国の地位を築き上げました。もちろん日本国民の一人一人の英知と勤勉性によるものですが、無資源国がこれだけの大国になったのは、とりもなおさず貿易上の利益のおかげであると思います。その日米貿易という観点から申しても、一昨年はついに日中貿易の方が輸出入を合わせた数字で日米貿易を凌駕しました。はさみ状にその差は開いていくはずですので、そのことを考えた場合、いつまでも“政冷経熱”というわけにはいかない。日本の投資企業として現在3万社が中国の市場に進出しております。政治が民間貿易や投資活動というものを保護していくということも必要ですから、外交的配慮をもって日中関係を考えていこうというのが私の立場です。今年は自由民主党の総裁選挙があります。今日まで自民党政治の下でわが国は発展を遂げてきました。わが国は優れた貿易立国として、国際社会の中で発展を遂げてきたわけですが、そこのところをうまくやらないとせっかくこれまで築き上げてきた日本の国際的地位や経済的繁栄を失いかねない。従って今度の総裁選挙ではアジアとの関係が争点になると考えているわけです。

そこで日本の外交方針には3つの原則があります。第一に国連中心主義。第二に日米同盟堅持。第三にアジア重視という方針です。この3つの方針がバランスよく日本の外交を支えていくということにならなければならないのです。昨年の最大の外交課題は、わが国が国連の安保常任理事国入りを果たすという案件でしたが、あえなく挫折をいたしました。この国連安保常任理事国入りを目指したのは、なぜかというと、日本が国連中心主義という原理原則を持っているからです。その国連中心主義に基づいて、例えば小泉政権になってから、いわゆる9・11の同時多発テロがアメリカで発生した際には、国連決議に基づいて、多国籍軍がアフガニスタンに派遣されました。そのときにわが国に対しても支援の要請があり、日米同盟堅持の原則もありますから、自衛隊の海外派遣をインド洋における海上給油活動を分担して初めて行ったわけです。我々は憲法解釈上、海外派遣は可能であるが、海外派兵はできないという言い方を国会答弁でやってきました。このケースは海外派兵なのか海外派遣なのかという議論の余地がありますが、今の野党は修猷館の先輩である楢崎弥之助さんが社会党で活躍した時代とは違い、非常に弱体化しており、あまり追及は受けなかったのです。

テロ特措法を通したときも、野党はあまり追及せず、あっという間に成立しました。私は当時自民党の幹事長でしたが、あっけにとられる思いをしました。で、実質的な自衛隊の海外派遣というのは、2001年の9月11日にあの事件が起こり、10月28日にはこのテロ特措法というのが成立して自衛隊を出すことになりました。ただ、さすがに戦闘地域には出さず、インド洋で外国艦船に油を補給するという、そんな貢献を続けているのです。その後、イラク特別事態に多国籍軍が投入されたときも同じ原則で自衛隊を出した次第です。これら2つの法律の大きな特徴は、国連の何々の決議に基づいて自衛隊を派遣すると書いてあることです。つまり国連決議に基づいて自衛隊を海外に出したわけで、国連決議があれば憲法違反でないという解釈です。もちろん、アメリカとの同盟関係を十分考慮して、自衛隊を出しているという面が非常に大きいのですが、ただ法律はあくまでも国連決議を前提として構成されているわけです。我々は国連決議に基づいて、憲法の解釈を拡大して自衛隊を派遣するようになったわけです。その国連決議なるものは安全保障理事会で決せられるわけで、そこには常任理事国の拒否権が存在しています。アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国、この常任理事国の5大国が一致しないと決まらないわけです。日本は憲法を相当膨らませて解釈して自衛隊を出すということをやっているわけですので、国連安保常任理事国入りを果たして、その決定のメカニズムに入ってしまわないと、日本としては甚だ主体性のない受け身の立場で国際貢献をしていくということになるではありませんか。

そんなわけで、我々は国連安保常任理事国入りを果たそうとしました。頼みとするASEAN10に関しては、日本は多額のODA(政府開発援助)を提供してまいりまして、深いつながり、信頼感があるものと考え、当然、ASEAN10はすべて日本に賛成すると考えていた、共同提案国のもなってくれる期待していたわけです。しかし、共同提案国は0、賛成したのもたった2国でありました。シンガポールとベトナムです。私は日本インドネシア友好議員連盟の会長を長く務めました。そのインドネシアがこれに賛成しなかったのには非常に大きなショックを受けました。なにしろインドネシアは日本がODAを提供している最大の国ですから、ここが賛成をしなかったということだけは驚きました。私は去年の6月にベトナム、インドネシア両国の首脳と公邸で一緒に夕飯を共にしたのです。まずベトナムのファン・バン・カイ首相に対し、小泉首相が「我々の常任理事国入りについて9月には決議案を出すので賛成してくれないか」と言いましたら、「賛成する」と申しました。さらに「共同提案国になってくれないか」と言いますと「それは考えさせてくれ、相談する向きがありますから」と答えました。たぶん中国のことだったのだと思います。その次にインドネシアのユドヨノ大統領がやってまいりました。同じ首相公邸で食事をしました。小泉首相がユドヨノ大統領に同じ質問をすると、こう言いました。「日本が安保常任理事国の資格を持っているということは十分認める。日本は多額の資金的貢献も行っていることも事実だ。」アメリカが22%、日本が19.5%で、ドイツが8%、あとはイギリスとフランスが5%、中国が2%。ロシアはたったの0.5%。「日本が世界有数の経済大国であるということもよくわかっているし、我々も多額の援助を得ているというのも事実であるので、資格があることは当然だ。しかしながら賛成するかどうかはちょっと相談するムキがある」という応答でした。結局、ユドヨノ大統領は中国の圧力もあり、日本の安保理事国入りを賛成できなかったわけです。一方、我々の面前で支持を明確にしたベトナムもその後において共同提案国にはなれないと言ってきました。賛成投票はするけれど共同提案国にはならないと。で、今回訪越しまして、その話を蒸し返したら、ファン・バン・カイ首相からはこう言われました「我々の国のみならずASEAN10にはすべてチャイナタウンがある。ジャパニーズタウンというのはどこにもない。つまりいかに華僑というものがアジア諸国の中では力を持っているか。あなた方が中国と仲良くしてもらわない限り、我々は賛成できないのだ」と。ここのところは肝に銘ずるべきであります。私は次の総裁選挙において、対アジア外交は必ず争点になると考えている次第です。

最後に申し上げておきたいことは、憲法改正はいたします。又、9条を必ず改正すべきです。9条改正なしに憲法改正とはいえないと考えております。9条を改正する際に、何がポイントかというと、自衛隊のことです。自衛隊は軍隊であることだけは間違いない。英語ではArmy、Navy、Air Forceですから、自衛隊を国際社会においては軍隊でないと思っている者はいないという状況です。ハッキリ憲法の中で自衛隊は軍隊であるということを位置づける。それをわかるように書く。自衛隊は軍隊ではありませんなどという国会答弁をやっているということは、政治に対する不信感の土壌になっていると思います。

それからもう1つは、自衛隊は国際貢献をやっていますが、あの数年前の湾岸戦争のときにわが国は当時の100億ドル、1兆3,000億円という膨大な資金援助をいたしました。クウェートが国際的な新聞に湾岸戦争に参加した25ヶ国に対する感謝広告をだしましたが、その中に日本はありませんでした。感謝されなかった。その資金はどこにいったのか、おそらく多国籍軍の弾丸となって砂漠の中に降りしきって消えていったのだと思います。使途の計算書も報告書もきておりません。国民の血税で拠出したのに誰もこれに異を唱えないということは不思議なことです。わが国は結局は人的貢献ができないのでお金ですませようという結論となり、戦争が終わってから掃海部隊をペルシャ湾に派遣しました。戦争が終わった後、掃海部隊を出してお茶を濁したということです。その後、クウェートの王様に会って「感謝広告になぜ名前を出さなかったのか」と言いましたら、「日本は何も貢献していない」というので「そんなことはないぞ、資金もこれだけ出したし、掃海部隊は機雷を採取している」と話をしました。「それなら入れよう」ということで26カ国目に追加で入りました。やはり人的国際貢献もちゃんと国際平和のための国際協調としてやらなければいけない。各国が自らの青年の血を流してでも協力するというときに、日本は金で済ませるということだけではすまない。憲法上、そういうことを可能にするために、自衛軍を国際協調、国際貢献に起用しうるという規定を憲法9条におくという改正が必要になってきます。

それで話を戻しますと、国際貢献は国連決議に基づいて行われるわけです。憲法改正が行われ、まさに人的国際貢献が堂々と憲法上認められるということになれば、その貢献の使命を決定する国連の安保常任理事国入りを日本が果たしておかなければ、これは手落ちになると考える次第です。3つの外交方針、国連中心主義、日米同盟堅持、アジア重視に基づいて、アジアの1員としての我々の立場を確立していくということになれば、中国の反対によって国連安保常任理事国入りを果たせないのですから、これは日中、日韓の関係を再構築するという重大な政治課題の総裁選挙が今年の9月に訪れるということです。その中で私は一定の役割を果たしたいと考えているしだいです。

「憲法改正と日本の将来」

 朝晩の冷え込みも日増しに厳しくなり街中の鮮やかな紅葉も散り始めましたが、館友の皆様におかれましては益々ご活躍のこととお喜び申し上げます。
 さて、来年1月の二木会は、衆議院議員の山崎拓先生(昭和30年修猷館卒業)を講師にお迎えし、「憲法改正と日本の将来」をテーマに講演いただきます。戦後GHQの監視のもと制定された現憲法ですが、戦後60年を経た今、改めて議論されている憲法改正の必要性を、日本の将来を見据えた観点からお話いただきます。
 山崎先生は、今年見事に復活され、現在「自由民主党憲法調査会特別顧問」を務められ、憲法改正の中心的役割を担っておられます。また、「自民党安全保障調査会長」、「党沖縄振興委員長」を務めら
れ、日米安保体制堅持の方針のもと、在日米軍基地再編問題の推進に取り組んでおられます。
 たくさんの館友の皆様にご列席いただけますよう心よりお待ちしております。
 尚、出欠のご返事は12月30日(金)必着でお願い致します。

東京修猷会 会 長 藤吉敏生(S26年卒)
幹事長 渡辺俊介(S38年卒)

1.テーマ 「憲法改正と日本の将来」
2.講師 山崎 拓(昭和30年卒)
衆議院議員
3.日時 2006年1月12日(木)
午後6時 〜 食事、 午後7時 〜 講演
※ 食事を申し込まれた方は、遅くとも6時30分までにお越しください。
4.場所 学士会館 210号室
 (千代田区神田錦町 3-28)
電話 03-3292-5931
地下鉄東西線
 「竹橋」下車5分
半蔵門線・都営新宿線・三田線
 「神保町」下車3分
5.会費 ・3,500円
  (講演のみの方は1,500円)
・70歳以上および学生の方は2,000円
  (講演のみの方は無料)