「最近の治安情勢について」
警察庁生活安全局長 伊藤哲朗氏(昭和42年卒)
2004年9月9日(木)学士会館
10年前には「世界一安全な国」と言われていた我が国だが、今やその言葉は死語になりつつある、という危惧を持っている。本日は、なぜ日本の安全にかげりが見えてきたのか、また「体感治安」が悪くなったといわれるのか、その理由を中心に最近の治安情勢についてお話ししていきたい。
1. 刑法犯の急増
昭和では刑法犯検挙率が6割であったが、平成になり認知件数が倍増したため、検挙率は2割に低下している。警察官一人当たりの検挙数はだいたい決まっており、犯罪の急増に余罪捜査の余裕もなく、検挙が追いつかないのが現状である。
特に増加する犯罪として、路上強盗、ひったくり、侵入窃盗があげられる。
1) 路上強盗
いわゆる「オヤジ狩り」に代表される犯罪である。被疑者は少年が約7割、被害者は20歳代の男性が約2割である一方、お金を持っていそうな「オヤジ」が少年に襲われることが多い。
2)ひったくり
被疑者は少年が約7割、被害者は女性が94%、特に一度に財産を持ち歩いていることの多い60歳以上の女性が約3割を占める。被疑者の交通手段はオートバイが約7割で、発生時間は午後6時から午前0時の間が約半数である。
3)侵入窃盗
平成15年度はやや減少したものの、住宅対象侵入窃盗に関しては微増し、全体の58%を占める。特に来日外国人の侵入窃盗の検挙が急増し、昨年も件数で25.6%、人員で7%の増。その手口もピッキングが減少した一方で、ドリルを使用したサムターン回しやバーナーによる焼き破りなど、新しい手口が次々登場。
以上から浮かび上がるのは少年と来日外国人の問題である。刑法犯被疑者の逮捕の4割が14歳から19歳という6年間の年齢に集中している。13歳以下の触法少年の場合は犯罪にはならない。また、日本の伝統的泥棒は使わなかった手口からも、外国人、あるいは外国人からの情報を得た侵入窃盗が激増しているのがよくわかる。
刑法犯被疑者の逮捕の4割が14歳から19歳という6年間の年齢に集中している。13歳以下の触法少年の場合は犯罪にはならない。
また、日本の伝統的泥棒は使わなかった手口からも、外国人、あるいは外国人からの情報を得た侵入窃盗が激増しているのがよくわかる。
2.少年問題
1) 刑法犯少年の推移
刑法犯少年の検挙は戦後の混乱期である昭和20年代半ばに第一のピークを迎え、その後昭和38年前後に粗暴犯の急増から第二のピークに達し、昭和57、58年に戦後最悪を記録した。この時は万引きや自転車泥棒といった初発型非行の増加が原因であった。最近また深刻な状況に陥っており、昨年は1千人あたり17.5人の少年が非行で警察に捕まっている。これは成人の7.6倍。
2)凶悪化傾向の目立つ少年非行
平成15年、強盗での少年の検挙は平成に入り最高を記録した。街頭犯罪の検挙人員の7割弱は少年である。このような背景には、人を傷つけたり、殺したりするような重大犯罪への抵抗感が薄れてきたことが影響している。「何が良くて何が良くないのかわからない」「万引きがどうして悪いのか」「捕まらなければ何をしてもいい」といった感覚がエスカレートして、「てっとり早く現金が欲しい」ということがひったくりやオヤジ狩りに結びついてしまう。昔は「悪いことをしている」という意識があったが、最近の少年はその意識が希薄である。
将来を担う世代のこのような「規範意識の低下」は、重要な問題である。家庭、学校、地域社会で十分考えていかなければならない。
3.来日外国人の問題
1)来日外国人犯罪の急増
平成の初めまでは来日外国人検挙件数はほぼ年5千件の横ばい状態で、来日目的も一時的なものが多かっ た。しかしビザが取得しやすくなるなど来日外国人の増加とともに、平成3年には検挙件数が1万件を突破、平成15年は平成元年に比べると検挙件数7倍、検挙人数4.3倍と、過去最高を記録するに至った。
2) 来日外国人犯罪の特徴
外国人犯罪の特徴として、強盗事件については共犯事件が6割を占め、さらにその中で4人以上のグループが5割と、多人数で犯罪を敢行する傾向が強いことが挙げられる。刑法犯検挙人数を国籍別でみると、中国が過半数を占め、ブラジルがそれに次いでいる。 例えば福建省での事例であるが、辺鄙な村でも日本で犯罪で稼いだ金で豪邸を建てた者がいると、村の者が同郷者を頼って来日し、犯罪ネットワークが村全体に波及していく、というようなケースもある。水際でどうやって阻止するかが、今後重要な課題である。また、ブラジルの場合は自動車産業などで働くために来日した日系ブラジル人の子供に就学義務がないため、ぶらぶらしているうちに非行に走るケースが多く、日系人集住地域でのこうした少年の健全育成方策が重要である。
4.街頭犯罪・侵入犯罪抑止対策
1) 総合対策
平成15年、犯罪対策閣僚会議において「犯罪に強い社会実現のための行動計画」が策定され、国民の活動の支援、水際対策などが盛り込まれた。全国警察は平成15年を「治安回復元年」とすべく、年頭から総合的な犯罪の抑止対策を推進した結果、その増加傾向に一定の歯止めを掛けた。平成16年も引き続き成果が上がっている。 その一方、増加傾向にあるのが詐欺事件である。「オレオレ詐欺」は単純な手口であり、マスメディアでも繰り返し報道されているにも関わらず増えている。また、「架空請求詐欺」もインターネットを利用するなどして増加している。
2) 民間と連携した犯罪抑止対策
「防犯性能の高い建物部品目録」を公表し、今後も引き続きそのような部品の開発・普及促進方策の検討に取り組む。また、多発する自動車盗対策として、盗難防止性能の高い自動車の普及や。盗難自動車の流通阻止対策が重要になってきている。
3) 地域住民による自主防犯活動に対する支援
現在全国で活動中の防犯ボランティア団体は約3千団体を把握しており、活動意識が高い地域では泥棒が減っている。わんわんパトロールや防犯ランニング等、新たな防犯活動も行われつつある。また、「犯罪に強い地域社会」再生プランとして、自主防犯活動の拠点・基盤を整備し、効果的な活動に向けた支援を行っている。来年から、民間の防犯パトロール活動に対して、「青色回転灯」の車が許可される見通しである。
4) 少年非行防止・保護対策
平成15年中に補導された不良行為少年は約130万人で、約半数は深夜徘徊である。しかし、少年の補導に法的根拠はなく、補導に関する手続きの法定の必要性が現在問題になっている。また、触法少年への調査制度に対しても、早急な対策が望まれる。
お互いが無関心な社会は犯罪者につけいる隙を与えてしまう。「防犯」をきっかけに地域コミュニティを結集することによって地域の連帯を再生し、「犯罪に強い地域社会」の実現をめざしていきたい。
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