<第512回 二木会>

金融を巡る環境変化と当社の勝ち残り戦略

株式会社 損保ジャパン 代表取締役副社長執行役員 牧 文一郎 氏(S37年卒)

保険会社というものは世の中では銀行ほどには理解されていないブラックボックスのような存在であるので、みなさんに是非この機会に理解して頂きたいと思います。

《 金融を巡る環境変化 》

<金融の自由化>
@ 価格の自由化
銀行、証券、保険と価格の自由化が進んで来たが、保険の価格は市場の需給原理で決まらない。保険の約款に基づき約束事の発生確率と損害の大きさによる確立統計論で値段が決まってきた。

最大の価格コストである、「お支払いする保険金」が後から決まる業界。こういうことを大義名分に、価格の自由化への抵抗が大変大きかった。価格の自由化のテンポが最も遅い業種である。
1996年に銀行、証券業界で価格の自由化が起こり始めていたときでさえ保険業界は価格の自由化が起きなかった。

現在は、純率(支払保険金に充当される部分)は、算出機構が参考料率を提示することとなっており、それを元に各社が独自に商品内容を吟味した上で各社別事業運営費を乗せて営業保険料を出すようになっており、各社別々の保険料になっている。各社、事業運営費をどれだけコントロールして価格競争力をつけるかが勝負どころになってきている。

価格の自由化への当社戦略としては、合併によるスケールメリットを追求し事業運営費の削減に努めて、価格競争力を保持することによって、営業収支残(一般企業での粗利益)No.1を目指している。その結果、2001年度4.5%、2002年度6.4%、2003年度には8.8%を達成した。


A 商品の自由化
1996年度までの旧保険料法では、保険商品は当時の大蔵省の認可制であったので、各社同一商品が基本であったが、今では各社自由。

当社戦略としては、1999年にニーズ細分型の自動車保険ONE(ワン)を発表、今年の1月にはこのONEを進めてONE−DO(ワンドゥー)を発表した。1999年におけるONEの商品開発コンセプトは補償の充実と価格の適正化であった。すなわち値下げと内容充実の両方をやった。
 ONE−DOは更に事務処理の合理化をやった。ニーズを細分化すると、車種、年齢、免許証、用途、住所等、インプット項目の増大と代理店を介在させることによる現状事務処理の複雑化があるが、これにチャレンジした。保険料は先払いが原則であるが、それを緩和して完全キャッシュレス化を実現する等により事務処理14行程を6行程くらいに簡素化した。


B 業務の自由化
外部環境としては、銀行、証券、保険の相互参入が可能になっている。私どもの保険商品を銀行が代理店となって売るという、販売の相互参入もできる。周辺業務も確定拠出年金などの業務が相互参入で出てきている。わが社は損害保険を明治21年から110年くらいやっているが、飽和状態になってきたので、その上に生保を乗せて完全子会社の損保ジャパンひまわり生命を作った。この生保事業は、私どもが米国の生保会社を買収するという初めての形を取った。確定拠出型年金事業への進出の場合も、米にCIGNA社と50%出資の合弁企業を先ず設立し、ノウハウを得た時点で100%子会社化している。

<会計制度改革>
アメリカ基準で全てが見える会計報告が必要。当社も厳しい基準を導入し、赤字決算に耐えて財務体質を健全化したことがV字回復に繋がった。

<経営情報の開示(ディスクロージャー)>
Investor Relations (IR)の強化
Discloseによる透明化で、科学的な経営ができるようになった。

<企業の社会的責任(CSR)>
−東京新宿の本社ビル42階に美術館を有し、ゴッホのひまわり等を100周年記念事業の一環として展示
−名古屋には人形劇の専用ホール
−大阪の御堂筋ビルには160坪に裏千家の茶室を三つ
当社としては地域密着、文化活動、環境、この三点を切り口に社会貢献をしている。


<企業の組織再編>
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロによって、当時の大成火災が債務超過となり、大成火災と日産火災と安田火災の合併がご破算になりかけてしまった。合併先である大成火災を立ち直らせるために会社更生法の適用が決定されたので、スポンサー責任として私が管財人として大成火災に行き、更正を助けた。

<雇用体系の変容>
年俸制にして、成果主義にした。女性の活躍を重視している。これにより優秀な社員のやる気を引き出しつつ総人件費の抑制に務めている。

<大成火災の更正計画の概要>
極めて高い弁済率を達成した。保険会社の債務と言うのは借金ではなく、ほとんど保険契約の履行債務である。したがって債権者はほとんどお客様。従って、できる限り厚く遇することが大事だった。

「これは経営の失敗であって大成の社員の責任ではないが、大成が倒れると必ずお客様と代理店に迷惑をかける。なので、ご迷惑をおかけして申し訳ないというスタンスで行かなければならないと」社員に何度も言い聞かせた。

迷惑をかけたお客様のところへ行き、再度スポンサー会社と契約してくれるようにと説明して廻った。そうでないとスポンサーからのノレン代を上乗せして弁済できなかったからである。

管財人は贈収賄の対象であったので、私費では何をしても良いものの、李下に冠を正さずの精神で派手な酒席もゴルフも10ヶ月止めた。おかげで私の身体も更正した。

<まとめ>
* 自由化のスピードが速くなってきた。当社としては変化をチャンスと捉え積極的にチャレンジする。ChangeをChanceと捉えChallengeで“3C”。
* 内外のTOP Playerと組む。
米国CIGNA社との提携
第一生命保険との提携
クレディセゾンとの提携
日立クレジットとの提携
* ガバナンスの確立のベースはコンプライアンスとディスクローズ
* そろそろ2年経ったので、損保ジャパンというブランド戦略を展開する
* CS(顧客満足度)を向上させる
* 優秀な社員が納得して仕事ができるような仕組みを作る。ES(社員満足度)なくしてCSなし
* 役員になったからといって人間が偉くなる訳ではない。責任が重くなって仕事がえらいだけである
* 社員に平等な情報の発信が重要
* 女の子の方が元気があってハキハキとものを言う。上司はそれを聞く度量が大事。

以上


      講師を紹介する古賀 肇 氏                 講師の牧 文一郎 氏

第512回 二木会のお知らせ

「金融の自由化・国際化の進展と
    一保険会社の勝ち残り戦略」

 花の季節、そして新たなスタートの時期を迎え、館友の皆様におかれましては益々ご活躍のこととお慶び申し上げます。
 さて、5月の二木会は、(株)損保ジャパン代表取締役副社長 牧文一郎さん(昭和37年修猷館卒業)を講師にお迎えし、「金融の自由化・国際化と一保険会社の勝ち残り戦略」をテーマにお話しいただきます。

 牧さんは昭和42年に東京大学法学部をご卒業と同時に安田火災海上保険(株)に入社されました。そして九州・沖縄本部長、中部本部長、中部自由化対応室長など、重要な役職を歴任され、平成15年からは代表取締役副社長にご就任されています。
 ご講演では、金融の自由化に伴い外資系保険会社が日本の市場に参入してくるという、経営環境の大変革の中で、どのような戦略で迎え撃っていくのか、損保業界一筋にご活躍してこられ、現在経営トップの重責を担われている牧さんから大変興味深いお話しがいただけるものと思います。


 多くの館友の皆様がご参加下さいますよう、心よりお待ちしております。
 尚、出席のご返事は5月10日(月)必着でお願いします。

東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)
      幹事長 渡辺 俊介(S38)


テーマ  金融の自由化・国際化の進展と一保険会社の勝ち残り戦略    
講 師  牧文 一郎 氏 (昭和37年卒)
 
株式会社 損保ジャパン 代表取締役 副社長執行役員
日    2004年 5月 13日(木)  午後6時から 食事
                   
  7時から 講演
 食事を申し込まれた方は、遅くとも6時30分までにお越しください。
場    学士会館 千代田区神田錦町3−28
           電話 03-3292-5931
  地下鉄東西線        
「竹 橋」下車5分
  半蔵門線・新宿線・三田線「神保町」下車3分
会    3,000円(講演のみの方は1,500円)
 学生及び70歳以上の方は1,500円(講演のみの方は無料)



次回の二木会に多くの館友のみなさまのご参加を心よりお待ちしております。