<第510回 二木会>

声に出す言葉としての日本語の魅力

NHKラジオセンター チーフ・アナウンサー 青木 裕子氏(S44年卒)

去年NHKでの勤続30年になりました。 その30年間に東京修猷会二木会に丁度10年に1回の割合で3回呼んでいただきました。最初が女性アナウンサーとして働き盛りの時で「関東甲信越小さな旅」という旅番組で小笠原に行った話をしました。その次は更に10年経って社会的なテーマで「精神病院の閉鎖病棟からの退院」を取り上げました。

今度の30年目は、それまで取材者として駆け回る仕事中心でしたが、10年前に「ラジオ文芸館」という短編小説の朗読番組を担当し始めて、すっかり朗読に魅せられてしまいましたので、日本語の美しさについて知っていただこうと企画しました。

今、朗読以外の主な仕事はラジオで火曜日の夜(隔週)、野球のオフシーズンの金曜日の夜(隔週)、日曜日の午後(隔週)にバラエティ番組を担当しています。
その他中堅アナウンサーの朗読のトレーナーとしての役割もしています。10年以上経つとアナウンサーも言葉に関する感覚が一人前になってきます。助詞の微妙な高低などの細かい音の訓練に、こちらの言うことが理解できるようになるので、だいたい10年以上のアナウンサーを対象に訓練します。自分の番組の仕事以外にこの朗読のトレーナーとしての仕事はかなりの時間を割きます。

日本語の朗読とは何ぞやという細かい話をしても面白くないので、朗読を聞いていただきたいと思います。朗読の良い聴き方として目を瞑って聴いてくださるのも良いかと思います。

紹介者の甲畑真知子さんの「色っぽいのを」というリクエストに応じて、山本周五郎の作品「釣忍」(つりしのぶ)の朗読をします。「釣忍」と言うのは、しのぶ草という草の根を寄り合わせたものに風鈴などを付けて軒下につるしておいたもの。江戸の庶民はこのようにいろいろと暑い夏を涼しく過ごす工夫をしたものでした。

----- 山本周五郎の作品「釣忍」の朗読 (約38分間) -----

この「釣忍」はずいぶん前に「ラジオ文芸館」で放送したものですが、朗読によって作家の描きたかった世界、空間、存在感をなんとか声に乗せたいと思いながらずっと続けております。山本周五郎はあまり修飾のない文章を書くので、非常に明瞭、明晰で雰囲気を出しづらい面もありますが、しかし、逆にその時代の持つ凛とした雰囲気が伝わって来ます。

これと同時に私が今一番手がけているのは宮沢賢二と高樹のぶ子さんの作品です。

高樹のぶ子さんは福岡に25年以上在住で修猷館に縁の深い御一家。昨年の12月も高樹のぶ子さんをお迎えしてチャリティー朗読会を催しました。

宮沢賢二という人の不思議さ。これから追究していきたいと思っているのは、宮沢賢二の作品は目でさらっと読んだだけでは本当の面白さ、膨らみが伝わってきませんが、声に出して読むと、2時間20分かかる銀河鉄道の夜にしても13分の短い作品であっても、本当に世界が広がって、そこに居るような気にさせてくれるのです。

日本語というのは、日本語教育が「書く」教育に比重があったために、私たちは「読む」のに慣れていないのです。例えば、書き言葉の点や丸は作家が目で読みやすいように体のリズムの勢いで書いたものですが、私たちは声にするとき、点で止まったり、丸で二拍空けたりします。

アナウンサーは、作家が書いた点や丸を全部外す作業から始めます。声に出して読む日本語と書き言葉である日本語は、英語と違って非常に離れているので、そこを埋める作業をしています。普段自分が喋っている言葉の抑揚やイントネーションなどを大切にしながら移し変えるのが難しい。書き言葉を話し言葉で伝えるトレーニング方法が確立されていないので、どうやったら聞き易い日本語にできるかを、マンツーマンで特訓し試行錯誤で手探りで研究しております。

結局、朗読の頂点を目指して役者さんとアナウンサーが仰ぐ「山」は同じですが、アナウンサーは自分の個性ではなく、作品の意味を伝えるのが役目なので、私はアナウンサーのやり方のほうが朗読には向いているかなと・・・。

これからも美しい日本語を伝えやすくするために、こういう取り組みをライフワークとして続けていこうと思っております。


      講師を紹介する甲畑 真知子 氏                 演者の青木 裕子 氏

第510回 二木会のお知らせ

声に出す言葉としての日本語の魅力
 

 沈丁花の蕾もほころび始め、春ももう間近に感じられる時候となりました。館友の皆様におかれましては益々ご清祥のこととお慶び申しあげます。
 さて、3月の二木会は、NHKラジオセンター チーフアナウンサーの青木裕子さん(昭和44年修猷館卒業)を講師にお迎えし、「声に出す言葉としての日本語の魅力」をテーマにお話しいただきます。

青木さんは、津田塾大学国際関係学科ご卒業後、NHKに入局され、名古屋放送局勤務を経て'75年よりNHK放送センターに勤務されています。現在、ラジオ第1放送「ふれあいラジオパーティー」の司会、「ラジオ文芸館」での朗読などに出演される傍ら、「読夢(よむ)の会」での朗読活動を続けていらっしゃいます。
二木会の講演では、すばらしい朗読を交え、日本語の魅力について語っていただく予定です。

  多くの館友の皆様がご参加下さいますよう、心よりお待ちしております。
尚、出席のご返事は3月8日(月)必着でお願いします。

東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)
      幹事長 渡辺 俊介(S38)


テーマ  声に出す言葉としての日本語の魅力    
講 師  青木 裕子 氏 (昭和44年卒)
 
NHKラジオセンター チーフアナウンサー
日    2004年 3月11日(木)  午後6時から 食事
                   
  7時から 講演
※お願い:食事を申し込まれた方は、遅くとも6時30分までにお越し下さい。
場    学士会館 千代田区神田錦町3−28
           電話 03-3292-5931
  地下鉄東西線        
「竹 橋」下車5分
  半蔵門線・新宿線・三田線「神保町」下車3分
会    3,000円(講演のみの方は1,500円)
 学生及び70歳以上の方は1,500円(講演のみの方は無料)



次回の二木会に多くの館友のみなさまのご参加を心よりお待ちしております。