<第506会 二木会>

社会保障制度の構造改革について

講師 昭和38年卒 渡辺 俊介 氏 (日本経済新聞論説委員)

 
    講師の渡辺氏を紹介する野原氏                 講師の渡辺氏

11月9日の衆議院選挙では、特に年金問題を中心とした社会保障がひとつの争点になる。2001年4月26日に小泉さんが総理に就任して以降、社会保障制度の構造改革をしなければいけないと言っている。今日は社会保障全体の姿、構造改革の必要性とその行方を見ながら、各論として年金、医療、介護がどうなって行くのかを解説しながら、みなさんにご理解いただいて、考えていただく判断材料を提供できればと思います。

1 社会保障の現状と構造改革の必要性

現状 
  現在の社会保障費用とは、即ち国民から集めた税金と、国民から集めた社会保険料から払われた費用で、最新データの2000年度の社会保障費用は1年間で総額約78兆円。この額は日本の国家予算に匹敵する額である。 この約78兆円のうち約20兆円が国の一般会計即ち税金から、残りがわれわれから集めた保険料になります。

全体の半分強を締める公的年金の支払いが約41兆円、公的な保険が効く医療費に約26兆円、福祉などに約11兆円、そのうち介護に約3兆円で障害や福祉を含むその他に約7兆円強を使っている。したがって大半が年金と医療に使われていることになる。

医療費約26兆円は、患者負担分約4兆円を除いた額である。

高齢者関係給付
昔は社会保障は一部の恵まれない方々や、ハンディキャップを負った方々への給付が多かったが、年々社会保障費用のうちの高齢者関係の給付が増えている。1975年には32.9%が高齢者関係の給付だったが2000年には61.8%、そしておそらく今は70%を越えていると思われる。したがって今では社会保障は一部の恵まれない方々へのものではなくて、ほとんど高齢者向けである。日本は高齢者が増えているので、ほとんどの方々に社会保障が関わるのである。


改革の必要性―――>3つの理由で改革が必要

 (1)財政的な問題
    2000年度の社会保障費用約78兆円は国民所得(課税対象所得)約380兆円(アメリカについで世界第二位)のうち20.53%で丁度五分の一。現在の日本の老人人口(国連の定義では65歳以上が老人とされています)は2400万人で、毎年60万人から70万人伸びることが2025年まで続くと試算されている。

しかも少子化で、出生率が1.32。出生率が1.3台の国は日本、ドイツ、イタリア。

2025年には社会保障費が176兆円必要とされる(厚生労働省の見通し)が、国民所得は楽観的な見通しでも560兆円(政府見通し)までしか伸びず、31.5%が社会保障費を占めてしまいとても財政的に立ち行かない。

五公五民 ―――>国民負担率を50%で抑制しようという考え。

(2)選択の幅
   国が社会保障費用の枠を決めてしまうのではなく、これだけ払ったらこれくらいの社会保障という幾つかの選択肢を国民に示して、国民が選択するのが正しい姿ではないか?公的な資金だけで社会保障を行うのには無理があるので、民間を参入させて民間にも活力を与えて受益者にもっと選択してもらえる幅を広げてはどうか?

医療で言えば時間に余裕のある患者と急いで診てもらいたい患者は別料金にするなどの保険診療と自由診療の混在診療を認めてはどうか。保育所や老人ホームへの入所は今までは措置制度で誰が何処に入所するかは本人の希望でなく役所が決めていたが、これでは全くニーズに合っていないので、これからは入る側が何処に入るのか選べる選択制度へ移行の方向。

(3)成長産業として期待される医療、福祉の分野
 医療、福祉は規制産業で、ほとんど役所が値段を決めてきたし参入規制もある。小泉内閣下の総合規制改革会議では医療、福祉で徹底的に規制を無くそうとしている。平均寿命は女性が90歳、男性が81歳に伸びると予想されているので、民間参入しやすくすれば、医療、福祉がこれからの日本を支える産業になり、雇用創出も増えてくる。

2 各制度の改革の方向性

  年金
   9月12日、社会保障審議会年金部会は、坂口厚生労働大臣案とほぼ同じ、「保険料を年収の20%まで引き上げるがそこで固定させる。その代わり給付は53%程度に下げる」案を提示した。

   これに対して、財務省や経済財政審議会は、年金の水準は現役の所得の一定割合にするのではなく、国民が保険料と税金を合わせて負担できる水準に合わせ18%または15%にとどめるべきとの見解。さらに、現在の年金受給者がもらいすぎなので、その納付を引き下げることまで考えるべきと言っている。

   4年前の法律で決定した基礎年金の国庫負担を今の3分の1から2分の1に増やす件について(毎年2兆7千億円必要)、財務省は反対している。

  医療
   日本ではまだまだ患者本位の医療が行われていない。この点については政府も、財務省も与野党も賛成している。しかし、医療財政の建て直しの方針については意見が分かれていて対立していて、なかなか纏まらないのが実情。財務省は医療費の伸び率管理を、保険の1点=10円を1点=9.5円と下げることで管理可能という案も考えている。

  医療機関に株式会社を参入させるという案も出ているが、厚生労働省は情報開示によって、今の医療機関の不備を直していく方法を推している。

 
こんなに、政府内で議論が活発になったのは、私が昭和48年から厚生行政を31年見てきて初めてのことである。

3 介護保険の動向

  2005年に抜本改革を行うことになっている。要介護、要支援の重度の方はそんなに市町村毎での認定でのバラつきは少ないが、要介護、要支援の軽度の介護認定にバラつきがある。

また、利用者は施設介護を希望しているのに対して、市長村は市町村が負担すべき費用が増える施設介護ではなく、費用のかからない在宅での介護を薦めている。利用者の家族にとっては在宅介護は負担感が大きく、施設介護の方が金額も負担感も小さい。

特定施設(有料老人ホーム、ケアハウス、グループホーム)に入っても介護は受けられるので、介護に参入できない民間企業がこれらの特定施設に盛んに入ってきている。

要介護(寝たきりかまたは痴呆)として老人ホームに入ってきたお年寄りの7割が痴呆である。痴呆性高齢者にどう対処するかがこれからの課題でもある。

市町村の合併等で受けられる介護に地域差が出てきたときの対処も必要。

介護保険料が40歳以上からの徴収では持たないことが懸念され、2005年の改革では20歳からの徴収になる可能性があるが、20歳から払うことになると、若い知的障害者、身体障害者への支給も考えなくてはならない。

在宅で365日、24時間安心できる介護というニーズが上がってきている。

介護保険3施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設)の機能を再整理する必要がある。

以上




第506回 二木会のお知らせ

わが国社会保障制度における構造改革の流れ

 

 朝夕すっかり秋めいてまいりました。良い季節を迎え、館友の皆様におかれましては益々ご活躍のことと存じます。
 さて、10月の二木会は、日本経済新聞社論説委員で、厚生労働省社会保障審議会委員を務めていらっしゃる、渡辺俊介さん(昭和38年修猷館卒業、東京修猷会幹事長)を講師にお迎えし、「わが国社会保障制度における構造改革の流れ」をテーマにお話しいただきます。


 構造改革を旗印に発足した小泉内閣のもと、社会保障制度もさまざまな見直しがなされ、医療、年金、介護など、私達にとって身近な制度が大きく変わろうとしています。渡辺さんは社会保障審議会委員として、正にその改革の奔流の中に身を置いておられます。自民党総裁選挙、衆議院総選挙と政局が動く中で、社会保障制度改革はどのような方向に行こうとしているのか、大いに興味を引かれる話をしていただけると思います。

 多くの館友の皆様のご参加をお待ちしています。
尚、出席のご返事は10月6日(月)必着でお願いします。


東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)


テーマ  わが国社会保障制度における構造改革の流れ    
講 師  渡辺 俊介 氏 (昭和38年卒)
   
日本経済新聞社 論説委員
日    2003年 10月 9日(木)  午後6時から 食事
                 
  7時から 講演
場    学士会館 千代田区神田錦町3−28
           電話 03-3292-5931
  地下鉄東西線        
「竹 橋」下車5分
  半蔵門線・新宿線・三田線「神保町」下車3分
会    3,000円(講演のみの方は1,500円)
 学生及び70歳以上の方は1,500円(講演のみの方は無料)






次回の二木会に多くの館友のみなさまのご参加を心よりお待ちしております。