<第505回二木会>

21世紀を救うナノテクの最前線

講師 S22年卒 木下 洋一氏 (木下技術士事務所所長)


 木下氏を紹介する同級生の野美山 薫 氏            講師の木下 洋一 氏


化学との出会い
 昭和20年6月29日の福岡大空襲の後、学校に戻ったのは昭和20年の9月ごろであった。約1年近くも学徒動員で学業を離れて土方のような作業をした。当時の修猷館では宝珠山先生が化学を教えておられた。先生が黒板に化学式を書いてそれを生徒はただノートに取るような段階だったので、あまり化学は難しいという印象は持たなかった。
 大濠の自宅が空襲で焼失してしまい、住吉に移ったが食料事情が悪くなり、家族は大分県の豊後森に疎開したが、私は九州大学理学部の地質学教室に寄宿してちんちん電車で修猷まで一時間くらいかけて通った。
 地学の教室には鉱石の質量分析をやる人が沢山いた。その影響で学校で習った化学反応を実験室でやり始めた。鉄のイオンから赤い沈殿を作ったり、フェロシアン第二鉄の青い沈殿を作ったりして楽しんだ思い出がある。化学の世界は色の出る面白い世界だと思った。こういう実験室でのいたずらが後に私の化学への道に繋がったと思う。

会社での化学
 会社では戦後間もない頃だったので、窒素リン酸カリなどの肥料を造ったが、ただ混ぜあわせるだけでは競争力がないので反応炉をひとつの操作室でパネルを見ながら制御して連続した流れの中で化学肥料を作って行くようになった。会社で高分子の研究を始めたので私も高分子にかかわることとなった。  

フランスへ行こうと思ったのは
 高分子の研究のために、フランスへ行こうと思ったのは、当時パリのNHK総局長だった叔父がフランスにいたし、従兄弟もフランスにいて、また研究でお世話になった先生方が「フランスは基礎がしっかりしている」と薦めてくれたように、私の周りにフランス狂がいっぱい居たお陰であった。フランスは、パリから500km離れたストラスブールにあった国立高分子研究所へ研究をしに行った。風光明媚で、ワインも料理も美味しく、また美人の多い土地で、ヨーロッパの各地にも近く、人生を楽しみながら勉強できるのであこがれていた。そこではブノア先生の下で高分子を研究した。

高分子の研究
 高分子を溶媒に溶かして光を当ててナノ状態での分散がどうなるかを研究した。ストラスブールでの研究を元に、1966年の東京での国際高分子学会で「糸巻き状モデル」を発表した。

ナノテクノロジーとは
  ナノとは十のマイナス9乗メートルの単位であり、ナノテクノロジーとは物理学、生物学、化学を組み合わせて使うということ。ナノテクノロジー分野では21世紀型製造業の特徴として、早く製品を作らないと駄目である。

ナノテクノロジーの実例
  −燃料電池は、ナノテクで作られるマンブランの膜を使い、水の電気分解と逆の現象を利用していて自動車への応用が進みつつある。
  −ナノ触媒は、掃除不要の窓ガラスやエアコンの脱消臭に利用されている。
  −金属粒子をナノ化することによって、金属の強度が上がる。自動車の車体や、金属バットに利用されている。
  −ナノバイオテクノロジーによって、患者に必要な薬物をその患者個人に合わせて作るドラッグデリバリーシステムが注目されている。

ナノテクに必要な国家戦略
  −日本政府はアメリカと同じくらいナノテクノロジーを重要視して、潤沢な研究費を投入している。
  −産官学が連携し、ナノテクに関する知的財産の公共化などを進め、日本のナノテクの国際競争力を高めることが必要である。
  −欧州、アメリカ、日本の三者がナノテク分野で研究開発に凌ぎを削っている。
  −日本のナノテク分野の現状は、ナノデバイスでは金メダル、政治的アプローチは銀メダル、合成は銅メダルで欧州やアメリカに負けている。
  −九州大学の邦武先生が久留米にすばらしいナノテクの研究所を作った。20億円規模の予算が投入されている。

結び
 21世紀の世界を救うのも、日本を救うのもナノテクノロジーである。




第505回 二木会のお知らせ

21世紀を救うナノテクの最前線

 暑い日が続いておりますが、館友の皆様におかれましては益々ご活躍のことと存じます。 さて、9月の二木会の講師には、木下技術士事務所所長の木下洋一さん(昭和22年修猷館卒業)をお迎えします。木下さんは、九州大学工学部工業化学科をご卒業後、化学メーカーの研究所に勤務されながら、東京工業大学大学院修了、フランス国立高分子研究所勤務、そしてルイパスツール大学理学部博士課程を修了されるなど、40余年間一貫して高分子化学をご専門として活躍してこられました。

 現在、木下さんは月刊「工業材料」(日刊工業新聞社刊)に「海外ナノテク開発情報」と題して連載記事を執筆されております。今回の講演では、世界中でエレクトロニクス、材料、遺伝子、バイオテクノロジーなど様々な最先端技術分野に応用されている、ナノテク技術の開発動向について幅広くご紹介していただきます。

 多くの館友の皆様のご参加をお待ちしています。
尚、出席のご返事は9月8日(月)必着でお願いします。


東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)
      幹事長 渡辺 俊介(S38)


テーマ  21世紀を救うナノテクの最前線    
講 師  木下 洋一 氏(昭和22年卒)
   
木下技術事務所 所長
日    2003年 9月11日(木)  午後6時から 食事
                 
  7時から 講演
場    学士会館 千代田区神田錦町3−28
           電話 03-3292-5931
  地下鉄東西線        
「竹 橋」下車5分
  半蔵門線・新宿線・三田線「神保町」下車3分
会    3,000円(講演のみの方は1,500円)
 学生及び70歳以上の方は1,500円(講演のみの方は無料)






次回の二木会に多くの館友のみなさまのご参加を心よりお待ちしております。