<第503回二木会>

がんの痛みを癒す 〜生と死の狭間の医療現場から〜

 

講師:昭和大学横浜市北部病院 緩和ケア科  高宮有介 (昭和51年卒)

2003年5月8日(木) 学士会館  午後6時から 食事   7時から 講演
 

 

「心を伴ったときに体は素晴らしい力を発揮する」―――剣道を通して感じてきたことを医療の中に生かせないかと考えたことが、自分が緩和ケアに携わるきっかけとなった。緩和ケアの医療としての歴史は、WHOが方法論をマニュアルにしたのが1986年とまだ新しく、1988年にこの分野で先進しているイギリスで研修した後、92年に緩和ケアチームを昭和大学病院に発足した。
 

1、緩和ケアとは
 緩和ケアには、三つの柱がある。第一には、患者さんの全人的なケアである。身体的のみならず、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛がある。社会的とは、仕事や家庭、経済的な苦痛である。スピリチュアルとは、一つは、自分の人生の意味や役割などへの問いかけであり、もう一つは、死とはどういうことか、死後の世界はあるのか、といった不安や疑問である。
 緩和ケアの柱の第二は、家族のケアである。死に逝く愛しい患者さんを前に、家族もまた傷ついた存在である。家族を支えることにより、患者のサポートも可能になる。そして、家族は患者の死後、遺族となる。遺族のケアも大切な仕事である。ただし、医療者の時間的な制約もあり、遺族のケアは十分に行われているとはいえない。
 緩和ケアの第三の柱は、チーム医療である。医師だけでは、全人的ケア、家族のケアはできない。看護師はもちろんのこと、医療ソーシャルワーカーや薬剤師、栄養士、ボランティア、宗教家などとチームを組み、患者、家族を支えていく必要がある。
 一般に緩和ケアの対象患者は、根治不能のがん患者である。しかし、緩和ケアのめざす三つの柱は、すべての患者へ向けるべきモデルであり、実際に、がん告知後から、告知後のサポートや治療の選択として、緩和ケアが応用されるべきである。
 

2、緩和ケアチームとは
 緩和ケアチームは、緩和ケア専門病棟を持たず、一般病棟の中でコンサルテーションの形で緩和ケアを提供する。2002年4月1日より保険点数化された。緩和ケア病棟は増加の一途にあるが、年間30万人のがん死のうち緩和ケア病棟で死亡しているのは2,5%にすぎない。実際には多くのがん患者が亡くなっているのは一般病棟であり、一般病棟での緩和ケアの推進が急務であり、その打開策が緩和ケアチームである。
 

3、治療の選択、インフォームド・コンセントについて
告知は是非論から方法論へ移りつつある。いつ、誰が、どこで、どのように告知するかで、患者はバッドニュースを乗り越えていける。
 

4、今後の緩和ケアの展望
 2001年4月に昭和大学横浜市北部病院が653床で開設された。同年10月1日に緩和ケア病棟も25床開設された。ただし専門病棟だけなく、一般病棟での緩和ケアチーム、在宅を望む患者には在宅ケア、デイケアを提供し、患者が自分で過ごす場所を選べるケアが展開できるように計画している。また、遺族のケアや大学病院としての緩和ケアの教育や研究もすすめていきたい。
 緩和ケアは、末期のがん患者のみならず、全ての患者に提供すべきケアである。すなわち、患者の持つ身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛を、家族を含めて、しかもチームで関わっていく「医療のモデル」であると確信している。

   本日は二木会にお招きいただき、有難うございました。
                                以 上
 

 

 

 

<第503回 二木会のお知らせ>

がんの痛みを癒す 〜生と死の狭間の医療現場から〜

 景気低迷や国際情勢不安の中にも日本の四季は巡り、桜咲き乱れる春爛漫の候ですが、館友の皆様におかれましては、ますますお元気にご活躍のことと存じます。

 さてわが国では、年間30万人、3人に1人が癌で命を失っています。痛み、呼吸困難などの癌による肉体的苦痛を和らげることも医療ですが、生への不安、経済的な問題、家庭のこと、仕事のこと、そしてスピリチュアルペイン(自分の人生の意味や役割の問いかけ)といった患者本人や家族まで含めた精神的苦痛を和らげることも大切な医療の役割になっています。

 5月の二木会の講師には、医学博士・昭和大学横浜市北部病院メンタルケアセンターの高宮有介さん(昭和51年修猷館卒業)をお迎えします。高宮さんは、英国、カナダなど海外でのケア研修を経験され、日本における癌の終末期医療に関して、従来と異なった視点でアプローチされているパイオニア的存在です。大学病院等における勤務経験の中で、死を通して患者さんから得る真に「生きる」意味について、お話を伺います。

 多くの館友の皆様のご参加をお待ちしています。
尚、出席のご返事は5月5日(月)必着でお願いします。

東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)
      幹事長 渡辺 俊介(S38)


テーマ がんの痛みを癒す 〜生と死の狭間の医療現場から〜    
講 師 高 宮 有 介 氏(昭和51年卒)
   
医学博士・昭和大学横浜市北部病院 メンタルケアセンター緩和ケア科 専任講師
日   2003年5月8日(木)  午後6時から 食事
                      
7時から 講演
場   学士会館 千代田区神田錦町3−28
           電話 03-3292-5931
  地下鉄東西線        
「竹 橋」下車5分
  半蔵門線・新宿線・三田線「神保町」下車3分
会   3,000円(講演のみの方は1,500円)
  学生及び70歳以上の方は1,500円(講演のみの方は無料)






次回の二木会に多くの館友のみなさまのご参加を心よりお待ちしております。


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