第487回二木会

 エネルギーと地球環境問題

講 師:並木 徹 氏 (昭和38年卒)
     電源開発株式会社取締役

日 時:2001年9月13日(木)
場  所;神田学士会館 
 

はじめに

 この秋から京都議定書についての新しいセッションが始まりますが、小泉内閣はアメリカ抜きで批准する意向を固めたように感じます。4年前の京都会議に担当局長として参加しましたので、当時の経緯も含めて、京都議定書とその実行についてお話ししたいと思います。
 京都議定書は2010年(2008〜2012年)の地球温暖化ガスを我が国では1990年比6%削減しようという条約です。アメリカは7%、ヨーロッパは8%の削減となっています。
 この条約には法的拘束性があり、守らなければペナルティーを課されます。そういう意味では、産業、生活に非常に大きな影響を及ぼします。
 経済成長と環境とエネルギーの3つを合わせて3Eという言い方をしています。CO2問題は、即ちエネルギー問題であり、それはイコール経済成長の問題です。経済成長を維持しながら、エネルギーをきちんと供給し、なおかつ6%減を達成しなければならず、相当な重みとなります。

 注
)ペナルティ:5年間トータルで達成できなかった場合、次の5年間に利子を払って持ち越される。 

1.エネルギーと人間

 人間は数百万年前の食べるだけが精一杯の時代から、道具と火を使うことによって文明を発展させてきました。原始人、狩猟人、農業人から1900年ごろの産業革命=石炭を含めたエネルギー革命、1950年以降は石油、石炭を前提とした現在のエネルギーのパターン(技術人)へと発展してきました。
 原始人は4000キロカロリーぐらいでカツカツの生活をしていましたが、1970から80年代は原始人の百倍のエネルギーを使っています。また、近年では、産業用から、輸送、食料、民生への使用が増えています。
 世界的に見ると、大半の人はいはば初期農業人、高度農業人の状態です。約60億の人が様々なエネルギーの使い方をしています。

 次に、資源別のエネルギー消費を1971年と2010年の見通しで比較してみると、石炭、石油の構成割合がやや減り、それを天然ガスが埋めますが、原子力、水力、風力、太陽電池等は主力とはなり得ません。
 一方、地域別のエネルギー消費の比率を見ると、OECD諸国の比率が減り、2010年には半分以下となる見通しです。発展途上国、特に中国、インドを抜きにしてはこの問題を語れなくなります。
 経済が成長し、便利になるということは、後戻りができないということであり、エネルギーの使用の増加は必然となります。
 

2.エネルギーと地球環境問題(温暖化問題)

 地球をガイア、1つの運命共同体的な生態系として捉えようという見方が強くなっています。石油を年間90億トン使い、それが増えていくということは、生命体としてのガイアにかなり大きな影響があります。
 人間が使うエネルギーが太陽エネルギーの0.1%に近づきつつあるという試算があります。東京、ニューヨークといった先進国の大都市では、その数十倍の密度になり、局部的にも大きな影響が出てきています。これをこのまま放置すると、ガイアというような全体としての営みが維持できるのかということが、この20年いろいろな形で提起されてきています。
 1988年の経済サミットでカナダの首脳から地球環境問題の提起がされました。オゾン・ホールの問題が提起され、フロン等の局限された問題であるということもあり、モントリオール議定書という形で実行策が先に進みました。これと並んで、地球温暖化問題への取り組みがその後加速され、リオ・サミットでは、今議論になっているCOP3の前提となる気候変動枠組条約の合意が得られました。
 2000年は1990年比横這い、但し法的拘束性はないということで気候変動枠組条約が成立しました。結果は、10%ぐらいの増加となりました。

 さて、2100年を念頭において、2010年をとりあえずどうするかを議論されたのがCOP3の京都会議です。
 これは法的拘束性を持つということで、議論が大変紛糾しました。日本が幸か不幸かホスト国を引き受けましたが、私自身もまとまる確率は1%もないと正直思っていました。
 アメリカの議会は極めてネガティブでしたが、ゴア副大統領が議場に乗り込み、政治的決着により奇跡的にまとまりました。
 当時の橋本総理は、厚生省政務次官のときから、熱心に環境問題に取り組んでおられ、国際的にも首脳の中で環境問題を一番良く知っているということもあり、サミットからずっとイニシアティブを取ってまとめられました。
 私個人としても、21世紀への大きな節目であるこの条約に、日本で最もふさわしい京都という名前がついてまとまったということに、意義深いものを感じました。
 COP3の基本的目標、基本的枠組はまとまりましたが、具体的なやり方は全て後に残されました。それを具体的にどうするか毎年議論してきたわけです。

 ここでどういう議論が温暖化問題についてあるのかということを若干整理しておきたいと思います。
 先ず、温室効果についてですが、地球の平均気温は、1920、30年代からずっと上昇基調にあります。
 化石エネルギーの消費量と二酸化炭素の濃度の関係を見ると、20世紀から石炭、石油の消費量が急速に高まり、とりわけ戦後の工業化との相関関係が極めて明確であることが示されています。
 国連のIPCCという地球変動に関する専門家会合が、最近出した3次報告書によると、今後百年間に地球の平均表面温度が、1.4から5.8度上昇しそうです。CO2濃度は、今後百年間に1790年の濃度に対して90から250%増加すると言われています。海面の水位が最大で1mぐらい上昇するかもしれません。1998年に出された2次評価報告書の予測より厳しくなっているというのが重要な点です。
 そういうことによって、食料供給、居住環境、水資源への影響があると言われています。
 リオ・サミットではさまざまな議定書がまとまりましたが、これらは基本的には3E、あるいはサステナブル・ディベロップメント、つまり成長しながら環境を保持するという考え方に基づいています。途上国にとっては成長しなければ新しいことができないということであり、先進国だけの議論とは違ってきます。
 

3.京都議定書の現実的側面

 2100年の一般的議論ではなく、京都議定書の2010年ということになると生々しいものがあります。
 COP3の合意は、軍事力の調整であった、ワシントン条約、ロンドン条約よりも、もっと包括的に国力を決める枠組みになります。3Eということになると、経済力全体を規定してしまったと言えないこともありません。
 GDPのシェアとエネルギー関連CO2排出量のシェアを1995年で比較すると、アメリカはGDPもCO2排出量も世界全体の約1/4です。GDPの割にCO2排出量が多いのは、中国、旧ソ連です。中国は3.3%のGDPシェアに対して、CO2は14.1%です。逆に日本は、GDPは14.6%ですが、CO2はその約1/3、5.3%です。
 CO2の排出の2大巨頭は米中であり、主役は米中となります。準主役としては、EU、日本、ロシアが挙げられますが、日本は脇役に追いやられるかどうかも含めて大変重要な岐路に立たされています。

 EUは、イメージとしては前向きに立派なことをやっているというところがあります。米ソ体制が崩壊して、ソ連の圧力がなくなった段階でEUとしては諸々のフリーハンドを得ました。従って、EUの統合の中で環境問題は戦略性を積極的に取り易い状況でした。EU統一の1つのシンボルでもあり、それをアピールすることにより、アメリカ、日本に対するバーゲニングパワーを持つということが可能でした。
 また、ヨーロッパ各国の政権が、ソ連の圧力がなくなった頃、環境党と社民党の連合政権となり、環境主導型となる必然性がありました。
 もう1つは、日本は既に石炭からのエネルギー転換は終わった後になりますが、ドイツ、イギリスは80年代まで石炭を使っており、90年代は石炭からガスにドラマティックに変わる時期でもありました。
 また、ドイツは東独と一緒になったため、枠取りは非常に楽でした。
 ヨーロッパはいいタイミングで、いい戦略で、いい政治の方策として取り上げているということを指摘させていただきたいと思います。

 一方実際には、アメリカの温室ガス排出量は、98年は90年比1割強アップしています。ドイツのCO2排出量は、98年の実績は90年比マイナス12.6%ですが、目標はマイナス21%、イギリスはマイナス6.5%に対して、マイナス12.5%と実際にやるのは大変です。各国ボランタリーにやるというのが今までの枠組条約ですが、2010年は条約を批准するとペナルティを含めて実際にやることになります。
 国際機関の合意も難しくなってきています。基本的には全会一致です。COP3では最悪の場合アメリカが退場するということがあり得ました。反対するとまとまらない、つぶさないということであれば退場するという選択肢もあり得ました。しかし、ぎりぎりの処でアメリカは合意に踏み切りました。しかしながら、その時点で実行は移さない批准はできないということははっきりしていました。
 

4.我が国における3E(環境とエネルギー、経済)

  過去日本の産業は、傾斜生産時代、公害、石油ショックを経て強くなってきており、GDP当たりのCO2排出量は非常に低い水準を達成しています。結果論かもしれませんが、日本の産業がパワーがあるときに対処してきましたが、今の状況がパワーがあるかというところに悩みがあります。停滞期、少子化の中で昔上手くいったほどにはいかないということを敢えて指摘したいと思います。
 環境調和型の個人的な価値観と循環型経済社会への転換に、日本が主導的な役割を果たすためには、国民全体の決断、政治経済のリーダーシップが必要です。
 21世紀の基本的な対応は、創意工夫、イノベーション、企業の活力と需要の掘り起こしです。マーケットメカニズムを通じて新しいものに対応する必要があります。国の関与は最小限にし、絶えず見直すということが不可欠です。
 6%削減を達成しようとすると、規制をかけていこう、税を細かく決めていこうということになり勝ちですが、それは新しい価値観、メカニズムを作っていくには適当でないと強く感じます。

 COP3規制は対応可能と思いますが、2010年だけでなく、その先も構造的にやっていかないといけません。2100年にはトータル1/3、少なくとも1/2にはしないといけません。途上国の成長を考えますともっと厳しくなっていきます。当面のやり方と同時にその先も含めて議論していかないといきません。
 そういう意味で、この問題のヘゲモニーをかけた米中の本格的な議論が始まります。単純に米国はほっておけといった問題ではありません。今回の京都議定書では中国には義務はありません。アメリカは、中国に義務がかからないのはおかしいと言っていますが、長期的には、ある意味では正しいことを言っています。長期的なこともよく踏まえて議論していかなければなりません。
 

5.当面の課題

 これと並行して環境とエネルギーという議論の中では、エネルギー産業の規制緩和と自由化が進んでいます。エネルギー問題、環境問題には、新しい価値観、新しいマーケットに対応した、新しい産業、新しい供給が必要になります。イノベーションを促進し、新しい参入を促進するような規制緩和が進みつつあります。
 結果的に価格は下がったかとか、カリフォルニアの例のように弊害はないかということを、実行の段階では、オープンに議論し、試行錯誤も必要になります。

 

                      

 

<487回 二木会 案内>

暑い夏が続きますが、館友の皆様におかれましてはお元気にお過ごしのことと存じます。

 猛暑の中で、「地球規模での温暖化」という人類全体の課題が何となく身近な問題とし
て感じられます。地球温暖化対策のための国際的な取り組みとしては、本年7月19日か
らオランダのハーグで行われた気候変動枠組条約第六回締約国会議(COP6)再開閣僚
会合が、米国の批准拒否の中で我が国の「京都議定書」への対応が注目されたこともあり
、記憶にも新しいところです。
 温室効果ガスの排出、とりわけ二酸化炭素の排出はエネルギー需要に左右される面が大
きく、このため、産業界における徹底した省エネやエネルギー転換などより積極的な対策
が期待されます。 一方、温暖化を防止するためには、私たちのライフスタイルを変革す
ることも考える必要があるかもしれません。

 9月の講師には電源開発株式会社の取締役の並木徹さんをお迎えします。並木さんは
、通商産業省(現経済産業省)で、海外電力調査会ワシントン事務所長、環境立地局長な
どを経験され、昨年6月から現在のお仕事に携わっておられます。今回は通商産業省時代
の経験も生かして、今の「ホット」な話題である地球環境問題に関するお話をお聞かせい
ただく予定です。

 多くの館友の皆様のご参加をお待ちしています。
 尚、出席のご返事は9月10日必着でお願いします。

            東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)
                    幹事長 渡辺 俊介(S38)

           記

1.テーマ:エネルギーと地球環境問題
2.講 師:並木 徹 氏 (昭和38年卒)
      電源開発株式会社取締役
3.日 時:2001年9月13日(木)
        午後6時から 食事   7時から 講演