第486回二木会
2001年7月12日(木) 於 学士会館
講師 白根 邦男 氏 スポーツニッポン新聞社代表取締役社長
テーマ 長嶋監督にみる21世紀のリーダー像
略歴
昭和30年 修猷館高校卒業
昭和35年 明治大学卒業、毎日新聞社入社
以後
東京本社社会部長
西部本社編集局長
取締役西部本社代表
専務取締役東京本社代表
平成12年 スポーツニッポン代表取締役
6月の一面は圧倒的にサッカー
今、私が会合に出かけると質問されるのは「何故、スポーツ新聞の一面はサッ
カーの話題ばかりなのか」ということです。
6月のスポーツ新聞の一面は圧倒的にサッカーが多かった。日本のプロ野球が
一面になったのは、日刊スポーツは1回、それも近鉄のサインを盗んだという「事
件」。スポニチは2回。近鉄の福山投手が頑張った記事と、札幌ドームのこけら落
としだけ。サンスポは3回。そしてジャイアンツの機関紙といわれる報知さえ12
回。これに年配の人は不満なのです。
スポーツ新聞は宅配80%、駅やコンビニでの即売20%ですが、日々の紙面
の成果は即売の売り上げに直ちに反映する。即売はとにかくサッカーが売れる。テ
レビの視聴率でも巨人戦は20%台から10%台に落ちた。サッカー優位の傾向は
来年のワールドカップサッカーが終わるまで続くと思う。
ベースボールはシンプル
日本のプロ野球が一面に載らない理由のもう一つが、大リーグの日本人選手の
活躍です。スポニチもアメリカに支局を作り、記者を常駐させている。
イチローにアメリカと日本の野球の違いを聞いたところ「ベースボール(大リ
ーグ)はシンプル、(日本の)野球は細かい」と答えた。
大リーグはピッチャーとバッターの個人対個人の真剣勝負であり、投球の都度
キャッチャーがベンチを見ることもない。日本では監督のサインをいつも見ていな
ければならない。チーム対チームの勝負なのです。当然アメリカのほうがテンポが
早く、チャレンジャーとして個々の魅力があり、現代の若者に受けているのだと思
う。
12億円を眠らせ、1億8千万円で戦っている巨人
有力選手をズラリとそろえた巨人がなぜ圧勝できないのかを担当記者に聞くと
、「巨人は12億円が眠っている」という。牧原(3億円)、工藤(3億円)、桑
田(2億円)、斉藤雅(2億円)、端数を含めて12億円になるという。これらが
戦列を離れて、いわば不良資産となっている。活躍しているのは上原などだが、合
わせても1億8千万円程度である。12億円を眠らせて1億8千万円で戦っていれ
ば、苦戦するのも当然である。眠っているのは、工藤を除くと平成元年の3本柱。
それが未だに高給を取って「活躍」しているのが、長嶋巨人の一面でもある。
やってみなければわからない
長嶋が言っていること、書いていることを見てみると面白い。
日本の経営者、リーダーは「結果がわからないことはひかえる」という傾向が
強い。手堅いというのが安全策でもあった。しかし、長嶋監督はちょっと違う。
本人が書いた本によると、長嶋の中学でのデビュー戦は三振、高校も大学も三
振、プロ野球ではご存じのとおり金田に4打席連続三振だった。どういうわけか、
最初はがっかりさせる。それだけに後の活躍はクローズアップされる。昨年の日本
シリーズもそうだった。スポニチは工藤の調子が悪いので、第一戦の先発予想を
「上原」としたが、工藤だった。長嶋監督は「ダイエーから来て、エースである工
藤が投げるのをお客さんは期待している。だから工藤の調子に関わらず第一戦は工
藤」という。勝ち負けよりもお客を喜ばせることを考えている。経営者感覚ともい
えるが、勝負は「やってみなければわからない」長嶋流の賭けのおもしろさのあら
われでもある。そして第一戦、第二戦と負け、あとは4連勝、異常な盛り上がりと
なった。
努力して伸びる選手を大切にする
長嶋監督は努力する人であるが、その努力を見せない。長嶋監督の哲学は「プ
ロは舞台で華麗な姿を見せるもの。泥だらけの練習は見せるものではない」という
もの。第2期の長嶋巨人は、全体での超ハードな猛練習は行わない。自分で強化練
習を行った選手は伸び、活躍する。「集団」から「個」への切り替えである。
春のキャンプでは、新聞記者へのリップサービスもあるが、スポーツ紙を使っ
て選手に同じポジションで競争させる。反面、長嶋監督が気をつかっているのは、
選手の気持ちを大切にすること。例えば二岡にセカンドをとられた川合には、「川
合にバントを習ってこい」と若い選手にいってプライドを守ってやる。便利屋に使
われる元木には「くせ者」というニックネームをつけ、やる気を出させる。「集団
」から「個」への現代感覚と、「情」という日本的古さをミックスした長嶋流管理
法といえそうだ。
チャレンジ+シンプル=やってみなければわからない
スポーツ紙から見た現代の人気者のキーワードを考えてみると、チャレンジと
いう言葉が浮かび上がってくる。イチローや新庄、中田など海外へ行ってプレーし
ている選手はその代表である。
もう一つはシンプル=わかりやすさである。テンポの速さ=スピードである。
サッカーはボールのスピード、大リーグと日本のプロ野球などの差など、である。
この二つを合わせると「やってみなければわからない」となる。小泉ブームも
そのあらわれである。「結果が分からないことには手を出さない」のが良いリーダ
ーという時代が長かったが、これが変わってきている。「やっていなければわから
ない」をメークドラマという造語で表現した長嶋監督の人気もここにあると言える
。結果の分からないことに挑戦、そこにロマンを感じさせる。
中田、イチロー、新庄、そして小泉首相にさえも共通しているのがこのチャレ
ンジであり、シンプルだと思う。
以 上