第485回二木会

2001年5月10日(木) 於 学士会館
講師  森部 和男 氏  東洋信託銀行財務アドバイザー
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テーマ 自分を振り返り、意志を伝える 「遺言と相続の実際」 
略歴 
昭和43年 修猷館高校卒業
昭和47年 西南学院大学卒業
日本ファイナンシャルプランナ−ズ協会会員(CFP)
中小企業診断士

はじめに
 相続が発生した場合に重要なのは、「相続税」と「財産の分け方」の二つです。
相続税対策(相続税負担の軽減策と、納税資金の準備)と遺言の作成が円満な相続
のために必要です。
 
 
【1】相続

相続税を払うのは
  年間 約90万人がお亡くなりになりますが、そのうち相続税を支払うほどのお
金持ちは約5万人。この方たちには相続税対策が必要です。

相続税を計算する場合には
(1)相続財産を計算する
 (遺産額)+(みなし相続財産=生命保険など)+(生前3年間の贈与額)ー
(非課税対象財産額)
(2)控除される額を計算する
  債務(借金)
  葬式費用
  控除額(基礎控除額= 5,000万円+法定相続人×1,000万円)
(1)から(2)を引いた結果が課税される遺産額となる。
例:配偶者と子ども3人の場合、9,000万円の基礎控除となり、これを超える
部分が課税される遺産額となる。
実際には遺産の評価において小規模宅地の軽減等があり遺産額は少なくなります。
また配偶者控除などもあり支払う税額は少なくなります。
これを超える場合に「相続税の軽減」と「支払い準備」を考える必要があります。

相続税の軽減

【生前贈与】 
 昨年までは60万円でしたが、法改正で今年から年間110万円までは無税。た
だし、形式だけでなく、「実際に贈与すること、受贈者がその財産を管理運用する
こと」が必要です。

【夫婦間の贈与】 
一回のみ 2,000万円まで可。20年以上の夫婦であること。居住用の資産と
して使用。翌年の2月1日〜3月15日に申告する。贈与契約書を作成し、戸籍謄
本と登記簿謄本を提出。
税務署に相談の上行うのが確実です。

【親子間の住宅資金贈与】
 今年改正。最高1,500万円まで。550万円までは無税です。買い替え住宅
の取得、増改築資金の贈与にもこの特例が適用されることとなりました。

2】財産の分け方
 戦前は長男による家督相続→戦後は家族全員での均分相続→権利の主張で係争の
発生。
※借金も相続財産=3カ月以内に相続放棄手続きが必要です。
※相続税の申告は10カ月以内
※相続人が複数存在する場合は、遺産は分割されるまでは「共有」となります。銀
行預金を相続人の一人が引き出そうとしても銀行は受け付けません。
※相続財産の多く(7割弱)は不動産=土地、建物です。法定相続割合での相続は
資金がない場合居住中の不動産を売却して資金を作ることも必要となります。

これらは遺言によって、かなり防ぐことができます。

相続人と相続割合(民法の規定)
○配偶者は常に相続人。第一順位は子。子が死亡していた場合は孫。
○第二順位は親。
○第三順位は兄弟姉妹。
※第一順位が生存の場合は第二順位は相続権なし。第三順位も同じです。

遺産分割の3つの方法
1.指定分割:遺言等による
2.協議分割:相続人の話し合い(遺言がない場合)がまとまった場合
3.調停、審判分割:家庭裁判所
※協議分割は難しい
 居住地、家庭の事情などで相続人全員が集まることが難しい。
 財産を確定することが難しい。
 生前贈与の調整が難しい−−結婚資金、住宅資金、起業資金など
 欲−−相続人およびその家族・親戚
 税金支払い者、資金の問題
→相続ではなく、争続となってしまう→調停、審判となります。

遺言を作成しておきたいケース(1)
「子どもがいないので、遺産のすべてを配偶者に与えたい」
親が既に亡く、兄弟姉妹がいる場合
配偶者の法定相続分は4分の3、兄弟姉妹全体で4分の1。
遺言がない場合、配偶者がすべてを相続するためには兄弟姉妹すべてに「相続放棄
」を依頼する必要があります。
遺言(すべてを配偶者に相続させる)がある場合はすべて配偶者が相続できます
。(遺言書は原因証書となるので、相続登記は遺言書に基づいて行う)

遺言を作成しておきたいケース(2)
「再婚した場合、配偶者と子ども間の遺産を調整しておきたい」
トラブらないように遺言があれば安心です。

遺言を作成しておきたいケース(3)
「同居の子どもや、家業の後継者にそれに見合う自宅や家業のための財産を多く引
き継がせたい」
同居の子どもに厚く。または長男の嫁を相続人としたい場合などです。
遺言がないと法定相続人にしか分割出来ません。被相続人の意志を反映したいとき
(法定相続と異なる相続にしたいとき)遺言で意思表示することができます。

遺言を作成しておきたいケース(4)
「子どもは生活力があるので、財産のほとんどをとりあえず妻(夫)に遺したい。」
遺言がないと子どもが2分の1を相続。子どもは母親(父親)の全遺産の相続を了
解していても、周囲からの雑音によって相続分を請求せざるをえなくなるケ−スが
多く、係争が発生する可能性があります。
遺言があることにより、子供たちの家庭に波風たてることなく、家族関係を良好に
保つことができます。

遺言の作り方……種類と特徴
遺言は着実に実行されることが必要。

1)自筆証書遺言
 遺言全文、日付、氏名など必要事項を自書する。
 作成:本人、検認:必要、効力:厳格な方式、偽造・変造:恐れあり、費用不要

訂正の仕方一つにも厳格な取り決め。
1枚目と2枚目のインクの色が違っていてもめたケースあり。
特に、作成時の意思能力が問題となるケ−スがよく見受けられます。

2)公正証書遺言
 最も確実な方式
 作成:公証人、証人:2人以上、検認:不要、効力:無効の恐れなし、偽造・変
造:恐れなし、費用:必要。

以上により遺言者の意志を確実に実行するためには公正証書遺言をお勧めします。

遺言の作成に当たって考慮しておきたいこと
○配偶者の生活の安定を考えて
○財産目録を整理、作成しておく
  財産のすべてを遺言の対象に……
○極端な遺産配分は争いのもと
  遺留分を下回ると係争のもと。だれに、どの財産を、いくら与えるかを具体的
に。不動産の遺贈はとくに慎重に。
○遺言書の保管と遺言執行者を決めておく。
  利害関係者(相続人など)の一人が保管するのは争いのもとです。
○公正証書で作成すれば安心

遺言はいつ書くべきか?
  何歳まで生きるか、何歳まで元気なのかはだれにも分かりません。
  何度書き換えてもOK。早いうちに書くことです。

信託銀行の業務(私の業務)

1)遺言信託 (遺言を作成する場合)
○遺言作成の相談
○公正証書遺言の立ち会い
○遺言書の保管と遺言執行の引き受け
○財産に関する遺言執行
費用の支払いは遺言執行後

2)遺産整理業務 (遺言がない場合)
○財産目録の作成
○遺産分割協議書に基づく遺産の分割手続きの代行
○相続後の遺産の運用

おわりに
 遺言の作成で、相続人の無用な争いを避けることができます。
また、遺言がない場合、プロの手に委ねることにより円満な相続が可能になります

個別のご相談をお待ち申し上げます。
                       以  上

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