第473回二木会

日時 平成12年2月10日
講師 中山 悠 氏(昭和31年卒)明治乳業(株)社長dai473_s.jpg (9280 バイト)
修猷在学中はボクシング部
昭和35年 北海道大学農学部卒業、明治乳業株式会社入社
昭和60年 取締役東京支社副支社長兼東京支店長
昭和62年 常務取締役東京支社長を経て平成元年より現職
昭和56年 東京修猷会総会の実行委員長
(社)日本乳製品協会 会長(平成10年5月より)
畜産振興審議会 委員 (平成11年3月より)

テーマ 「我が国乳業の国際化問題」
(1)酪農・乳業を取り巻くパラダイムの変化
    (2)進展する農政改革
    (3)我が国乳業の行方

内容要約

日本の乳製品の年生産量は1100万トン位。その内、飲む牛乳が500万トン。
人口当たりにすると1998年で92.3kg食べている。1965年は37kg位だったので、増えてきている。
1985年に米(コメ)が74kg位でそれ以降は乳製品が逆転した。今では米は65kgまで減っている。

その国の金メダルの数と、乳製品の消費は相関関係があると言われていた。
乳製品を食べる国民は健康で体格も良い。
厚生省が毎年発表する国民栄養所要量によると、カルシウムだけ摂取不足となっている。
カルシウム摂取については乳製品が一番良い。また、善玉コレステロールの代表が乳製品。
最近では、良い腸内細菌を増やすには、やはり乳製品を取ることと言われている。
更に胃潰瘍や胃癌の原因のピロリ菌を減少させる乳酸菌を持っているのは明治乳業だということで、
先週の株価がストップ高となった。

国を支える食料は、政治と並んで大切。
農業には国土を使うものと使わないものがある。野菜は今や工場でもできる。牛を育てるには国土が必要。
北海道や東北では、酪農が適している。乳牛は気温の高い地域ではへたってしまうため、
昔は九州では乳業は成り立たなかったが、その後、乳牛の品種改良や搾乳技術の改善により、
年間1100万トンの消費の内、850万トンが国産牛乳となっている。
その半分は北海道産だが、熊本も主要生産地に名を連ねるようになった。
国土利用型の酪農は日本の農業を支える産業になっている。
そのため政府は酪農業を米と一緒に保護してきた。
乳製品の輸入は国が行って、畜産事業団が買い入れて、不足する時に放出してきた。
学校給食法で50万トンの牛乳が消費されている。
乳業会社が勝手に設備増強できないような制度もあった。
このように政府は国内の酪農だけでなく乳業も保護していた。

世界の生乳生産量を見てみると、EUは1億2000万トンの生産がある。
旧ソ連は6000万トンあった。米国も7000万トン。
オセアニアのオーストラリアとニュージーランドはそれぞれ1000万トン。
乳製品の貿易では、50%がヨーロッパ物。35%がオセアニア物、米国産はゼロ。

WTO(世界貿易機構)とは、国際的な貿易の拡大・フリーマーケットの方向へルール作りをするもの。
食料・農業問題が大きなテーマ。
1994年ガット・ウルグゥアイ・ラウンドで世界の農産物のルールを決めた。
日本は、食料を買う側の課題を押し付けられ、2000年1月からまた交渉を始めることとしていた。
昨年12月WTOの閣僚交渉が決裂、2000年から始まるラウンドをどうするかが問題だった。
1987年に始まったガット・ウルグゥアイ・ラウンド当時は、米国の経済が空洞化し世界不況の中、
日本は強い経済状態だった。
更に1989年のベルリンの壁崩壊を皮切りに東西の対立が無くなり、ブッシュ大統領が率いて大国主導型の交渉となった。
不況で欧米の農産物が余っていた。日本に農産物を買うように迫られた形となった。
1994年ガット・ウルグゥアイ・ラウンドで合意されたのは、第一に、例外無き関税化。
第二に、国内農業生産の保護の明確化・開示。
最後に、輸出補助金の削減。
トウモロコシと小麦は米国が、乳製品はヨーロッパが輸出大国なので、世界の農産物の戦いは欧州対米国になっていた。
ヨーロッパ各国は、それまで酪農製品に多額の補助金を使ってきたが、財政負担が大変だったので、補助金削減を飲んだ。
しかしもっと自由貿易に向けて、2000年からまた交渉しましょうとしていた。
日本政府は、次期の交渉に臨むには、農政に対する考え方を変えなければならない。
日本の乳業会社は生産者から70〜80円で買っているが、ニュージーランドやオーストラリアでは10〜20円。
工場の規模も当社で一番大きな所でも21〜22万トンの生産量だが、ニュージーランドやオーストラリアでは100万トンの工場がある。
別の考え方を作って、世界に理解させないといけない。乳業が負けたら、日本の農業が潰れて、国土は荒廃することになる。
法律から変えなければならない。
橋本内閣で、農業基本法を変えることを検討し始めた。諮問が一昨年の9月に出て、去年の7月に国会を通った。
農業基本法は、昭和36年に農民の生活・所得保障の目的で制定されたが、今回の改正で食料の安定保障と農村の持続的発展を方針とした。
農産物の価格は、市場の実勢価格を反映させることとすることで、自由化に合わせる。
しかし、農業は農産物の生産だけでなく、国土の自然保護や文化継承や景観保護のような多面的機能を有しており、
それぞれの国の形があるので、農産物価格とは別に、日本では農民に対する直接保障をする。
この考え方で次期WTO交渉に臨んで、各国を説得する予定。
スイスの山の斜面にいる牛から生産される酪農生産物は、手間をかけて平地の工場まで運んでいるが、
国がそれを観光資源として補助している。
そういう意味で、日本の農業の多面的機能は通じるものがあり、欧州の国々の理解を得つつある。
しかし米国・カナダが、欧州に対し、輸出補助金の削減を迫っていたのを緩めるからと言って、味方に付けようとしており、
この先WTOの農業交渉がどう展開するか判らない。
2000年以降は、欧米・オセアニアでは、自由化に備えて各産業の合理化が進み、企業の統合が目まぐるしくなされ、
企業の強化が進んでいる。
各国の乳業会社は、全くのフリーマーケットとしてマーケットをアジアに向けている。
なんとしても多面的機能を理解させ日本の農業・酪農を守り、国民の健康を守る必要が有る。


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