講演内容
1. 自己紹介
(1) 生い立ちと時代
- 1951年西新生まれ。幼い頃は城南線が未舗装という時代(スライド)
- 東京オリンピック、安田講堂事件、月面有人着陸、『赤ずきんちゃん気をつけて』(庄司薫)『あの蒼き馬を見よ』(五
木寛之)等の時代に青春を過ごす
- 東京工業大学卒後、安川電機に入社。技術から営業。アメリカに13年間。現在ロボット事業部長
(2) 安川電機という企業
- モーション制御(インヴァータ、モーター)
- ロボット事業
- 鉄鋼・水処理システム
- 以上を活用した多様なアプリケーション
2. 現代の社会とロボット
(1)ロボットとは(実働のスライドを見ながら)
- 一般に人工知能を備え、「自分で考えながら」活動する(アトム、ドラえもん)というイメージが強い
- アシモフのロボット三原則
- 人間に危害を加えてならない
- 人間の与えた命令に従わなければならない
- 第1,2条に反しない限り、自らを守らねばならない
- しかしこれだけでは、絶対に人間に危害を与えないとは言えない
- 「危害」「人間」「人類」といった概念の規定が非常に困難だから↓
- 人工知能タイプのロボットは危険、という考えも
- 「自分で考える」のではなく、プログラミングされたロボットが良い、というのが主流
(2)人間のために「仕事」をするロボット(その他にも愛玩用など)
産業用ロボット(全体の99%)
- 特に自動車産業:近代産業の中心的役割
- 最初は自動装置だったが、モデルチェンジが速い業界のため、生産装置自体はモデルチェンジしなくてもよいものを
開発する必要があった
- 70年代から先進国で産業用ロボット開発:アメリカ、ドイツ、そして日本(安川が中心)
医療機関での活用(病院の中の伝達・運搬→医療、介護)なども
(3)ロボット需要と供給の現状
急速な需要および生産増大(2003年から2007年までに生産倍増)
- 世界のシェアの1/4は安川が占める
- ロボット自体は国内(福岡県等)で製造(モデルチェンジが速すぎて海外では追いつかない)
- アメリカ、カナダ、ブラジル、ヨーロッパ、北京などの工場でシステム開発
- 稼働台数世界第1位は日本(37万台)
- しかし近年は海外(特にアジア)需要がハイペースで増加
- メインは自動車産業
- アーク溶接、スポット溶接等
- しかしまた液晶製造等も
ロボット生産の社会的使命
- 日本では就業人口が2000年から2030年までに2000万人減るという予想
- これをカバーするという社会的使命としてロボット生産
- 製造業
- サービスロボット:医療、生活分野(ex. 家庭内でのリハビリ)
- 経済産業省「新産業創造戦略」:製造業での活用が伸び悩むかわりにサービスロボットを
- しかし現実には製造業中心であり、本格的展開はこれから
(4)人と共存・協調できるロボットの開発(安川の戦略)
・サービスロボットの技術を開発→それを工業ロボットに適用
現時点では人にはるかに劣る
- 幼児レベルの判断力しかない(例(スライドで):愛知万博展示品)
- 動きがぎこちない↓
- 人と同じ場所で人と同じ自在性を備え、同じツールを用いて活動することを目指す
工場での限定された作業では一定程度実現)
- 柔軟性:多軸(腕と同じような動き)・多腕
- 人とスペースを共用:小型アクテュレーター開発
- 実例(スライドで):狭い場所で人と同様の動きで
- 自動車組み立て作業
- インヴァーター装置の組み立て作業
(5)開発進展の困難性と展望
ロボット活用のための意識と技術
- 自動車産業が需要の中心
- 一ヵ所で大量の需要
- モデルチェンジを前提に、ロボット活用が必須という意識と活用の技術を持つ
- サービス用などに裾野が広がる
- 一ヵ所あたりの需要が少ない
- 意識と技術が定着していない
展望
- 少子化に伴い、各界のトップ企業ではアプリケーションへの注目が始まっている
- しかし日本経済を支える中小企業には未だロボットを導入する意識、技術が手薄
- 従って、日本の未来のためには今後多くの技術者を生み出し、意識と技術を育てていくことが必要
3. 質疑応答
- 問(54卒。氏名は略):少子高齢化社会において、高齢者が現場で働くことを補助するようなロボットという発想はな
いのか
答:パワーアシストという発想はある。しかし製造業というよりも生活支援面で。製造現場では若年層が中心となり、年
配の方は判断を下す側へという考え
- 問(46年卒):多くのロボットの生産・販売という現状でsecondaryマーケットは?
答:頑丈すぎてなかなか壊れない。部品を交換すればまた機能する。そのためのマーケットは既に存在
- 問(57年卒):他の企業との協同によって業界を盛り上げるという発想は?
答:一社だけで、という発想はない。製造業における深刻な労働力不足を見据えて、ロボット生産の裾野を広げるという
課題は安川だけで達成できるものではない
- 問(27年卒):今後の日本社会の展望からするとサイバネティクス分野での発想が重要なのでは?
答:サービスロボットの需要もレベルも現時点では極めて低い。が、やがては実用化へ。またそれを産業面へ活用する必
要も
問:「3K」産業においてどのように活用できるか。例えば水産業では?
答:ロボットは対環境性という意味では可能性が大きい。例えば防水性。イカ釣りロボットなども
問:電気を用いるため、水産加工なら可能だろうが、漁業の現場では困難では?
答:密閉型ロボットも存在する
- 問(39年卒):軍事産業への適用についてどう考えるか
答:軍事転用は簡単だろう。アプリケーションは人が考えるのだということが重要。安川ではユーザーを厳選している
- 問(27年卒):老齢者の増加という状況で、介護ロボットに期待しているが、この分野についてもう少し詳しく
答:この面の開発は必要。だが例えば行政内部で認識の差違(例えば経済産業省と厚生労働省)。しかし問題が現前して
いるため、必ず実用化されるだろう(例えばトイレ介助といった人間の尊厳に関わる分野)
- 問(33年卒):医療について。医療用ロボットの認可がなかなか下りない一つの理由は、ロボットに対する認識が進ま
ないところにあるようだが、この点は?
答:安川は医療用ロボット自体の開発には携わっていないので、具体的なことは申せない。ただ医療面を含め、ロボット
の有用性に対する全般的な認知が形成されていない面がある。今後経済産業省と協同して認知形成に努めたい。