第543回二木会開催報告

衆参ねじれ下における今後の政治運営

日時
平成19年11月 8日(木)
場所
学士会館
参加人数
83名
テーマ
「衆参ねじれ下に おける今後の政治運営」
講師
原 田義昭氏(昭和38年卒)
衆議院議員(自民党)
衆議院財務金融委員長

略歴: 昭和19年10月 福岡県生まれ


下山田小学校、添田 中学校、西南学院中学校を経て,修猷館高校入学

昭和39年 東京大学法学部入学

昭和45年 タフツ大学(フレッ チャーロウスクール大学院)留学


関東通産局総務課 長,中小企業庁参事官,渡辺美智雄通産大臣秘書官等を歴任

平成2年 衆議院議員(現在5 期目)

運営/進行 S56年卒(スゴ ロク会)田中昭人

講師紹介(S38年卒 野原 宏 氏)

 原田氏は、お父上の仕事の為、修猷館を正式に卒業なさってはいないが、唯一の0(ゼロ)組生としてメンバーに参加いただいている。
 東京大学ご卒業後八幡製鉄に入社。
 その後、筑豊出身であった彼は、当時の炭鉱労働者の悲惨な生活を改善すべく通産省へ。
 このような性格の真面目さと男気が、当時の通産大臣であった渡辺美智雄氏の目にとまり、
 その縁で政界入りなさった。
 外交通であることはもちろん、医療・福祉にも明るく、弁護士の資格もお持ちで、法廷でもご活躍。

講演内容

モグリでは??

 ご紹介の通り、修猷館を2年の夏に転校し、東京に移り住んで以来、通産省に入り,選挙も神奈川県の中選挙区で小泉元首相と闘って国会へ出させていただい た。
 にもかかわらず、福岡の県人会、修猷館の同窓会には欠かさず参加をしていた。
  ある時、様々な運命により福岡で選挙に立つことになり、平成7、8年頃福岡に戻ったところ、「お前はあまり見ない奴だし、他所で選挙もしているようだが、 本当に修猷館を卒業したか?」と尋ねられ、ハタと卒業名簿を開いてみたところ、なんとゼロ組として載せていただいていた。そこに載っていなければ「あいつ はモグリだ」ということになっていただろう。

深刻な「ねじれ国会」

 日本の戦後政治の大きな節目として、50年体制ができ、そ れがこわれ、平成4年には連立内閣となって日本の政治は大きく変わったが、同時に今年の7月29日、参議院選挙で民主党が第一党となり、自民党が半与党と なったこの日は日本の政治を大きく変えた、歴史に残る日付けとなるだろう。
 久しく自民党、または自民党が連立を組む政府が衆議院でも参議院でも与党として位置し、政府が決めたことがいつ議会を通過するか、という完全与党の形態 をとってきたが、今年7月29日をもってそれが完全に崩れ、いわば「半与党」という状況になった。
 当初は、仮に参議院で負けても、衆議院は圧倒的多数を持っているので「まあ、それほどでもないかな……」という、多少の甘えもあったが、日を追うごと に、この状況の持つ深刻な意味が理解されるようになった。

11月1日問題

 言うまでもなく、テロ特措法の4度目の延長について9、10、11月と大議論が行われ、現在あえて新しい法案を作って国会にかけている段階。
  なぜ「テロ特」が必要か、ということに関しては、もちろん様々な議論はあるが、日本の国際協力、さらに断固としてテロと闘うという意味で、前線で闘ってい る国々への経済的支援を行うことが世界から求められており、日本政府としてはなんとしても実行しなければならない政治的立場にある。

大胆!守屋事件

 これには皆が唖然とした。
  平成11〜12年頃国家公務員の倫理規定ができ、民間人と現役の国家公務員、とりわけ監督する業界の人間は飲食に同席してはならないということを厳しく規 定され、これによって同期会すらできなくなってしまったほどである。守屋氏に関しては、大胆といえば大胆であり、役人の世界では考えられないことである。

苦悩の会期延長

 今日、12月15日までの35日間の会期延長が決まった。
 理由は何よりもまず新テロ特措法を通さねばならないということだが、今期ばかりは気軽に「延長すればいいではないか」というわけにはいかなかった。
 「会期を延長すればテロ特措法は成立するのか?」と問われれば、全くその見通しは立たない。しかし、35日延長して通らないということは、内閣の不信任 を意味する。
 もし12月15日までに通過しなければ内閣不信任であると認めて、解散か総辞職かを選択せざるを得ないことになり、会期延長の深刻さをおわかりいただけ ると思う。

 今日の昼食時、山崎拓氏のあいさつは、ひとこと。「いよいよ延長が決まった。この延長国会はきわめて緊張した国会である。これに失敗すれば解散であ る。」

使ってはならない「2/3条項」

 憲法59条 3分の2条項とは……
第一項    法律は両院を通過した時点で成立する。
第二項    参議院が反対した時には、衆議院に戻して3分の2の議決を得れば、衆議院の議決が国会の議決となる。
 しかし、今仮にこれを3分の2で実現したらどうなるか。
 国会は年間130本もの法案を審議しており、テロ特もその1本でしかない。しかし、これを3分の2で実行した場合、強硬策をとった福田内閣に対し参議院 は「問責決議」を出し、10日〜20日は国会が完全にストップし機能しなくなる。
 それがわかっているので、「2/3条項は使えない」というのが一般的な認識である。

「大連立」と小沢党首辞任騒動

 このように、勝算がどこにも見出せない中で、9月、10月と秘密裏に大連立が話し合われていた。
 10月30日、いきなりの党首会談。11月2日にもう一回という約束をし、その後の成り行きは見ての通り。
 11月2日のブログに書いたとおり、大連立が明るみに出た瞬間に小沢氏の辞任を直感した。しかし撤回までは読めなかった。

小沢一郎という人

 平成2年から議員の議席を得、あらゆる角度から小沢さんという方を見てきたが、今の政治の世界で、この方くらいすごい人はなかなかいない。
 ただ、これまでありとあらゆる大技をかけてきたが、ことごとく失敗してきた。
 しかし、目指すところは常にきちんとした理想哲学を踏まえておられる。今回も無念な結末ではあろうが、おそらく彼の本音のなかには、民主党・自民党と いった狭い考えではなく、常に「世界の中の日本」を考え続けておられると思う。
 「着眼大局、着手小局」という言葉があり、小沢さんの場合着眼は常に大局だが、着手については、凡人で言う根回しや説明が足りないのは事実。
 小沢氏は、これからも更なる大局を念頭に置きながら政治に関わっていかれることと思う。

予想される今後の国会の流れ

 来週早々、新テロ特措法が衆議院を通過。直ちに参議院へ。
            ↓
 強硬姿勢を強めた民主党により、参議院は断固として反対。
            ↓
 衆議院に戻し3分の2条項により衆議院通過。
            ↓
強硬策をとった福田内閣に対し、参議院で問責決議。
           ↓
福田内閣は完全に機能を失い、総辞職または解散総選挙。

「国民の生活はどげんなるとや」

 このような政治家の議論からは、国民の実生活が完全に欠落している。
 原油の値上げ、C型肝炎の補償問題、年金の後処理といった数々の課題が積み残されているにもかかわらず、「テロ特だけがテーマか」といった憤りの声も噴 出している。

 年度が替わる3月末には100本近くの法律を年度ごとに延長していく。この日切れ法案の大部分は特別措置法による減税などの税法である。
 完全野党であった民主党は、与党が持ってくる法案についてはなんでもかんでも反対してきたが、不完全野党となり、強い権限を持たされた今、何でもすべて 反対して国民を敵に回すわけにはいかない。
 テロ特についても、完全に葬り去って選挙まで走るようなことはないだろう。

 このような複雑な腹の読み比べの中でも、時代は滔々と流れて選挙に向かって走っている。

質疑応答

質問1 憲法 69条による内 閣不信任案というのは、まさに衆議院にだけ認められた特権であるはずなのに、参議院も問責決議案で同じ効果をあげることができるというのは、参議院の越権 行為では。
回答   憲法69条は法的に認められている権利、義務である一方、「政治的に」参議院が意思を表明することは自由であり、その時に「政治的に」問責を決議すれ ば、総理大臣が参議院に出入りしても政治的に一切動かない、となれば内閣としては何の責任も果たせないので、解散して国民の信を問う
ということになる。
 これは法的にも認められている政治的行為なので仕方がない。

質問2 民主党 の中にも、テ ロ特が通らなければ日本の国益を大いに損じると考えている人もたくさんいるはず。そこを切り崩すような方法もとらなければならないのでは。
回答   おっしゃるとおり、これまで小沢さんが民主党内で強権を振るってきたことは事実で、今後それを維持できるか弱まっていくかは次の話だが、確かに民主党の 中にも新テロ対策給油法がほんとうに大事だと思っている人が過半数いる。しかし、個人の政治主張はとりあえず抑えてでも、小沢さんの下に集まって自民党を 解散に追い込むという戦術のレベルでうって一丸となるのも政党人の役割である。ここは、いかに国民にこの問題について真剣に考えていただくかにかかってお り、だからこそ、今回のように大連立だの連立だのと密室でこそこそやるのではなく、堂々と公の場で党首討論をやり、直接国民に訴えていくべきだったのでは ないかと私は考えている。

質問3 仮に衆 議院を解散し たときに、民主党が勝てば衆議院・参議院共に与党となり新たな局面となるわけだが、自民、公明が、3分の2に至らないまでも過半数を占めた場合、今のねじ れの状態は少しも解消しないのではないか。そうなった場合、これからの政治はどうなるのだろうか。
回答  現在の 状態では参議 院が直近の国民の意思だという意味で、衆議院における様々な意思形成においても民主党が強い影響力を持っている。
  衆議院の解散というのは、実は政権選択の場である。よって、もし衆議院で勝てば、相変わらずねじれの状態ではあるが、直近の国民の意思であると同時に、ま さに政権選択であることを掲げて、以後の参議院の運営においても今のような、話もしないまま「反対」という無茶は言わなくなる。
 2年前の、小泉氏の時の政権選択のまま現在に至っているので、福田政権としては、数は多いけれどあまり威張ったことは言えない。
 このように、衆議院選挙をやれば、その結果によって参議院の動きも全く変わってくると考えられる。