第533回二木会

<日時>        H18119日(木) <場所>学士会館

<参加人数>  65名

<テーマ>      『ニッポンの地震対策〜地震災害研究の現状と身近な防災対策〜』

<講師>        筑波大学大学院システム情報工学研究科 助教授 (工学博士)

境 有紀 氏(昭和55年卒)

<運営/進行>  S.55年卒(GOGO会)間中紳介

<内容>

     講師紹介(司会及び 早田氏(S.55年卒)

◇講師は、東京大学工学部建築学科を卒業後、同大大学院へ進学。平成3年に博士課程終了

◇東京大学地震研究所、カリフォルニア大学バークレー校を経て、H15年より現職

◇「地震による構造物被害に伴う人命の損失を減らす」ための研究活動を行う中で、現在の震度の問題点を指摘。実際の被害と対応した震度算定法の提案を行うなど、学会、マスコミ等からも注目を集める。学会は日本建築学会、日本コンクリート工学協会といった建築系の他、日本地震工学会、日本地震学会にも所属

◇プライベートでも多趣味多才。修猷時代は吹奏楽(クラリネット)。その後、東大「ピアノの会」、バドミントン(全日本シニアでも活躍)。博多ラーメンの探求も。昔から「妥協を許さない」お人



            会場風景                        境講師
 

 ○講演

1. そもそも地震災害とはどういう災害なのか?

大地震は滅多に起きない

     日本で起こっている地震(死者1名以上)は、113年で80回。起こる頻度は交通事故よりもはるかに少ない。頻度は少ないが、確実に起こる災害。

         このため「地震で死ぬことはないだろう」(との思い)→「対策が進まない」→「大地震が起きれば大惨事」 の悪循環に陥っている。

         2004年末の中央防災会議の発表によれば、首都直下型地震での死亡者予測数 

 12000人(≒1/1000以下の確率)

地震災害は自然災害ではなく人災

         「地震」そのもので、人が死ぬわけではない。地震によって壊れる構造物が人を殺す。

         現在の日本の耐震技術は世界一。現在の技術を持ってすれば、(よっぽどひどい地震でなければ、)だいたいの地震は耐えられる。問題は、過去に建設された(現行の耐震規準を満たさない)既存の建物(=既存不適格建物)。

         世界一の技術はあるのに、法は過去にさかのぼれず、既存不適格建物の耐震補強は一向に進まない。

←「できるのにやらない」のは、「自己の責任」(=人災)

         兵庫県南部地震(1995)でも、現行の耐震規準を満たしたもので、倒壊した建物はほとんどなかった。

←新しい建物よりも、既存の不適格建物を補強するほうが、はるかに防災上の意味は大きい(近道なのだ
 が
.)。

 

地震は生活基盤を都市まるごと破壊してしまう

         命は助かっても住むところがなくなれば生活はできなくなる。

         阪神・淡路大震災のケースは、命を落とした人は1/300人。一方、住むところを失った人は1/4人という極めて高い確率。

         都市がまるごと被害にあい、全員が被災者なので、(交通事故や病気と異なり、)周囲の人が助けてくれることは期待薄。

         2004年末中央防災会議発表の首都直下型地震による物的・経済的損失は112兆円と膨大(国家予算を大幅に上回る)。

         エレベーターなどが停止しても、再開の為の技術者は絶対的に不足。(助けに来てくれない)

   地震が起こる頻度

・「大地震はめったに来ない」説は本当か?
   ・地震が起こったサイクルを精査すると、70年周期で、大地震が起こる時期

2030年)がくる。前回は、1940年代(1000人以上の死者を出した地震が10年間で5回も発生)。

・これからの2030年が、「地震活動期」。阪神・淡路大震災は、この活動期の「前兆」と見る人もいる。 

 

2. 日本の地震災害研究の現状

   地震防災研究について

・地震防災は,理学(地球科学,地震学),工学(地震工学,建築学,土木工学,材料工学,機械工学),社会学(人間心理,行動),経済学の各学問分野に政治・行政をも総合した対策が必要(学問自体は非常に新しい(20世紀後半に急速に進歩))

日本の地震災害研究,それを応用した耐震技術は世界一(米国より進んでいる)

1995年兵庫県南部地震では,現在の日本の耐震技術のレベルの高さが証明

 (現在の耐震規定を満たした構造物で大きな被害を受けたものは殆どなかった)

   その一方で 「防災」を冠した学部,学科はほとんど存在せず各分野でばらばらに研究が進んでいるのが実情

←問題は、「研究の成果が社会に還元されていない」ということ。

(ex:建築も「これから建てるもの」のことしか考えられていない傾向あり。「耐震偽装問題」も問題提起となる可能性もあったが

   防災の専門家は非常に少ない(自治体)。まだまだわかっていないことも多い。

建物は人間が作るものなのに、その地震時の挙動は不明な点が多い

(←地震は滅多に来ない,実験も非常に困難という特殊性も背景に)

○「防災」と「減災」

   地震災害を減らしたいのであれば,既存不適格建物の耐震補強に尽きるのだが、これが一向に進まない。国、自治体も頑張っている。耐震強度調査や耐震補強の為の補助を予算化しているが、影響範囲は限定的。

そこで、「耐震性能は現状でも何とか地震災害を減らせないか?」

←『「防災」から「減災」へ』という考え方がでてきた。

(「減災」=構造物の被害を減らす、被害は減らせなくても、人命被害を減らす)

    具体的には、

(1)地震直後の迅速な対応により少しでも地震災害で亡くなる人の数を減らす

→地震直後にどこでどのくらいの被害が生じているかを迅速かつ正確に把握すること

(2)身近な防災対策 など

  

○地震直後の迅速且つ正確な被害状況の把握

 @「震度」について

1996年以前は定量的な測定値によるものではなく、「感覚」(人による判断)に基づくもの。

1996年以降、機械計測による震度判定へ。

全国3500箇所の地震計(地震計はこの他に国、民間合わせると10000くらい)で、0〜7までの震度を測定し、

2分以内で把握(表示)するシステムが確立している(このようなシステムは日本だけ)。

(これはこれで、長足の進歩であるが、)問題は、震度の値(07)と、被害の大きさが対応していないこと。

  (ex:「震度6」でもほとんど建物の倒壊がみられないケースが多く存在)

     →いち早く、「真の被災場所」を判定して、対処をする必要ことが重要。

被害と対応した震度算定法の提案の必要性
      (その「震度」を使って、地震直後の被害を正確に予測する)

 

   A被害に対応した震度測定法の提案

         地震の揺れ方」に着目。

         地震の揺れ方を考慮して揺れの強さを「測る」ことが必要。

         怖いのはやや短周期(12秒程度)地震動

1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震の川口町)

         0.5秒以下の極短周期の揺れであれば、倒壊被害は少ないが、やや短周期(12秒)の(震度6程度の)揺れであれば、古い木造家屋は間違いなく倒壊する。

         長周期の揺れでは、超高層の建物はとても大きな揺れとなる。

         建物の被害を正しく把握するためにこれまでの「震度」に「周期」を組み合わせて、新たな「震度」の定義を提案した(実際の被害との相関も検証した)が現段階でなかなか「採用」されない。(建物の被害の分布図が描け、危険地域はわかるのは極めて有益と思うが.

 

3.身近な防災対策

○基本となる考え方

         「自分の身は自分で守る」こと。

         とにかく「できることからやる」のが重要

○耐震判断、耐震補強

         やる気がある人は是非「お勧め」。(特に1981年以前の木造家屋)

         耐震補強の為の費用は、100-200万円(車一台程度)。

(国、自治体の補助がでるケースも)

         地震予測地図を国が公開している(地震が起こる確率が高い地域がわかる)

         (→費用対効果の観点でも、「お得」になるケースが多い.

○まずとりあえず「命の確保」

         人が命を落とすのは,倒壊した構造物の下敷きが8割(1995年兵庫県南部地震)

         倒壊して人の命を奪うのは,古い既存不適格の木造家屋がほとんど

木造家屋は倒壊すると「生存空間」がほとんど残らない

  多くの場合、1階がつぶれるので、木造家屋なら寝室はできれば2階に。

    木造アパートなら2階の部屋を。

         中高層建物(マンション,オフィスビル)なら大きな被害を受けても命を落とす確率は低い

         中高層建物が壊れるとしたら(ひとつの階が潰れるケースあり)、1階のピロティ(駐車場),柱が細くなる階(図面を見ればわかる),SRCの鉄骨が無くなる階

         一番安全なのは低層の壁式鉄筋コンクリート造(いわゆる団地)

         整形な平面,立面のものが安全(デザインが格好いい建物はあぶない)

         免震,制震,超高層建物は現代技術の粋を集めたものだが必ずしも安全とは言えない

         でも新耐震以降のものはまあ大丈夫

         つぶれても、腰壁,垂壁の存在があるため、だいたい高さ1m位は空間が残る。

         万が一腰壁,垂壁が効かなくても梁せいの分だけ空間は残る。従って、梁の下が(空間が残らず)危ない。

地震だ!と思ったら「梁下」から脱出)

→閉じこめられるので2,3日サバイブする必要(水や食料)

         室内物品,特に重量があるもの(ex:ピアノなど)に注意。

         液状化では建物は転倒しても非常にゆっくり倒れるので人は死なない。

         寝る場所の位置や状況は最重要(人間起きていれば何とかしようとするもの)

(←1995年兵庫県南部地震では倒壊した木造家屋の1階で寝ていた人の多くが

亡くなった)

         もし起きていたら

入口を確保するより「生存空間」に移動(梁下から脱出).ただし普段から水と

食料を。

都市ガスは自動的に消火.避難するときはブレーカーを落とす。

腰壁・垂壁があるところは生存空間が残るがガラスに注意

 

○(命は確保)その後サバイバル生活(とても大変!)

         自宅マンションが被害を受けたら→所有していたら大変

         建物に被害がなくてもライフライン(電気,ガス,水道)が止まったら生活できない。

         都市部では自動車は移動手段としては使いものにならないが簡易住宅として威力を発揮する。

         都市部で移動手段として威力を発揮するのは自転車

できれば職場に自転車を(帰宅困難となる場合、極めて重宝。)

地震予知について

         「地震予知ができれば大丈夫」は幻想。

         もし地震予知ができても壊れる建物は壊れる

→莫大な経済損失(首都直下地震で112兆!)

         予知できるかもしれないと言われているのはごく一部の特殊な地震(海洋地震)

         怖いのは海洋地震より直下地震(やや短周期地震動)

         警戒宣言は出せるのか?出ても意味があるのか?何日も野宿するのか?

         地震予知の「空振り」(現実的には、なかなか難しい)。後付では使いものにならない(地震雲,犬が吠える)

         リアルタイム系: 有効な場合もあるが最も怖い直下地震には無力

 

4.終わりに

・地震は地球が「生きている」から起こる。

我々は地震と共存するしかない。

  そのためにも、「できることからやる」。しっかり勉強する。

(自らを守るために、)個人が自己責任で行うもの。

 

5.その他(参考URL)

・研究室: http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/jsd.htmGoogleで「境有紀」)

・地震防災の話題: http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/dpo.htm

Googleで「その他の地震防災に」)

・地震防災の本音?: http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~sakai/zwn.htm

Googleで「人生や世の中」)

 

<質疑応答>

Q:防災に備えて、今後建物の設計基準が見直される可能性はあるか?

A:いろいろ検討されてはいるが、現在の設計基準は、既にかなり高い水準にあり、当分見直しはないと思われる。

Q:「液状化は人を殺さない」というが、大丈夫か?

A:液状化現象が起きても、「ゆっくりと建物が倒れてゆくので、人が死ぬ確率は極めて少

ない」という意味。ゆっくり倒れて、床に座っていた人が、(建物が倒れて、)壁に座

っていたという事例もある。(当然建物の被害はあるが 

 

<その他:交流会での意見交換/今月のお題=「私の健康法」>

     「学生時代から継続したテニス」「ダンベル体操もお勧め」等(S.22木下氏)

     「真向法」:4つの動作を基本として、股関節を柔軟にする。(S.55間中氏)

     「朝起きたら、水を飲む(コップ2杯)」(S.45古賀氏)

     「スポーツは健康に良い」が定説だが、「やりすぎは良くない」。「額に汗を書く程度の早歩きはお勧め」と言われている。(S.55境氏/今回講師) 

                               以  上


第533回二木会
ニッポンの地震対策
〜「地震災害研究の現状と身近な防災対策」

 秋冷の候、館友の皆様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申しあげます。

さて、11月は筑波大学大学院システム情報工学研究科助教授である境有紀氏(昭和55年卒)を講師にお迎えし、最近とみに不安の募る地震に関するお話を伺います。
境氏は東京大学工学部建築学科をご卒業後、同大学大学院へ進学、平成3年に博士課程を修了し、工学博士となられました。その後、東京大学地震研究所、カリフォルニア大学バークレー校を経て、平成15年より筑波大学で教鞭を取られております。

「地震による構造物被害に伴う人命の損失を減らす」ための研究活動を行う中で、現在の震度の問題点を指摘し、実際の被害と対応した震度算定法の提案を行うなど、学会、マスコミ等からも注目されています。学会は日本建築学会、日本コンクリート工学協会といった建築系のほかに、日本地震工学会、日本地震学会にも所属されております。国内外の地震被害の実地調査も数多く実施されており、調査結果やその分析を通じて得られた知見、更には実際に大地震に遭遇したときのサバイバル術のような身近な防災対策についてもお話いただきます。関心の高いテーマだけに、皆様からのご質問ご相談へも出来るだけ応じて頂く予定です。

また、講演前の交流会では、スポーツの秋に因み、「私のお奨め健康術」について皆さまからお話を頂きたいと思います。

多数の館友のご列席を心よりお待ちしております。

尚、出欠のご返事は11月3日(金)必着でお願い致します。
             
                          東京修猷会  会 長  藤吉 敏生  (S26年卒)
                                    幹事長 甲畑 眞知子(S44年卒)
1.テーマ ニッポンの地震対策〜「地震災害研究の現状と身近な防災対策」
2.講師 境 有紀 氏(昭和55年卒)
筑波大学大学院システム情報工学研究科 助教授

    
3.日時 2006年11月9日(木)
午後6時 〜 食事、 午後7時 〜 講演
*食事を申し込まれた方は、遅くとも6時30分までにお越しください。
4.場所 学士会館
 (千代田区神田錦町 3-28)
電話 03-3292-5931
地下鉄東西線
 「竹橋」下車5分
半蔵門線・都営新宿線・三田線
 「神保町」下車3分
5.会費 3,500円(講演のみの方は1,500円)
70歳以上および学生の方は2,000円(講演のみの方は無料)