第499回二木会  

年金改革の方向と論点

講師  厚生労働省年金局長 吉武 民樹氏(昭和42年卒) (講演は、吉武様の急用により、同局年金課長の木倉敬之氏によって行われました。)

 2003年1月9日(木) 学士会館 午後6時から 食事
                       
7時から 講演

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 <現行の年金制度の仕組み>  

  わが国の公的年金制度は社会保険方式を基本とした制度であり、昭和36年に国民年金制度が創設されて国民皆年金を達成したことによってスタートしました。これは、統一的な国民年金(基礎年金)とそれに上乗せする厚生年金(報酬比例部分)で構成されています。
経済や人口の見通しに基づいて5年ごとに負担や給付水準が見直されてきましたが、平成12年改正後の標準モデル(夫40年加入と専業主婦)では、基礎年金が約13万円と報酬比例部分の約10.5万円の合計約23.5万円(これは現役男子の手取り年収月額換算約40万円の6割弱に相当)あり、高齢者夫婦世帯の消費支出のほとんどをカバーできます。基礎年金のみでも衣食住の基礎的な部分をカバーできる水準です。現在この基礎年金の3分の1が国庫(税収)で賄われております。保険料の負担は、第1号被保険者が月額13300円、第2号被保険者は報酬額に比例して保険料率が総報酬ベースで13.58%課せられ、これを労使折半で負担しています。第3号被保険者については、現行では配偶者が加入している年金の保険者が負担しています。
国民年金は65歳から給付が開始されます。厚生年金制度など被用者年金制度では報酬比例部分の給付開始は、現在は60歳ですが、将来段階的にこれを65歳まで引き上げていく計画です。
厚生年金は加入時の報酬額と加入した期間で金額が決定しますが、元になる報酬の平均標準月額は、加入期間中の標準報酬額を年金裁定時点の賃金価値に再評価して算出されます。平成6年には月額全体ではなく可処分所得部分のみで算出するよう改正されました。裁定後は国民年金同様物価スライド制によって実質価値が維持されております。

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<少子化・高齢化による負担増>

平成14年に農林共済を厚生年金に統合したことや運営悪化により維持出来なくなった企業年金からの返却分などで、現在のところ制度の財政はとんとんですが、高齢化・少子化は確実に進行しており、現役世代の負担は益々増加していくと考えられます。高度経済成長期に多めに徴収してきた保険料が積立金として約140兆円ありますが、景気の失速によりその運用益は出ていません。高齢化が落ち着くと思われる2020年代に保険料を20%で留めるという目標はこの積立金の運用が前提となっているため、積立金を切り崩すことはできません。
そこで改革へ向けて考えられる議論としては、
・基礎年金国庫負担分を3分の1から2分の1に引き上げることが不可欠だが、そのためには安定した財源の確保が必要になる。この差額分は消費税1%アップに相当する。
・将来の保険料水準の急激な上昇を避けるため、当面凍結されている保険料を段階的かつ計画的に引き上げる。
・給付水準と現役世代の保険料負担のバランスをとるため、現行の給付額を見直していく。給付の切り下げは避けるとしても、年金は物価や賃金の上昇に応じて給付が伸びていく仕組みなので、今後これらが上昇していく過程で、物価スライド制の見直しや総賃金の低下を考慮して賃金再計算の再評価率上昇率を縮減する。また、高額年金層に対しては税制の公的年金等控除を見直す。
・就業形態の多様化に応じて、保険料負担層を拡大する。(パートタイマーの厚生年金制度への加入)
新人口推計によると、晩婚化・少子化が今後一層進行することが指摘されていますが、年金制度は次世代によって引き継がれ支えられていくものであり、将来の年金制度の財政に大きく影響する出生率を上昇させるため、少子化対策を強力に進めることも急務であります。

<制度の安定>

 給付や負担の見直しは必要ですが、たびたびの制度改正は現役世代の年金制度への不信・不安につながるため、平成16年の改正では変動に柔軟に対応できかつ恒久的に安定した仕組みをつくらなければなりません。また、現在の負担が将来の給付につながることを現役世代が確認しやすいようなサービスを提供していくことも必要です。(例えば、若い頃から、自分がどの程度年金の権利を得てきたかがわかりやすいポイント制の導入や、50歳になったらおよその給付額が分かるしくみやインターネット上で試算できるサービスなど)

 今日提示した「方向性と論点」では、給付水準を固定したケースや保険料を固定したケース、人口推計低位のケース、基礎年金部分を国庫のみで賄うケースなど様々な試算をお示ししています。今後の年金制度については広く国民的議論が行われていくことが期待されます。

本日は、有り難うございました。

 参考資料:  平成14年度 「年金制度のあらまし」(厚生労働省年金局)
        「年金改革の骨格に関する方向性と論点(要約)」厚生労働省HPより



年金改革の方向と論点


 いよいよ歳末の候となりましたが、館友の皆様におかれましては、何かとお忙しくかつお元気にお過ごしのことと存じます。
 厚生労働省は、12月初めに平成16年の年金改革に向けて、これまでの各方面の議論を参考にし、今後の更なる議論のたたき台として「年金改革の骨格に関する方向性と論点について」を取りまとめました。高齢期の生活を支える年金については、今後広く国民的議論が行われることが期待されています。
 新春1月の二木会の講師には、厚生労働省年金局長の吉武民樹さん(昭和42年修猷館卒業)をお迎えします。
吉武さんより、現役世代の年金制度に対する不安感・不信感の解消、少子化、女性の社会進出などの社会経済変化への対応などの基本的視点から、財源の確保、給付と負担のバランスなどの課題について、お話を伺います。
 多くの館友の皆様のご参加をお待ちしています。
 尚、出席のご返事は1月6日(月)必着でお願いします。

東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)
      幹事長 渡辺 俊介(S38)


テーマ  年金改革の方向と論点     
講 師  吉 武 民 樹 氏(昭和42年卒)
 厚生労働省 年金局長
日   2002年11月14日(木) 午後6時から 食事
              7時から 講演  
場   学士会館 千代田区神田錦町3−28
           電話 03-3292-5931
  地下鉄東西線      「竹 橋」下車5分
  半蔵門線・新宿線・三田線「神保町」下車3分
会   3,000円(講演のみの方は1,500円)
  学生及び70歳以上の方は1,500円(講演のみの方は無料)