第498回二木会


変貌するテレビニュース現場

〜テレビ報道の現状と今後〜


講師  松原耕二氏(昭和54年卒)
株式会社東京放送(TBS)「ニュースの森」編集長

2002年11月14日(木) 学士会館 午後6時30分から 食事
                   7時30分から 講演



 軽薄なイメージを持たれがちなTVの夕方ニュースは、何でもありのごった煮的番組になっているのが現状です。この夕方ニュースが、今大きな転換期にあり、その中での試行錯誤についてお話します。

<夕方ニュースのワイドショー化>
 編集長はどんなニュースをどの切り口で伝えるかを考えます。毎朝まず各社の朝刊と通信社の原稿に目を通し、局の各部門や全国JNN28局のデスクとやり取りして、何が大事なニュースかを判断すると同時に、よりインパクトのある画と音のある題材を選別して、原案を作るところから始まります。その後も新しいニュースを加えたり削ったりしていきますが、例えば今日の番組では、「週間金曜日」という雑誌が拉致被害者曽我ひとみさんの家族に単独で接触した記事(明日発売予定)のゲラを入手して、記事に対する波紋をトップニュースとしていれました。他のメディアに出し抜かれた思いやそれをなぞる不本意さもありますが、北朝鮮の政治意図の反映した内容を使うことに対する自制の表れとして、音声の吹き替えなど演出を加えず、識者のコメント及び家族会の反発の声を併せて伝えました。
 昨今、夕方ニュースのトップは視聴者の見たいものを扱う傾向が加速しています。生真面目な体質の残るTBSにとっての転換点は、貴乃花&宮沢りえの婚約会見かもしれません。当時18時始まりだった番組にこの会見開始時刻が重なったため、生で放送したことと引き換えに初めてトップが芸能ニュースになり、その後の夕方ニュースの娯楽化傾向につながったと言えるかもしれません。
 TBSの夕方ニュースは他局より短い枠(17:50〜18:55)でやっています。2Hを埋めようとすると柔らかいものが増えすぎてしまう懸念があり、それが枠拡大に踏み切れない理由のひとつになっています。
 映像の強さや、分かりやすさを重視する傾向は、夕方の視聴者が家事をやりながら見る主婦層中心であることを考慮した結果です。こうした変化により製作方法も変わりました。記者クラブのデスクから上がってくる仕組みでは拾いきれない隙間的なものを拾うために、編集長直属のディレクターや記者を置くようになりました。
 TBSは以前、坂本弁護士の取材ビデオをオウム側に見せていた事実を反省し、ワイドショーを廃止しましたがその一方で、フジや日テレはワイドショーの手法を夕方ニュースに取り入れました。視聴率を気にする必要の無いNHKでさえ時折民放より大きな文字スーパーを入れることがあり、NHK内でも様々な議論があることがみうけられます。
 また番組の中心となる特集部分は、TBSでは品質管理や事件などの発生モノを重視して内部スタッフで製作してきましたが、それだけではニュース素材の多様化に対応できず、日テレやフジ同様の外注化を取り入れ始めているところです。

<映像の時代>
 かつてTVのニュースは、新聞の真似事であり大見出しに続くリード部分を読むことから始まりました。しかし、映像の時代を迎えて新聞と違う手法つまり「リアルタイムで」「映像で語る」というTVならではの手法の勝負になってきています。一般の人々が撮影手段をもつ今日、映像が入手しやすくなったことや、TV取材に対して人々の抵抗が薄くなり以前より応じてくれるようになったことも映像を得やすい理由です。映像というテレビの特性をいかした番組づくりはTVニュースの進化であり、悪くないと考えています。

<TVニュースの偏りの危うさ>
 同時多発テロ以後、米国ネットはそれまでの報道内容が国内ニュースに偏り、海外でのテロリストの活動などをあまり伝えてこなかったとして批判されました。『マスメディアは、大惨事を未然に防ぐ早期の警告システムとしての機能を持つ』(ピート・ハミル氏)にもかかわらず、それが働かなかったということです。
 番組である以上、存続ラインである生存視聴率(6〜7%)は取らなければなりませんが、出すべきものを出す、つまり『自分たちが見せたいものを視聴者の見たいものに変える』(筑紫哲也氏)ための労力と知恵が問われると思います。「子供のサッカー(報道内容の集中現象)」ではなく、ひとつの局内でも多様性が保たれることが健全です。
  


      
<今後の展望>
 2003年中に地上デジタル放送が開始されます。現在28のローカル局を使えば全国どこでも取材できるメリットがありますが、その仕組みがデジタル化以降どのように変わっていくのかまだ分かりません。
 個人としては、将来TVの仕事と同時に書く仕事もやっていきたいと考えています。TVの仕事は映像が表現の主体である以上、言葉が従である物足りなさも感じることがあります。本*やインターネットサイトでの執筆を通じ、少しずつ表現活動を広げていっているところです。
 本日はお招きいただき有難うございました。

*「勝者もなく、敗者もなく」(幻冬舎)


      






<第498回二木会のお知らせ>



変貌するテレビニュース現場

〜テレビ報道の現状と今後〜


一雨ごとに秋が深まりつつある今日このごろですが、館友の皆様におかれましてはお元気にお過ごしのことと存じます。
 
 今、テレビニュースは大きく変わりつつあります。かつての原稿中心のシンプルな「ストレートニュース」が、いまや映像やCGを駆使して作りこむ「ストーリーニュース」に。
特にこの 1〜2年の夕方ニュースのワイド化が加速度的にその傾向を強めています。これは果たして映像的「進化」なのでしょうか、「退廃」なのでしょうか。

  11月の二木会の講師には、TBS「ニュースの森」編集長の松原耕二さん(昭和54年修猷館卒業)をお迎えします。「映像ストーリーニュース」を軸に民放各社は組織を変え、テレビ報道マンの仕事も様変わりしています。昨年9月まで「ニュースの森」メインキャスターとしてブラウン管にも登場されていた松原さんに、アフガン空爆のニュースがどう作られたかなどを例に、テレビ報道の現状や悩み、今後などについて、お話をいただきます。


 多くの館友の皆様のご参加をお待ちしています。
 尚、出席のご返事は11月11日(月)必着でお願いします。
 また、今回は開催時刻が通常より30分遅くなりますので、ご注意ください。


東京修猷会 会 長 藤吉 敏生(S26)
      幹事長 渡辺 俊介(S38)



テーマ  変貌するテレビニュース現場    〜テレビ報道の現状と今後〜
講 師  松 原 耕 二 氏(昭和54年卒)
 株式会社 東京放送(TBS)「ニュースの森」編集長
日 時  2002年11月14日(木)  午後6時30分から 食事
                 7時30分から 講演
 
場 所  学士会館 千代田区神田錦町3−28
 電話 03-3292-5931
             地下鉄東西線「竹橋」下車
             半蔵門線・新宿線・三田線「神保町」下車
会 費  3,000円(講演のみの方は1,500円)              
 学生及び70歳以上の方は1,500円(講演のみの方は無料)