第474回二木会

1.テーマ:「財政の現状と今後のあり方」
2.講師 :谷口博文(昭和48年卒)大蔵省主計局法規課長dai474_1s.jpg (9184 バイト)
      昭和52年 東京大学法学部卒業、大蔵省入省
      昭和59年 厚生省年金局へ出向
      昭和61年 大蔵省主計局主査
      平成3年 在オーストリア大使館へ出向
      平成6年 大蔵省大臣官房企画官
      平成7年 大蔵省主計局主計官
      平成10年から現職
3.日時 :2000年3月9日(木)

内容要約

財政の現状と今後のあり方

 私にとって今年は主計局で10年目の予算編成だった。予算をめぐる経済、社会、政治情勢は毎年めまぐるしく変化している。財政は政治と直結しており言いにくいことも多いが、今日は同窓会なので、普段考えていることを率直にお話したい。
 まず財政の現状について。わが国の財政規模は85兆円で、GDP500兆円の17%、そのうち4分の1が国債費、つまり借金の利払い費や償還費に充てられる。また、全体の2割弱が地方の独自財源なので、社会保障や公共事業などのいわゆる国の政策的経費は半分ちょっとにすぎない。財源のほうは税収でまかなう分が6割弱、残りの大部分は借金であり、全体の4割弱を国債に依存している姿となっている。
 ここに至った経過を見ると、税収が平成2年の60兆円をピークに景気低迷と累次の減税によって、48兆円まで減少の一途をたどる一方、歳出側は着実に増加していることがわかる。その結果、国債残高は364兆円、国と地方を合わせた債務残高は645兆円、実にGDPの130%に上る。諸外国の財政が、程度の差はあれ健全化の方向を向いているのに対し、ひとり日本だけ逆を向いているところが特徴的である。
 中長期的に見ると、昭和50年代前半の財政悪化に対処するため、かなりの期間にわたって歳出抑制の地道な再建努力が行なわれ、バブル時代の増収にも助けられて、一時成果を上げた。しかしバブル崩壊後経済情勢必ずしも好転せず、とくに金融システム不安の顕在化は経済の円滑な運営に大きな影響を与えた。
 今後の見通しについて試算では、仮に名目成長率が3.5%となっても、何もしなければ30兆円台の新規国債を毎年発行せざるをえないことがわかる。問題は第一に、経済がそのような財政赤字を許容し続けることができるか、つまり金利の上昇などにより、財政の悪化が経済の足を引っ張ることにならないかということである。
 第二は、社会がどこまで世代間の不公平を許容できるかである。わが国の国民負担率は37%と、諸外国に比べまだ低い水準にあるが、歳出側から見ればすでに50%に近い。つまり、本来負担すべき分を負担していないから負担率が低いというに過ぎない。さらに年金保険料―社会保障負担の先送りは深刻である。将来世代の負担は増税という目に見える形だけではなく、歳出側で国債費の増大により自分たちのために使えるカネが減るという形でも現れる。これを回避するには現世代が今、歳入増か歳出減の形で負担するしかない。
 もしどこかに抜け道はないかと問われれば、恐らくハイパーインフレだろう。しかしこれは強制的に債権者から資産を収奪するに等しく、国民の多大な犠牲を伴うものであって、選択すべきではない。結局、未だ選挙権のない将来世代に思いを致して、現世代が地道に負担の合意を形成するしかないのではないか。いわば国民の自己決定能力が問われている。

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